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聖国のジルフリーデ 〜勇ましき姫と気高き女騎士と、男勝りな女戦士と妖艶な女盗賊は、媚薬の罠に乱れ喘ぎよがり狂うも、心だけは屈しない〜

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第2話 4人の女傑は、汗の匂いを撒き散らす

 戦争のために魔法が使われ続けたことに怒り、神が多くの人々から魔力を取り上げて数百年。
 一つの大陸が広がるこの世界では、「勝敗が始めから見えている」戦争が起きていた。

 大陸の大部分を統治する、絶対的な国力を誇る帝国。小国ながらも、豊かな土地に恵まれた王国。
 戦になれば、どちらが勝つか。考えるまでもないだろう。

 資源に溢れた王国の領土を狙う帝国に対し、王国軍が強硬に反発したがために発展した、この武力衝突。
 王国は半年も持たないだろう。誰もが、そう予見していた。

 だが。帝国は絶対有利と見られていたこの戦争で、思わぬ苦戦を強いられたのである。

 仁知勇を備えた王国の英雄、アイラックス将軍。
 彼の存在を中枢に持つ王国軍は勇猛果敢に戦い、帝国軍を幾度となく退けていたのだ。

 開戦から5年。アイラックスにより侵攻を食い止められていた帝国軍は、周辺諸国に隙を見せる事態を懸念するようになっていた。

 その膠着状態を打破するため、帝国が狙いを定めたのは――王国の隣国であり、同盟国でもある「聖国」。
 王国以上に国土も人口も小さく、アイラックスのように名のある将軍もいない小国である。その規模の小ささとアイラックスの存在感故に、今までは相手にすらされていなかったような存在だ。

 だが、戦争が長期化するに連れて、その見方にも変化が現れたのである。国境付近に位置する聖国を占領し、拠点にすれば――王国に侵攻するための中継基地として活用できると判断されたのだ。

 好色にして絶倫、そして「略奪」を愛してやまないアンジャルノン将軍。若手でありながら、すでに数々の戦果を挙げていた彼は――その侵攻作戦に真っ先に名乗りを上げていた。
 力無き者達を、圧倒的な武力で完膚なきまでに痛め付ける興奮と快楽。その美味に酔いしれたいと願う彼は、己の得手とする鉄球を武器に、聖国へと攻め込み――作戦開始から僅か7日で、王の首を取り国土を制圧してしまったのである。

 長きに渡り平和を謳歌してきた聖国の兵士達では、練度でも数でも装備でも遥かに勝る帝国軍を相手に、抵抗することすらままならなかったのだ。敢え無く帝国に占領されてしまった聖国の民は、情け無用の帝国兵による蹂躙に晒されてしまったのである。
 将来を誓った相手がいようが、人妻だろうが構うことはない。聖国で穏やかに暮らしていた多くの女性達には、徹底的な辱めが待ち受けていた。悪趣味な兵によっては、わざわざ夫の目前で妻を犯す者すらいる始末だ。

 その惨劇は、聖国の無条件降伏が発表された王城と、そこを中心とする城下町に始まり――日を追うごとに、国中へと広がっていったのである。
 山にある村だろうと、港町だろうと、どこであろうと。そこに人がいる限り、必ず略奪の対象となり――女性がいるなら、間違いなく慰み者にされる。そんな絶望に包まれた暗黒の時代が、この聖国を覆い尽くしていた。

 ――だが。聖国にいる誰もが、そんな暴力だけの時代を受け入れていたわけではない。

 敗戦直前、間一髪王城から逃れていた聖国の姫君――ジルフリーデ。彼女は近衛騎士の1人・ラフィノヴァと共に、城下町を脱出し僻地へと逃れていたのだ。
 そして落ち延びた先で、幼馴染であり剣の師でもあるラフィノヴァからの手ほどきを受けた彼女は――王族でありながら自ら剣を取り、聖国奪還のために戦う道を選んだのである。

 父の仇を倒し、自分を逃がすために身を呈した母を救うため。ジルフリーデはラフィノヴァと共に旅立ち、祖国奪還の戦いに挑むのだった。
 その道のりは困難を極めたが――旅の中で出会った2人の仲間を得て、ジルフリーデは各地を占領していた帝国兵達を次々と打倒していく。

