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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第652話】

 
前書き
授業&ちょいアメリカな話 

 
 一時間が過ぎ、ただひたすら起動、飛行、歩行、停止を行ったヒルト班。

 一連の動作も最初は遅くても終わる頃には全体的にタイムを縮める事には成功していた。

 成樹は特に操縦期間が短いのに他の女子生徒とほぼ似たようなタイムを出している。

 一夏のタイムも速いのだが、成樹を除いた各専用機持ちと比較すると最も遅い辺りはまだまだだろう。

 俺の記録は専用機持ちの中で九位、勿論褒められる内容ではないから少しは向上しなければと思う。

 とはいえ同じ内容をもう一時間ともなったら流石に不満が出るだろう。

 ふと隣のエレン班を見ると、彼女等の班は徒手格闘の訓練をしていた。

 俺は小さく頷くと声を発し、班の皆に伝える――エレン班にも聞こえるように。


「午前の授業は残り一時間ですが、エレン班との合同で近接模擬戦を行いたいと思います!」

「む? き、君! 私は聞いていないのだが――」


 突然の事にエレンは驚きを見せ、俺の方へと振り向いた。

 エメラルドグリーンのロングヘアーが靡き、冬空の陽光を浴びて更に輝きを放つ。


「ん? 言ってなかったからな。 というより、せっかく班毎に別れてるってのもあるし数ある訓練機を有効活用しようと思ったら合同でするのが良くないか?」

「そ、それは確かにそうなのだが――ぅむむ」


 腕組みするエレンの腕に乗っかるたわわに実った二つの果実。

 着ていたISスーツで更に強調されていた。

 男子ばかりなら彼女の肢体は今頃夜のネタにされていただろう――だがここIS学園は男子生徒が三人しかいないのだ。

 眼福だと思いつつ、エレンを見ながら俺は言った。


「ほら、やろうぜ?」


 ニッと笑顔を見せた俺に、エレンは僅かに頬を紅潮させた。

 ヒルトの笑みに思わずドキッと心臓が高鳴るエレン、好きな人の笑顔を見ただけで突然の提案ですら受け入れてしまう。

「わ、わかった……。 そ、それではエレン班及びヒルト班の合同近接模擬戦を行う。 各自名前順にISに搭乗、ヒルト班のを含めた計八機四組で近接限定模擬戦を開始する!」

「「「「はいっ!!」」」」


 エレンの激に、合流した女子達は一斉に返事をした。


「成樹と一夏は二人で組んで近接模擬戦を行ってくれ」

「わかったよ。 織斑君、よろしく」

「おう! 接近戦は十八番だからな、負けねぇぜ成樹!」


 準備ができた組み合わせから早速模擬戦が開始される。


「やぁあああっ!!」

「何のッ!!」


 火花散る近接ブレード、つばぜり合いが続く中エレンが叫ぶ。


「先程教えた通り、近接戦の基本は格闘だ! ブレードだけの斬りあいだけではなく、徒手格闘戦も織り混ぜるのが戦いだ!」

「「はい!」」


 その言葉に直ぐ様ブレードを織り混ぜた格闘戦が始まる。

 剣撃を受け、格闘は体捌きで避け、間合いを離してからブレードの一撃、それらをブレードで受け流す一組。


「せやぁぁあああっ!!」

「あっ! 武器が!?」


 空を舞うブレード、掛け声と共に蹴りあげられ、武器を失った生徒が気を取られている隙に刃が絶対防御を発動させた。


「勝負あり! 次の組に機体を渡し、近接戦の反省点をレポートして提出!」

「は、はぁい……」

「へへッ、今回はあたしの勝ちってね♪」


 ISを解除した一組、次の一組がISを装着する頃一夏と成樹は――。


「うぉぉおおおッ!」

「くっ……」


 雪片で成樹の近接ブレードを叩く一夏、激しく火花を散らせた接近戦は流石に一夏に分があった。

 ――否、当たり前の結果だろう。

 成樹の搭乗時間はまだそれほど無いにも関わらず、一夏は逆に四月から乗っているのだから。


「うぉぉおおお! 零落白夜ーッ!」


 雪片の展開装甲が開き、白亜の光刃を纏うと一夏は成樹に向かって斬りに掛かる。

 切っ先が黒のラファールを捉えようとした時だった――その一撃をヒルトが間に入って防いだ。


「なっ!? ヒルト、何で邪魔を――」

「馬鹿野郎! 何で模擬戦で単一仕様使ってるんだよ!? 零落白夜何て使っていいわけないだろ!? 成樹が怪我したらどうするんだよ!?」

「しねぇよ!!」

「何で自信あるんだよ! とにかく単一仕様禁止だ! 訓練で誰か怪我したら責任問題になるだろ!?」


 雪片を払いのけ、弾くと空を舞う雪片。

 光刃は四散し、グラウンドに突き刺さると一夏は――。


「わかったよ! 零落白夜使わなきゃ良いんだろ!? 次は水を差すなよな!?」


 刺さった雪片を抜き、有無を言う前にまた近接模擬戦を開始した一夏と成樹。

 ヒルトはこめかみを押さえるとエレンの元に戻った。


「君も大変だな。 織斑や新しく来た笹川君の面倒を見なければならないのだから」


 顔を覗き込む様に見上げてくるエレン、一夏と成樹の近接模擬戦が改めて再開された。


「ん? 別に大変じゃないさ、クラス代表ってのもあるし。 一夏に関しては……まあわりとあんな感じだからな。 俺がクラス代表じゃなく、アイツがやってたらここまで酷くはならなかったかもしれないが」

