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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第397話】

 俺達一年生専用機持ちが待機しているピット内にも、観客席からの盛大な歓声が届くぐらい、二年生のレースは盛り上がりを見せていた。

 ピット内に備わっている大型空中投影ディスプレイには、互いの妨害で混戦し、抜きつ抜かれつのデッドヒートの模様を映し出されていた。

 先頭にたった二年の代表候補生、サラ・ウェルキンを見て俺は――。


「この人、結構操縦技術が上手いな。 混戦して抜きつ抜かれつだけど、結構先頭に出てるし」

「えぇ。 あの方はかなり優秀な方ですわよ? BT適性がわたくしより劣っていましたので専用機はありませんが、本来なら彼女がわたくしのブルー・ティアーズを扱っていたのかもしれませんわ」


 そう言うセシリアの眼差しは力強いものを感じた。

 改めてセシリアを見ると、既にブルー・ティアーズを纏い、パッケージの【ストライク・ガンナー】も装着していて何時でもレース可能な状態にしていた。

 既にほとんどの専用機持ちはISを展開して、次のレースに備えている。

 俺も打鉄を展開し、準備を整えると今度は鈴音を見た。


「それが夏にバラバラになったキャノンボール・ファスト用のパッケージか?」

「そうよ。 ふふん、こいつの最高速度はセシリアにも、未来の天照にも引けを取らないわよ」


 いつもの様に白い歯を見せる鈴音。

 増設スラスターを四基積んでいる高速機動パッケージ【風】。

 追加胸部装甲が大きく前面に突き出しているが……夏に俺が手に持ったのはあれだったんだな。

 なんで怒ったのか大体理解はしたが、あの胸部装甲、防御力向上の為なのかはたまた彼女の小さな胸を大きく見せるための中国の陰謀かは定かではない。

 衝撃砲を見ると、完全に真横に向いていて明らかな妨害用に見えた。

 そんな中、篠ノ之が口を開く。


「ふん。 戦いは武器や機体性能で決まるものではないということを教えてやる」

「「「………………」」」


 なんという事でしょう、質の高いブーメランが投げられてしまいました。

 ――いや、マジで篠ノ之がよくわからん、受け狙いで言ったのだろうか?

 そういえば一夏がポロッと喋ったが、展開装甲はマニュアル制御にしてエネルギー不足を解消したとか――あれ、これって俺が指摘した気がするが……はて?


