男女美醜の反転した世界にて
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反転した世界にて8
土曜日。
僕の高校はなぜか週休二日制ではなく、土曜日にも半日の授業がある。中学生の時までは土曜日は休日扱いだったので、入学当初は辟易としたものだけれど、もう慣れてしまった。
今日さえ凌げば、午後からは待ちに待った週末だ。――僕と白上さんが付き合い始めて、初めての週末。ここに来て何のアプローチもかまさないってんじゃあ、いくらなんでも男が廃るというもの。
そう。デートだ。今日こそは白上さんを"おでえと"にお誘い申し上げてみせる。昨日、一昨日と、学校帰りの放課後に、寄り道を誘うくらいだったらできたじゃないかという意見もあるだろうけれど。
悲しいかな、僕にはその度胸がなかった。
以下、昨日の放課後、駅までの道のりを白上さんと共にしたときの回想。
『あ、赤沢くん(呼び名は君付けにしてもらった。めちゃ嬉しい)は、普段、どんなところで遊んでるの?』
『ど、どんな……って。えと、その』
『あ、いや、言いたくないなら別に』
『言いたくないとか、そんなんじゃなくて……。んっと、その……』
『わた、私はほら。友達とゲーセンとかカラオケとか、割とよく行くんだけれど。赤沢くんにもそういうの、ないのかな~、なんて。えへへ』
『いやぁ、あんまり外で、遊ばないんだ……僕……』
『そ、そっか』
『うん……』
終了。
最悪だった。
幾らなんでもコミュ症過ぎる。慌ててテンパって、ほとんど脊髄反射みたいに答えてしまった。
――確かに、僕は友達がいないだけあって、外で遊ぶという概念を持ち合わせていない。
しかし行きたくないわけではないのだ。ましてや白上さんと一緒なら、どこでだって楽しいに決まっている。
『あんまり外で遊ばないから、連れて行ってほしい』
と。どうしてこの時、咄嗟に口にすることが出来なかったのか。悔やんでも悔やみきれない。
悔やみきれない、ので。だったら、僕の方から誘おう。と、昨日の夜、何十ものシミュレーションと予行演習(練習台として、荒井くんに電話を掛けた)を重ねた。抜かりはない。
なに、口にするだけならばシンプルなことだ――『今日の放課後、どこかに遊びに行こう』と、伝えるだけ。
白上さんなら、断りはしないだろう。断りはしないと思う。断られなければ、いいなぁ……。――もちろん、白上さんの都合が合わなかった時のことも、考えてはある。その場合は予定を明日以降に延期し、その日のプランを予め話しておく――所謂“デートの約束”という、高等的な応用技術を駆使して対処するつもりだ。
“デートのお誘い”に、Bプランとして“デートの約束”。どれも、十何年間友達のいなかった僕にとっては、A級難度のミッションだ。しかし、やらねばならない。
「(やる。僕はやったるでぇ!)」
気合は十分。
――当初の予定では、朝一で白上さんにコンタクトを取り、デートのお誘いをぶちまけるつもりだったのだけれど。
早速第一段階から頓挫することとなる。
「(…………?)」
教室の扉を開けた途端、空気の読めない僕ですらわかるくらいに、何やら教室の雰囲気が重苦しい。
先日、白上さんのお弁当を作ってきた時とはまた違う。何とも“いやな”感じ。誰もがナニカに気を使って、声を潜めているようなそんな空気。
その原因はなんだろうと考えて、それっぽいナニカを見つけた。
「――、ね? ――ら、……なさいよ」
「……、……」
「――じゃ、……しょうが! ――、…から!」
なんかもう、すごくおげちゃな女子に、形容しがたい造形の女子(以後、クトゥルフ系女子とする)に、西洋風の重装備みたいな脂肪に包まれている女子(以後、肉鎧女子とする)の三人に囲まれて、何やら楽しそうに会話をしていた。見覚えのある姿ではないので、間違いなく他クラスの女子だろう。
