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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第286話】

 振り返った楯無さんは、鮮やかな手付きで扇子を取り出すと説明を始める。


「何故、織斑君の役に立つのか……。 まず、織斑君は【第二形態移行】により遠距離攻撃能力が追加された――ここまでで分からない子は居ないわよね?」


 流石にまだ冒頭で、一夏の白式に射撃が追加されたという内容だから、誰しも分かっているようで頷く。


「うん。 基本的に射撃能力で重要なのは面制圧力。 マシンガンやアサルトライフル等は簡単に面制圧射撃は可能だけど、彼の荷電粒子砲は面制圧に不向きな一点突破型――対物ライフルやスナイパーライフルといった感じね。 ……あなた達――特にヒルト君はさっき織斑君と模擬戦を行ってたから分かると思うけど、彼の射撃能力の低さはIS学園でも下から数える方が早いぐらいにお粗末な有り様。 何か反論はあるかしら、織斑君?」

「……いぇ。 実際、荷電粒子砲を誰にも当てることが出来ないのは事実ですから」


 何か思うところがあったのか、素直に認める一夏に俺は少し驚きつつも楯無さんの言葉に耳を傾ける。


「――そういう訳で、彼の射撃能力の低さを補うため、あえて――」


 言いながら扇子でラウラを差す楯無さんに、ラウラはぎょっとするも直ぐに答えた。


「近距離で叩き込む……」

「うん。 流石ねラウラちゃん」


 そう言って横に構えた扇子を勢いよく開く。

 軽快な音と共に開かれた扇子には『見事』という文字が書かれていた。

 ……今更だが、美冬も楯無さんもだが、いつ扇子を替えたりハリセンを取り出したりするのだろうか。

 ……まあ、美冬の方は長いことハリセン使って無いから今は分からないが。


「……む、ぅ……ラウラちゃん……か……」


 静かに呟くラウラは、心ここに在らずと言った感じに見受けられる。


「ラウラ? どうした?」

「な、何でもないっ。 ば、バカ者!」


 覗き込むように見ると、ラウラは俺の顔を手で押しどけてきた。

 ちょうどセシリアと鈴音の二人には押しどけられた俺の顔が見え――。


「ぷっ! ヒルト……アンタ、今スゴく変な顔だったわよッ♪ アハハハハッ♪」

「り、鈴さん、わ、笑っては――…………」


 余りにも変な顔だったのか、二人して笑いを堪えるのが難しいらしく、セシリアだけは何とか堪えようとはしていたが、肩を震わせながら我慢していた。


「うふふ♪ お姉さん達の角度じゃ見れなかったのは残念ね。 ……さて、美冬ちゃんもシャルロットちゃんも準備が出来たみたいね。 じゃあ、注目注目♪」


 手を叩き、扇子でアリーナ上空を指す楯無さん。

 一応二人から離れた位置に俺達は居るが、流れ弾等は来ないのだろうか?

