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聖国のジルフリーデ 〜勇ましき姫と気高き女騎士と、男勝りな女戦士と妖艶な女盗賊は、媚薬の罠に乱れ喘ぎよがり狂うも、心だけは屈しない〜

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最終話 聖国の女傑達は、それぞれの道に歩み出す

 ――その後。帝国軍は聖国から完全に撤退し、戦いは終わりを告げた。
 王国の支援を受けた聖国は劇的な復興を遂げ、ついに平和を取り戻したのである。

 まさに奇跡的な勝利であり――ジルフリーデ達全員が妊娠を免れていたことも、その一つであった。
 何ヶ月にも渡りアンジャルノンに犯されていたアリアレイテは、聖国の淑女に伝わる「孕まずの秘薬」により難を逃れ。ジルフリーデ以外の3人は、「孕める日」ではなかったことに救われていたのだ。

 数えきれないほどの大切なものを失い、傷付いてきた聖国の民だったが――新たな女王として立ち上がったジルフリーデの鼓舞と激励により、彼らも少しずつ前に進み始めている。
 王妃アリアレイテは新女王ジルフリーデの後見人となり、ラフィノヴァは有志を募り新生聖国騎士団を結成。国防に力を注ぎ、2度と悲しみに溢れることのない国を目指すようになった。

 ベーナゼットは約束通りに大量の酒を貰い、一晩のうちに勝利の宴で飲み干した後――再び武者修行の旅に出ている。ラフィノヴァとの、再戦を誓って。
 風の噂によると――今は傭兵稼業だけでなく、収入のために踊り子としても遠方で活動しているのだという。その美貌と肢体に喉を鳴らし、犯そうと迫る男共は、軒並み返り討ちにされているらしい。

 一方、ロザヴィーヌは報酬を貰う前に「気が変わった」という書き置きを残し、行方をくらましてしまった。元々彼女は、ジルフリーデのために無償で戦うつもりだったのである。
 明確な足取りこそ掴めていないが……とある遠い国では、屈強な男達と対等以上に渡り合う槍使いを見た、という噂が立つようになっていた。男を手玉に取る妖艶な女盗賊の旅は、まだ続いているようである。

 ――失ったものは多い。思い出したくもない戦いだった。それでも彼女達はそれぞれの生き方を選び、今日を歩んでいる。

 聖国の戦いを潜り抜けた彼女達は、決して屈しない強さを、その美しく豊満な肢体に宿して。この戦乱の時代を、生き続けているのだ――。

 ◇

 そして、この戦いで聖国という中継基地を奪還された、帝国軍は。
 アイラックスの勢いを削ぐどころか、火に油を注ぐ結果となり――さらなる戦争の長期化が懸念されるようになってしまった。

 その状況を打破するべく。帝国を統べる時の皇帝は、ある決断を下す。

 それは、この時代において未だなお存続している数少ない魔法――「異世界召喚」の術により、勇者を呼び寄せるというものだった。
 遥か昔、全世界に魔物が蔓延る暗黒の時代を絶つために、神が遣わしたと言われている正義の超人。その力を持つ者を、人間同士の戦争に投入しようと言うのだ。

 人類を救う福音であるべき勇者を、戦争の道具に利用する。その非情さを知りながらも、皇帝は一刻も早く戦争を終わらせ、悪戯に血が流れる時代を絶つために――召喚の儀に臨み。

 後の世に「帝国勇者」と呼ばれ畏怖される、最強にして最悪の超人を――この世界に送り出してしまうのだった。

 彼の者はその圧倒的な力を振るい、王国軍を圧倒。瞬く間にアイラックス将軍をも倒し、戦争に終止符を打ってしまう。
 いかなる正義をも踏み潰す、それ以上の「力」。その無情な現実を全世界に見せつける、残酷な結末であった。

 ――それから、6年が過ぎた今。

 敗戦国となり、かつての聖国のように帝国の属国にされてしまった王国では、1人の姫騎士が帝国軍の支配に抗い続けているのだという――。

 ◇

 川のせせらぎと鳥の声が響き渡る、静かな森の奥地。聖国の城下町からやや離れた、その自然の空間には――木々の隙間から差し込む眩い陽射しに照らされた、小さな水辺がある。

「ふぅっ……」

 そこで生まれたままの姿を晒し、身を清める1人の美女は――小さく息を吐きながら、珠のような白い肌に掌を滑らせていた。
 聖国をも巻き込んだ、王国と帝国の戦争が終わってから6年。見る者全てを魅了する、絶対的な美貌はさらに磨かれ――艶やかな藍色の髪を靡かせる女王ジルフリーデは、麗しい大人の女性へと成長していた。

 その美しさ故、国内外を問わず多くの男性から求婚されている彼女だが――今まで一度も縁談に応じたことはなく、後見人のアリアレイテも、そんな娘の姿勢を尊重している。
 同盟国だった王国が帝国に敗れ、属国と成り果てた今――いつまたアンジャルノンのような敵軍が、攻めてくるかも分からないのだ。2度とあの日のような思いをしないためにも、今は国防に専念しなくてはならない。