 帝国兵狩りを生き甲斐にしていた荒くれ者の女戦士・ベーナゼット。帝国軍だけを狙う盗賊・ロザヴィーヌ。女を見下し、道具のように扱う帝国軍が許せないという彼女達と意気投合し、ジルフリーデ一行は聖国各地を転戦し続けた。

 山を越え、海を渡り、森を抜け。沼や洞窟、地底湖に潜り。町や村でも戦い、時には装備を求めて遺跡(ダンジョン)に挑む。
 そんな国中を巡る、冒険の日々を送るうちに。彼女達はいつしか、身分や出自を超えた友情で結ばれ――ついに、今日。

「アンジャルノン……私達は必ず、あなたから母上と! この国を……取り戻して見せますッ!」

 眩い太陽と晴れ渡る青空に、見守られながら。
 敵の本拠地となった王城に乗り込み、帝国軍を率いるアンジャルノン将軍との決戦に臨もうとしていた――。

 ◇

「ジルフリーデの一味だ! 奴ら、とうとうここまで来やがったぜッ!」
「ヒューッ! 全員揃いも揃って、美味そうな身体してやがる! こりゃあブチ込んだ時が楽しみだぜぇ!」
「お、おっ、俺もう暴発しちまいそうだぁ!」
「姫様以外は犯して良しってのが将軍の命令だ! お前ら、捕まえた奴からひん剥いてやれェッ!」
「うぉぉおぉおッ! 全員纏めて、ヒィヒィ言わせてやるぜぇえッ!」

 城下町で町娘を組み敷いていた帝国兵達を、いつも通り(・・・・・)に成敗した後。正門から一気に突入して来た彼女達4人を待ち受けていたのは、衛兵達による下品な怒号と粘つくような厭らしい眼差しであった。
 二角獣(バイコン)を模した鉄兜と、赤い鎧。帝国兵の証であるその姿に、4人の女傑は眼の鋭さを増して行く。

「……敵の本拠地まで来たのに、代わり映えしないものね。ここにいるのもどこにいるのも、鎧を着たサルばかり」

 ボブカットに切り揃えられた、緑色の髪を揺らす妖艶な美女。そのはち切れんばかりの豊満な肢体が、太腿と腋、そして白い谷間を露わにした軽装備から覗いている。
 彼女――ロザヴィーヌの手に握られた槍はすでに、獣欲を隠さないケダモノ達へと狙いを定めていた。

「いいんじゃない? 女をナメてるバカなサル、ってのは倒し易くて楽なもんよ。尤も、張り合いが無さすぎるってのも……考えもんだけどね?」

 そんな彼女の軽口に同調する、赤髪のショートヘアを揺らす女戦士――ベーナゼット。その豊満な谷間を強調する服装からは、胸だけでなく脚や腕から漂う色香も振り撒かれている。
 うなじから窺える白い肌は、男達の視線を惹きつけ――その手に握られた斧が、彼らの首を狙っていた。

「お前達! 油断するなといつも言ってるだろ……おい! なんだその『まーた始まったよ』みたいな眼は! 全く……姫様、これでいよいよ最後です! 勝ちましょう、王妃様のためにもッ!」

 好戦的な彼女達を一喝しながら、両手剣を構える長髪の女騎士。艶やかなブロンドのロングヘアを、腰まで伸ばしている彼女――ラフィノヴァは、その堅牢な白銀の鎧に、熟れた肢体を封じ込めている。

 そして、彼女の隣で。天使の羽が描かれた、聖国の紋章を刻む――剣と盾を構えた、1人の美姫が。

「えぇ、分かっています! ラフィ、ベナ、ロザ……皆、今まで私に付いて来てくれて、本当にありがとう。必ずアンジャルノンを倒して、母上を救い……この国を取り戻しましょうッ!」

 見る者全てを魅了する、母譲りの美貌に。勇ましい表情を浮かべて――高らかに剣先を掲げていた。

 身軽さを優先し、極限まで軽量化された鎧は、腋や太腿、胸元が露出している扇情的な外観であり。彼女自身の見目麗しさも相俟って、帝国兵達の視線を最も強く集めていた。
 横髪を伸ばした藍色のツインテールが、城門から吹き抜ける風に揺れ――天が齎したその悪戯が、彼女のミニスカートを捲り上げる。