 そんな心配をしてると、楯無さんが――。


「ヒルト君。 心配する気持ちも分からなくは無いけど、二人は代表候補生よ。 それに、美冬ちゃんは貴方の妹何だし、信用してあげなさい」

「……そうですね。 二人ならそれぐらい分かってる筈ですからね」


 そう楯無さんに告げると、満面の笑みを浮かべて頷く。

 それを見ていたラウラは、ムスッと不機嫌そうな表情をしながら俺の腕を取り、絡ませてきた。

 そんなラウラを見た次の瞬間、オープン・チャネル通信が開く。


『準備できました。 美冬、始めよう?』

『了解~。 お兄ちゃん、ラウラとイチャイチャばかりしてないでちゃんと見ててよねッ!? ふんッ』


 そんな通信で一斉にセシリアと鈴音が振り向く――。


「……あらあらヒルトさん? ラウラさんばかりズルいですわよ? ……せっかくですから、わたくしも腕を取らせてもらいますわね」


 そう言ってするりと腕を絡ませるセシリアは、明らかにわざと胸を押し付けてくる――と。


「あ、あんたねぇ……デレデレし過ぎッ!」

「で、デレデレしてないって!」

「うふふ。 仲が良いのは分かったから、そろそろ二人は始めてくれるかな?」


 楯無さんは鈴音をたしなめると、美冬とシャルの二人に合図を出す。

 鈴音自身は俺の状態が面白くないのか、ジト目で俺を見てきた。

 ……何で鈴音も俺をそんな風に見るんだよ。

 ……マジで気になる相手って俺だったりして――なんてな。

 まずあり得ないと結論つけると、俺は視線を二人に移す。

 既に村雲とリヴァイヴ・カスタムⅡが向かい合い、互いに銃を相手に向けていた。

 そして、ゆっくりと右方向へと二機は動き出し、背中を壁に向けたまま円軌道を描いていった――。


『シャル、準備はどう?』

『大丈夫、僕ならいつでも準備はOKだよ』


 通信が飛び交い、それと同時に更に加速していく二人――そして、一定速度に達したその時、互いの砲口が火を噴いた。

 お互いに円運動を続け、不定期な加速を行いつつ、互いに撃ち合った射撃を回避し、撃ち返し、減速することなく更に加速し続け、円軌道を早めていく。


『やるじゃん。 ……流石だね、シャル』

『美冬こそ。 よくぶれないね? 軌道制御大変でしょ?』


 まるで二人は戯れる様に撃ち合い、射撃は苛烈さだけが増していく――と、一夏が。


「これは……」

「……まあ見りゃあ分かるが、射撃とマニュアル機体制御、他にも軌道制御や不定期加速の為のステータス確認、他にも色々な事を同時に行ってるんだな、これが」


 そう俺が説明すると、一夏の隣の篠ノ之が俺に振り向き――。


「……何故有坂は分かるのだ? まるで自分も【マニュアル操作】を行ってるような言い草だ……」

「ん? ……何となく、そうかなーって思っただけ」


 そう言って視線を再度空中に居る二人に移す――と、楯無さんが。


「ヒルト君ってば、こんな時に嘘をついちゃうなんて悪い子ね? ……君も、マニュアルで機体制御行ってるじゃない」

「「……!?」」


 そんな楯無さんの言葉に、驚きの表情を見せた一夏と篠ノ之に対し、セシリア達代表候補生は――。


「やはりそうでしたか……。 前々から薄々そうなのではと……思っていましたのよ?」


 そう俺を覗き込むように見るセシリア――鈴音も。


「まあ、ヒルトの動きを見てたら分かるよね。 マニュアルとオートじゃ、動きが全然違うし」


 鈴音も分かってた様で、驚いてはいない様だった。


「私は直ぐに気付いたぞ? ……その、ヒルトと初めて対峙した時の動きで……な」


 当時の事を思い出したのか、罰の悪い顔をするラウラに――。


「……もう怒っていませんから、そんな顔をなさらないでくださいな、ラウラさん?」

「そうよ? あんた……ちゃんと謝ってくれたんだし、アタシなんか寝たら忘れちゃったんだから」


 互いに笑顔でラウラを見ると、恥ずかしそうに俯き、小さくラウラは頷く。


「うふふ。 流石は各国代表候補生ね? 仲良き事は美しきかなってね♪ ……じゃあ、いつからヒルト君がマニュアル操作を行ってたと思う?」


 そんな唐突な質問に、セシリア達は――。


「え……と……。 六月ぐらいからかしら?」

「……アタシもそう思った。 ヒルトはそれまで空飛べなかったし」

「私もそう思うが……ヒルト、いつからだ?」


 互いが六月と言ってるが……流石に自分でこれを言うのも嫌だと思う。

 アピールしてるみたいで。


「……まあいつでもいいじゃん」

「うふふ。 ヒルト君は誤魔化してばかり。 ……セシリアちゃん、クラス代表決定戦はまだ覚えてるかな?」

「え、えぇ。 勿論ですわ。 あの頃はヒルトさんや皆様に無礼な事を沢山言ったりしましたから……」


 そう言って困ったように眉を下げるセシリアに、一夏が――。


「ん? 俺は初耳だぞ、セシリア?」

「……あの頃はまだ貴方は転入してないじゃありませんか」

「あ、そっか。 成る程成る程」


 ぽんっと手を叩く一夏だが、やはり鳥頭なのだろうか?


