神様が親切すぎて夜に眠れない
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七話→玄人とエ・ランテル②
前書き
遅くなりました。次話でエロやります。
切っ掛けは何時だったか?
そう問われると、具体的な答えを返すのが難しい。
道行く人々の中に、見知った顔に酷似した顔を時たま見つけた時か。
または、『八欲王』や『十三英雄』という存在について書かれている文献に書かれていた姿絵を見つけた時か。
…………現実世界で販売していた全身モデリングと非常に似通った顔の人間がこの世界に生きている。
もっと具体的に言うなら、自身が生きていた2126年のおよそ100年前に隆盛を誇ったアニメやゲーム、例えばフェ○トなどのキャラクターの全身モデリングにそっくりの人間がいる。
その事を理解し、更には不幸にも(?)冒険者として仕事していた際に襲われた時に、玄人はそれを確信した。
~転生して三日後~
胸に抱く『銅』のプレートを弄りながら、玄人はせっせと薬草を摘んでいた。
(まあ…………そうそう上手くはいかないか…………)
そんなことを心の中だけで呟きながら。
まあ、仕方がない。
(いくら『環境不安定』ステージといっても、現実には、そうそう山賊の襲撃なんざお目にかからねえか)
そう、別に玄人は薬草採取自体は憂いてなかった。
むしろ、細かい作業とか大好きだし、現実世界では滅多に出られなかった(出たとしてもビニールハウスのような仕切られた場所だった)
外に出られて、心情的には最高だった。
では、何が気にくわないのか。
言い方は凄く悪いが、玄人は『悪党を倒す俺ツエームーブ』がしたかった。
まともな神経を持つ人間は、『こいつ何言ってんだろ…………』と思うかもしれないが、割りと玄人は真剣に機会を伺っていた。
神による、強制チュートリアルバトルと自チームNPCとの模擬戦闘を経て、自分がこの世界でかなりの上位存在である事が確定している状況。
この状況で高揚しない男はいるか!いやいない!(反語)である。
ただ、彼も人の子。
何も害を与えない相手に対して暴力を振るうのには抵抗があった。
そこで目をつけたのが、今行っている(都合三回目)の『環境不安定(暗喩)な場所のクエストをわざとうけて、来てくれた(?)盗賊返り討ち』である。
(まあ、実質二日は『はずれ』だったけどねえ。)
心のなかだけで、玄人は呟いた。
まあ、町の噂だけじゃなく、実際幾つかの低レベルパーティーが消えている所に行くクエストを選んだとしても、流石にすぐには無理か。
そう、半分諦めながら、玄人はせっせと後ろに背負った籠に薬草を摘み、放り込む。
(あー、俺も『またやっちゃいました?』的な強キャラムーヴしてえなあ、俺もなあ)
そんな事を考えながら、薬草摘みに勤しむ後ろで、三日目に突如代わった監督役が驚愕の表情で玄人を見ていた。
『背中に大型の籠を担いだまま』山道を全速力で(玄人は歩いているつもり)走って息もきらせていない。
(え…………何この速さ)
玄人は知らない。
レベル100の『前衛』が、薬草を摘んだ場合、どんな不自然な事になるかを。
依頼された薬草クエストが長期間貼られているのは、ある程度の数と量が必要であり、かつ、自生している場所が広範囲にわたり、時間がかかるからであった。
だが、しかし、新人一人、つまり玄人が入った事でどのくらい短縮されたのか。
ばっさり言うと、玄人は『4人パーティーが4回受けたら』採取できる量を、一人で採取していた。
最初、依頼したギルドは思った。
現地で仲間と合流し、採取したと。
当時の監督役に確認したら、普通に一人でとっていたと言われた。
では、隠し持っていたある程度の量の薬草を嵩ましして入れて、渡したのか。
ギルドは首を捻る。
ギルドが把握していない場所で薬草を採取したのなら
、別にわざわざクエストで薬草を渡す意味がない。
当然、ギルドは自分達の縄張りで薬草採取をさせているので中抜き(不正なものではない)をしており、この量をそのままポーション屋などに持っていった方が金にはなる。
色々考えた結果、ギルドはこう、考えた。
『最近近隣がきな臭いし、そんな優秀なら飛び級して低級モンスター間引きできる位階までは上げていいんちゃう?』と。
この二日間、採取した薬草が余りに状態が良く、多量であるため、冒険者ギルド上層部が(戦争が近いという他の理由もあるものの)昇級試験を受けさせようとしていることは。
何故、『たかが』薬草採取でここまで厚遇されるのか。
例えばの話をしよう。
君が日本の花壇で『頼まれた花を摘んできてくれ』と言われたら、君は余程の事がないかぎり、それを無事に終えられるだろう。
だが、もし場所が『アフリカのサバンナ』で、同様の事を頼まれたらどうだろう
。
モンスターがそこら辺の草むらから何時飛び出してもおかしくない。
そんな場所で周囲を警戒しながら、採集活動をできる。
それは、もはや一種の『特技』と言っても過言ではないのである。
(盗賊よー、いねーのかよー)
そう考えた、その瞬間。
彼の『危機探知』は、送り迎えの馬車方向に、『危険』を捕らえた。
即座に、彼は薬草摘みを中止し、篭を担いだまま、超速で馬車まで戻った。
籠の薬草を溢さずに、凄まじい勢いで、歩きにくい山地の地面を走破していく玄人。
その距離が、現実世界でいう五キロ近く、馬車の目の前になったとき…………
『それ』は現れた。
屈強な男盗賊を率いた、ローブを羽織った二人の頭目。
(魔法力…………か。探査系アイテムに反応は…………ありと。レジストしてないってことは、在野の魔法使いかな?)
