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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第651話】

 一年生全員勢揃いのグラウンド、それと同じくして並べられた十数機の機体。

 それら全てはラファール・リヴァイヴ及び打鉄、一学期の頃から生徒達が乗り続けてきた訓練機。

 用意された装備も基本的な物ばかりなものの、バランスよくインストールされているためオールレンジで戦えるようになっていた。

 本来であれば競技ゆえに武装などいらない――だけど古今東西、人が一番盛り上がるのは戦いなのだろう。


「全員揃っているか!」

「「はい! 全員揃っています」」


 寒空の下、響き渡る織斑千冬の声に皆が背筋を正し、返事をした。

 百二十人超いる生徒を一々点呼していては時間が足りない、仮にサボりが居たとすればその者は授業が遅れるだけなのである。

 冷たい風が容赦なく生徒に襲い掛かる、勿論防寒対策として羽織れるジャンパーは女性陣羽織っているものの剥き出しの生足には容赦なく風が吹き抜ける。

 ISスーツも保温機能あれど、限界もあるのだ。

 ふるふると震える女子達――と、千冬の激が飛んだ。


「気合いを入れろ! 寒いのはわかるがこれが日本の冬だ! それに、気温も場所によっては氷点下に行くところもあるのだ!」

「「は、はいっ!!」」


 これ以上遅延して風邪を引かれても困る千冬は早速授業を開始する。

 笹川成樹の転入故今日の授業内容は一学期のお復習、だが基本を疎かにすればそれだけ実力差に開きが生じる。

 正直な所、現行の専用機持ちより実力のある子もいる――自身の弟と比較すれば更に増える。

 千冬自体弟である一夏の事は目にかけている。

 だが最近の違反行為も流石に目立ち始めたのもあってか常に怒ってばかりである。

 一夏本人は自身の判断に間違いないと思っているようだが――やはり本当の緊急時以外の時の展開は配慮すべきなのだがそれを一夏が理解する日が来るかは定かではない。


「本日の訓練内容は四時間目までは基礎訓練のお復習、昼休み後からは実戦を模した訓練だ。 油断すれば怪我の元になる。 ではこれより基礎訓練を開始する! 各専用機持ちを筆頭に班を作り、四月に行った基礎訓練を昼休みまで続ける!」

「「はい!」」


 勢いよく返事をした生徒一同――と。




「なお、笹川は有坂ヒルトの班に合流しろ。 織斑も同様だ、有坂の班に入り基礎の履修に励め」

「ちょ、な、何で――」

「口答えは許さん。 もしわからないことがあれば私や山田先生、各専用機持ちに質問をしろ、いいな!」

「「わかりました!」」


 そんな言葉が飛び交う。

 一夏の反論すら許されず、班決めが始まるのだが男が固まる班に入ろうと抜け駆けしようとする子達の第一声が飛ぶ。


「有坂くん! 班に入れて!」

「あたしもあたしも!」

「基礎の履修は重要だしね!」


 素早い動きの一部の女子達だが、千冬は眼光鋭く睨み付け――。


「どうやら貴様達は学習するという事が出来ないようだな。 良いだろう、そんなお前達に私が直接基礎の履修を行ってやるとする。 有り難く思え」


 後ろに赤いオーラが見え隠れする織斑千冬に、ガクガク震える女子達は――。


「い、いえ! 織斑先生の手を煩わせる訳には!」

「ち、ちゃんと班決めしますので!」

「特別実習はご勘弁を!」


 脱兎の如く逃げる生徒、ため息を吐く織斑先生を他所に各専用機持ちを筆頭に班が出来上がる。


「では、班毎に一学期に行った基礎訓練の履修をお願いしますねー♪ 内容は各班長――専用機持ちの方が決めていただければ幸いかと♪」


 山田先生のその言葉に、各専用機持ちは頭を傾げり考え込んだりと様々な反応を見せた。


「ま、丸投げなのですか!?」

「基礎の履修ならば問題はありませんけど、理路整然と説明するのと実践とで悩みますわね……」

「ふふん、アタシなら近距離、中距離の立ち回り方って感じかしら」

「えっと……僕だと、やっぱりもう一度簡単な内容からかな?」

「私の班は軍隊式に教えてやるとしよう。 良いな?」

「え……と。 どうしよ……う」


 上から箒、セシリア、鈴音、シャル、ラウラ、簪と続く。


「ん~。 せっかくだから私は機動訓練とかかな?」

「じゃあ美春は射撃訓練! 近距離よりかは撃ち合いがメインだし!」

「それじゃ、美冬は逆に格闘戦にしようっと! 後は接近戦の立ち回り方かな」

「ふむ。 私の履修内容だが君達には徒手戦の指導とさせていただこうか。 近接戦闘の基本は格闘だからな」


 未来、美春、美冬、エレンと次々に履修内容が決まっていき、各訓練機の貸し出しが始まる。

 そして残った俺達の班だが――。


「何で俺まで……」

「いや、一夏はちゃんと基礎徹底した方がいいぞ? 何処で知ったか知らないけど、お前個別瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)覚えようとしてるだろ?」