「ふむ。 君が気にする事ではないが織斑の対応は彼自身が選んだ結果だ。 言葉もそうだ、一度告げればそのまま伝わる。 私も含めて皆若い、これから先気付くこともあるだろうし変わらないかもしれないが」


 小さく笑みを溢したエレン、合同班の近接模擬戦は続いていく。

 グラウンドで一年生が授業を行っている時間帯の港では、IS関連の備品が入ったコンテナの積み降ろし業務、食料品等がフォークリフトで忙しなく運ぶ姿が見受けられる。

 学園側の人間が主体なのだが、貨物船従業員も総出で倉庫に運ばれている。

 IS用強化外骨格クサナギ――ISが無いと使えないこの強化外骨格は静かに倉庫奥に鎮座されている。


「あのロボット使えりゃ、コンテナなんてあっという間なのに」

「仕方ないっすよ。 あれはIS用っすからIS無きゃ使えないんですから」


 作業員の二人は愚痴りつつ、器用にリフトでコンテナを積み上げていた。

 奥のハンガーを恨めしそうに見ているのもやはり使えない機械があるのが原因だろう。


「そういや噂だけど、アメリカじゃあのサイズのコクピット式強化外骨格の試作品が試験稼働してるって噂だな」

「それどこ情報っすか? EOSとかってオチじゃ?」

「違うって。 何でも戦車に取って変わる強化外骨格だって。 噂だから眉唾って言われるけど、火の無い所には煙は出ないって言うだろ?」

「そりゃそうっすけど……」


 コンテナを積み上げ、書類を再度確認する作業員二人は他愛ない会話で紛らわせていた。

 元はワークローダーだった強化外骨格クサナギ、当時の面影は無いもののIS用強化外骨格パッケージとしては革新的だった。

 だが、今噂であがってる強化外骨格の話が真実かは誰にもわからなかった。

 それでも作業員が噂をするぐらいなのだ、やはり火の無い所には煙はたたない――。

 少しだけ場所は変わり、港から離れた灯台の下では親猫と子猫三匹が朝食の魚にありついていた。

 骨だけとなった魚と身がある魚、身があるのは昼食用なのかもしれない。

 満足そうに親猫は身を縮ませ、子猫は寒さから逃れる様に親猫の側に身を寄せていた。


「にゃ……(寒いよ……)」

「にゃふ。 にゃう(この時期は仕方ない。 本当なら寮とか学園なんだがな)」

「にゃにゃー、にゃうにゃう(ママー、ならそこに行こうよ)」

「にゃ。 にゃにゃん(今の時間歩けば事故に遭うかもしれない。 我慢しなさい)」

「にゃん……(はぁい……)」


 出来るだけ身を寄せ合う親猫にゃん太郎と子猫三匹、寒さに必死に堪えるのだった。

 遠く離れたアメリカの荒野、軍の秘匿地域にある基地。

 炸裂する音と荒野全体に響き渡る雷音――音の中心には立ち込める白煙。


『テストは其処までだ!』


 陸軍大佐の通信によって鳴り響いていた轟音はぴたりと止む。

 白煙は風に舞い散り、その中心から現れたのは五メートルサイズのロボットだった。

 背部ハッチが開き、中からパイロットである男が現れると共に陸軍大佐も近付く。


「どうかね。 日本で手にいれたデータを元に組み上げた試作機は」

「ハッ! 火力の点では申し分ありません! ですが機動力及びに関してはIS程無く、全長の高さ故の被弾率の高さが気になります!」

「被弾率に関しては同意件だ。 サイズダウンしようにも今の技術力ではこれが限界なのでな」


 そう告げると顎を指でなぞる大佐は――。


「だが、我がアメリカが今一度世界に返り咲くにはこの技術が必要なのだよ。 男のIS操縦者が我が国からも出ればこのような試作機を作らなくても良いのだがな」


 工業的な灰色をした試作機を見上げる大佐。

 何れ起こる改革の為の力に成りうるなら形振り構っていられない。

 IS学園にある無人機の残骸及びコアの奪取に失敗したが、そちらの計画もまだ諦めてはいなかった。

 全ては今一度アメリカが世界に返り咲く為に――。

 IS学園へと場所は戻る。

 四時間目の授業も終わる十分前となり、合同班となっていたヒルトは班長として叫ぶ。


「そろそろ四時間目が終わるのでISを起動位置に戻してください!」

「「はーい」」


 寒さが厳しいグラウンドも、皆身体を動かせば額を汗で濡らす。

 一夏と成樹も近接模擬戦を終え、ISを解除するとキツかったのか二人とも肩で息を整えていた。


「一夏、まさかキツかったのか?」

「お、おぅ……。 さ、流石に一時間ぶっ通しの近接戦はキツい……」