「……篠ノ之さん、物凄いブーメラン投げたよね? ……まあ、彼女がどう言おうが彼女の自由だけどね」


 聞こえないように呟いたのは未来だ、まあ事実、今の発言にほぼ全員がぽかんとしてしまったが。

 天照にはラファール・リヴァイヴ用パッケージ【ブランシュ・エール】が装着されていて、その見た目から天使を形容する姿になっていた。


「箒、格好いい台詞だな。 確かに機体性能や武器で決まる訳じゃないもんな」


 同意して言ったのは一夏だ、もはや語るまい。

 二人とも一応篠ノ之束製の第四世代に分類される機体で、他は第二世代、第三世代。

 正直世代差で勝ち負けが決まるなら、一夏や篠ノ之は連戦連勝だろうが、生憎二人ともフルボッコされてます。


「……織斑君、ああやって篠ノ之さんを甘やかすからだんだんと調子にのせてるのに、気づかないのかな?」


 美冬も厳しい言葉で俺に告げた。

 村雲背部に背負ったフライヤー・ユニット、攻撃力と機動力の両方を獲得してる為、そうそう引けはとらないだろう。


「ん。 レースか……楽しみだなぁ」


 楽しげに呟いたのは美春で、彼女としては見るもの触るもの、今回の体験も全て貴重なものになるだろう。

 村雲・弐式にはこの間見た展開装甲のパッケージではなく、素の村雲・弐式の姿そのものだった。

 事実、村雲・弐式は紅椿の展開装甲にもついていけるだけの推力はあるが……。


「レースは流れで決まる。 武器や機体性能よりも全体を見極める視野や思考能力がその命運を分けるだろう」


 そう言ったのはラウラで、三基の増設スラスターが背中に装着されていた。

 シュヴァルツェア・レーゲン用の新型スラスターはラウラ的にも満足だと前に語っていた。


「そうだね。 皆、頑張って悔いのないレースにしようね」


 最後に締めたのはシャルで、ラウラ同様に三基の増設スラスターを装着している。

 肩に左右一基、そして背中に一基配置していた。

 最後に俺だが、やはりプロペラント・タンクの増設だけに留めた。

 これが吉と出るか凶と出るかは――運命のみが知るだろう。

 ――と、山田先生が通路から現れ、俺達に声を掛けてきた。


「みなさーん、準備はいいですかー? アナウンス順にピットからスタートポイントまで移動してくださいねー」


 一年生専用機持ちは、全員紹介付きという破格の扱いで、アナウンス順にスタートポイントに並ぶ方式だ。

 まず、最初にアナウンスされるのは――。


『お待たせ致しました! それでは皆さん! 今から一年生の専用機持ち組のレースを開催します! 先ず最初に選手の紹介から始めさせていただきます。 ご来場の皆さん、あちら側のピットに御注目ください! 先ず一人目は――織斑一夏選手!』


 やはり一夏だ、当たり前だがブリュンヒルデの弟という知名度は高いという事だろう。

 一夏が呼ばれ、ピットにスポットライトが当たると一夏はそのままカタパルトから射出された。


『ご存知の様に、彼はあの【ブリュンヒルデ】、織斑千冬様の弟であり、日本の期待の新星です!』


 手を振り、歓声に応える一夏はスタートポイントへのマーカー誘導に従って、規定位置へと到着した。


『続いて――篠ノ之箒選手の登場です!』


 二番手は篠ノ之、ピットから射出されると同時に大歓声と拍手で出迎えられた。


『彼女はISの生みの親である、かの篠ノ之束博士の妹なのです! 搭乗機体の紅椿は、まだ各国が第三世代の試作開発に成功した段階での第四世代の発表となりました! とはいえ、当の篠ノ之束博士からのコメント等の類いは無いのですが、その所属を巡って各国の熾烈な競争に晒される事でしょう! もちろん、日本もこの大和撫子をむざむざ他国に渡すつもりはありません!』


 ――無駄に長い紹介の間に、篠ノ之も一夏の隣へと規定位置に到着した。


『続いては――中国代表候補、凰鈴音選手です!』

「あ、あたしか……。 じゃあ、お先にね!」


 そう言ってカタパルトから射出されると、またアナウンスによる自己紹介が流れた。


『昨今は領土問題など多々ありますが、このISのレース【キャノンボール・ファスト】にそんないざこざは関係ありません! 元気印の中華娘、凰鈴音選手に拍手でお出迎えください!』


 アナウンサーのその言葉に、盛大に鳴り響く拍手で出迎えられた鈴音。

 もちろんそれにも笑顔で応えると規定位置で鈴音は待機した。


『続いての登場は――イギリス代表候補生、セシリア・オルコット選手です!』

「次はわたくしですか。 では皆さん、先に行って待ってますわね♪」


 軽くウインクすると、そのままカタパルトで射出された。


『彼女はイギリスでも有数の貴族、オルコット家の当主です! その若さからは想像できない多大な苦労をなされてはいますが、いつも気高く、気品溢れる彼女に、暖かい拍手を!』


 先ほどの鈴音同様、拍手で出迎えられたセシリア。

 両手で観客に応える様に手を振りながら、鈴音の隣の規定位置へと着地した。


『次は――フランス代表候補生、シャルロット・デュノア選手です!』

「ぼ、僕!? うぅ……き、緊張するけど、行ってくるね、皆!」


 若干緊張の面持ちのシャルだったが、カタパルトに脚部を接続する頃には既に緊張など無くなっていた。


『シャルロット・デュノア選手は、IS量産機、世界第三位のシェアを持つデュノア社の秘蔵っ子! ついた二つ名は微笑みの貴公子! そんな彼女にも暖かい拍手をお願いします!』