「……っ」

 その下に備わっていたのは単なる下着の類、ではなく。この世界において最も薄く、軽い金属によって特別に造られた「貞操帯」であった。

 聖国の王女は代々、婚姻を結ぶまで純潔を守るため、この特殊な貞操帯を装着することが掟とされている。
 今までの冒険と戦いの中で、敵に組み伏せられたことは何度もあったが――この貞操帯のおかげもあり、彼女は今に至るまで処女を守り通せているのだ。

 そして彼女達が纏っている、露出度の高い装備も。全て男達を色香で惑わし、油断させるための布石。故に風でスカートが捲れようが、恥じらってはいられないのである。

「……いやっはァァッ! やっちまおうぜお前らァアッ!」
「うぉあぁあぁあーッ!」

 やがて、微かに頬を染めるジルフリーデを筆頭に。彼女達4人が、同時に得物を構え――大きく揺れる熟れた果実が、オスの情欲を煽る瞬間。
 理性などかなぐり捨てた人面獣心のケダモノ達が、群れを成して踊り掛かって来る。

 それは約3ヶ月に渡り、共に旅を続けてきた彼女達にとっては、いつも通り(・・・・・)の戦いであった。

「ほらほら、どうしたのかしら。そんなことじゃあ……お近づきにもなれないわよッ!」

 群がる男達を一瞬で薙ぎ払い、的確に急所を突くロザヴィーヌの槍。その切っ先が敵の胸に沈むたび、反動によって双丘が上下に弾んでいた。

「ぬぁああぁぁッ!」
「――とぉッ!」

 その不意を突こうと、背後から伏兵が飛び掛かる瞬間――軽やかに跳び上がった彼女は、肉感的な両脚を大きく広げ、伏兵の頭上を取る。
 次の瞬間に頭を挟んだ、白く柔らかな太腿によって――曲がってはいけない方向に首を捻られ。彼女の股間を間近で拝み、その匂いを堪能していた伏兵の意識は、永遠の闇へと沈んで逝った。

「ふんッ!」
「ぐぁッ……!?」
「飛び道具かッ!?」
「……あいにく、女ってのは隠し場所が多くてね」

 中距離から迫り来る敵に対しては――扇情的な谷間から引き抜かれた数本のナイフを投げつけ、接近すら許さない。
 男達は、その瞬間の胸の揺れを拝む暇すらなく――眉間に刃先を叩き込まれていく。

「とぁぁああッ!」
「ぐぉあぁッ……!?」

 さらに。槍という長物ならではの隙を狙い、死角から飛び掛かってくる敵に対しては――地面に片手を付けて逆立ちの姿勢となり、そのまま猛烈な回転蹴りを放ち。
 その白く長い扇情的な脚で、円を描くかの如く――迫り来るケダモノ達を、打ち払ってしまった。

「こ、このアマァッ……!」
「残念。私は奪う(・・)のは好きだけど……奪われる(・・・・)のは死ぬほどイヤなのッ!」

 元盗賊ならではの身軽さと、長い両脚を活かした脚技。そして、槍のリーチを駆使して変幻自在に立ち回る戦法を得手とする、女義賊のロザヴィーヌ。
 彼女の縦横無尽な挙動に、男達は欲情に伴う焦りに邪魔され、翻弄され続けている。

 ――その頃、別の場所では。

「ぬんッ……!?」
「ひょっとして、それで精一杯? なっさけない奴らしかいないんだねぇ、帝国軍人ってのはさぁッ!」

 振り下ろされた剣の一閃が、斧で容易く受け止められる。反撃とばかりに振り抜かれた刃が、男を真っ二つに切り裂いていた。
 鍛え抜かれた帝国兵が放つ、渾身の一撃だったはずの剣先は――遥かに体格で劣っているはずの女戦士に、いとも簡単に防がれていたのである。

「さぁ、次はだぁれ? 言っておくけど、アタシに手加減なんて期待しないでよね」
「ふっざけやがって、このアマァ……! 絶対ヒィヒィ啼かせてやるぜェェッ!」
「……まっ、手加減なんてする気はないんだけどさぁッ!」

 涼しげな貌で、力自慢の巨漢を膂力で圧倒するベーナゼットは、帝国兵の誇りごと打ち砕くかの如く。その白い手に握られた斧を、絶えず振るい続けていた。
 無防備なうなじに滲む汗が、激しい動きによって飛び散り――たわわに揺れる巨峰からも、雫が滴り落ちている。その汗により輝く扇情的な肢体に、男達は我先にと群がるが――誰1人として、彼女の柔肌には届かない。