 肩で息をする一夏に、エレンは――。


「君、たったこれだけで疲れてどうする? 笹川君はまだしも君は既に乗りはじめて七ヶ月だろう? そんな事では肝心な時に役にたてなくなるぞ」

「ぐ……」


 返す言葉がない一夏、これまでが箒との訓練ばかりで技術もあまり身に付いてないのもあるのだが一時間近接戦しただけでこれでは――。

 零落白夜が決まれば短期決戦なのだが、それに頼った戦い方ではどうあがいても絶望しかない。


「君はもっと基礎を徹底的に鍛えなければダメだな。 修学旅行ではサインだの撮影だのでちやほやされていた様だが、仮面が剥がされれば誰もちやほやしてくれなくなるぞ?」

「べ、別にちやほやされたくてサインしてるわけじゃねぇよ……」

「ふむ、ならば君自身が行動で示せ。 今の君なら笹川君も直に追い抜くだろうしな」


 チラリと成樹を見るエレン、汗をタオルで拭う彼は既に呼吸を整えていた。


「か、簡単には追い抜かれねぇよ……」

「ふむ? ……いや、君がこれからも基礎も体力作りも怠るなら直ぐに追い抜かれるさ。 煽ってる訳ではない、私はあくまで事実を告げてるだけだ」

「……ッ」


 事実、エレンは何度か一夏と模擬戦を行ったのだが全勝している。

 ハンデを着けて勝負とも言ったのだがこれには――「模擬戦でも女からハンデを貰うなんて出来ねぇ」――等と言う。

 ハンデに関しては恥ずかしいことではない、実力が離れてるのであれば均等にするのもスポーツでは必要なことなのだが――。


「エレン、話はここまでだ」

「む? わ、わかった」


 ヒルトは一旦エレンを制止する、待機状態のISを確認するためエレンを連れて待機位置へと向かう。

「織斑くん体力ないねー」

「……千冬様の弟だけど、基礎はあまりしないのかな?」

「うーん、パッと見は爽やかイケメンだし、家事も出来るけど……ねぇ?」

「織斑くん、今の状態じゃ不味いよ? 今からでも遅くないから基礎を徹底した方がいいんじゃない?」


 散々な言われようの一夏、まだ見捨ててない辺りはクラス女子の優しさか或いは未だ尚夢見る織斑千冬の義妹というポジションか――。


「んー。 基礎が大事なのは俺にもわかるけどさぁ。 今更基礎を履修してもなぁって気がするし、それに試合本番でその基礎が生きるかわからねぇだろ? それだったら応用なり派生なり技を一つ増やせばバリエーション増やせるから」

「わ、わからなくは無いけど……ねぇ?」

「う、うんうん」

「だろ? まあそれに、全く基礎やらねぇって訳じゃないからな。 クロス・グリッド・ターンだって前より上手くなってるし」


 一夏の言葉に苦笑交じりに答えた生徒の一部――そして、四時間目の終了を告げるチャイムが学園全体に流れる。


「おっ、やっと昼飯だな! 成樹、一緒に昼食摂らないか? 男同士親睦深めようぜ」

「あ、ごめん……。 昼はその、クラスの子に誘われちゃって……」


 そう告げた成樹の周囲を取り囲むように女子が集まっていた。

 成樹自身はまだ恋愛をするという気持ちは無いのだが、だからといって無下にするのも失礼だと思い気持ちに答えた結果が今の状況だ。


「ふーん。 やっぱ転入したてだとウーパールーパーになるのは変わらないんだな」


 六月のシャルル時代の事を思い浮かべた一夏。

 当のシャルルことシャルはというと、ヒルトの腕をとって昼食に誘っていた。


「ねねっヒルト、久しぶりに僕と二人で食べよっ」

「ん? あ――」

「お待ちくださいまし! わたくしもヒルトさんと食事を摂らせていただきますわ!」


 既に様式美ともなったこのやり取り、ヒルト自身は誰と食べても構わないのだが周りが許さなかった。

 この一連のやり取りから小さなハーレムが形成される一方で一夏は――。


「成樹、ヒルトみたいにちやほやされるのがいいのか?」

「え? そういう訳じゃないけど、僕もこれから学園の一員になるんだし。 食事ぐらいなら――」

「そっか。 今日はまあ仕方ないけど次は一緒に食べようぜ」

「わ、わかったよ、織斑君」

「おぅ」


 四月当初と差が出来たのか、一夏自身気兼ね無く食事が出来るのは有り難かった。

 午前の授業も終わり、ここから昼食の時間に変わる――。 
 

 
後書き
こっそり微妙に伏線を撒いて、こっそり回収……( ´艸`) 
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