IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第八十七話】
前書き
遅れてすみません
書くのは早めに書いたのですが背後事情で遅れました
――第三アリーナ通路――
二回戦第一試合が終わり、俺とシャルルは着替えて第三アリーナ観客席へと移動していた。
――昼から三回戦が始まるので、ISスーツは下に着こんだままだ。
「ヒルト、次はいよいよ三回戦だね?」
「あぁ…多分未来、ラウラが相手だろうな」
そう俺が告げると、シャルルは――。
「ヒルト…昨日も言ったけど、感情的にならないでね…?」
「……それについては大丈夫だ。あいつが美冬やセシリア、鈴音にしたことは許せる事じゃないが――罪を憎んで人を憎まずだ。ラウラも人間なんだ、過ちに気づいてくれればいいさ。――そして、やったことを三人に謝ればもう俺も何も言う気は無いしな」
俺の言葉に安心したのか、ホッと胸を撫で下ろしたシャルル。
「ふふっ、やっぱりヒルトって優しいよね?」
「……優しいか?」
そう聞き返すと、笑顔で――。
「うん。僕はそう思うよ?そんなヒルトだから僕は大好――あ…!?」
ハッとした表情になるシャルル、そして――。
「……い、今のは聞かなかった事にして!?」
――と、シャルルは急に顔を赤くし、わたわたと慌てて両手を振り、更に首も横に振って全力否定するように――。
「う?――わかった、よくわからんが聞かなかった事にするよ」
「う、うん。――ほ、ほら、早く観客席にいこっ?」
言うや俺の手を取り、駆け出すシャルル。
急な事に若干足をとられそうになりながらも俺たちは観客席へと向かった。
――第三アリーナ観客席――
観客席へと到着した俺とシャルルは早速親父や母さん、セシリア達を探し始めた。
因みにまだ第二試合は始まっていない。
それもその筈、先ほどの戦いでアリーナ地表がぼこぼこの穴ぼこばかり(主にグレネードとかガトリング砲とかで)になっていたので現在、整地しながら土をいれていた。
「ヒルトーっ!シャルル君ーっ!こっちだこっちーっ!」
そんな声が聞こえ、キョロキョロと辺りを見渡していると、手招きしている親父の姿を発見――右隣には母さんが、左隣にはセシリアと見事な両手に華状態だった。
――てか一夏や篠ノ之、鈴音は居ないのか?
とりあえず、俺とシャルルは階段を降りて親父達の元へと移動した。
「うふふ、ヒルト、シャルルくん。お疲れ様ぁー」
「特に疲れてはないさ、なあシャルル?」
「うん。でも――お母さん、ありがとうございます♪」
――と、ニコニコ笑顔の母さん。
シャルルも気遣われたのに気付き、笑顔でありがとうと応えた。
「ヒルト、シャルル君、お疲れ!」
「あぁ、親父、どうだった?」
「うむ、俺としてはなかなか白熱した戦いだったぞ?――まあ子供たちが武器を使って戦うのは俺としては複雑な気持ちだが……――それよりもシャルル君、凄く銃の扱いに長けていたね?おじちゃん感心したよ!」
一瞬、親父の本心が漏れたのか複雑な表情になったが、直ぐ様笑顔に戻った。
――親父がそう思うのも無理は無いだろう、普通の親なら誰しもがそう思うはずだし。
話は戻して、シャルルは銃の扱いの事を親父に誉められると少し照れながら――。
「あ、ありがとうございます、お父さん」
「む?シャルル君、美冬はやらんぞ?」
「あ、あははは……」
『お父さん』と呼ばれたので、表情は笑顔のままだがちゃんとと釘を刺す親父――ってかシャルル、女の子だから美冬を嫁に出来んが。
そんな親父の言葉にただただ苦笑するしかなかったシャルルだった。
「ヒルトさん、デュノアさん、お疲れ様でした」
そう俺とシャルルに告げるセシリア、その表情は親父や母さんと同じく笑顔だった。
