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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第419話】

 楯無さんからの簡単な説明を受ける俺とついでにその場に居合わせた美冬。

 彼女がネガティブ思考で暗いとか、現在専用機が無い状態とか――ネガティブ思考は何となく雰囲気からは醸し出してはいるが、暗いという感じは更識さんからはしないのだが――どちらかといえば、感情表現するのが苦手という感じに思えた、第一印象を踏まえてだが。

 専用機が無い状態というのはずっと前から知っていて、七月に見た時よりはある程度出来上がってはいるが未だに腕部装甲も無いし、スラスターのついてない箇所もあったりするのが印象にあった。

 因みに、彼女の専用機が完成していない原因は倉持技研にある、倉持技研の技術職員全員が一夏の白式に人員を回すという意味のわからないことをした結果、更識さんの機体で日本の次期第三世代機である【打鉄・弐式】は開発途中で放置という……開いた口が塞がらないというのはまさにこの事だろう。

 そりゃ、一夏の白式が篠ノ之束博士が手を加えたものってのは分かるが、だからといって打鉄・弐式の開発メンバーまで回すのは頭が悪いとしか言えない。

 まあこの場にいない倉持技研の職員をいくら呪詛の言葉を呟いても聞こえる筈は無いし、虚しいだけなのでこの辺りで止めておく。

 更にだが……更識さん自体が専用機が完成していない原因は一夏にありと思ってるらしい――これは前に訊いた気がするが、何分記憶が曖昧すぎて深く言えないが……確かに一夏も少しは要因あれど、一番の諸悪は倉持技研の職員だと俺は思う。

 そんな俺の考えは一旦その場に捨て置く――と、美冬が口を開いた。


「それで、お兄ちゃんに更識さんを頼むってどういう意味ですか……?」

「あ、美冬ちゃん、誤解しないでね? ヒルト君にお嫁にもらってほしいとかじゃないから」


 それは当たり前だろう、確かに顔合わせし、何度か話し合ったりもしたがいきなりお嫁にもらってとかは話が飛びすぎている――というか、美冬とさっきあんな事しておいて嫁にもらいます何て言ったら……マジで去勢されかねん。

 そんな俺の馬鹿な考えを他所に、楯無さんは更に説明を続ける。


「んとね、多分明日の朝かその次辺りのSHRで各クラスの担任から説明あると思うんだけど……。 昨日のキャノンボール・ファストの襲撃事件を踏まえて、各専用機持ちのレベルアップを図るために今度全学年合同のタッグマッチを行うのよ」


 警備を強化するという話は織斑先生から訊いて知ってるが、それとは別に新たな大会というのは初耳だった。

 しかも専用機持ちのみのタッグマッチ――更に言えば全学年合同という明らかに上級生組の経験値がものを言う大会な気がするのだが――突っ込みは野暮というものかな。


「つまり――お兄ちゃんに更識さんのタッグパートナーを楯無さんが依頼するって事なの?」

「うん……そうなるわね……。 だからヒルト君、今度のタッグマッチ大会、簪ちゃんと組んであげて!」


 またも手を合わせ、楯無さんに拝まれる俺は美冬を見ると「良いんじゃないかな?」と小さく口にする。

 頭を掻き、とりあえず俺は――。


「……お断りします」

「えっ、お兄ちゃん!?」

「ぁ……ヒルト君。 どうしても……ダメ……?」


 覗き込む様な上目遣いの楯無さんに、断った俺に驚く美冬。


「ダメというか、そういう大会で誰かに頼まれてその人と組むってのが自分は好きじゃないんで。 シャルの時はまだ、周りに男装してるのがバレてない時期で事情を知ってるのが自分だけでしたからね。 タッグマッチ大会があるとわかったなら、多分他の専用機持ちも互いにベストなパートナーと組みたい筈ですから」


 俺の言葉を訊いた楯無さんは、誰が見ても明らかに分かるぐらいしょんぼりとした表情になる。

「ぅ……そぅよね。 ……ごめんね、ヒルト君。 急に変なお願い事しにきちゃって。 ……やっぱり織斑君に頼むしか無いのかな……」


 そう呟き、チラッと横目で見る楯無さん――気づいてるが、敢えて無視すると諦めたのか、ベッドから立ち上がると――。


「ごめんね、ヒルト君。 さっきおねえさんが言った事は忘れて? ……君なら力になってくれるかなって、おねえさん、少し甘えただけだから……」


 そう言って俺の部屋を後にしようとする楯無さん……。

 美冬は俺のジャージの裾を引っ張ると「止めなくていいの?」と小声で呟く。

 だが、俺は頼まれて組むというのは何か理由として変に感じる――理屈とかではなく、何かいやだ、だから……だから俺は――


「タッグマッチ大会、誰と組むかなー……。 ……あ、そういえば……。 美冬、確か四組の子……更識さんだっけ? あの子、面識あるのって俺と美冬ぐらいだよな―、専用機持ちで面識あるの」

「……もぅ、お兄ちゃんって素直じゃないんだから……。 そ、そうだねー。 だから、私かお兄ちゃんが組むしか無いんだけど、私は今回美春と組もうかなーって思ってるからー、お兄ちゃんしか組めないねー」


