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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第390話】

「あ、ヒルトっ♪」

「む? やっと来たか、我が嫁よ」


 浮遊してやって来る俺を見つけたシャルとラウラの二人が手を振った。

 それに応える様に手を振り、前方宙返りすると同時にISを待機状態へと戻す。

 纏っていた打鉄は光の粒子となって四散、肩膝をついての着地と同時に身体に重力を感じる。


「ふむ……。 ヒルト、だいぶ身体能力が上がった様だな」

「そうか? 俺はあんまりよく分からんが……」


 そのまま立ち上がり、二人の側まで歩いて向かう。

 二人はいつものISスーツ姿に、頭部のヘッドギアだけを部分展開した状態の姿だった。


「シャル、ラウラ。 二人ともどんな感じだ?」

「うん。 今ちょうど僕もラウラも増設スラスターの量子変換が終わった所で、これからその調整に入ろうって、ね?」


 俺にそう説明し終えると、シャルはラウラの方へと振り向き、笑顔で見るとラウラも頷き――。


「ああ、その通りだ。 本国からのパッケージは間に合いそうにないのでな。 私もシャルロットと同様、今増設スラスターの量子変換が終わった所だ」


 腕組みしながらそう応えるラウラ、時折ラウラとシャルのヘッドギアが小さく揺れている。

 特にラウラのヘッドギアパーツは、明らかにウサギの耳を模した物で、何となくコスプレしてる気がして愛でたくなる。


「増設スラスターか。 やっぱり二人のは特注品なのか?」

「そうだね。 僕のはキャノンボール用の特注品だよ。 一応フランス政府が用意してくれたんだ。 国には戻れないけど、こうして僕を援助してくれてる人もいるって思うのは嬉しいよ」


 確かに、性別詐称していて国を裏切っていたシャルからすれば嬉しいだろう。

 ……まあ裏切っていたというのは、シャルの父親の命令だし、本人も保護された時は中学生ぐらいだったし、食べさせてもらっていた事もあるから仕方ないとはいえ、まだ何処かに後ろめたい気持ちはあるのかもしれない。

 ……こう思うと、改めてシャルの父親に嫌悪感を抱いてしまう。

 とはいえ、殴っても反省はしないかもしれないし……だが、父親の本意なのかどうかも実はわからなかったりする。

 最初に訊いた時は、本当に殴ってやろうと思ったのだが今はよくわからないという状況だ。

 ……とりあえず、この話は置いておくとするか。


「ラウラの増設スラスターも特注品か?」

「無論だ。 シュヴァルツェア・レーゲン用に用意したものだ。 私の機体は他の機体より足が遅いのでな。 これならば妨害も含めて私も優勝を狙えるだろう」


 腕組みし、自信たっぷりに告げるラウラ――時折動くウサミミヘッドギアが、その威厳を無くさせてる気がするが……可愛いからいいかな。


「成る程、特注品は羨ましいな……」

「……ふむ、ヒルトはあまり日本からの支援を受けられないのだったな。 ……全く、いくら教官の弟とはいえ、少しは私の嫁にも支援を――」

「まあいいさ。 てかキャノンボールに関しては一夏は追加装備出来ないし、五分みたいなものさ。 二人はこれからどうするんだ? 今は美冬達が練習してる様だが」


 そう言って中央タワー外周を飛翔する三機。

 俺もヘッドギアを部分展開し、ハイパーセンサーの望遠機能で見ると、三機とも激しく撃ち合い、天照と弐式は第三世代兵装で実弾迎撃をするレーザー光が花火の様に弾丸を散らせていた。


「僕たちもこれからタワー外周を一周してくるよ。 良かったらヒルトもどう? 映像見て勉強するのもいいけど、近くで僕達の動きを見る方がヒルトにとっても悪くないと思うんだ」

「そうだな。 なら俺も付き合うか」

「ふむ。 嫁と共に空を舞うのも悪くはない」


 満更でもなく頷くラウラ、因みにだが直視映像【ダイレクト・ビュー】で他の操縦者の視界情報の共有が可能だ――当たり前だが、チャンネル設定を知らなければ意味がないのだが。

