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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第647話】

 二日目の夕食後、時間は七時半を過ぎた辺り。

 食後のテレビをヒルトは一人で見ていると不意に視界に映った小瓶を手に取る。


「んと? 【貴方もあの子も今宵は絶倫淫乱薬七号】……? ……ってかこれって精力剤ってやつか? 俺のじゃないが……」


 ラベルにはカラフルな絵と共に男女仲良く目がハートになっている独特な絵柄が描かれていた。

 そういえば今朝、未来とエレン、簪を除いた専用機持ち全員が部屋で寝てたな。

 その中の誰かの持ち物だろう、そう思ったヒルトはとりあえずその小瓶が落ちない様に置きつつまたテレビを見始める。

 丁度『IS学園今日の織斑一夏』が始まったので何と無く流し見で見る。

 内容はインタビューだ、学園の応接間で行われたのだろう。


『織斑一夏君、IS学園転入してからの生活はどうですか?』

『え? えっと……女の子ばかりで色々気遣う事がありますね』

『ふむふむ、では誰か気になる子とかはいますか?』

『え? 気になる子って……?』

『あ、えと、織斑一夏君が興味ある子って意味ですよ? 異性として』

『ん? ……んん?』


 意味がわからないのか頭を捻る一夏に女性アナウンサーは質問を変えた。


『じ、じゃあ、もう一人の男子操縦者である有坂ヒルト君との戦績はどうですか?』

『ヒルトとの戦績? ……公式戦で戦ったのはタッグマッチの一回だけだからなぁ。 ……その時は負けた……かな? まあヒルトのパートナーがシャルってのもあったし、シャルは本当に強いですからね。 後は俺も箒もまだ慣れてなかったってのもありましたから負けるのも仕方ないかなって』

