初めてのヌードモデル(詩織の回想)
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下着の痕って、どれくらいで消えるんだろう。
パンツまですべて脱ぎ去った私は、ガウンを着る前に姿見を見た。
前書き
詩織の初仕事
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もちろん、スッポンポンよ。
と、友人のK美は言った。
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私立の短大に入学して1か月。一人暮らしも軌道に乗り(個人の感想です)、そろそろアルバイトでも探そうと学生課の掲示板を見ていたら、
姉妹校の四年制大学の美術系のゼミが「デッサンモデル」の募集を出していた。条件は水着可。
気になった。詳しく知りたくなった。
だから、入学してから知り合ったK美が教育学部だということを思い出し、学食で会って話を聞いた。
もしかしてハダカ?
という質問の答えが、スッポンポン、というわけだ。
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「基本」という言葉が何度も出てきた。
人体表現の基本はヌード。
ヌードがしっかり描けないとコスチューム(着衣像)は描けない。
「似顔絵が上手い」と「絵が上手い」は基本から違う──などと、
いろんな事情でその四年制大学をあきらめたというK美は熱く語った。
それでも、学生が裸になるなんて……と私が言うと、
高校生でも専門課程ならヌード描くんだよ、とK美は言った。
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興味を持ったということは、やる気があるってことでしょ。
K美には見透かされていた。
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掲示板にあった募集要項に従い、応募の写真つきメールを送ると、すぐ採用の返事が来た。
念のため書くと、添付したのはTシャツ姿の写真である。
それから2週間ほどで、初仕事となった。
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採用が決まってからのK美のアドバイスに従い、
前夜はゆっくり入浴した。
何も考えずリラックスしたいのに、やはり、自分の体を鏡でチェックせずにはいられなかった。
明日、見られる裸体……
美術品なんて言えるのかな、こんな乳房やお尻が……
でも──
とにかく、自分で決めたことだから。
悩まない。後悔しない。
その夜は、意外に深く眠れた。
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下着の痕って、どれくらいで消えるんだろう。
控え室となった用具室でパンツまですべて脱ぎ去った私は、ガウンを着る前に姿見を見た。
用具室なのに、内側から鍵がかかり、ロッカーが備え付けてあり、姿見とストーブが用意してあった。
裸になるモデルのための特別室──いい気分にならなくもない。
あとは、初対面の他人に、いきなり見られるということに耐えられるか……。
ガウンを着て椅子に座っていたらノックがあった。
鍵を外して、初老の男性教授を迎え入れた。
教授は私がヌードモデル未経験者であることを知っている。
ビキニの写真を添付して応募した人がいた、なんて話で私の緊張を解いてくれた。
(結局、応募したのは4人だったが、他のゼミに振り分けるなどして全員採用になったそうだ)
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教授にエスコートされて廊下に出る。
裸足──足の裏から「非日常」が伝わってくる。
あ、この感覚は「病院」だ。
パンツ一枚だけ残して検査着を羽織り、看護師に検査室まで連れていかれ、結局、検査着を脱いでレントゲンに心電図だった。
中学生のときだったけど、あれは何の病気だったんだろう。
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ゼミ室というアトリエに入る。
イーゼルで囲まれたモデル台。
10人ほどの学生。半数が男子学生。
系列校とはいえ、キャンパスは離れているから、それら大学生の誰ひとり面識はない。
教授が前説した。
短大生・詩織であるという最低限の情報が開示され、
さりげなくヌード初体験・コスチューム未経験だと付け加えられた。
教授の合図でガウンを脱ぐ。
一瞬で、一糸まとわぬ裸になる。
頭が真っ白になるとか、強烈な羞恥を覚えるということはなかった。
30分前のパンツを脱いだ時点が羞恥のピークで、パンツを穿かないで人間社会の中で過ごしたことの異様さが羞恥心を消したのだと、あとで自己分析したが、はたして正しかったものか。
白い布を敷いたモデル台に緊張したことを覚えている。
その上で、私はオブジェに変わる。
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今日の実技はクロッキー。
クロッキーは素早くデッサンを終えるべきものだから、次々とポーズを変えるよう指示が出る。
ただし、完全に静止する時間が短いので、意外にも初心者のモデルに向くらしい。
モデル──見本。
私の体そのものが「美」なら嬉しいけど、そこまでの自信はない。
。なにしろ初仕事だし。
それでも、初体験とは思えないほど、見事なポージングだったそうだ。
たえとば、脚を前後に開いて立ち、やや上体を倒すポーズ。(横から見ると「入」の字の形)
乳房とお尻のさりげない突き出し方が完璧で、指示もなしにできたモデルは初めてだと、教授がその場で褒めてくれた。
そんな風に私もリラックスしてやっているうちに、あっという間に終了時間になっていた。
最後のポーズは四つんばいだった。
普通は水着のモデルにしか指示しないポージングだそうだ。
こうして、初体験は終わった。
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そのあとアルバイトとして何回かモデルをこなすうちに、
プロも在籍する事務所に登録して、
今に至ります。
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