 微笑みの貴公子と紹介されて微妙に困惑した表情を浮かべたシャル。

 規定位置は鈴音の隣だ。


『続いて! ドイツの代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒ選手です!』

「次は私か……。 嫁の紹介は向こうで聞くとしよう」


 そう言ってから皆と同様にカタパルトから射出されたラウラ。


『ドイツの代表候補生、ラウラボーデヴィッヒ選手は、IS学園指折りの操縦技術と、ドイツの第三世代兵装の二つを武器に、模擬戦でも圧倒的勝利数を誇る彼女ですが、そんな彼女も無敗ではなく、一敗しています! 対戦相手は誰なのかはわかりませんが、彼女に黒星をつけた相手が、個人的に気になります!』


 ――多分、それ俺かもな。

 前に一度勝ち星を上げてるから。

 ラウラは模擬戦は主にシャルとやる傾向が高い。

 まあ何処で得た情報かはわからないが……結構正確だな。

『続いての登場は――日本の代表候補生、飯山未来選手!』

「私なんだ? ヒルトは最後なのかな? ――行ってくるね」


 手を振りながらピットから射出される未来、他の人同様にまた紹介される。


『彼女のIS適性は何とS! 容姿の良さに加えてIS適性まで高い彼女は、まさに次世代の『ブリュンヒルデ』、『ヴァルキリー』候補なのです!』


 その紹介に、一際盛り上がる歓声。

 恥ずかしいのか、未来は少し照れながら規定位置へと到着した。


『続いて――有坂美春選手の登場です!』

「ん? ――ヒルト、美冬、お先にね♪」


 弾んだ声でそう言い、ピットから飛び出す美春。


『彼女に関しての情報は、此方でも入手は出来ませんでしたが、彼女の専用機は世界初の男子IS操縦者、有坂緋琉人から譲り受けたものなのです! フォルムはフル・スキンですから彼女の肢体は見れませんが、どうぞ惜しみ無い拍手をお願いします!』


 そんな自己紹介の最中、美春はフルフェイスを装着し、その容姿を隠した。

 ツインアイが光る中、彼女も規定位置へと到着。


『残り二人です! 次は有坂美冬選手の登場です! どうぞ!』

「お兄ちゃんが最後か、ちゃんとした紹介か心配だなぁ……。 待ってるね?」


 俺に向かって手を振ると、美冬も皆と同様に飛び出していった。


『世界初の男子IS操縦者、有坂緋琉人の双子の妹でその才能は兄を軽く超える適性値が示しています! 彼女もまた、将来のブリュンヒルデ候補の一人なのです!』


 そんな紹介をされ、手を振って応えるが美冬は少し表情が険しかった。


「有坂君、少し良いですか?」

「え? はい、何でしょう?」


 まだピット内にいた山田先生から声をかけられた。

 その表情は少し困ったようにも見える。


「……多分ですけど、ヒルト君は拍手ではなく、ブーイングで迎えられるのかもしれません。 ヒルト君も知っての通り、日本の政府はIS適性値の高い織斑くんに色々見出だしていて、その対比として君に悪評がつくようにメディアに圧力をかけてます。 織斑先生も、前々から訴えかけてますが、立場が中間管理職に近いのでなかなかきいてもらえないのです。 嘗ての大会優勝者でも、あくまでそれは広告塔みたいな形での待遇みたいですからね、織斑先生の立場は」

「……成る程」


 小さく頷く俺に、山田先生は――。


「ヒルト君や織斑くんの情報解禁は間近ですが、今日はこぞってメディアの中継等もありますから、ここで日本の政府が作った汚名を返上しましょうね! 先生は皆に平等じゃないといけませんが、今だけは君を応援しますから!」


