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大魔王からは逃げられない

作者:月下美人
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第八話



「ん~、統率は取れてないし無双出来るほど強い個体もいない。初っ端からイージーモードとは幸先がいいなぁ」


 玉座に腰掛けながら虚空に投影された半透明のスクリーンを眺める。


 スクリーンは全部で三つあり、このダンジョン内の状況を知らせるものだ。


 映像の中には個々に動いている冒険者たちの様子が映し出されている。


『うおっ! なんだこれ、なんも見えねぇぞ!』


 一番左のスクリーンから野太い男の声が聞こえた。


 八人の冒険者だ。どうやら彼らは中級コースに入ったようだ。


 中級コースは一切光のない迷路の構図になっている。天井や壁、床の各所には【恐怖】の効果を持つ精神汚染の術式を刻み、深淵の闇を発生させる魔導具を各地に設置してある。


 己の手すら見えない闇の中だ。しかも迷路の中には――。


『うあああぁぁッ!』


『ぐぁぁっ! い、イテェ……!』


『ひぃぃ! な、なんだ、なにが起きたんだ!?』


 低く張られたロープ、踏み石や壁の一部を押すと飛んでくる弓矢、落とし穴を始めとした定番なものから、剣山仕込みの落とし穴、転がる巨岩、激流水、転移魔方陣、幻惑魔方陣など様々なトラップが仕込んである。


 デズニーランド並みのアトラクションだ。侵入者たちもきっと楽しんでくれるだろう。


『おい、アイン! ライトを唱えろ!』


『う、うん』


 ゴリラのような顔をしたオッサンが側にいた痩身の魔法使いの男に怒声を上げる。


 男はおどおどしながら手にした杖を掲げライトを唱えた。


「残念、それは悪手だね」


 これから起こるであろう結末に口元を歪めながる。


『光よ照らせ、ライト!』


 男の持つ杖の先に小さな光球が浮かび――。


『――ぐぁぁぁぁ!?』


 四方八方から矢が一斉に飛んできた。男を中心とした四人の冒険者たちがその身に矢を生やす。


 魔法使いの男が息絶えたため光球が消え、再び闇が支配した。


『……ッ! 魔物か!』


『クソがぁぁぁ! どこにいやがるこんチクショウッ!!』


 半狂乱になりながら闇雲に剣を振り回す男。


 身を屈めて慎重にその場から離脱しようとする男。


 その場から逃げ出し、運悪く剣山仕込みの落とし穴に引っかかり断末魔の悲鳴を上げる男。


 各々が正常とは言いがたい精神状態に陥っていた。


「もう終わりか、つまんないな。――第二精鋭部隊に伝達。殺っていいよ」


【了解!】


 通路の影で待機していたゴブリンたちが静かに動き出す。


 各々散らばり、武器を構える。 


 隊長であるゴブリンが手を振り下ろした。


【撃てー!】


 一斉に彼らは手にしていた武器を放つ。


『ぐぁぁああああ!』


『な、なんだ!? いったいどこか――』


『ヒィィィィッ! もうやだ! 帰る、おうちに帰るぅぅぅ!』


 混乱の極みにある侵入者たち。しかし無慈悲に放たれた見えない攻撃は確実に命を奪っていった。


 ものの数秒で物言わぬ屍と化す。


【殲滅成功。しかし凄いなこれは……】


【ホントホント! まるで明るい場所にいるみたいに見えるよ!】


【こんなのまで作れるなんて、人間って恐ろしいね……】


【バカ! 魔王様がすごいんだよ! こんな凄いものをなんでもないように貸してくれた魔王様がな】


【さすがは魔王様だ!】


【魔王様ばんざーいっ】


 なぜかその場で円陣を組んで万歳コールをし出す精鋭部隊。


 少しむず痒い思いを感じながら彼らに次の指示を飛ばした。


「最弱の魔物のゴブリンが冒険者たちを圧倒するだなんて、すごい魔道具ですね」


 傍らで同じくスクリーンを眺めていたシオンが感嘆の溜息を洩らした。


「魔道具っていったら魔道具だけど、純正じゃないがね」


 ただのゴブリンが冒険者たちを瞬殺できた理由。それは彼らに与えた装備にあった。


「科学のかの字も知らないこの世界にとってはアレだけでもオーバーテクノロジーだからね」


 そう。彼らには本来この世界には存在しないはずのものを二つ与えてある。


 一つは暗視ゴーグル。


 夜間や暗所でも視界を確保するための装置であり、現代でも広く名が知られ軍属の人には馴染ある代物だ。


 もう一つはクロスボウ。またの名をボーガン。


 これも現代では広く知られている代物だ。専用の矢を板ばねの力とこれに張られた弦に引っ掛けて発射する武器。弓とは違い狙いが定めやすく、力をそんなに必要としない利点がある。


