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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第495話】

 ここではない何処か、誰かの記憶なのだろうか――はたまた、ただの夢なのだろうか……だが、まるで現実の様だった。


「ハァッ! ハァッ! ハァッ! ……くっ、追撃はこれで全部か……?」


 荒い呼吸、肺に何度も空気を送り込む、手に握られていた刀は血糊で濡れ、周囲一帯にはISを纏った死体が無数に転がっていた。

 周囲を見渡し、空へと視線を移す、空はどんよりと曇り、いつ雨が降りだすとも限らなかった。


「…………」


 視線の先にある死体を一瞥する――その死体は皆【男】であった、頭部が切断された男の目はあらぬ方向へと向いていて、ぬらぬらとテカった舌がだらしなく出ていた。


「……それがお前達の運命だっただけだ。 恨むなら、その機体を纏うという【選択】をした自分を恨むんだな」


 まるで自分に言い聞かせる様にそう呟いた男は、身に纏ったISを解除すると足早にその場を去った。

 ――夢なのだろうか?

 まるで、自分が対体験してるみたいなリアルな夢――ぽつり、ぽつりと雨が降りだす。

 雨は次第に激しくなり、泥道に水溜まりが出来上がりつつあった。

 ふと水溜まりを覗き込む。

 その水溜まりに映った男の顔に、見覚えがあった――いや、見覚えがあったではない、毎日見てる【俺】の顔――。


 ――1025室内――


「お兄ちゃんッ! 大丈夫!?」

「えっ!? …………」


 美冬の声に驚き、飛び起きた俺を、集まった皆が心配そうに覗き込んでいた。


「よかったぁ……急にお兄ちゃん、苦しそうに唸り出すんだもん、皆ビックリしてずっと名前呼んでたんだよ?」

「え? そ、そうなのか……?」


 一番最初に視界に映った鈴音を見ると、こくんと小さく頷いた、よく見ると額に包帯が巻かれている。


「あんたが急に唸り出すから、何があったのかなって心配になっただけなんだからね? ……でも、何にもなくて良かったけどさ」


 若干視線を逸らした鈴音に、俺は柔らかな笑みを返した。


「……てかさ、何で皆集結してるんだ? しかも俺の部屋だし、ここ」

「そ、それは……き、今日、お兄ちゃんがいっぱい頑張ってくれたから……ねぇ?」


 そう言って同意を得ようとセシリアを見た美冬に、セシリアは小さく頷いた。


「えぇ、今日はヒルトさんのお陰で助かりましたわ。 ……新しい機体を纏ったヒルトさんのお姿、凛々しくて素晴らしいですわ……。 まるで、おとぎ話にある姫のピンチに早速と登場する黒馬の騎士の様に……」