――よくよく見ると、楽しそうにしているのは白上さんを除いた三人だけだ。話しかけられている白上さんは、顔は笑っているのだけれど、あんなに陰った笑顔を、僕は今日まで見たことがない。
何の話をしているのか。気になることは気になるのだけど、しかし、あちらは女子。僕は男子。途中で会話に割り込んだりしていいものか。
「――やって、――にて……、――んの?」
「……、……」
ここからでは、なんの話をしているのかはほとんど聞き取れない。特に、白上さんの声なんて全く聞こえなかった。
……もうちょっと近づけば聞こえるかなぁ、とか。でも、あんまり寄りすぎて、聞き耳を立てていることに気がつかれたりしたら、いやな感じだよなぁなんて。
悶々と考えながら躊躇していると、白上さんが僕のことに気がついてくれた。
「あ、おは――」
「あぁっ! 赤沢さん、おはよーっ!」
しかし、白上さんが声を発するよりも先に、おげちゃ女子たち三人が手を振りながら大声を上げた。
ぶっちゃけ勘弁してほしいとか思っちゃったのだけど、しかしあからさまに無視をするというのも感じが悪いので、適当に返事だけはしておくことにした。
「……おはよ」
恐らく、僕の「おはよう」という声は、向こうにまでは届いていなかったはずだ。
しかし、僕の表情(白上さんに向けた笑顔)が功を成したのか、こちらの思惑は何とか伝わっていたようで。
三人は満足そうに顔をゆがませて歯をむき出した(完全に威嚇)あと、白上さんの方へと向き直る。
「――ね? ……、しょう? ――ら」
「――たら、……わよね?」
「…………」
そのまま自分の教室に帰ってくれないかなぁなんて。僕の心の呟きは、おげちゃ女子たちに届くことはなかった。
――多分、さっきのが、会話に入るチャンスってやつだったのだろう。
そのタイミングを見切れなかった僕は、結局朝のHRの時間がやってくるまで、彼女たちの会話が終わるのを待っていることしかできないのだった。
◇
「赤沢さん。これから暇?」
「え?」
そう言って、背後から僕に話しかけてきたのは、今朝方、白上さんと何やら話をしていた、おげちゃ女子だった。
時は放課後。半ドンの授業を終えて、いざ作戦を決行しようと、白上さんの席へと向かおうとしていた僕は、再びその半ばで行く手を阻まれることとなる。
「あたしら、今日遊びに行くんだけど。赤沢さんさえよければ、一緒に遊びに行かない?」
「勿論、男子も誘ってるよ。園原さんとかも来る予定~」
「えっと……」
おげちゃ女子の背後には、クトゥルフ系女子に、肉鎧女子も控えている。
……これは、何とも。生まれてからこの方、誰かに遊びに誘われるだなんて経験は、初めてのことだ。
しかし全然嬉しくない。あと、園原さんって誰だよ。どこかで聞いた覚えもある気はするけど。
平時であれば、多少心を動かされもしただろう。ところが今の僕は、既にもう白上さんとどこかへ遊びに行くことしか考えられない。むしろ、二度にわたってそれを邪魔されているこの現状に、少しばかり腹を立てているくらいだ。
チラリと、おげちゃ女子たちの更に背後――白上さんの席の方へと、目線を向けると、
「――!」
彼女も、僕の方を伺っていたのだろう。ばっちり目線が噛み合ってしまう。しかし、白上さんはすぐさま視線を逸らして、明後日の方向を向いてしまった。まるで最初から、僕の方なんて気にしてませんよ、と言わんばかりに。
流石の僕も、ここでショックを受けるほどナイーブではない。
――というか、ほんの少し頭をひねって考えれば、白上さんにとってこの状況がどういう意味を持つのか、推測を立てることは容易い。
おげちゃに、クトゥルフに、肉鎧。三人が三人とも、なんというか如何にも自分に自信を持っていそうな立ち振る舞い。そして、僕に対してやけに好意的というか、身も蓋もない言い方をすると、下心すら感じるくらいの雰囲気だ。
おまけに、周囲の男子たちからのやっかむような視線。
あぁ、価値観が違うんだなぁ、と。こういう状況でこそ、強く痛感せざるを得ない。わざわざ説明をするまでもないだろうけれど。