 何ともわざとらしい演技だが、楯無さんは足を止め、振り向く。


「……楯無さんが頼んだから引き受けるのではなく、俺の意思で彼女と組むんですからね?」

「も、もうっ! ヒルト君ったら、おねえさんをからかって……。 ありがとう、ヒルト君。 簪ちゃんの事、宜しくね?」


 素直じゃないと美冬に言われ、楯無さんからはからかってと言われるも、俺自身……楯無さんに頼まれたから組むだと、それは何だか【仕方なく組む】様な気がしてならない。

 無論そう思わない人も多数だろうが……俺自身が組む、楯無さんに言われたからではなく、俺の本心でそう思ってる――というのも、七月からたまにだが、やはり未完成の機体を見る機会が何度もあったというのもあるかもしれない。


「んじゃ、時間作ったら彼女のクラスに行ってお誘いしますんで。 ……楯無さんの名前は出す気は更々無いので安心してくださいね」

「ぅ……ごめんね。 ……前にヒルト君も見たと思うけど、私と簪ちゃん……というか、簪ちゃんが私の事……嫌いみたいだから……。 だから、ヒルト君と美冬ちゃん……二人の仲睦まじい姿が私には少し羨ましくて……」


 しょんぼりと項垂れながらそう言う楯無さん――仲睦まじいどころか、ほぼ一線を越える辺りまで進んでるのだが……。

 ――無論葛藤がない訳じゃない、だけど……正直……俺も何処か心の中でこうなることを望んでいたのかもしれないという思いがある。

 項垂れる楯無さんを他所に、美冬をチラッと見ると直ぐに笑顔で応える美冬。


「……何が原因で姉妹仲が悪くなったかは、俺も美冬もわからないですけど。 大方の予想ですけど……楯無さん、小さい頃からもしかして更識さんが何かお手伝いなり何なりしようとした時、代わりにやってたりしてました?」

「ぅ……」


 ギクッ、という擬音が聞こえるぐらい狼狽する楯無さん。

 更識さんは、完璧超人で何でもそつなくこなしてる姉を、いつも近くで見てたのだろう。

 無論、楯無さんだって最初から完璧超人な訳ではない、小さな頃から見えない所で必死に努力して、妹の更識さんなとって危ない事まで代わりにやっていたのだろう――それも、妹を思ってなのだろうが、多分更識さんの手伝いすら代わりにやっていたのだと思う。

 姉自身がよかれと思ってした結果が、姉に対するコンプレックスを引き出させて姉妹仲が悪くなった――と思うが、あくまでも楯無さんを見た上での仮説だから合ってるかどうかはわからない。

 ……まあ、楯無さんが基本的に原因だから擁護出来ないが。

 そりゃ、自分の身に置き換えて考えたらキツいよな……普通なら、俺も美冬とはよく対比させられていたから知ってるが、俺自身はそんな美冬が誇りに思うし、俺は俺だから俺の出来る事だけすれば良いと割り切れる性格だからな……。

 ……さて、楯無さんを責めてもどうにもならないし、俺が二人に出来る事はきっかけ作り、架け橋になる事だけだろう。


「まあ何にしても、俺が更識さんと組みますから。 楯無さんのお願いじゃなく、自分の意思で――ですからね」

「あ、ありがとうヒルト君。 ……それじゃあ、お願いね? あまり無理はしなくていいから……」


 普段とは違う楯無さんに面を食らうも、力強く頷くとニコッと柔らかな笑みを浮かべた。


「……お兄ちゃん、楯無さんに見とれちゃダメだからね」


 隣でジト目で見つめてくる美冬に、楯無さんはクスクスと笑みを溢すと――。


「うふふ、美冬ちゃん……ヤキモチ?」

「……!? やっ、べ、別にヤキモチじゃない……ッ! て、ていうかそろそろ就寝時間じゃん! 楯無さん、部屋から出ないと怒られちゃいますよ!?」


 慌て始める美冬に釣られ、時計を見ると確かに十時近くを差していた。

 クスッと微笑を溢すと、楯無さんはスカートの裾を正して立ち上がると。


「じゃあヒルト君、宜しくね。 ……あ、部活動貸し出しの仕事もあるから大変かもしれないけど、頑張ってね? またもし織斑君と仕事内容に格差があるなら直ぐに報告お願いね?」

「了解です。 ……じゃあ美冬、楯無さん、二人ともおやすみなさい」

「うん。 お兄ちゃん、夜更かしはダメだからね? ちゃんと歯磨きしてから寝るんだよ?」


 まるで母親の様に口出す美冬に、楯無さんは――。


「うふふ、やっぱり私には二人が羨ましいな。 ……じゃあヒルト君、おやすみなさい。 美冬ちゃん、行きましょう」

「あ、はい」


 パタンとドアが閉まる音が聞こえる――大会が直ぐに開催されるのにも驚きを隠せないが……それよりも、美冬にフェラさせたり胸で挟ませたりって……兄としてはダメだな……。

 ……でも、嫌だと思わないのも事実、とりあえず脳裏に過るさっきの行為のせいでまた欲望の塊が突起し、自重しろと心で呟きつつ俺は部屋の明かりを消して眠ることにした。

 その日の夜、ラウラが夜這いに来ることがなかったが――もしかすると、シャルに止められたのかなと思った……。 
 

 
後書き
頼まれる形ではなく、ヒルト自身の意思で組むという形に

まあ上手く書けたかは人各々の感じ方ですが

後、更識姉妹に関しての考察はあくまでも自分の考察ですので( ´―`)

 
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