「な、何で知ってるんだよ……。 良いだろ、瞬時加速は俺の十八番何だし、あれ覚えたらもっと皆を……」


 誰かを守る力、昔からそうだが一夏は何かを守るという行為に強く憧れを抱いている。

 それ自体悪いことじゃない、守るという目標があれば強くなれる――だけど一夏は昔からなのかもしれないが基礎というものを疎かにしやすい気がする。

 篠ノ之流裏奥義が例として悪くないだろう、所詮子供が覚えられる程度の裏奥義を使うのだから。


「瞬時加速の良い悪いの前に鈴音みたいに徹底的に基礎の積み重ねしないとダメだろ?」

「……わからなくはねぇけど。 でもなぁ……」


 いつまでも良いそうなのでキリのいい頃合いで話を切ると俺はその場に居た成樹や一夏を含めた女子生徒に告げた。


「俺の履修内容はISの起動、そこから指定されたコースを走り、コース上のリングを潜り抜け、終われば短距離ですが約二〇メートルの歩行後に元居た位置にISを解除する一連の動作を一時間徹底的に行います。 ISに携わった人にとっては基礎の基礎ではありますが、この当たり前の技術の履修の速さを競っていただきたいと思います」


 言いながら約二〇メートルの所をグラウンドに線引きし、ISを置く位置にも線を引いた。


「コース上に出るリングは基本ランダムです。 ですが五つ潜れば良いのでよろしくお願いします」

「はい! じゃあ有坂くん、使うISの運搬お願い♪」

「そうそう、力仕事は班長の役目ってね♪」


 女子達がそう告げる中、成樹が――。


「あ、じゃあ僕が運ぶよ」


 そう告げる成樹、だが俺は小さく頭を振ると――。


「いや、それは俺がやるよ。 一夏と成樹は専用機あるだろ? 他の子達が始まる前の一番手としてやってくれないか?」

「わかったよ。 えと、確認だけど僕達の場合だとISを一旦着脱してから着用、起動後に飛翔してコースに現れるリングを潜り抜け、最後は短距離でISで歩行して着脱――だね?」

「ん? そうだな、専用機あるからその方が良いかも。 じゃあ一夏と成樹、頼むな」


 そう言って俺はラファール・リヴァイヴor打鉄の受領に向かった。

 残されたヒルト班はというと――。


「じゃあ織斑君、先に僕達からしようか」

「おう、いいけど。 何でわざわざ脱いでからまた着用って手間を増やしたんだ? 俺達なら展開と同時に起動してそのままコース走る方が早いだろ?」

「それだと僕達は行程を抜くでしょ? それは幾らなんでもフェアじゃないし、一学期の履修なら基本に立ち返らないといけない。 そもそも僕は完全に初心者だし、授業の遅れは目に見えてるから此ぐらいでどうこうは言わないよ。 織斑君にとっては基礎の基礎だけど僕にとっては大事だからね」

「ふーん。 まあ俺は俺で展開してから起動で良いかな」


 そう言い、身体に目映い光が放ち包まれ、その身に白式を纏った一夏は早速と謂わんばかりに飛翔して行った。

 専用機持ちの利点である即時展開、だが今回のヒルトの履修内容は専用機持ちが行う訓練ではなく全体の訓練なのだ。

 専用機だからと行程飛ばして勝手をすればそれだけ基礎が疎かになるのだが――だが班長であるヒルトが居ないため、注意すら出来なかった。

 成樹は小さくため息を吐くと、意識を集中させて自身の機体を展開――身体に光が集まり、集束すると漆黒のラファール・リヴァイヴをその身に纏う。


「わあっ! やっぱ笹川君も乗れるのは本当だったんだね♪」

「黒のラファール・リヴァイヴ! 細かいデザインが違うけどカッコいい!」

「笹川くん! カッコいいよ!」

「キャーッ!」


 黄色い声援を浴びて苦笑を漏らした成樹、喫茶店で紅茶を淹れていた頃もお客様から歓声が上がっていたのだが――ISに乗れるだけでこれだ。

 成樹本人はヒルトの力になれれば良い――そういう想いで触れ、今に到るのだからやはりこの環境に慣れるには時間が掛かりそうだった。

 一旦しゃがみ、装着を解除。

 専用機ならではの強みを消すこのやり方は人によってはあまりよろしく見えないだろう、だけど専用機を持たない人にとってはこの方法からの乗り込みが基本なのだ。

 ハンガーの様に固定されていないため、装甲に手をかけ、足をかけ、背中から入るように身を預けるとラファール・リヴァイヴは前面装甲が閉じて搭乗者を固定するためフィッティングを開始し始めた。