――彼女らは“この世界ではかなりの美少女たち”。
そんなイケてる女子たちがくれた初めてのお誘い。その味は甘くてクリーミィで(この世界の価値観的に)、
こんな素晴らしいお誘い(この世界の価値ry)をもらえる僕は、きっと特別な存在(この世界ry)なのだと感じました。
今では僕が美男子(このry)。
彼女たちのあげるのは勿論、ヴェルター○オリジナル(?)。
なぜなら彼女たちもまた、特別な存在(ry)だからです。
途中でわけわからんくなったけど。とにかく、お断りします。
「悪いんだけど、今日は予定があるので」
「えー!? 嘘ーっ!」
嘘じゃねえよ。嘘みたいな顔しやがって。
と、口汚い言葉が飛び出しそうになるのを寸でのところで堪えつつ、『白上さんと遊びに行くので』と続けようとしたのだけど。
「さっき白上に聞いたけど、別にデートの予定とかないんでしょ」
「…………」
……そうか。今朝白上さんと話をしていたのは、そういうことだったのか。
痛いところを突かれた。確かに、白上さん自身には、今現在デートの予定なんかない。僕が伝え損ねていたんだから。
こんなことなら、予めメールで伝えておくべきだった。――なんて思うわけないだろうが。いや、メールを送っておけばっていうのは、その通りだとうなずかざるを得ないけども。
そもそも、今朝誘おうと思っていたのに、邪魔をしてくれたのは貴様らじゃろがい。
――これから誘うので、と。言い返そうとするが、しかしキャンセル。
彼女らの口が閉じるのは、もう少し先のこととなる。
「あー、もしかしてー、白上のこと気にしてんのー?」
「だったらもう安心してよ。あいつにはあたしらがちゃんと言っておいたからさ」
「……?」
気にしてる? と言われれば、確かにその通りだ。しかし、あなたたちには関係ないでしょうと。
安心? なにを? こんなとこで足止めをされて、白上さんが途中で帰ってしまうんじゃないかと気が気でないことは確かだけれど。
あいつって、もしかして、白上さんのこと? 彼女になにを言ったって?
僕が質問をするよりも先に、おげちゃ女子たちは自ずからその疑問に答えてくれた。
「もう無理とかしなくて大丈夫よ」
「赤沢さんって優しいからさ。白上が無理やり迫ってきたのを断りきれなかったんでしょ?」
「白上は否定してたけどさ。でも、もし赤沢さんがいやだっていうんなら、もう近づかないって約束したもんね」
「――」
――。
え?
こいつらマジで何言ってんの?
お恥ずかしながら、彼女らが口走る台詞を理解するために、僕は少しだけ考え込む必要があった。それくらいに、とてもじゃないけど直感的に理解なんてしようがないくらいに、彼女らの言っている言葉は、意味不明の支離滅裂で、そして何より、的外れだった。
――ふと。もう一度、白上さんの方を見る。
「……」
今度は、視線が噛み合うということはなかった。代わりに、僕の眼には、何かに耐えるように顔を伏せて、机の上を見つめている白上さんの姿が映った。
もしかしたら、おげちゃ女子の声は、白上さんには聞こえていないかもしれない。しかし、そんな楽観的な想像も期待できないくらいには、おげちゃ女子たちの声はデカい。むしろ、白上さんに聞こえるように、わざと声を荒げているのだろう。そうとしか、思えない。
「あとは、赤沢さんがちゃんと断ってあげれば、それで終わりだからさ」
「今まで辛かったでしょ? もし、またあのもやし女がなんか言っても――」
「うるさい」
――思えば。
僕が心底“キレて”しまったのは、堪忍袋の緒がそのあまりある怒りに耐え切れず、文字通り“プッツン”といってしまったのは、生まれてこのかた初めてのことだ。
「なに余計なことしてくれてんのさ。僕、キミらと喋ったことないよね。誰がそんなわけわからんこと、白上さんに伝えてくれって頼んだのさ」
「あ……う……」
どこか心の片隅で、ちょっとヤバいかなぁなどとは思ったけれど。しかし、回り始めてしまった僕の口車が、留まるところを知らない。
