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神様が親切すぎて夜に眠れない

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五話 彷徨う自分/ワンダーハット①

 
前書き
遅くなりましたm(._.)m(土下座)遅筆な拙作を読んで頂いている皆様へは感謝してます。 

 
受け止めた双剣ごと、後ろに下がるワンダーハットを、しかし玄人は『逃がさない』

凄まじい勢いで、滑るように下がるワンダーハット

その動きに、玄人は『合わせた』

縦に広げた両足で、地面を蹴りあげるように踏みしめ、直進。

胸の辺りに掲げた盾を、つき出しながら自分自身も突っ込んだのである。

突き進む自分。

下がるワンダーハット。

10メートル近く、元の位置から移動しているのにも関わらず、密着状態が変わらない両者。

だが、ここで、玄人が動いた。

鈍い金属音が、ワンダーハットの頭上で響く。

玄人が、受け止められた剣を、手前下に回すように『流し斬り』そのまま捻り込むように手元に戻したのだ。

密着状態のまま、睨み合う両者。

そして玄人は…………

「…………んんぅ、玄人ぉ。ちょっと痛いわ」

耳元で囁くような甘い声に、玄人は覚醒する。

半分寝ぼけながら、過去の夢…………神の試練を思い出していたらしい。

無意識にまさぐっていたクレマンティーヌの乳房から手を離すと乱雑に引いた毛布から体を出す。

まあ、いい。過去の夢の続きはいずれ又、思い出すだろう。

大事なことは、自分はあのくそ面倒な試練を経て、強くなり、そして…………

朝焼けに照らされた空に、悠然と飛ぶ、大振りな鳥。

その鳥が現実世界でいう、【ニワトリ】に近い味の鳥と脳が理解した瞬間、彼は呟くように【武技】の名を呼んだ。

【急所突き】

言葉と共に、指輪を変じたナイフが、吸い込まれるように、鳥の首もとまで飛び、突き刺さる。

同時に、玄人が指を鳴らす。

すると、どういう手品か、ナイフが鳥に刺さったまま、手元に引き寄せられた。

(まあ、先程の技はともかく、引き寄せたのはただのアイテム効果だがね。)

だが、やはり便利だ。

ニワトリもどき?を持った手の感触を確かめながら、改めて玄人は独りごちる。

『この世界特有の戦士の技』

【武技】

この世界特有のスキルにして、神の試練を越えた【戦士】クラスである玄人に渡された【スキル】

その有用性を再確認しながら、玄人は胸元を毛布で隠しながら眼を擦るクレマンティーヌに、笑顔で答えた。

「朝飯にするか!この鶏で!」

事切れた鳥を片手に。

…………流石にちょっと引かれた(涙)

それからの帰り道は別に特筆することはない。

前日に切り飛ばしたドレイク?と呼ばれる竜を『ぶつ切り』にした後、適当に一晩血抜きしたものを大きな板に木製の車輪と引く紐をつけた荷車で、町まで戻っただけである。

「なー、クレマンティーヌ?」

「なーにー玄人?」

遠目に町が見える所まで来て、ふと疑問に思ったことを彼女に尋ねる。

「クレマンティーヌの話じゃ、帰り道に獲物共々強盗する輩が出るって話じゃん、何で出ないの?」

それとなく聞いた言葉に、何故かクレマンティーヌは頭を押さえながら、答えた。

「ダーリン、貴方が引いている獲物は?」

「大振りなトカゲ」

「ド・レ・イ・ク!」

クレマンティーヌが青筋を立てながら、五メートル四方の板(紐付き)一杯に結わえられたトカゲ(通称ドレイク)を指して、言葉を重ねる。

「こんなもん一人で引きずってる相手に、絡む訳無いでしょう!」

またまた、冗談を。

こんなトカゲ(推定レベル30)なんて、ユグドラシルの上位魔法使いなんか、某大魔王みたいに、『今のはメラゾーマではない、メラだ(ガチ)』といいながら、的当て感覚で消し炭にするレベルなんだが。

先程からドラゴン擬きを一刀両断しても、勘違い主人公の如く謙遜しているのも、これが原因である。

つまりは(この地方だけかもしれないが)プレイしていたユグドラシル世界と、酷似したこの世界、あまりに『レベル差』がありすぎるのである。

んー、いまいちこの世界の『平均』レベルが分からん。

とりあえず、NPCモンスターに『偵察』させた感じでは、レベル50以上は少ないのは分かるんだが…………

『設定好き』な仲間のおかげで、玄人はNPCの数名の能力を利用して、レベル50より上か下か、は確認する術をもっている。

しかし、逆に言えばそれだけ。

レベルによらないで玄人を打倒しうるモノ、強力な『ワールドアイテム』などを調べられないのは勿論、この世界で生まれた生物のもつ専用スキル『祝福』によるレベル差を覆す知的生物についても、やはり調べることは現状では出来なかった。

やっぱ、あまりに情報が少なすぎる。

ガラガラと音を立てて動く台車を、片手で掴んだ縄で引き釣りながら、玄人は思考の海に沈んだ。

(やはり、酒場やクレマンティーヌから聞いた、例の『祝福?』持ちっていうのがいるんかな?)