 とはいえ、俺自身は軍属ではないしミリオタでもないため、そこまで詳しくは知らない。ゲームを通じてこんなものがある程度の知識しかない。


 だが、そんなことでへこたる俺ではない。


 幸い俺にはチートともいえる数々のスキルや頼れる友人たちがいる。


 持てる知識とスキル、人脈を駆使してなんとか現代の兵器をいくつか再現することに成功したのだ!


 この暗視ゴーグルとクロスボウもそれらの一つである。


「ダーシュは?」


「上級コースで待機しています」


「ん、了解。……おっ?」


 スクリーンの一つに注目する。画面の向こうには三人の女がいた。


 一人は銀髪ボブに赤目の美女。身長は大体シオンと同じ一七〇センチほどで褐色の肌をしている。切れ長の瞳は知的な感じを漂わせクールな印象を持つ。


 プレートアーマーを着込んでいるが剣などは装備していない。前衛なのは間違いないだろう。


 鎧の上からでは分かりにくいが、きっと豊満なオパーイをしているに違いない。そうであってほしい。


 もう一人の美女は黄金色をしたストレートの髪を背中まで伸ばし、両サイドをリボンで括っている。身長は一六〇センチほどで群青色の瞳は強い意志の光を宿し、勝気な印象がある。


 この世界には珍しい白いロングコートを身につけ、腰には一振りの長剣が下がっていた。


 彼女はなかなか豊かなオパーイをしている。見たところC……否、Dはあるな! あ、ごめんなさい、ナイフで頬をぐりぐりしないでくださいシオンさん……。


 最後の一人、この中で唯一の美少女は栗色の髪をポニーテールにしている。同じく栗色の目はパッチリとしていて愛嬌がある。動物的可愛さと言えば分かるだろうか。


 魔術師が好んで着るような深緑のローブを着込んでいる。この中では一番小柄な彼女は一五〇弱ほどの身長だ。身の丈以上の杖を持っている姿からは子供が魔術師の真似をしているようにも見える。


 コース分岐地点に到達したようだ。彼女たちはどのコースに行くのかな。


「ほほぅ……美少女が一人に美女が二人かぁ。なかなかカワユイじゃないか」


 とくに美女二人。肉欲をそそる良い身体つきをしてる。豊満なおっぱいが美味しそうです! うへへへ……。


 美少女の方のおっぱいはあまり自己主張をしていないけど、顔が結構好みだね。


 ああ、早く捕らえてイジメて躾けて、いい声で啼かせたいなぁ。


「うぅぅ……辛抱たまらんなぁ!」


 早くも俺のジュニアは臨戦態勢だぜ!


 至近距離から送ってくるメイドさんのジト目を意識の彼方に追いやりつつ、この娘たちをどう料理するかに没頭する。……これはまた後で絞られるな。


 脳内で冒険者たちをアンアン啼かせながらスパッキングをしていた俺は意識を現実に戻しつつ、まずは彼女たちを確保することだと気を持ち直した。


「さてさて、彼女たちはどのコースに行くのかな?」


 どのコースを行くのか決めたのか、彼女たちが足を踏み入れたのは――。


「……ほう、初級にしたのか」


 以外や以外。彼女たちのレベルなら中級、ないしは上級を選ぶかと思ったが、初級コースを選んだようだ。


 今時の若者は少しでも力を得るとすぐに自信を持ち自滅する奴が多いからな。さっきなんて「ヒャア! 俺は最強なんだー!」とかいって上級コースに一直線だったからな。まあその後どうなったかなんて言わずもがなだけど。


 それに比べ驕らずに堅実にいくとは関心関心。このコースなら死ぬことはまずないだろう。


「お手並み拝見といきましょうかね」





   †                    †                   †





 薄暗い通路の先には三つの分かれ道に繋がっていた。ぽっかりと開いた通路の隣には立て札があり、ご丁寧に各道の説明が記されている。


 まさしく簡潔という言葉通り端的に分かれ道の説明を記載されていた立て札を一通り読んだ私たちは初級コースを選んだ。


 というのも、このダンジョンは従来のものとは一味違うと感じたからだ。


 今までに確認されたダンジョンは通路があり、トラップがあり、魔物がありといったもの。ダンジョンといえばこういうものとイメージが浮かぶくらい模範的なものが多い。


 しかしこのダンジョンは今一つ全貌が見えない。というよりもダンジョンマスターの嗜好が見えない。


 こういう時は初心に帰り慎重に行動するべき。


 今まで通った道で魔物が現れないなんて普通は考えられないし、なによりこの立て札。


 ――なんなのよ☆って!