『ふむふむ、では模擬戦等は……?』

『んー、あんまり覚えてないんですよ。 ヒルト以外とも模擬戦しますし、模擬戦入れたら既に百戦はいってますから』

『成る程、有坂ヒルトはとるに足りない相手だから記憶するまでもないという事ですね!』

『ん? んん……?』

『では最後に、何か一言で締めくくっていただけますか?』

『え、えと……。 ――仲間も学園も、俺が守る!』

『以上、織斑一夏君へのインタビュー終わりまーす』


 音楽が流れると共にキリッとした表情の一夏が画面一杯に映し出された。

 飲み物を飲んでいたら確実に噴いていただろう――とはいえ、この織斑一夏特集は視聴率が良いらしく、瞬間最高視聴率が何と六〇を越えたとの報告もある。

 頭が痛くなる思いだ――と、ベランダからにゃん次郎が散歩から帰ってきた。


「にゃう(お腹空いたわ)」

「シャイニィ、帰ってきたんだな」

「みゃうみゃう……にゃにゃん!(にゃん次郎よ――じゃないわ、合ってるわ!)」


 ヒルトのフェイク呼び掛けに引っ掛かったにゃん次郎(シャイニィ)。

 気付けばいつの間ににゃん次郎になっていたのか――うにゃぅと小さく鳴き、くるんっと身を縮ませた。


「そういやご飯まだだったな。 土産を買うついでに買ったにゃんこフード、食べるか?」


 徐に取り出したにゃんこフードの缶詰め、その蓋をあけるとにゃん次郎は顔を上げた。


「にゃぅっ! にゃんにゃあっ!(美味しそう! 食べたいわ!)」

「ははっ……食べて構わないぞ」


 タオルケットを敷き、にゃんこフードを置くとにゃん次郎は食べ始める――。


「そういやいぬきちは外だったな。 ……寒いとあれだし、連れてくるかな」


 一人ごちたヒルトはその足で旅館外へと向かった。

 入り口を出た先でいぬきちは尻尾を振っていた、ヒルトが出てきたからだろう。

 嬉しそうに足元に寄ってくるいぬきちに、ヒルトは笑顔を見せて頭を撫でる。


「わわんっ、わふっ♪(撫でられたわんっ、嬉しいわんっ♪)」

「よしよし、寒くないかいぬきち?」

「わふっ、くぅん(寒くないわん、でもお肉が食べたいわん)」

「ん、まあ何にしても外は可哀想だし、俺の部屋で身体洗うか」

「わわんっ(それよりもお肉が食べたいわんっ)」


 いぬきちを抱き抱えたヒルトは旅館の中に入っていく。

 因みに旅館内に動物を入れる許可は得ているものの、何か破損したら学園側買い取りという形なので、ヒルト自身色々気をつけて面倒を見ることになる。

 部屋へと戻るとにゃん次郎が出迎えるのだが、見知らぬ犬を抱えてヒルトが現れたので目が丸になっていた。


「にゃん次郎、このわんこはいぬきちって名前なんだ。 いぬきち、にゃん次郎と仲良くな?」

「わんっ、わわんっ(よろしくわんっ、いぬきちだわんっ)」

「……にゃあ、にゃん(……シャイニィよ、よろしく)」


 因みにだが、動物たち同士は共通言語で意志疎通が出来る――種族は違えど、会話が出来るのが素晴らしい。

 まあヒルトや他の人間にはわからない共通言語故、動物同士でしか仲良くなれないが。

 ヒルトが部屋備え付けの露天風呂を用意する中、いぬきちとシャイニィはというと――。


「わふっ? わわんっ!(シャイニィわんっ? でもにゃん次郎って呼ばれてたわんっ!)」

「にゃう……にゃにゃん(勝手に呼んでるだけよ。 ……まあにゃん次郎でもいい気がしてきたけど)」

「わんっわんっわんっ(成る程わんっ、僕はいぬきちが気に入ったわんっ、かっこいい名前なんだわんっ)」

「にゃにゃう!? ……にゃ(かっこいい名前!? ……そうね)」


 満足そうないぬきちを他所ににゃん次郎は微妙そうな表情をしていた。

 そこから暫くしていぬきちは露天風呂でヒルトに身体洗われて綺麗さっぱりしたのだった。

 その一方で同旅館内、初日の混浴タイムでアプローチした面々だったが二日目は流石に混浴禁止された。


「せっかくの混浴なのにヒルトくんと入れないなんて……」

「あ、あはは……。 さ、騒ぎすぎたのがねぇ……」


 ぷくっと頬を膨らませたエミリア・スカーレットと眉根を下げて苦笑するソフィー・ヴォルナート。

 今日は男子との混浴ではないため、女子たちは裸のお付き合いをしていた。

 広めの露天風呂に入る一同、水着を着用してる子も居ればスタイルに自信がある子はその肢体を惜しみもなく晒している。

 夜空に浮かぶ月に掛かる雲――昼間とは違う様子を浮かべるのは何処の国でも変わらないのかもしれない。