「あぁ、ちょいアリーナを荒らした気もしなくはないがな――セシリア、一夏達は?」
「織斑さん達なら向こう側の観客席で観戦していますわよ?」
「そうなのか?親父、双眼鏡借りるよ」
「おぅ!あまり女の子をウォッチングするなよ?ワッハッハッ」
そう向かい側を指差すセシリア。
親父の言うことに俺は苦笑しつつ、親父の手に持っていた双眼鏡を借り、覗き込むと向かい側の中段。
右に鈴音、左に篠ノ之、間に挟まれ一夏が座っていた。
何やら言い合っていたようだが、篠ノ之が拳を作ってぐぬぬといった感じの表情になっていた。
「――相変わらず篠ノ之は不機嫌そうな顔してるなぁ…。――てかまだ刀を帯刀してるって…辻斬りかよ」
「篠ノ之さんは朝、あの刀を使って居合いをなされてるみたいですわよ?」
「居合いを?――その割りには親指と人差し指の付け根に刀傷なかったが…」
一度一夏に手を見せている時に見たのだが、刀傷も無ければ普通の傷も無く、まさに白魚のような手をしていた。
――誉めすぎかな、篠ノ之の事を。
しかし…この学園に入学して三ヶ月程経つのだが未だに篠ノ之は俺に対して敵対心むき出しなのが気になる。
――ある種、男は一夏以外はダメだ的な?
何がダメかはわからんが、あいつの狭い視野では一夏が一番に見えるんだろう…一夏曰く、【ファースト幼なじみ】という数字で区別されてるのだから。
因みに鈴音が【セカンド幼なじみ】、哀れ鈴音…。
本人達の前で言ってないだけましだが――まあ俺が居ない所で二人に言った可能性もあるがな、これが。
「まあいいか、セシリアは向こうに行かなくて良かったのか?」
「え?――えぇ、ヒルトさんのお父様に試合の解説をしていましたので」
「うむ、セシリアちゃんの解説がわかりやすくてお父様も試合に夢中で興奮しっぱなしだったのだよ」
「うふふ、あなたはISの試合、初めて見たのよね?」
「おぅ!母さんが設計する所とかはいつも見てるがな」
腕組みしながら母さんと話す親父。
先程の深刻そうな表情は何処へやら、まあ興奮したのは本当だろう。
――ボクシングやプロレス、その他武道みたいに万人にとってはエンターテイメント的なスポーツなんだろうな…。
俺の感覚がおかしいのか、はたまた世界の感覚がずれてるのかは誰にもわからないだろう…。
「……まあとりあえず座るか、セシリア、隣座るぞ?シャルルは俺の隣に座りなよ」
「うん、そうだね」
言うや、俺とシャルルは観客席へと座った。
心なしかセシリアが座り直した時に距離が近く感じたのは気のせいではないのかもしれない。
「そろそろ土も入れ終えたようだし、未来&ラウラペアの試合か」
「……えぇ、そうですわね…」
――と、少し声のトーンが落ちたセシリアが気になり、表情をうかがうと若干苦虫を潰したような表情をしていた。
「セシリア、少しいいか?」
「え?――は、はい、何でしょうか?」
「……ラウラの事なんだが……もしアイツが謝るような事があれば許してやってくれないか?」
そう言うと、少し不機嫌そうな表情になるセシリア――無理もない、ラウラにやられて試合に出れないのもあるだろうし…。
鈴音がここに居たらグーで殴られそうな発言だしな。
「……どうしてですか?ヒルトさん、あの方が何をしたのか知っ――」
「知ってるさ、だからこそ許してやってくれないか…?俺だって彼女がしたことを許せないさ――でも――」
「でも…?」
「――罪を憎んで人を憎まずだ。ラウラだって俺達のクラスメイトで仲間なんだ。――このまま友達も出来ずに孤立状態で、彼女が依存出来るのが織斑先生だけという状況は正直クラスの仲間の為にも、彼女自身の為にもならないと思ってな、これが」
――偉そうに人に語れるほど人生は歩んでは居ないが、俺自身…どうしても彼女を放っておけない気持ちがある。