「必ず……必ず私が、この国を守り抜いてみせますわ。共に戦ってくれた、仲間達のためにも」

 そう独りごちる彼女は、さらに大きく実った双丘と扇情的な臀部を揺らし――水辺から上がると、その純白の裸身に纏わり付く水滴を拭き取っていく。

 その決意に満ちた眼差しには、共に戦った仲間達との思い出が蘇っていた。生まれ変わった聖国騎士団を率いるラフィノヴァも、今は遠くに旅立っているロザヴィーヌとベーナゼットも、懸命に生きている。
 ならば自分も、それに続かなくては。愛するこの故国を、守り抜かなくては。

 その思いを新たに、新調された装備と――さらに強固な新素材で作られた、「貞操帯」を身に付けて。戦う女王ことジルフリーデは、剣と盾を携え歩み出して行く。

 ――その時だった。

「……!」

 何者かの気配を感じる。王族以外立ち入り禁止となっているはずの、この森に。

 それを敏感に感じ取ったジルフリーデは、一瞬で鋭い顔つきに変わり――剣を構え、気配を辿る。僅かな空気の揺れや匂いから、その「異変」の根源を追う彼女はやがて、城下町を一望できる丘へと辿り着くのだった。

「……」

 そこに居たのは――岩に腰掛け、城下町の景色と澄み渡る青空を眺めている、1人の青年。
 帝国軍人のような気配だったことから、敵方の斥候ではないか、と睨んでいたジルフリーデにとっては――想像から掛け離れた風体であった。

 ボロボロに擦り切れた青い服。くたびれた赤いマフラー。傷だらけの木製の盾に、刃こぼれだらけの銅の剣。
 下級貴族に雇われた傭兵でも、もう少しマシに武装しているだろう。物乞いがありあわせの物で剣士ごっこに興じているような姿だ。
 到底、帝国に与するような戦士だとは思えない。便衣兵という線もあるが、それにしてはあからさま過ぎる。

「……旅の方、ですか? ここは立ち入り禁止区域ですよ」
「あぁ……すみません、道に迷っていまして。それにここ、すっごく眺めが良いですし」

 どちらにしろ、ここは王族以外立ち入り禁止となっているのだから、退去してもらうしかない。そう思い立ち、咎めるように声を掛けるジルフリーデに対して――青年は柔らかな笑みを浮かべて振り返り、悠然と立ち上がる。

「……!」

 その瞬間。ジルフリーデは思わず、息を飲んでしまう。

 あのアイラックス将軍を彷彿させる、艶やかな黒髪と――見ているだけで吸い込まれてしまいそうな、彼の瞳に。

「……道に迷った? どちらに行かれるおつもりで?」
「王国の城下町ですよ。地理的にもこの辺りがそれっぽいな、と思って来たんですけど……ちょっと違うみたいで」
「王国でしたら、この森を東に抜ければ国境線を抜ける道に出られますわ。……残念ながら、ここは聖国です。確かに少し、似ていますけどね」
「なるほど、それは失礼しました。じゃあジブン、もう行きますね」

 気を取り直して、彼が望む目的地の方角を伝えるジルフリーデに対し、青年は朗らかな笑顔と共に一礼すると――悠々とした足取りで歩み出して行った。

「あのっ……あなた、お名前は?」

 その後ろ姿と、風に揺れる赤いマフラー。そして、見る者を惹き付ける黒髪に、思う所があったのか。
 どこか赤の他人とは思えない彼に――ジルフリーデは思わず、声を掛けてしまう。

「……ダタッツ、です」

 そんな彼女の問いに、青年は一瞬だけきょとんとした表情を浮かべると――微笑と共に、己の名を告げる。

 その一言を最後に、今度こそ立ち去って行く彼の背が見えなくなるまで――ジルフリーデはずっと、見送り続けていた。

「……ダタッツ……」

 何かはわからない。ただ、確かに何かを感じたのだ。
 あの青年に。ただの旅人でしかないはずの、あの青年に――。

 ◇

 ――私達が暮らすこの星から、遥か異次元の彼方に在る世界。
 
 その異世界に渦巻く戦乱の渦中に、帝国勇者と呼ばれた男がいた。
 
 人智を超越する膂力。生命力。剣技。
 
 神に全てを齎されたその男は、並み居る敵を残らず斬り伏せ、戦場をその血で赤く染め上げたという。
 
 如何なる武人も、如何なる武器も。彼の命を奪うことは叶わなかった。
 
 しかし、戦が終わる時。
 
 男は風のように行方をくらまし、表舞台からその姿を消した。
 
 一騎当千。
 
 その伝説だけを、彼らの世界に残して。

 ◇
 
 そして、この日の出会いから僅か数日後。
 
 聖国を越えた先に待つ、王国の城下町を舞台に。

 「勇者の剣」を巡る本当の物語が、幕を開けるのだった。


 
 

 
後書き
 ここまで本作を読み進めて頂き、誠にありがとうございます! これにて本編は完結となりました!(^^)
 この後のお話につきましては、全年齢版で掲載している「ダタッツ剣風(けんぷう)」シリーズを参照です。本作はそのシリーズの前日譚を、エロエロに書いたスピンオフのようなものだったりしますので(^^;;

 さてさて。本筋は今回のお話で終了となりましたが、実はもちっとだけ続きます。次週からは大人になったジルフリーデとアンジャルノンの決着を、前後編に分けた「番外編」としてお送りします! どうぞ次回もお楽しみに!( ^ω^ )


・カスタムキャスト製おまけ6
 
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