 うっとりとした表情のセシリアの例えに、俺は意味がいまいちわからなかったものの、セシリアが俺に向ける好意は嬉しく思った。


「そ、そぅね。 ……少なくとも、か……かっこ良かった……わよ、アンタ……」


 照れ混じりの鈴音は、ふぃっと顔を逸らす、そんな鈴音が可愛いと思った。


「僕も、ヒルトに助けてもらったのが凄く嬉しかったよ? 来てくれて、ありがとう」


 ニコッと微笑んだシャル、だが彼女やラウラを助けたのは謎の男――誰だかわからないが、ISを纏っていた得体のしれない四人目の操縦者――。

 難しい顔をしていたらしく、ラウラは俺の頬をツンツンと指でつつくと――。


「ヒルト、どうした? 難しい顔はヒルトには似合わない。 ……私の嫁なのだ、笑顔でニカッとだぞ?」


 いつか俺がラウラに言った親父の言葉を聞き、俺は何度か瞬きをしてからラウラに笑顔で応えた。

 それを見た一同は安堵したらしく、笑顔を溢す。


「ヒルト、今日はお疲れ様。 ……でも、私が見た時は身体に怪我――ううん、重症に近かったのに、今改めて見ると青アザ一つも出来てないよね?」


 未来がそう言い、俺は軽く首と肩を回して異常がないかを確認するも、特に痛みなどは出なかった、不思議と疲労感もない――疲労感がないのは寝ていたからだと思うが。

 ――と、ここで脳内に声が響いた。


『それは、私がマスターの身体機能を回復させたからなのですよぉ(≧ω≦)b ナギちゃんは出来る子なのですよぉ( ̄^ ̄)』


 ISを纏っていないのに不思議と顔文字が浮かぶのは、コアとリンクしてるからか或いは若干毒されてきてるのか――。


『プンプン(`ε´) 毒されてるなんて失礼なのですよぉ!(`ヘ´) マスターにおこですよ、おこ!(`o´)』


 そんな小うるさい声を半場無視しつつ、俺は気になっている事を聞いた、無論それは――。


「未来、回収したコアと俺が乗っていた打鉄のコアは?」

「あ、うん。 回収したコアは山田先生に預けてあるよ。 ……ヒルトの乗っていた打鉄のコアは、今休眠状態でお母さ――有坂先生の預かりになってるよ」

「母さんの?」


 ……母さんが預かるのならば特に何ら問題は無いだろうと思う。

 ふと美春を見ると、口を開いた。


「大丈夫だよ。 彼女は眠ってるだけだから、直に起きるよ」


 元ISコアである美春が言うのだから間違いは無いだろう――軽く安堵の溜め息を吐く俺に、何故かジト目の未来と美春を除く五人――。


「お兄ちゃん、彼女って?」


 先手で言ったのは美冬だ、表情は穏やかなものの、その背後には修羅が見え隠れしていた。


「……うふふ」


 小さく笑みを溢したのはセシリア、だがやはり美冬と同様に背後に何かが見える。


「……アンタねぇ、これ以上増やしてどうすんのよッ!! バカバカバカバカッ!!」


 目尻を釣り上げ、怒りの表情の鈴音、バカを四回も言う辺り彼女という単語が余程気に入らなかったのだろう。


「困るなぁ、ヒルト。 幾ら僕でもこれ以上増えると……ねぇ?」


 笑顔だが困ったように眉根を下げたシャルだが、何処か怒りを沸々とさせている印象を受ける。


「……ふむ。 ……やはり皆より早く先手を打つべきか……」


 ラウラはというと、腕組みして一人ぶつぶつと呟いていた。


「あ、あはは……。 何かごめんね、ヒルト。 修羅場っちゃった。 てへっ☆」


 そう言いながら誤魔化す美春、てへっと言われても正直困るのだが――と。


「あ、そろそろ消灯時間が迫ってるよ? 今日はここまでにして、また明日以降にしない?」


 未来が場を収めようとそう言った、時計を眺めると確かに消灯時間が近づいていた。

 それを見た各々は渋々といった感じで立ち上がり、各々が俺に対しておやすみなさいだの覚えてなさいよだのと言って部屋を出ていく。

 ほっと一息つく俺に、残っていた未来がクスッと微笑むと俺の後ろに回り、肩を揉み始めた。


「ヒルト、今日はお疲れ様」

「あ、あぁ。 ……俺だけじゃなく、未来も、他の皆もだよ。 ……それに、理央や玲、セラ、静寐のお陰でもあるんだから――そういや、皆は無事なのか?」

「うん、軽い打撲だけだったから。 ――皆にも感謝、だね?」


 未来の言葉に、小さく頷く俺に、未来は肩を揉むのを止めると――。


「ンンッ……! さぁて、そろそろ私も寝ようかな?」


 ぐぐっと腕を天井に伸ばした未来は、顔だけを此方に向けると――。


「ヒルト、おやすみ。 ……また明日ね?」

「ああ、おやすみ未来」


 そう返事を返すと、未来は静かに部屋を後にした。

 静寂が訪れた自室、時を刻む秒針の音が妙に大きく聞こえた。