……ラウラは、寂しいんだと思う。
一度、学園の屋上で見掛けたときの表情が俺には寂しそうに見えたし……まあこれは俺の勝手な想像だから本人は否定するだろうが――。
セシリアも、俺の真剣な表情に思うところがあったのか口を開くと――。
「――わかりましたヒルトさん」
「良いのか?」
「えぇ、ですがその代わり――【条件】を言ってもよろしいかしら?」
【条件】という言葉に、俺の隣のシャルルもピクッと反応し、聞き耳をたてているようだった。
「――無理な条件じゃなければ何でも構わないぞ?」
言うや、軽く咳払いをするセシリア。
「――では次の試合、絶対に勝ってくださいな」
「……わかった、セシリア――やるからには勝つさ――」
そう言い、聞き耳をたてていたシャルルの肩を抱くと――。
「わあっ!?」
「俺とシャルルでな」
驚いたような表情になるシャルル、そして一気に頬が真っ赤に紅潮していた。
急に肩を抱かれたからだろう…だが今は【男同士】だ。
過剰な行為だが、時にはこのぐらいしないといけない――一夏みたいに、シャルルに毎回迫るような行為はしないが。
「――んじゃ、負けないためにもISハンガーに行って村雲の調整するかな」
「む?ヒルト、試合見ないのか?」
――と、さっきまで母さんと談笑していた親父が顔だけを此方に向け。
「あぁ、試合が気にならない訳じゃないぜ親父?未来の試合なんだしな――まあ組んでるパートナーが【ラウラ】ってのもあるから負け――」
「【ラウラ】?」
ラウラという名前に反応した親父に若干驚きつつも、俺は聞き返してみた――。
「親父、知ってるのか「ん?いやぁ、昔の知り合いでそんな名前の子が居たってだけで反応しただけだ、ハッハッハッ」
――そりゃそうだよな、名前が同じだと少し反応するのは誰しもあることだと思うし。
俺だってヒルトって名前のやつが他に居れば絶対反応するしな。
――と、ここでBピット口から本日の未来&ラウラペアの対戦相手ペアが射出され、アリーナへと降り立った。
二人の名前は知らないが、二人とも打鉄を身に纏っているが、打鉄のシールドが通常の物よりも大きいのが特徴だった――多分、打鉄用パッケージだろう。
そして、Aピットからはラウラ、続いて未来が射出――今回の未来は打鉄のようだ。
――その日に申請すればISを選べるのだが大半の生徒は初期に選んだISのままなのだが、未来は申請したようだな。
――と、俺の手に持っていた双眼鏡を親父は取ると、そのままアリーナ中心を双眼鏡で見――。
「おぉっ!?未来ちゃん成長したなぁ…小さい頃はこんな豆粒だったのに、スタイル良くなって…おじちゃん嬉しいぞっ!!」
「親父…自重しろよな。母さん怒るぞ?てかセクハラで未来に訴えられるぞ?」
「うふふ、このくらいの事なら怒らないわよぉ」
――と、笑顔の母さんだが、逆にそれが怖い。
「――かぁーっ、あの子は成長不足だなっ!胸がちっぱいで身長もミニマムじゃねえかっ!?だが顔は可愛――ん?」
途中言葉が止まり、まじまじと双眼鏡で見つめる先は、あのラウラ・ボーデヴィッヒだった。
「……ラウラ・ボーデヴィッヒじゃねえかっ!懐かしいなぁっ」
「何だ?親父、ラウラの事知ってるのか?」
「おぅっ、前に言ったと思うがお前や美冬が小さい頃にな、ドイツの偉い人からの依頼を受けてあの子達のサバイバル教官をしたことがあってな」
うんうんと頷き、感慨深くなっている親父。
「もしかして親父さ、ラウラに『もっと笑顔でニカッて笑いな』的な事をあいつにも言ったのか?」
「おぅ、言った言った。ラウラはいつも感情があまり出なかったからな、だから俺としてはそこが気になって色々趣向を凝らして笑わせようと試みたんだがな、ことごとく失敗してな――でも、俺が任期を全うした最終日に、ぎこちないながらも笑顔で最後の挨拶をしたのが印象に残っててな、ワッハッハッ!」