 ぐっと握り拳を作る山田先生――乳房がプルンッと弾み、こんな時ながらも眼福だと思ってしまった俺は自重しなければいけない。


『それでは、いよいよラスト紹介! IS学園始まって以来の問題児、有坂緋琉人選手の登場です!』


 歓声ではなく、ブーイングがピット内にも響いて聞こえてきた。

 メディアの情報は知っていたが、まさか同じ日本人からこれだけブーイング受ける羽目になるとは。

 カタパルトに脚部を接続し、俺は――。


「期待に応えられるかはわかりませんが、俺は俺ですよ。 他の人がいくら悪くいっても、俺という人間が変わる訳じゃないですからね――行きます!」


 山田先生にそう告げると、カタパルトから射出された瞬間に飛び交う野次の数々。


「この日本の恥さらしが! 引っ込めーッ!」

「そうよ! あんたなんか織斑くんの対比にすらならない屑よ屑!」

「適性値低い癖に、専用機何かもらってんじゃねぇぞ! 有坂緋琉人!」


 様々な野次が投げ掛けられる中――一際大きな声がアリーナ中に響き渡った。


『ヒルトーーッ!! そんな野次何かに負けんじゃねぇぞーー!! お前は俺の息子だーーッ! 一発ここにいる全員の度肝を抜かせて見せろーーッ!!』


 PPSのオープン・チャネル通信で響き渡る親父のその声に、鳴り止まぬブーイングがピタリと止まった。
 視線を移すと、グッと親指をたててサムズアップする親父の姿が目に移った。


「そうだぜ、ヒルト! 例え日本中からブーイングされても、俺達はお前の友達だって事には変わりないんだからな!」

「そうだ! 馬鹿みたいにメディアの情報に踊らされた奴等に、お前の実力、見せてやれよ! ヒルトーーッ!!」


 そんな声を、ハイパーセンサーがキャッチする。

 見ると、たっくんと信二の二人が俺に手を振っていた。

 そして、普段は大声の出さない成樹も――。


「ヒルトーーッ! 君は僕の親友だーーッ! 君にはいつも助けられていたーーッ! 今日は、僕が君を助ける番だーーッ! だから……だから! 君は野次に負けずに普段通り頑張るんだーーッ!!」


 喉が張り裂けんばかりの声でそう叫ぶ成樹の姿に、俺の目頭は少し熱くなる。


「そうだぜ、俺達もいるんだからな! ヒルト、頑張れよ!」

「わざわざ見に来てやったんだから! 少しは見返してやれッ!」


 反対側の観客席からも応援が届く――見ると、小学校中学校の男子同級生一団がそこにいた。

 それに手を振り、応えながら俺も規定位置へと到着する。


『さ、さて、選手の皆さんが出揃った所で、そろそろレースを開催します!』


 アナウンスがアリーナに響くと、規定位置にいた全員がスラスターを点火させて、各自高速機動用のバイザーを下ろした。


『……まさかこれ程までアンタって嫌われてるなんてね』

『そうですわ! 少しはヒルトさんの凄さを思い知れば良いのです!』


 鈴音、セシリアとオープン・チャネル通信での会話が届く。


『ふん。 日本人皆正しい判断だろう』

『――さっきのブーイング、凄かったけど一体どうしたんだ?』


 続いて篠ノ之、一夏と通信が――てか一夏はブーイングが俺に向けられたこともわかってなかったのか?


『野次、凄かったけど……ヒルトは平気?』

『戦場なら皆殺しだな。 我が嫁を非難するとは、命知らずも良いところだ』


 シャル、ラウラと会話が届く、手を上げて応えるだけに留めると、シグナルランプが点灯を始めた。


『日本政府、織斑くんが居ればヒルトは必要ないって思ってるらしいからね』

『少しはお兄ちゃんの凄さ、思い知ればいいんだ!』

『ヒルト、レースではライバルだけど……頑張ってね!』


 未来、美冬、美春の順で通信会話が届いた。

 シグナル二つ目が点灯――意識を集中させていく。

 そして――スタート開始のシグナルランプが緑に変わると、キャノンボール・ファスト専用機組のレースが始まった。 
 

 
後書き
野次がΣ(゜∀゜ノ)ノ

いやいや、まさかのアウェイ状態という( ´艸`)

 
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