先ほどまでとは一転して、急に口の滑りが悪くなるおげちゃ女子たち。
――これは後から聞いた話なのだけれど、この時の僕はびっくりするほど恐ろしい形相をしていたのだとか。“美人()が怒ると怖い”というのは、価値観が違っていても適用される法則だったことが証明された。
「あ、あたしらは、赤沢さんのことを思って……」
「あっそう。じゃあもういいよおげちゃ」
「お、おげ……!?」
「僕はこれから白上さんと遊びに行くので。僕なんかに気を使ってくれなくても結構です。というか構わないでほしいです」
普段、人見知りをしすぎるこの僕が、こんなにもペラペラと口をきけるだなんて。自分でもびっくりだし、周りも同様に驚いているようだ。
――ところが得てして。プッツンして見境のつかない状態というのは、好ましいとは言い難い。
「本当に僕のことを思ってくれるなら、もう話しかけないでほしい。あと、白上さんにもちょっかいをかけないでくれると最高」
むしろ、出来るだけ避けるべきものなのだ。だって、
「白上さんは僕のことが好きで、僕も白上さんのことが好きなので。WINWINで、相思相愛なので。キミらにとやかく言われる筋合いはこれっぽっちもございません。この話は終了ですね」
「――」
「――」
「――」
言わなくてもいいことまで、口の制御が効かずに飛び出してきてしまうものだから。
――正直、この辺りで怒りのピークは通り過ぎていて、“やっちゃった”という気持ちが心境の大半を占めていたのだけれど。まだ勢いだけは残っていたので、
「白上さん」
「は、はいっ!」
僕は呆然として固まってしまったおげちゃ女子たちを尻目に、白上さんの名を呼びながら彼女の元へと向かった。
白上さんの目の前に右手を差し出して、自分でも驚くほど自然な笑顔で以て、言う。
「行こう?」
「ぁ、ぅ、うんっ!」
白上さんは鞄を手繰り寄せながら慌てて立ち上がると、僕の手を掴んでくれた。
――して、おげちゃ女子たちの方へと振り返る。彼女らは一瞬だけ肩を震わせたかと思うと、そそくさと僕たちの通り道を開けた。
爽快な気分になってしまった僕は、相当に嫌な奴かもしれないけど。
「じゃあね。さようなら」
「……うっ、……く」
憎々しげに僕と白上さんを睨んでいるおげちゃ女子の顔を見て、そんな気持ちも薄まっていく。心の底では納得をしていないのか、それとも公衆の面前で恥をかかされたのを根に持ってしまったのか、それは定かではない。
――この時、多少なりとも後が怖いなぁと、考えなくもなかったのだけど。
結果的には、彼女たちが僕や白上さんにちょっかいをかけてくるということは、二度となかった。
理由はまた今度ということで。
少なくとも今は、おげちゃたちのことを考える必要はない。
――こうして、僕は、“白上さんと初めて手を繋いで帰宅する”という、快挙を成し遂げたのだった。
◇
「……」
「……」
駅までの道のりを、白上さんと肩を並べて歩く。
昨日までとは違って、校門を出てから、未だお互いに一言も喋っていない。あと、手。プラプラと、白上さんの細くて柔らかな左手が、僕の右手に包まれている。
冷静になって反省すると、さっきのはない。よく知らない他人に対して、ああも怒りを露わにしてしまうなんて。
それも、教室のど真ん中で。来週からどんな顔をして学校に行けばいいんだろうと、今後のことを考えて気分が落ち込んでしまいそうになる――というのが、まあ、三割くらい。
そんなことよりも。白上さんの手がヤバい。柔らかくて暖かくて細すぎ。
ちょっと力を籠めたら折れちゃいそうとか、この距離だとシャンプーの香りとか、そのほか女性的な芳香が鼻腔をくすぐってクラクラするというか、制服越しに盛り上がって、歩くたびに揺れているバストがどう見てもノーブラだったりとか。横目に映るポニーテールとうなじが艶やかすぎてたまらんというか、僕はこんなにも興奮極まっているというのに、白上さんは薄く頬を赤くしているけれど、どこか余裕がありそうな表情で、薄く笑みを浮かべているだけだったりとか。そんな横顔も妖美で可憐でエトセトラ……。
