ハンドレッド――《紅き髪の異邦人》
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【ハンドレッド――《ヴァリアント覚醒》】
【第四話】
前書き
久しぶりな更新
講堂に入り、教員に案内された通りに新入生が整列すると、直ぐに式典が始まった。
吹奏楽の軽快な音楽が鳴り、少ししてから新入生達の目の前の舞台袖から二人の女性が現れる。
一人は凛々しい瞳に髪はポニーテール。
もう一人は赤ぶちのアンダーリムの眼鏡を掛けたいかにも真面目そうなショートカットの女性。
年齢は新入生達と同年齢、或いは一個上の様にも見える。
「……89点、87点って所だな」
「ん? カーマイン、何か言ったか?」
「あぎゃぎゃ、何でもねぇよ」
カーマインは唇を舌で舐める、フリッツは疑問符を浮かべるも、気にすることなく前を向いた。
二人の女性は武芸科の制服を着用しているのだが、色がカーマイン達が身に付けているくすんだ緑色の物とは違って青色である。
「新入生諸君 リトルガーデンにようこそ」
舞台壇上に設置されたマイクの前に立ち、そう切り出したのはポニーテールで褐色肌の女性。
カーマインの点数で89点の女性だ。
発せられた言葉と共に、ざわめいていた講堂が一瞬にして静寂に包まれた。
「わたしは高等部武芸科の二年でリトルガーデン生徒会副会長の一人、リディ・スタインバーグ。今後、君達新入生諸君の教育係も務める事になるので、わたしのことを覚えていてほしい」
頭を下げ、上げるとまた真っ直ぐ新入生達を見据えて言葉を続けたリディ。
「続いて、隣に立っている君達の先輩を紹介させてもらおう。彼女もわたしと同じリトルガーデン生徒会副会長の一人で、同じく二年のエリカ・キャンドルだ。これから私達二人で、この入学式を取り仕切らせてもらうことになっている」
「エリカ・キャンドルです。新入生の皆さん、先ずはリトルガーデン高等部武芸科への入学、おめでとうございます」
リディと入れ替わり、エリカと名乗った眼鏡の少女は丁寧に頭を下げ、手に持っていた平らな箱を教壇の上に置いた。
慣れた手付きで蓋を外し、箱の中から取り出して新入生達に見せつけたのは三角形のバッジだった。
「これからあなた達に、このバッジを授けます。これはリトルガーデンの生徒である事と、その学年を示すものです」
副会長二人の請福の襟にも二つのバッジが付いていて、二年生という事を示している。
「それでは、名前を呼ばれた者からバッジを取りに来るように。先ずは――」
壇上で読み上げられる名前に反応して、一人、また一人と壇上でバッジを受け取り始める。
席順がバラバラ故に、カーマインは何かの法則でもあるのかと思案した矢先だった。
「どうやら呼ばれているのは、適性試験の反応数値が低い順のようだな」
「あぎゃ、反応が低い順……。成る程ねぇ、だからバラバラだったんだな」
レイティアの呟きに反応したカーマイン、ハヤトも思わず――。
「どうしてそんなことがわかるんだ?」
そう問い質すと、レイティアの口角は僅かにつり上がった。
「外に紙が貼り出されていたんだ。途中、何人か飛ばされているが、次に呼ばれるのはわたしの筈だぞ」
自信満々に告げたレイティア、次の瞬間壇上に居たリディが読み上げたのはレイティアの名前だった。
「ほら、言った通りだろう」
得意気にそう言って、レイティアは舞台に向かって歩きだした。
三十人居るなか、既に二十人以上呼び上げられている中でレイティアが呼び上げられたのだ、反応数値が上位なのは明白だった。
「後残っているのは、俺たちくらいだな」
フリッツがそう言い、エミールが――。
「ハヤトが一番なのはわかってることだから、後は僕たち三人だけって事か。カーマインも反応数値高かったんだね」
「あぎゃ、数値なんざ俺様には関係ねぇな。強くなるならないは個人の意思次第さ」
最もらしい事を言うカーマインに、最初に抱いていた印象が大分和らいだハヤトとエミール。
――と、壇上のリディがフリッツの名前を呼び上げる。
「どうやらお前たち二人の方が上だったみたいだな。行ってくる」