聞いた話だと、他人のレベルやスキルを判別できる『祝福』もちが、稀に誕生するらしい。

(そいつに上手く恩を売り…………懐柔できれば…………)

無論、同様に転生したプレイヤーも驚異として、考えてはいる。

だが、その場合ある程度ユグドラシルに慣れた時点でレベル50ラインを越えない奴、というのは考えにくい。

実際、ゲームにある程度慣れました、くらいで、レベルは50~60は軽くいくからである。

で、その場合空を飛ぶ『あいつ』のセンサーにかかる、と。


遙か高く空を飛ぶ、『ソレ』をちらりと見ながら、玄人は世話になっている町『エ・ランテル』に足を進めた。

…………なんか、クレマンティーヌが正しかったらしい。

「おい!お前たち、早く下がれ!」

「空いてる奴は早くパナソレイ様を呼んでこい!」

衛兵が大挙し(町の防衛大丈夫か?)

「すげぇ…………ドラゴンスレイヤーかよ」

子供が憧憬と共にトカゲを眺めて呟き。

「やっぱりな、玄人はやるやつだと、俺は知ってたぜ!」

なんか一度買い物した店のおじさんが、ドや顔で周りに自慢する。

城門近くに行っただけで、この騒ぎである。

しかも、一時間ほど足止めをくらったあとも、ギルドへは行けなかった。

赤い絨毯の敷き詰められた、明らかに富裕層が住むであろう屋敷、そこに直接案内を受けたからだ。

自身が登録しているタグ…………本人証明のようなもので冒険者ギルドと確認がとれると、町の市長?とかいうふくよかな(オブラート)パナソレイという人の所まで、連れていかれたからである。

非常に丁寧に案内をされた部屋で、オークとオーガを悪魔合体したらこうなるだろうなあ(比喩表現)という出で立ちをしているパナソレイの話に相槌を打ちながら、玄人は思う。

(ふむ。なるほど、少なくともこの街では、『レベル30前後を刈っただけで、一流扱いか』)

明らかな特別待遇に、されど微塵も浮かれずに、玄人はそう、分析した。

実際、非常に歓待されているのは判るしありがたいのだが。

先程のレベルの話同様、自分の立ち位置が、結局『世界全体から見てどれくらいなのか』が解らない限り、素直に喜べないのである。

「んんっ…………ブヒッ、それで、そのドラゴンなのだが、どうして『偵察せよ』という任務なのに遺体があるのかね」

豚のような声を言葉に混ぜながら、されど知性を宿す瞳はそのままに、パナソレイは問うた。

(このおっさん、面白い格好なんだが、なんか『やり手』そうなんだよなあ。面倒くせえ)

先程から、たかが冒険者ごときに質問するのに、全て目線が対等。

分からないことははぐらかす素直に聞く。

(そのような態度を取る『権力者』とか面倒くせえ)

誉めそやすだけのおべっか使いや、逆に権力を振り翳すだけのアホなら、適当にあしらえば良い。

だが、このような『権力は振り翳すのではなく効果的に使うもの』って分かっている相手に適当に相手をするのは下策。

いつ『言質』などをとられて『貸し』を作らされるのか分からないからだ。

まあ、言いたいことはわかる。

『いくら強くても、いたずらに戦闘を繰り返す戦闘狂はいらない』ってことだろ。

だから、玄人は『欲しがる答え』を返す。

「付近の村を襲うために滑空している所を不意をうって倒しました。王国の民である村民の命を守るため、仕方がなかった」

優等生の答えを。

まあ、実際は『柔かったプラス、襲ってきたので斬り捨てました(なんか怯えながら襲ってきたが)』なのだが、わざわざそんな理由を説明することはないし、嘘も言ってない。

実際、付近の村には感謝されたし。

「ふむ、…………だがにわかには信じられん。本当に一人で倒したのかね?」

なんか御付きの人が嘘つきよばわり?したので、ちょっとした大道芸を行う。

胸元から取り出した鉄板(投擲用)を軽く宙に投げる。

そして、そっと真ん中を手刀で『なぞった』

キンッ

涼しげな音と共に、板は半分に『斬れた』

それに驚愕する御付きの人を他所に、玄人は続けた。

「自分が仕舞った『剣』を抜けば、もう少し『派手な手品』をお見せできますが、見ますか?」と。

一応権力者の前だ。剣を預かると言ってきたので、『剣士は剣が命だから』という理由で渡さずにマジックアイテムの中に入れておいたが。

別に望むなら、『解体ショー』でも見せても良い。

あくまで主導権をパナソレイ側に譲ったまま、玄人は再度、問うた。

「このような稚拙な技で恐縮ですが、まだ何かおみせしますか?」

パナソレイは静かに首を振った。

一礼し、宿に(ついでに下にいるクレマンティーヌを拾って)戻る玄人を屋敷の上階から眺めながら、パナソレイはそっと、側近に耳打ちした。

「クロウトへドラゴンの討伐の賞金を渡すのと、クラスの引き上げを至急行うよう、組合長に働きかけろ。絶対に他国に逃がすな」

先程とはうって変わって鋭くなったパナソレイの言葉に、側近達はただ頷き一つで応え、動き出した。

「英雄か…………この王国に益をもたらすものであれば良いのだが」

『手が鉄板を両断するのを』残像でしか認識出来なかった先程を思いだし、冷や汗をかきながら、彼はそう、呟いた。

 
 

 
後書き
『玄人の【武技】』→レベル??
神様から得た、特異な【武技】。
転生者である玄人が使い手であるためか、『玄人の記憶にあったゲームの技名』がベースとなっている。
ただし、即死等バッドステータスを相手に与える技は、相手のレベルや技量等により、発動率が低くなるように設定されている。(例えば今回玄人が使用した『急所突き』は、レベル差20以内だと只の突きになる) 
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