 馬鹿にしているのだろうか。……絶対にしているんだろうな。


 ダンジョンマスターを見つけたらその顔に一発こぶしをねじ込んでやる……!


 まだ見ぬ敵に殺意と闘志を燃やしながら、初級コースを進んだ。


 中は特に変わった様子はなく土壁に覆われた道が続いているだけだった。


 今までと違う点といったら、迷路のように構造が入り組んでいることだろうか。


「これは、出口にたどり着くまで一苦労だな」


「気をつけて、何があるのか分からないんだから」


 不滅の松明で高原が確保できているが、明るいとはとても言えない。


 罠がありそうな場所――道の真ん中や壁には触れないように気を配りつつ、薄暗い道を行く。


「それにしても分かれ道多すぎだよ~。分かれ道の後に分かれ道があるなんて、ダンジョンマスターの性格が目に浮かぶよ」


 七度目の分岐点を左の通路を選ぶなり、ルセリアが小さく愚痴をこぼした。


 確かに気が滅入るくらう構造が入り組んでいる。分岐点の先が分岐点に繋がっていたり、行き止まりだったりと、ちゃんと先に進めているか少し不安だ。


 一応、こういう迷路のようなダンジョンのときは左の通路を選ぶと前以てみんなで決めてあるため、歩みに迷いはないけれど。


 再び現れた分岐点を左に進むと、状況に変化が訪れた。


 通路の先から数匹の魔物が姿を見せたのだ。


「オークが三匹か。楽勝だな」


 見慣れた緑色の肌に丸々と太った身体は普通のオークの証。変異体なら赤い肌をしているはずだし、第一こんなところにいない。


 オークは敵である私たちの姿を認めるとブホブホ鳴きながら近寄ってきた。


 威嚇のつもりか、手にした原始的な鈍器を振り回している。


「雑魚に構っている暇なんてないのよ」


 私たちの目的は例の鉱石を手に入れること。ぐずぐずしていたら他の冒険者たちに先を越されてしまう。


 私は腰にかけている長剣を抜き、一息で間合いを潰してすれ違いざまに首を跳ね飛ばした。瞬速のセラフィールの異名は伊達じゃないのよ!


