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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第292話】

――1025室内――


 とりあえずある程度の事情を一夏に説明する――。

 もちろん、何故楯無さんが裸エプロンもとい水着エプロンなのかも――だが、一夏が気になったのはエプロンではなく……。


「……でもさ、ベッド二基しかないじゃん。 どうすんだよヒルト?」

「ん? 寝袋あるから俺か一夏が寝袋で寝ればいいだけだろ? 幾らなんでも楯無さんを寝袋で寝させる訳にはいかないし」


 そう言って、楯無さんを見ると――。


「うふふ♪ ヒルト君の優しい所、お姉さんは好きだよ?」


 いつものように微笑みながら好きと言う言葉に、ドキッと高鳴るも――。



「か、からかわないでください。 ……さて、それよりも俺か一夏のどちらが寝袋で寝るか――」

「……寝袋だと、あんまり疲れがとれないんだよなぁ。 ……だから、悪いがヒルトが寝袋で寝てくれないか?」


 ……何と無くそうなる気がしたが、仕方ないか……。

 下手に争うよりはここも俺が我慢すればいい話だしな、これが。


「わかった。 なら俺が今日から寝袋で寝るから――てか、楯無さんの私物をどうするかな……」

「うふふ。 少し荷物が多いけど、女の子はこれぐらい必要だから」


 ……確かに、何か美冬も未来も今はかなりの服がクローゼットに収納されてるしな。

 化粧品等もあくまでナチュラルメイク用にあるぐらいだが。

 ――と、部屋のドアを叩く音が鳴り響く。


「あら? こんな時間に誰かしら?」


 そう言って立ち上がろうとする楯無さんを、俺は制止する。


「楯無さんストップ! その格好で出られたらかなり困るので自分が出ます」

「あら? お姉さんは困らないけど――」

「お、俺が困るので!」


 ピシャリときつめの言葉で言うと、少ししょんぼりした楯無さん。

 少し言い過ぎたかなと思いつつ、俺は玄関のドアへと向かい、開けると――。


「…………」

「……篠ノ之?」


 不機嫌そうな表情そのままで、後ろに何かを隠してる篠ノ之がそこに居た。

 互いに沈黙したまま、黙っていると――。


「ヒルト? 誰が来た――」


 後ろから一夏の声が聞こえると、沈黙していた篠ノ之が突如――。


「い、一夏! 私だ! さ、差し入れを持ってきてやったぞ」


 そう言って後ろ手に隠していた包みを俺の横から見せる篠ノ之。

 ……てか一夏に用があるなら俺に言えば取り次ぐのに。


「お? 悪いな箒」


 そう言って差し出された包みを受け取る一夏――と。


「今の声は箒ちゃんかな?」


 ひょこっと顔だけを出す楯無さんの姿を見た篠ノ之の表情が明らかに不機嫌なものへと変わっていく――。


「……どういう事だ一夏? 何故あの人がここに居るのだ」


 ……てか、ここ俺の部屋なんですけどね。

 そんな篠ノ之には俺が映ってないのか空気扱いなのか、はたまた無視してるのかはわからないが――他に用が無ければこのまま部屋に帰ってほしいと思うのだが――。


「うふふ。 今日から私、この部屋でお世話になるの」

「…………ッ!?」


 楯無さんの言葉に、何を血迷ったのか腕部装甲を部分展開し、そこから紅椿の刀を展開して握るや――。


「一夏、貴様……!」


 ヒュンッ――空気を切り裂く刃の音、俺の髪に掠り、はらりと銀髪が落ちていく――。

 明らかにとばっちりを受ける俺を他所に、一夏は――。


「わああっ! 待て待て! 一体何を誤解してるんだ箒!」


 必死に訴えるも、既に頭に血が上った篠ノ之の耳には届かず――。


「何が誤解か! そこに直れ!」


 そう床を刀で指す篠ノ之に、俺は頭をかきながら――。


「……てか、ここ俺の部屋。 暴れるなら外でや――」

「……黙れ! 貴様などに訊いてなどいないッ!」


 切っ先を俺に向ける篠ノ之に、俺も流石に――。


「……お前、今俺に何を向けてるんだ? 侍がどうとか言ってるが、何の武装もしてない人間に武器を振るうのがお前の侍道か?」


 真っ向から篠ノ之に侍道を訊くのだが、やはり頭に血が上っている為に反論してくる――。


「煩いッ! 貴様に侍の何がわかると――」

「侍の道には活人剣と殺人剣がある。 だが、今のお前は殺人剣を無差別に振るう辻斬りにしか見えねぇ。 ……先祖の名前を大事にしたいなら、その名に恥じないような振る舞いを取れよ!!」

「…………ッ」


 流石に先祖の事を出すと、篠ノ之も分かったのか向けた切っ先を下へと下ろす。


「……今日は見逃してやる。 ……いくら俺が嫌いだからって、向けて良いものと悪いものがあるぐらい自覚しろ。 もう刀も帯刀するな、いいな?」

「ヒルト、何もそこまで言わなくても――」


 そう一夏が篠ノ之を庇うのだが、そこを楯無さんが口を挟む。


「織斑君。 君が箒ちゃんを甘やかすのも問題があるのよ? ……箒ちゃんも、いつまでも貴女に味方が居るとは思わない方が良いわよ。 過ぎ足る力は災いを呼ぶ。 ……貴女は紅椿を実力で手にした訳じゃない。 それだけは覚えておきなさい」


 いつの間にか制服に着替えていた楯無さんの冷たい叱責に、口を真一文字に閉じた篠ノ之。

 ……篠ノ之には、叱ってくれる人が必要だとは思っていたが……楯無さんが適任なのだろうか?

 ……織斑先生も、もっと叱ればいいのだが……。


「……とりあえず、その物騒な物は仕舞え。 いつまでも握ってるとお前、懲罰部屋に入れられるぞ?」

「……わかっ……た」


 そう言って部分展開を解き、握っていた紅椿の武装も粒子化されていった。


「……別に俺、箒を甘やかしたつもりは――」

「な・に・か・な?」


 一夏が何かを言うのを牽制するかのように言葉を強調する楯無さん。

 流石に一夏も逆らえないからか、押し黙った。


「……とりあえず、話でもしましょうか? 箒ちゃん、貴女も入りなさい。 ヒルト君、良いわね?」

「部屋で暴れなきゃ、俺は何も言いませんよ。 一応部屋には大事な物もあるんだ、それを壊したりさえしなきゃ、基本誰が来ても俺は構わないからな、これが」


 そう言って篠ノ之を招き入れると、逆らう力はもうごっそり奪われたからか、素直に応じて部屋へと入った。

 少し騒ぎにはなったものの、特に誰かが様子を見に来る事もなかった為、ホッと一息ついてドアを閉めた……。 
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