「あのさ」
「っ! な、なに?」
不意に、白上さんは前を向いたままで口上を切った。
「さっきはありがとね。私のために怒ってくれたんでしょ?」
「い、いやぁ……あはは、」
どう、なんだろう。よくよく考えてみると、僕自身、なんであんなにも頭に来たのか、よくわからない。
しかし、“なにが引き金で切れたのか”と問われれば、あのおげちゃ女子が言った、『もやし女』という単語に反応してのことだったと、今は思う。
もっとも、それがなくともあのまま馴れ馴れしく話しかけられていたら、また違う理由で耐え切れなくなっていたであろうことは、想像に難くないけれど。
「私は、赤沢くんのことが好き」
「あ、ぅ、うん」
さっきから、不意打ちを連発しすぎだと思う。
きゅっと、ほんの少しだけ、僕の手を握る力が強まったような気がした。
「あ、赤沢くんも……私のこと、……その」
「うん、す、す、好きらょ]
どもった。
鬼のように恥ずかしい。
「――え、えへへ。めっちゃくちゃ嬉しい」
「それはよかった」
そのお日さまのような笑顔に、何かを疑う余地などない。
彼女が本気で僕の言葉を喜んでくれていることに、僕もうれしくなる。
そんな砕けた表情のまま、白上さんは世間話でもするかのように、話を続けた。
「あの三人に色々言われてさ。――その時は、そんなことないって、言い返してやったけど、やっぱりちょっと不安だったのよね」
「……」
色々言われた、というのが、具体的にどんなことを示すのかは、まあ、言わずもがなというやつなのかもしれない。
僕にもう少し、人並みの度胸さえあれば、彼女らがなんやかんやと白上さんにちょっかいをかける前に、割り込んで止めることだってできたかもしれないのに。
「もしも、もしも、あいつらの言うとおり、『同情で付き合ってる』んだって、赤沢くんに言われたら、って考えたら、えへへ、怖くて怖くて」
「そんなこと、言うわけないよ」
「うん……、えへへ。赤沢くんって、怒るとあんな感じなるんだねぇ~」
「お、お恥ずかしい……」
「あのときの赤沢くん、超怖かったよ。怒らせたらアカン、って。心の底から思ったわ」
「ううぅう……」
「――でも、すっごくスカッとした」
――本当に晴れやかな顔をして、そんなことをいうものだから。
僕もまあ、珍しく怒った甲斐があったかなぁ、なんて思ったりなんかして。僕の方こそ、なんであんな風に言っちゃんったんだろうという後悔から、救われた気分になる。
「私のこと好き、って言ってくれたときなんか、正直、もう死んでもいいって思った」
「いやいや、だから、大袈裟だよ。……あ」
話し込んでいたら、学校から駅までの距離は本当に短い。
いつの間にか、券売機の前にまでたどり着いてしまった。
「あ、えと……」
「……」
――昨日までは、ここでお別れだった。
だけど、今日は違う。
「そ、そのさ!」
「う、うん!」
白上さんも、悟られまいとはしているのだろうけれど、しかし期待を隠しきれていない。
そりゃそうだ。だって、さっきのおげちゃ女子たちとの問答は、かなりの大声で聞こえていたはずだ。
「こ、ここ、これ、これから……」
だから、僕がこれから言おうとしていること――遊びに行こうという御誘い文句は、彼女も予想はしていたことだろう。
――だが、まさかあんなことを口走ってしまうなんて、白上さんはおろか、僕ですら予想していなかった。
はっきり言って、口を滑らせてしまった。常々妄想こそしていたけれど、心の奥底では、それこそ初めて彼女に出会ったときから考えていたことだけど、まさかこの瞬間に放言してしまうことになろうとは、思ってもみなかった。
「これから、僕の家来ない?」
――僕は、自分が極度のムッツリスケベであることを、認めざるを得ないのであった。
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