「ぐぎゃあぁあぁッ!?」
「ごはぁあッ!」
「……はい、次ぃ! 女をナメてると、ちょん切られ(・・・・・・)ちまうよッ!」

 そこへ辿り着く前に、彼女の艶めかしい脚に蹴り飛ばされ――その手の斧で、斬り捨てられてしまっては。

「こ、この女ッ……強え!」
「くそッ……全員で掛かれェェッ!」

「――無駄なことを」

 それと同時期に――女騎士ラフィノヴァを囲っていた、無数の帝国兵達は。

 これまでの太刀合わせ(・・・・・)で、彼女の強さを散々見せ付けられてもなお、鎧の下に隠された肢体を諦めきれず。全員で同時に飛び掛かり、組み伏せる道を選んでいた。
 だが、それは彼らにとって「死」に向かう道に等しい。ラフィノヴァは頭上から降り掛かる彼らを、切れ目の冷たい眼差しで睨み上げると――腰を落として構えた両手剣を、一気に振り上げ。弧を描くように回転し、一太刀で斬り伏せてしまうのだった。

「命より女が欲しいか……やはり男など、例外なく愚かなものだな。さて……」

 そして、自分を狙っていた男達を一掃した後。ラフィノヴァは、大切な幼馴染にして仕えるべき姫君でもある、王女ジルフリーデの戦いを見届けていた。

 聖国最強の女騎士による指導と、3ヶ月に渡る冒険を経て、肉体的にも逞しく成長した姫君は――帝国兵達との体格差を物ともせず、優位に戦い続けていた。

「はっ、とぉっ!」
「ごはぁっ!? こんの、犯されねぇからって調子に――ぶッ!?」

 盾で攻撃をいなし、滑り込むような斬撃で敵を切り裂く。そこに一切の躊躇はなく、かつて虫も殺せなかったジルフリーデは、母と国のために全ての甘さを捨て去っていた。

 さらに武器だけでなく体術にも優れており、彼女はスカートの下が見えてしまうことも厭わず――大胆なハイキックや、貞操帯の硬度を利用したヒップアタックも使い、帝国兵を寄せ付けない戦いぶりを披露している。

「やぁああッ!」
「ぶぉあッ!?」

 兵士の顔面に貞操帯が直撃した瞬間、彼は上体から半回転して転倒。
 ふくよかな臀部(ヒップ)に反して、強烈な威力を秘めている彼女の打撃を浴び――純白の柔肌に油断していた愚者は、顔全体に押し当てられた処女の股間を堪能しながら、あっという間に昏倒してしまうのだった。

「はぁ、はぁっ……ふぅっ」
「お見事です、姫様。さぁ、王妃様の元へ向かいましょう。あとはアンジャルノンと、僅かな残党だけです」

 やがてジルフリーデは、ラフィノヴァ達が加勢するまでもなく――自分を狙っていた衛兵達を全滅させてしまう。その奮戦を見届けた仲間達は彼女と合流すると、一気に上の階層へと駆け抜けて行くのだった。

「これで最後か……案外、呆気ないものね。ジル、アンジャルノンを倒したら少しだけ……この城の財宝を貰えないかしら? 私が一生遊んで暮らせるくらいの、ね」
「アタシは酒! さっきそこの貯蔵庫に山ほど酒が積んでたでしょ、あれ全部ちょーだい!」
「いい加減にしろ貴様ら! 全く、まだ戦いは終わっていないんだぞ!」
「ふふっ……構いませんよ。今まで、私達と共に戦って下さった恩人ですもの。アンジャルノンから母上を救った暁には必ず……ね?」
「……ふん。姫様のご厚意に感謝するんだな」
「あら、さすがジル。話がわかるわね」
「どっかのカタブツおっぱいお化けとは違ってさぁ」
「お、おっぱ……!? きっ、ききき貴様らぁー!」

 その道中で、いつも(・・・)のように些細な口喧嘩を繰り広げる彼女達は――心の底から信じていた。
 この4人なら、必ずアンジャルノンにも勝てる。アリアレイテ王妃も救える。帝国軍を、この聖国から追い返すことも出来る。
 正義の旗を掲げ、戦い抜いて来た自分達なら、必ずその全てを成し遂げられるのだと。信じて、疑わなかったのだ。

 ――この先に待ち受ける、甘い快楽の罠へと沈みゆくまでは。
 
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