言い残して立ち去ったフリッツが壇上に現れると同時に巻き起こる黄色い歓声、それらは全て女性のものだ。
金髪に長身、尚且つ甘いマスクとモテる要素が満載なのだ。
「そういや武芸科って、男臭い名前の割に女の方が多いんだよな……」
ハヤトがぐるりと講堂を見回す、カーマイン自身野郎よりも女が多い方が有難い。
男は正直カーマイン達を入れても五分の一にも満たない人数しかいない。
「あぎゃぎゃ、元来ハンドレッドが強く反応するのは女の方が多いらしいからな。男はレアケースらしい、まあむさ苦しい男ばかり集まるよりかは此方のが華があるがな」
「成る程、ハンドレッドが反応する学生を集めると、必然的に女の方が多くなるって事か……」
「あぎゃぎゃ、まあ何にしてもその方が俺様には良いさ」
二人のやり取りに、曖昧な笑顔を見せるエミール――ハヤトも男の子なんだなと改めて思うと共に、カーマインに対しては女たらしの印象が植え付けられた。
「むぅ……」
そんなやり取りの最中、不機嫌そうな様子でレイティアが戻ってきた。
「……何かあったのか?」
ハヤトが戻ってきたレイティアにそう言う――と、エミールが先に。
「そんなの決まってるじゃないか。レイティアはフリッツが女の子達にモテモテなのが、気にくわないんじゃないかな」
そんなエミールの指摘に、目を吊り上げて顔を真っ赤にしながらレイティアが――。
「お、おい、お前! 余計な事を言うなっ!」
若干狼狽えたレイティアだったが、エミールは笑顔で謝る。
「えへへ、ごめんごめん。って――次は僕かカーマインが呼ばれる番だね」
「あぎゃ、どっちでも良いさ」
二人のやり取りの最中、リディが読み上げた名前は――エミール・クロスフォードだった。
「どうやら僕だったようだね」
エミールが舞台に向かって歩き出すと同時に巻き起こる黄色い歓声。
「凄いな……」
思わずそう呟くハヤトに、戻ってきたばかりのフリッツが口走る。
「何を言ってるんだ、お前の時が凄くなるに決まってるぜ。カーマインには悪いが、それだけ噂されてるからな」
「あぎゃ、誰がどう噂されようが俺様は俺様だ。俺様が願うのはこの堅苦しい式典からの開放だけだぜ」
戻ってきたフリッツに、そう告げるカーマイン。
ともあれ巻き起こる歓声はフリッツならば「カッコいい」という声が上がり、エミールは「可愛い」という声が上がっている。
そんな歓声の最中、呼び上げられる【カーマイン・ヴァンヘルム】の名前。
「あぎゃぎゃ、俺様の出番だな」
立ち上がるカーマイン、それと同時にフリッツやエミール同様の歓声と拍手が講堂に響き渡る。
「へっ……悪くねぇな。だが野郎の嫉妬みたいな視線はうぜぇ」
壇上へと向かうカーマインに向けられる男の眼差しの大半は敵視及び嫉妬のものだ。
反応値自体は平均より上のカーマインだが、その潜在能力の高さからか初期反応値が改竄されたのはここだけの話である。
「カーマインの歓声、凄いね」
「けっ、女の歓声だけなら俺様ももっと気分よくいけるんだがな」
花道の途中で擦れ違うエミールとカーマインの会話、直に教壇の前へと辿り着く。
「ようこそ、リトルガーデンへ。カーマイン・ヴァンヘルム、貴方が武芸者として活躍する日を期待しています」
「あぎゃぎゃ、その期待なら直ぐに応えてやるさ。何せ俺様は最強だからな」
「……随分自信があるようですね」
そう言って値踏みをするようにカーマインを見つめるエリカ・キャンドル。
リディに至ってはそんなカーマインの言葉に表情が険しくなった――だが、それはほんの一瞬の事だった。
バッジを受け取ったカーマイン、教壇を降りる前に如月ハヤトの名前が読み上げられるや、カーマインやフリッツとは違ったざわめき、どよめきが講堂を埋め尽くす。
花道で擦れ違うハヤトとカーマイン――この先、二人が待ち受ける運命とは……まだこの時点では誰にもわからなかった。
後書き
ガラケーがバグってちょい更新遅れるというか、書くのが遅くなるかも
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