「ブキ!?」


「よそ見してる暇はないだろ。ハァッ!」


 拳を構えたオルレアンが右ストレートを放つと、オークの顔が爆炎に包まれた。


 フィンガーグローブの魔導具は指の付け根の部分に【爆】の術式が刻まれており、殴りつけた部分が爆破する効果を持つ。


 拳闘爆士のオルレアン。拳闘士の間ではかなり有名だ。


「ブ、ブヒィィィィィ」


「逃がしはしないよ~っと」


 尻尾を巻いて逃げようとするオーク。しかし、突如巻き起こった風がオークを閉じ込めた。


 オークにとっては文字通り死の風。風の檻に捕らわれたオークは風の刃に晒され肢体をズタズタに切り裂かれた。


「颶風のルセリアさんから逃げられるわけないし~」


 身の丈はある杖で地面をトンと突くと風が止む。後に残ったのは全身を緑色の血で塗らしたオークだけだった。


「やっと魔物が出てきたね。まあ雑魚だったけど」


「そうだな。これでなにか進展があるといいが……」


「それより先に進みましょう」


 一本道を進むと再び分岐点にたどり着いた。


 しかし、今度は今までのそれとは違い四つの道に分かれている。


「うわぁ、せま……」


「人一人が通れる大きさだな」


「どうしましょうか」


 今度の道は腕を横に広げたくらいの大きさでとても二人並んで進める広さではない。


「別々に分かれて進むのは危険だな。ここは一つに絞っていくしかない」


「一番左でいいとして、順番はどうすんのー?」


「ふむ……セラ、私、ルセリアの順で行くか」


「そうね。それでいきましょう」


「了解ー」


 いつでも戦闘できるように剣を抜きながら慎重に進む。


 道を照らす不滅の松明はそれまで以上に間隔を開けているため、中はかなり薄暗い。ぼんやりと道が分かる程度だ。


 私語を慎まないと敵に場所を知られてしまうため黙々と歩き続ける。


 不意に、カチッと何かのスイッチが入るような音が鳴った気がした。


「今、なにか聞こえなかった……?」


「なにかって?」


「カチッていう音」


「ん~? アタシは聞こえなかったけど……オルレアンは?」


「私も聞こえなかった」


「空耳、なのかしら……」


 しばらくジッと辺りを窺うが、特に変化の兆しを見せない。


 気のせいかと歩みを再開した。





   †                    †                   †






 歩き続けること五分。道が開けた。


 どうやら出口にたどり着いたみたいだ。


「ようやく出口ね」


 凸凹した道を進むと鉄製の両扉が出迎える。


 ここが最奥地だろうか。ダンジョンマスターがいるとしたらここだろう。


「開けるぞ……」


 緊張した顔で扉に手をかけるオルレアンに頷く。


 重たい音を響かせて扉が開き、私たちはすばやく中に入った。


 中はただっ広いドーム上の空間で、とくに魔物の姿やトラップは見られない。


 奥のほうには玉座が据えられており、人影が確認できた。


 パッと玉座の周囲にある不滅の松明が灯り、人影が姿を見せる。


「むふふ~、よくぞここまできたでしゅね!」


 その人物をで一言で表すと、デブ。


 貴族が着るような上品な服は突き出たお腹によりはち切れそうになっており、金色の髪はおかっぱの形をして、丸い顔は油滾っている。


 一目見れば誰しもが「うわ~、ないよあれは……」と言いたくなる容姿だ。


 右手の中指に指輪が嵌っていることから、アレがダンジョンマスターと見ていいだろう。予想以上の醜悪な姿に一同絶句しているけど。


「ポキの元にたどり着けたのはお前らが初めてでしゅ。しかし、このダンジョンマスターであるポキを甘く見ては――」


 ダンジョンマスターの口上なんて無視して神速で駆け寄り、その首を跳ね飛ばす。


「困りま……しゅ?」


 自分の身に何が起きたのか未だに理解できていない様子のダンジョンマスターの首は、きょとんとした表情を張り付かせたまま地面に転がった。


 一泊遅れて胴体が崩れ落ちるのを横目に血振りをする。愛剣が穢れてしまった……後で神殿に行って浄化してもらわないと。


「呆気ない幕切れだったな……」


「んー……、こんなのがケルベロスをどうにかできたのかなぁ」


 確かにルセリアの言うとおりだ。とても地獄の番犬とも呼ばれるケルベロスをどうにかできるほどの実力を持っているとは思えない。


「まあ、疑問は尽きないけど先にやるべきことだけやりましょ。このダンジョンが崩れるのも時間の問題なのだし」


「それもそうだね。……あっ! 見てみて、アレじゃない!?」


 玉座の向こうには淡い光を灯した鉱石が大量に姿を見せていた。


 尖った六角形の形をした水晶のような鉱石だ。まるで呼吸するかのように点滅を繰り返している。


「おい見ろ! こっちには何か剣が刺さってるぞ!」


 オルレアンに呼ばれ来てみると、なにやら両刃の大剣が壁に刺さっていた。


 刀身には紋様が刻まれており、その剣から強い魔力を感じる。


 私の持つ【赤龍狩りの封剣】はAランクだが、それより高位の魔剣かもしれない。


 鑑定してみないと分かららないが、恐らくAもしくはSランク相当の代物。Sランクにもなれば国宝級だ。


 何か特殊な能力が備わっている可能性が高いため獲物として使えるだろうし、ギルドに売れば白宝貨百枚はするかもしれない。


「これは思わぬ収穫ね」


 向こうでルセリアが小躍りしているのを尻目に私の顔も知らず綻ぶ。今回のダンジョンは期待以上のものだった。


「さあ、ぐずぐずしていると他の冒険者たちが来るかもしれないわ。頂くものは頂いてここから出ましょう」


 壁に無造作に突き刺してある剣を握り引き抜く。


 キンッ、という金属製の音が鳴り、


 ――私の視界が暗転した。

 
 

 
後書き

次回はいよいよ濡れ場です。むふふの調教☆タイム!
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