「あの……それが何か関係があるのかしら……?」

「もちろん。 セシリアちゃんとクラス代表決定戦の時には既にヒルト君はマニュアル操作だったからね♪ てか、美冬ちゃんが教えた当初からマニュアルだって言ってたじゃない」

「「「…………ッ!?」」」


 一同全員が驚愕し、俺を見てくるのだがそれほどの事じゃないだろうに……。


「……楯無さん。 そろそろ勘弁してください。 てか、いちいち驚くなよ。 ……セシリアや鈴音、ラウラだって最初からマニュアル操作だろ? 驚くことないじゃん」


 そう言ってため息をつくと、セシリアが――。


「……わたくしは、最初はオート操作でしたわよ?」

「あ、アタシも……。 まずはオートで慣れてからマニュアルに移りなさいって、軍関係者に」

「わ、私は当初オートでも苦戦していたのだぞ? ……それを……乗って直ぐにマニュアル……」


 一同がショックを受けてる意味がわからない俺には、頭に疑問符を浮かべる事しか出来なかった。


「うふふ。 それはさておき、織斑君も箒ちゃんも、経験値は重要だけどそれ以上に君達二人には高度なマニュアル制御も必要なんだよ。 わかる?」


 そう言いながら再度口元を扇子で隠す楯無さんに、二人は応えずただ黙って見るしか出来なかった。


「美冬ちゃん、シャルロットちゃん。 もう演目は終わって良いわよ。 ご苦労様♪」


 その言葉を合図に、美冬、シャルの二人は射撃を止め、徐々にスピードを落としてから地上へと着地――ISを解除するとそのまま此方に走ってきた。


「お兄ちゃん、どうだった?」

「ふふっ。 たまには僕も褒められたいなぁ~。 なんてね♪」


 舌をぺろっと出すシャル、美冬も褒められたいのか頭を差し出すと――。


「あぁ、二人ともありがとうな? 勉強になるよ」

「へへッ♪」


 頭を手で撫でると、気持ち良さそうに瞼を閉じて手の感触を楽しむ美冬。

 それを見たシャルも――。


「ぼ、僕もお願いしていい?」

「もちろんだ。 なでなでなで~」


 あまり髪をくしゃくしゃにしないように、優しく撫でるとシャルは嬉しそうにはにかむ――と。


「……ズルいです、ヒルトさん。 ……わたくしも演目に参加すれば良かったですわ……」


 ショックから立ち直ったセシリアは、俺をジト目で見てくる。


「……むぅ。 ……アタシもなでなでしてほしぃ……」


 あまりに小さな声で呟いた為、聞き取れなかったものの鈴音からもジト目で見られた。


「ヒルト、遠慮せず私の頭を撫でるがいい。 ほら」


 そう言ってラウラもなでなでしてほしいのか、頭を向けるのだがラウラは今回の演目で何もしてないじゃん……。


「うふふ。 ヒルト君モテモテね♪」


 そんな年上的目線で見る楯無さん。


「……ともあれ、今日はもう時間は無いので明日から訓練を始めましょう。 ……織斑君、わかったかな?」

「……わかりました」

「い、一夏!?」


 素直に応じた一夏を、信じられないといった表情で見る篠ノ之は更に――。


「……ッ。 勝手にしろ! 私は帰る!」


 そう言ってご機嫌斜めな篠ノ之は、怒りながら帰っていった……。


「……うーん。 なかなか彼女は手強いわね」


 そう言いつつも、楽しげに微笑む楯無さんは何処かこの状況を楽しんでいるように思えた。

 こうして今日も一日が終わるのだが、今日から一夏と同居だと思い出すとちょっとだけげんなりする自分がそこに居た――。 
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