 今回、シャルはチャンネル304、ラウラが305だ、他の専用機持ちも同様にチャンネルがあるが、訊いてないのでわからない。

 適当に合わせても、別の視界情報が送られては意味もないしな、これが。

 そうこうしている内に、美冬たちがゴール――美春の村雲腕部から展開されていたエネルギーシールドが解除されると早速データを纏めるためにディスプレイを開いていた。

 それを眺めていると、ラウラは空へと跳躍と同時にその身に光の粒子が集まり、包まれるとシュヴァルツェア・レーゲンを纏って浮遊した。


「ヒルト、シャルロットも、私は先に行くぞ」


 そう言って先行するラウラを、シャルが――。


「あ、待ってよ! ラウラってばぁ! ヒルト、僕達も!」

「OKだ」


 合図をすると同時に後方へとバック宙返りし、打鉄を纏うとシャルと共にラウラを追い掛けた。

 最初に行ったデモンストレーション同様に、コースアウトしないように飛翔し、リングを潜り抜けていくと先行していたラウラを捉えた。


『ヒルト、先ずは私が先行だ。 シャルロットは二番手で頼む』

『了解、じゃあまず僕達から行くから、ヒルトは見ててね』


 そう言って並走していたシャルは、ラウラの少し離れた後ろへつき、加速していく。

 一方のラウラも同様に加速――二人を視界から外さないように追従しつつ、二人の加速タイミングとコーナーへの侵入角度を見て俺は――。


「……ふむ。 やはり一人一人違うんだな、加速タイミングとコーナー侵入角度は」


 呟きつつ、俺も中央タワー頂上の折り返し地点を、デモンストレーションの時と同様の瞬時加速を利用した旋回で曲がると――。


『ひ、ヒルト? その曲がり方、怖くないの?』

『え? 怖いけど……これならあまり速度落とさなくても曲がれるだろ? 瞬時加速中に方向転換じゃないしな』

『……ふむ。 だがタイミングをしくじれば一発でコースアウト確実だ、あまり無理はするなよ。 私の嫁なんだ、怪我をされても困る』


 先行していたラウラがそう言うと、俺も静かに頷く。

 とはいえ、タイミングは掴んだようなものだし……いつか役にたつかもしれないからな。

 そう考えつつ、リングを潜り抜け、地表へと到着すると先にゴールして待っていた二人は――。


「どうだ? 少しはヒルトの役に立つ走りをしたか?」

「あぁ、当たり前だが二人とも加速やコーナーへの侵入角度が違ったが、勉強にはなったよ。 ありがとう、二人とも」

「ううん。 役にたてたなら良かったよ」


 ニコッと微笑むシャル。

 何となくラウラとシャルのチャンネルに合わせて直視映像を見ると、二人して俺の顔を見ていた。

 こうやっていつも俺が見られてると思うと、少し恥ずかしく思う。

 てかこの状態でキスをすると、変な感覚に襲われそうだ――自分とキスをするような変な感覚。


「んじゃ、そろそろ自分のを調整するよ」

「了解した。 シャルロット、次はセシリアも誘ってもう一周するぞ」

「わかったよ。 じゃあヒルト、何かあればいつでも来てね?」


 そう言って二人は手を振り、セシリアの元へと浮遊していった。


『主君』

『ん? どうした』

『その、だな。 ……あ、あまり主君の力になれなくてすまない……。 も、もう少し速くなればとは思うのだが……』

『気にするなよ。 まだ俺とお前は乗ってからそれほど時間は経ってないんだし』

『ぅ、ぅむ。 ……もう少し、私も主君と絆を紡ぎたい……』

『そっか……またキスでもするか?』

『……!? しゅ、主君のバカ者……ッ。 そ、そんなおいそれと主君とせ、接吻を交わすわけには……ゴニョゴニョ』


 そう言って雅の声が聞こえなくなり、苦笑を溢すと同時に俺は打鉄の調整を始めた。 
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