 ……そういや、楯無さんや簪はどうなんだろうか、一夏や篠ノ之は――。


 そんな事を考えていると、俺は深い眠りにつく――そして、また夢の続きを見始めた。


 場面は代わり、俺は誰かと戦っていた、相手の顔には靄が掛かっていて誰だかわからなかったが、身体付きからして男だというのはわかった。


「ぜぁぁああああッ!」


 振るう太刀の一撃を払い除ける――弐乃太刀である光刃を纏ったブレードが僅かに装甲を掠めた。

 表示されたシールドエネルギーが大幅に減少するも、弐乃太刀の隙を付き――。


「隙だらけだぞ、――ッ!!」


 一瞬の隙をついた俺の連撃――持っていた武器には特徴があり、幅広い刀身に銃身の機構がついたまるで一昔前にあったガンブレードという武装に近かった。

 斬撃と銃撃が織り成す協奏曲――相手の機体の白い装甲はみるみる内に破損、破壊されていく――そして、体勢を崩した相手の首もとにブレード突き付けた俺は――。


「……ここまでだな」

「……クッ……! ヒルト! 何でこんな事を!!」


 唐突に俺の名前を呼ばれる――そして、改めて相手の顔を見ると靄は晴れる――それは、俺も見知った顔――。


「……オリジナルと世界に蔓延した模造コアの破壊が、今の俺に課せられた使命だからだ――【一夏】」


 そう、俺は一夏の名を口にした瞬間、まるで第三者の視点からそれを眺めている。

 だが、何を話してるかまでは全くわからず、一通りの話が終わった後に――。


「……今はまだ白式のコアを破壊するわけにはいかない。 あの【女】が造り出した原点にして頂点――諸悪の根源であるお前のコアは、最後だ」


 そう言い、刃を引いた俺――一夏は膝をつくと、キッと睨み付けてくる。


「次に挑むときは、あの女の妹――篠ノ之箒と共に来い。 ……その時が、俺かお前のどちらかが倒れる時だがな、これが」


 そう言ってその場を立ち去った――そこで俺の意識は徐々に覚醒して、飛び上がる様に起き上がった。

 寝汗をかいていたのか、下着までぐっしょりと濡れていた。


「……何の夢なんだ、こんなにリアルな夢は初めて……だ」


 独り言が虚しく部屋へと吸い込まれていく。

 喉の渇きを覚えた俺は冷蔵庫から飲み物を取り出して一気に飲み干す。


「……ふぅ」


 軽く息を吐くと、俺は窓から外を眺める。

 ヒヤリとした風が頬を撫でる――そんな心地好い今の瞬間に心が落ち着いた。

 場所は変わり、IS学園地下特別区画。

 部屋には今日襲ってきた無人機の解析を行う山田真耶が居た。

 そこに、織斑千冬と有坂陽人の両名が現れる。


「少し休憩したらどうだ、真耶?」

「そうだぜ、そんなに根を詰めたって、いい結果にはならないからな、ワハハハハッ」


 そんな豪快な笑いと共に、山田真耶に缶ジュースを渡した有坂陽人。


「あ、ありがとうございます、有坂さん」


 一礼し、缶ジュースに口を付けて一口飲むと、現状解析出来た結果をディスプレイに表示された。


「織斑先生、見てください。 やはり以前に現れた無人機の発展機で間違いありません」


 険しい表情の真耶に、陽人は資料で見た五月の襲撃事件の全容を思い出していた。


「コアは?」

「例によって、未登録のものです」


 二人の会話を他所に、陽人は回収したコアを眺める――これだけの規模のコアを生み出せる人物は、明らかに一人しかいなかった――その間にも話は続き、コアの存在をどうするかを千冬に尋ねる真耶、だが真っ先に答えたのは陽人だった。


「日本政府にも、IS委員会にも破壊したって伝えるのが賢明だぜ、お嬢ちゃん」

「え? ――で、ですが、それでは――」


「お嬢ちゃん、少なくともここにあるコアってのはどの国も喉から手が出るほどの代物だぜ? そんな物をはい提出ーってなったらどうなると思う? 絶妙な均衡バランスが崩れて、第三次世界大戦に早変わりってなるのが目にみえてるってもんさ」


 陽人の言葉に、千冬は頷く、だが真耶はそれだと学園全体――生徒達全員を危険に晒すという事を危惧した。

 沈黙が訪れる中、千冬は明るい声で言葉を放つ。


「おいおい、私を誰だと思っている? これでも元世界最強だぞ、それに、この学園に新たに来たガーディアンも居る事だしな」


 そう言って陽人を見る千冬に――。


「ワッハッハッ、そういう事だぜお嬢ちゃん! 黒夜叉のダメージは大きいが、俺だって学園の警備員だからな、学園を守るさ、ワハハハハッ!」


 そんな陽人の笑いに、真耶も笑顔を溢す、そして千冬は一人ごちる。


「――私も、命をかけて守ってやるさ、学園を……」 
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