――成る程、ラウラの言うあの人がうちの親父だったとは……世界は広いようで案外狭いとはこの事だな。
――詳しくはわからないが、ラウラにとって親父はもしかしたら多少の感情に影響を与えた存在なのかもしれない……あくまでも俺の考えだから、本心はわからないがな。
「おぅ、ヒルトわりぃな、引き留めちまって。整備してくるなら行って万全の準備しろよ!」
「あぁ、なら行って――」
そう告げている途中、母さんが立ち上がると、俺へ視線を向け――。
「じゃあお母さんが村雲の調整手伝おうかしらぁ?それに、村雲にちょっとやらないといけないこともあるから」
そう告げ、いつものように笑顔に変わる母さん。
――こうやって何度見ても母さんは二人の子を産んだ母親とは思えないぐらいのスタイルを維持し、尚且つ童顔であるから美冬と並んで買い物に行くと姉妹に間違われる事も多々あった。
――親父も、まだ二十代後半と言ってもそれを貫き通せるぐらいの顔だ、身体は俺より一回り大きいが。
筋肉もついており、腹筋も割れていて殴ると鉄板が入ってるんじゃないのかというのは親父の元同僚の人が言ってたな。
――今更だな、母さんや親父の事を考察するのって。
考え事をすぐやめると、俺は母さんの申し出を受けることにした。
断る理由もないし、何より村雲の産みの親とも言えなくないからな。
――てかそうなると村雲は俺の弟か妹みたいなものかな?
「ん?――母さんが手伝ってくれるなら百人力だな。シャルルも手伝ってくれるか?」
「ふぇっ!?い、いいの…?」
いきなり話を振られ、軽く狼狽したシャルルに対して頷くと――。
「パートナーだろ?なら手伝うのは当たり前じゃん」
「うふふ、そうねぇ。『パートナー』だものねぇ~」
何故か『パートナー』を強調した母さん、気になって視線を送ると笑顔で返された。
「じゃ、じゃあ遠慮なくお手伝いするね…?」
そう遠慮がちに言ったシャルル――と。
「こほん。――ひ、ヒルトさん?わたくしもお手伝い致しますわ」
――わざとらしい咳払いをすると、セシリアは少し視線を反らしながら言ってきた。
「ん?手伝いなら母さんとシャルルだけで構わないさ」
「なっ!?わ、わたくしの厚意を無下にするのですか!?」
何か気にさわったのか、セシリアは若干詰め寄る形で迫った。
心なしか密着してるのは気のせいではない……ドキドキするから勘弁してほしいのだが。
「そ、そうじゃねぇって…セシリアには親父と一緒にこの場に居てほしいんだよ」
「……お父様と…ですか?」
「あ、あぁ。親父に問題起こされでもしたら敵わないからな」
「おぃおぃヒルト、俺は何もしねぇって」
当然の抗議の様に言うが、顔は笑顔のままの親父。
「念のためだよ、前に問題起こしたやつが居るらしいからな」
あくまでも噂単位で真実はわからないが――。
「って訳でセシリア、親父を頼むぞ?セシリアだけが頼りなんだ」
「わたくしだけが…?――わかりました、ヒルトさん。このセシリア・オルコットに全てお任せくださいな」
何やら急にやる気を出したセシリア。
【セシリアだけが頼りなんだ】の部分辺りから瞳をキラキラさせていたのだからもしかすると褒められるのに弱いのだろうか…?
またはセシリアは俺が好きでしたー……は無いか。
「んじゃ、母さん、シャルル、行こうぜ?」
「えぇ、久々に村雲に触れるわねぇ♪」
両手を重ねて笑顔の母さん。
――この反応が受けるのか、いまだにナンパされるとか。
「うん、じゃあ行こっ?」
シャルルもそう言うと、席を立ち上がり、ISハンガーへと向かった――。
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