 訓練機ではフィッティングは行わない、パーソナライズも同様だ。

 個別に使うわけではなく授業では全体が使う、仮にパーソナライズ、フィッティングを個々で行えばそれらの初期化に手間が掛かる。

 成樹の身体に合わせ、各部関節部がスライドされて固定――ハイパーセンサーと接続され、冬の寒空を青々と映し、背後の学園や周りに居た女子たちも鮮明に映し出され、視界三六〇度全体が知覚出来た。

 だが人間の視覚というのは習慣として正面を捉えるのが普通だ、いきなり拡がる知覚に慣れない成樹。

 奇妙な感覚に襲われるも、意識を集中させてふわりと浮かぶと各スラスターを点火。

 コース上の配置されたリングを確認すると最初はゆっくりと飛行した。


「成樹、先に戻ってるぜ!」

「あ、うん。 わかったよ織斑君」


 真っ先に飛び出した一夏は既にリングを潜り抜けた後らしく、そのまま待機位置へと戻っていった。

 歩行を行わない辺り、一夏にとっては歩行が無駄だと判断したのだろう――。

 一つ目のリングを確認、あまり速くはないが一つ目を潜り抜けて二つ目。

 コースを弧を描くように飛行し、潜り抜けると三つ目はその頭上約三〇メートルに現れた。

 急停止からの急上昇――身体を保護されているとはいえ瞬間的に掛かるGを軽減できる訳じゃなかった。

 僅かに軋む骨、だがそれも一瞬の事で三つ目を潜り、直ぐ様四つ目、五つ目と潜り抜けた。

 最後の二〇メートルの歩行の為、グラウンドに着地すると砂塵を巻き上げる。

 ISで歩行する機会は少ない、そもそも浮遊できるのだから意味がないと考えるものは多数いる。

 だからといって疎かにすれば肝心な時に上手く歩けないという事態もあるかもしれない。

 不馴れな歩き方で二〇メートル先の線を目指す成樹――既にヒルトは訓練機の受領を終えて起動設定を行っていた。

 不規則な足並みがグラウンドに響き渡る、他の班でも既に訓練は始まっていて徒手格闘戦や射撃等を行っている。

 切り結ぶ切っ先の金属音と共に鳴り響く火薬音。

 それに合わせて不規則な成樹の歩行音が入り乱れる――そして。


「オッケー、成樹。 行程終わったら順番来るまでに今回のタイムをデータ転送してくれれば良いから。 コア・ネットワーク経由でお願い。 ハイパーセンサーのメニュー表にデータ転送の項目があるはずだから」

「わかった。 ちょっと待って……」


 ハイパーセンサーに表示された一覧を眺めていく成樹。


「一夏もタイムデータの転送よろしく」

「おぅ」


 短くそう返事をした一夏は直ぐ様データ転送をした。

 送られたデータを見てヒルトは怪訝そうにデータを見つめ、一夏に――。


「なあ一夏、幾らなんでも速すぎないか? 全行程やったならもう少し時間が掛かるのが普通だけど?」

「ん? あぁ、起動とか歩行は省かせてもらったからな。 専用機持ってたら起動とかは瞬間展開時に自動的にやるし、歩行はそもそもISで歩かないから無駄だと思う。 現に専用機持ってる皆だってそんな手間かける事しないだろ? ハッハッハッ」


 悪びれもなくそう告げる一夏に、ヒルトは無言で送られたデータを消去すると一夏の方へと振り向く。


「悪いけど一夏、最初からやり直し。 専用機だからとか関係なしに今回は最初から起動、飛行、歩行、停止しないと」

「はあ!?」

「いや、専用機だからとか関係なしに誰が入ったからって俺はそれをやってもらわないとな。 例外作れば面倒だし、やり直しな。 嫌なら織斑先生の特別課外授業にしてもらうが?」

「わ、わかったって……」


 渋々といった表情で一夏は再度ラファール・リヴァイヴや打鉄が並ぶラインに立った。


「既に起動設定は終えてるんで皆も訓練を開始してください。 俺も参加するんで」

「「はーい!」」


 元気よく返事をした女子達、ラファール・リヴァイヴ及び打鉄に乗り込むと起動、そして飛行を開始した。

 一夏も同様に最初から起動するのだが――。


「しまった……。 立ったまま降りたから……」


 前面装甲が開いたまま、直立して立つ白式。

 イージーミス――慣れた人ほど起こしやすいミスをした一夏だが何とか装甲に手足をかけて登ると他の子同様に起動を開始した。


「因果応報、悪いことしたって訳じゃないけどやっぱ行程飛ばせばこうなるんだよ……」


 誰に告げるでもなくヒルトは一人ごちた。 
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