「おー、せっかくの露天風呂なのにヒルトがいないぞー」

「し、仕方ないだろ。 ま、まあ俺は恥ずかしいからアイツと一緒じゃなくても平気だけどな!」


 濡れた艶やかな髪にメッシュの掛かった前髪――栗原理央だ、隣の宇崎玲はしゃこしゃことシャンプーハットを被って頭を洗っていた。


「ほー? でも、平気だといいながらライバルが増えるのにはやきもきしてますよねー」

「バッ!? バカじゃねぇか!? べ、別にヒルトがモテたぐらいでやきもきするわけねぇし!」

「おー? 別にヒルトの事をいった訳じゃないぞー」

「……!?」


 ニマニマ笑みを浮かべる玲、指摘されて顔を真っ赤にした理央は仕返しとばかりにシャンプーハットを没収したのだった。


「ふぅ……有坂君が居ないのは少々残念ではありますが、仕方ありませんわね」


 黒髪を結い、天を仰ぐように上を見つめるのは神楽。

 頬に僅かだが赤みが差していて、肌もほんのり桜色に染まっている。

 その隣には岸原りこが居た、眼鏡が湯気で曇り、真っ白になっている。


「居たら居たで皆のおもちゃにされそうだけど」
「うふふ、殿方ですもの。 あの状況ならばそれほど嫌ではないはずです」


 昨日大胆にも前から抱き着いた神楽――布越しに膨張したヒルトの雄のシンボル、それを思い出すと目を細めて頭に乗せていたタオルで顔を拭う。

 はしたない行い――とはいえ、母からは大胆なアプローチも必要といわれた結果でもあるのだが。

 織斑一夏と有坂ヒルト、特にどちらにも隔てなく会話してきた神楽だが最近はヒルトの方が主になってきているのは心境に変化があったからかもしれない。

 女の園でのそんなやり取りが続く中、ヒルトの一室では綺麗さっぱりとしたいぬきちが舌を出してテレビを見ていた、無論にゃん次郎も隣で身体を丸めて見ている。

 映っていた番組は動物ものだ――。


「わわんっ(僕が映ってるわんっ)」

「にゃ……(あれは貴方と同じ犬種よ)」

「わんっ?(犬種わんっ?)」

「にゃっ(そうよ)」

「わぅん、わわんっ(成る程わんっ、つまり僕がいっぱいいるわんっ)」

「にゃ!?(そんなわけないでしょ!?)」


 微笑ましい二匹の会話――映し出されている映像は切り替わり、今度はライオンが映った。


「わんっ(大きいわんっ)」

「にゃうにゃ(あれは確かライオンね)」

「わわんっ? わんわん、わんっ(ライオンわん? 大きいわんっ、僕もああなりたいわんっ)」

「にゃにゃっ!?(あんなに大きくなられちゃ迷惑じゃない!?)」

「わふっ、はっはっはっ(お肉食べて大きくなるわんっ。 わんわん)」

「にゃうにゃにゃん!(話を聞きなさいよ!)」


 今流れてる時間は確実に平和な時間だろう――一方でヒルトはというと別室でデジカメの写真の整理をしていた。

 一夏が撮影係なのだが、映していたのは秋の紅葉や街並みばかりで生徒のものが少なすぎる。

 ヒルトは逆に舞妓体験の時や地主神社、道中に清水寺で生徒を中心に映していたので特に問題はなかった。

 金閣寺とブロンドのコラボレーションという事で金髪女子たちがこぞって金閣寺に行ったものもある、昨日通った五条大橋でも撮影――。


「ヒルトくん、調子はどうですか?」

「山田先生、写真のデータは問題ないですよ」

「うふふ、学園に帰ってからでもいいんですよ?」

「まあ、それもそうなんですけどね」


 ある程度整理を終えたヒルト、腕を伸ばすと不意に手の甲に当たる柔らかな感触。


「……! ヒルト、くん……」

「あ、すみません……」


 赤面する山田先生にヒルトは僅かに頬を掻く――整理も終えてとりあえず立ち上がると――。


「あ……ヒルトくん。 少しだけ良いですか?」

「え?」

「あ……えっと、ふ、普段は先生と生徒という立場なので線引きは必要なのですが……。 ……ぷ、プライベートな時はヒルトくんの呼びやすい呼び方で良いので」

「ん……わかりました。 因みに今は?」

「ぷ、プライベート……ですかね?」

「じゃあ……真耶姉で」

「え、えぇ!? 真耶姉ですかぁ!?」

「ははっ、年上ですしね」

「わ、わかりました」


 僅かに赤くなる山田先生、姉と呼ばれた事が無いからか呼ばれなれてないようだった。

 何処かでヒルトが誰かと仲良くなるのは彼自身が取り持つ運命が変わり始めた結果なのかもしれない。 
 

 
後書き
そろそろ修学旅行終わり 
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