『露払い』に確認してもらい、周囲数十キロには、レベル50以上が居ないのは把握済。
町での情報収集により、この世界での魔法使いの平均位階は、2~3なのも把握済。
後、考えられる自分より強い者の可能性としては、高レベル空間転移を操るプレイヤーだが…………
それにしては、前衛が捨て駒前提でも、このレベルの武装はない。
『前衛職』を極めていたからなのか、同じ前衛なら、玄人は武装を含め、ある程度の強さを判別できた。
まあ、『この世界』に来てまだ日が浅い以上、何事も例外はあるが…………
まあいい、このレベルなら、一当てすりゃあ、分かる。
盗賊に注意を払って、此方に気づいていない監督役に、大声で呼び掛ける。
「監督殿!急ぎ町に救援を呼びに行って下さい!」
『いかにも必死そうな』表情で、馬の方を指すと、やはり監督役に推されただけあり、直ぐに馬車を置いて、馬だけを走らせる。
勿論、塞いでいる街道を迂回し、遠回りするルートで。
これは決して臆病からくる判断ではない。
冒険者組合で監督を勤めているということは、ある程度位階を上げた元冒険者であり、ある程度の強さも持っているという証左である。
そうでなければ、いかにも盗賊から足を洗って冒険者になりました~みたいな、荒くれものもいる冒険者組合のクエストの監督など勤められるわけがない。
それでも即座に逃げをうったのは、この盗賊団の人数と規模が不明確で、ともすれば何も連絡できず全滅もありうるからである。
そのため、彼の行動と指示も的確だった。
ポーチから煙玉を出し、地面に叩きつけると、言葉少なく叫ぶ。
「荷物は放棄!今回はクエスト失敗に数えない!」
そう、呼び掛けると同時に、馬を走らせる。
同時に、散り散りになって逃げる新人冒険者達。
(まあ、こうなるわな)
新人冒険者の小銭を奪ったところでたかが知れてるが。
馬車や馬、そして積載された薬草を含めるとある程度まとまった金額になる。
中堅までの規模の盗賊は養えるそれらを、新人冒険者と数人の監督役を脅せば手に入るとなりゃ、そりゃあ目をつけられる。
(それにしても…………ついてるぜ)
先程、一瞬見えた魔法使い二人の顔立ちを見る。
(fateのメディアに、デートアライブの時崎狂三か。いいね!)
その姿を見た玄人は…………
無意識にぺろりと、唇を舐めた。
(当たりだ…………)
瞬間、玄人の姿はかき消える。
次の瞬間、『不幸にも』一番前に居た盗賊は見た。
煙の晴れた直後に、目の前に立っていた玄人を。
次の瞬間、彼の身体は『跳ねた』
そう、身の丈、体格共に成人男性平均と遜色ない盗賊達。
彼らは、次々と腹部に押し当てられた強力な掌底により地面から足を強制的に離され、ゴム鞠のように周囲の木々に叩きつけられていく。
無論、そんな真似をさせられれば、全身打撲で身動きはとれない。
(うーん、やりすぎたかな?加減が難しいや)
玄人の思惑はともかく、次々と吹き飛んでいく、山賊達。
当たり前の話だが、本当に困っていたのは、盗賊側である。
簡単な、いつもの、よくある稼ぎだったはずだ。
適当に脅して金銭を奪うだけの、簡単なルーチンワーク。
なのに、現実は違う。
気づけば、此方は後衛二人のみ。
他は全て、両手のみで木々ごと、薙ぎ倒されていた。
おかしい、私達は念を入れて、王国に巣食う『八本指』から情報を仕入れてまでここを獲物にしたのに。
とにかく、逃げなければ。
冷や汗をかきながらも後ずさる二人を見て、にっこり笑って玄人は宣言した。
「安心して!美人は殺したりしないから!…………逃がしもしないけどね…………」
無意識に、二人の頬を、冷や汗が伝った。
後書き
次回は急ぎます
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