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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第655話】

 
前書き
久々な更新 

 
 模擬戦が始まると同時に一夏は雪片を構え、瞬時加速の体勢に。

 背部ウイング・スラスターが点火、陽炎が立ち、爆発的な加速力で肉薄する一夏だった――だが、成樹の持った機構式大型スピア【時雨】が咆哮を上げる。

 矛先が白式の装甲を穿つ、加速のついた機体を待ち受けた矛は白亜の装甲片を撒き散らせ、シールドエネルギーを減少させた。

 始まって僅か五秒、いきなりの大ダメージを負った一夏の表情は驚愕に満ちていた。

 成樹は成樹でまさか初手で捉えられるとは思わなかった為、驚きに瞳を大きく開かせ、呟く。


「当たっ……た?」

「……ッ!!」


 舞い散る白式の装甲、目尻をつり上げた一夏は殺された速度を、無理矢理二段階瞬時加速でトップスピードを取り戻すとその勢いのまま激しく当たり散らす。

 衝撃を受け流せず、苦悶の表情のまま成樹は落ちていく。

 体勢を整えようにも上手く扱えず、グラウンドに落下、その衝撃で砂塵と砂ぼこりが舞い、クレーターが形成された。


「うぉぉおおおっ! 月穿ィィィッ!!」


 左腕の武装腕が荷電粒子砲へと展開、砲口が唸りを上げて粒子エネルギーが放たれる。

 開幕、いきなりの先制攻撃の出鼻を挫かれた一夏の頭は完全に血が上っていた。

 ほとんどISに乗ったことが無い相手にファーストアタックされ、ダメージを受けた事が一夏の頭に血を上らせたのだ。

 成樹自身は牽制のつもりで放った一撃がまさか当たるとは思わず、それが思考に乱れを生じさせた。

 大気を焦がす荷電粒子、クレーター中心部に着弾すると激しく爆発すると共にグラウンドの土が抉られ、周囲に散った。

 もくもくと上がる土煙、一夏の荒い呼吸、刹那の一瞬に固唾を呑む生徒――その時だった、土煙の中から放たれた無数の弾丸が一夏を襲ったのは。

 油断大敵――まだ成樹は仕留められてはいなかった、今の一撃と余波でシールドエネルギーの半分が奪われていた。


「ッ……! これで仕留めてやる! 零落白夜ァァァッ!!」


 雪片、雪羅から放たれる白亜の光刃、雄々しく光る刃の二刀流。

 土煙が晴れ、呼吸が荒い成樹――持っていたライフルでその場から牽制射撃を行う。

 発砲音がグラウンドに鳴り響く、慣れない射撃は単調な動きをする一夏を捉えられず、肉薄してくる。


「うぉぉおおおッ!!」

「……! まずいッ!?」


 何とか成樹は浮上すると共に、後方へと逃れるためにラファール・リヴァイヴのスラスターを再点火。

 刹那の一瞬、振るった雪片の光刃は成樹には当たらずグラウンドを粉砕、土を周囲に撒き散らせた。

 一夏の戦い方は基本猪武者戦法、突撃後に攻撃、外れたら七割は再突撃。

 残り三割がクロス・グリッド・ターンによる背後からの強襲――。


「そこだァァァッ!!」

「クッ!?」


 三割の方の背後からの強襲、弧を描く機動で背後を取るや、ラファール・リヴァイヴの背部シールド・スラスターの一基が切り伏せられる。

 武装展開に手間取る成樹に対して、容赦なく攻める一夏。

 零落白夜の光を放ったままの雪片はそのままに、左腕の武装腕雪羅が荷電粒子砲へと展開するとその左手を正面に翳した。


「穿てッ!! 雪羅ァァァッ!!」


 甲高い高周波が鳴り響く――閃光が放たれ、ラファール・リヴァイヴへと迫る。


「間に合うか……!? いや、間に合わせるんだ……ッ!!」


 迫る閃光に、成樹は芽吹き始めた才能が開花し始める。

 閃光が直撃する瞬間、ラファール・リヴァイヴの左腕部に備わった盾から、更に全体を覆うようにエネルギーシールドが展開される。

 前面に張り巡らされた防御壁が閃光を周囲に四散させた。

 成樹の視界は真っ白に覆われる――目の前のハイパーセンサーに表示された【零光白散】の文字。

 穿たれた白亜の閃光が、前面展開された白亜の粒子壁によって完全に遮断、周囲に舞う白い粒子はまるでこれからの季節を彩る雪のようにグラウンドへと降り注いだ。


「なっ……!? 月穿が防がれた……!?」


 驚きに目を大きく見開く一夏。

 まだ搭乗時間が十時間未満の成樹相手に攻撃を防がれ、決定打も決められない。

 そして零光白散のエネルギー消耗率は全ISの中でトップクラス、エネルギー周りを簪に見てもらって改竄されたとはいえ焼け石に水でしかない。

 ギリッと奥歯を噛み締める一夏の心に、ほんの小さな闇が芽生え始めたのはこの時だったのかもしれない。


「……ッ!! ォォォオオオッ!」


 雪片を上段の構えに変え、瞬時加速で再度肉薄した一夏。

 雪片の刃は零落白夜のエネルギーを纏っていた。

 目尻を釣り上げ、振るわれた一夏の剣閃。

 構えも上段故に振り下ろすのが成樹には見えていた――素人の成樹が見えるぐらいの太刀筋、一閃は激しく土を舞い上がらせただけだった。

 成樹もまだ動きに無駄が見える、テンポ遅れて機構式大型スピアの一撃を放つのだが、一夏は何とか雪片で受け流すのだが衝撃の凄まじさに地面を滑るように後退させられた。

 開いた間合い、成樹はもう一度機構式大型スピアを構える。


「やられるかよッ!!」


 そんな一夏の叫びが木霊した、グラウンドでは生徒の歓声が響き渡っている。

 スピアの一撃を避けた一夏、直上からの零落白夜による袈裟斬り――決まれば勝ちは確定。

 勝利を確信した一夏の唇の端がつり上がったその時だった――成樹の姿が消えたのは。

 正確にいえば消えたわけではない、彼はただ瞬時加速を行っただけなのだ。

 だがその瞬時加速は予備動作無し、誰しも瞬時加速時は動作が何処かしらあるものだが成樹にはそれがなかった。

 動作無しの瞬時加速――初心者の成樹が瞬時加速が出来たのも自身の観察眼によるものだろう。

 一夏自身、迂闊に何度も瞬時加速を見せたのも要因の一つであり、一夏の悪癖でもあった。

 十八番といえばイメージとしては得意分野――だが、単調になるぐらい多用すればこうなる事態を想定できなかった一夏の短絡的な思考が成樹の成長を促したのかもしれない。

 ググッと手に力を込めた成樹に対し、一夏はまたも瞬時加速で迫り、近接戦闘を仕掛ける。

 こうなっては一夏の勝利は無いも等しい結果になる。

 袈裟斬りを避け、カウンターで機構式大型スピア【時雨】の一撃を叩き込み、後方離脱と共にアサルトライフルによる弾幕で牽制――セオリーに近い形でどんどん削られていくシールドエネルギー。

 雪片から白亜の光刃が消え去り、成樹のエネルギーも残り二〇〇を切るが一夏に至っては僅かに十二。


「くっ……! 何で一方的に……!」


 一夏の憤りに、思わず織斑先生がオープン・チャネルを開いた。


『当たり前だ馬鹿者。 零落白夜による一撃必殺がお前の狙いなのだろうがそんなものは先ず通用しない。 お前はこの半年で学んだことは猪武者になって自爆することなのか?』

「……っ」


 誰が見てもそうだった、猪武者――先陣を切って鼓舞する武将かもしれない、だがそれが出来るのは技量と大胆な心、他にも様々な要素が必要なのだが一夏には無い。

 無謀に突撃し、エネルギーが尽きて不様に戦死する様が誰にでも容易に想像できた。


『もうお前に勝ち目はない。 大人しく降参しろ、そしてこれを糧に学べ』


 そんな織斑先生の言葉が飛ぶ――だが一夏の考え方は昔ながらの考え方、だから――。


「嫌だ! そんなカッコ悪い真似が出来るかよ! そんな真似するぐらいなら! ウォォオオオッ!!」


 背部ウイング・スラスターを点火、無謀な特攻を仕掛ける。

 昔の大日本帝国ならば称賛されただろう――だが時代は二一世紀なのだ、そんな古い考えも捨てなければならない。

 成樹は静かに告げる――一夏に対して。


「ありがとう織斑君。 君のお陰で立ち回り方が見えてきたよ。 君との模擬戦は僕の糧になる。 ……ありがとう」


 その言葉と共にライフルの弾丸が一夏の額を撃ち抜く――絶対防御に守られている為死ぬことは無いが、衝撃に脳が揺らされ、一夏は気を失う。

 それと同時に模擬戦終了のブザーが鳴り響いたのだった。

 今回の模擬戦がもたらした結果がこの先どうなるかは、まだ誰にも予測も予想も出来ない。

 未来は常に一歩先が闇に包まれ、見えないのだから……。 
 

 
後書き
模擬戦終わりっす、そろそろ成樹編終わらせるかも 
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