その凌辱ゲーを、ぶち壊す!
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序章:――
第一話:「まったく、いい人生だった――!(嘘)」
トラックってすげぇ。
人は空を飛ぶために様々な試行錯誤を繰り返してきたわけだけれど。現代の科学力というものは実に恐ろしいことに、何気ない日常の中で何気なくソレを実現してしまえるのだと、俺――赤神祐司は空を舞いながら思う。
一瞬だけ、だけど。
「あ、が――っ」
ドカ、バキ、グシャリと。身体全身から音が聞こえたかのような錯覚と共に、アスファルトの地面が視界を覆い尽くす。
あぁ。よかった。思ったよりも痛くはない。なんというか、びっくりしすぎて心臓がの音がうるさいなぁと思うだけ――、
「うぐっ、おぇええぇえぇ……」
などと思っていたのも束の間。胃の中身と血を吐き出した瞬間に、内と外から全身を駆け巡る激痛。視界はぐるぐると回転して地面とそうでない場所の境界があやふやになっている。今俺は寝そべっているのかなんなのか、状況を全くつかめない。ついでに右目が見えない。
意識が痛みに浸食されていく。このまま痛みに身を委ねれば、楽になれるだろう。気を失ってしまえば、こんなつらい思いをせずに済む。
――けれどもうちょっとだけ……。
自由にならない首と視界を無理やり動かして、俺はそれを探す。
「……にゃ~」
「……!」
それは――一匹の白猫が、俺の顔のすぐ傍で遠慮がちに鳴き声をあげた。
よかった。猫は無傷みたいだ。足元だけがなんだか不吉に真っ赤に染まっているけれど、それは多分俺の血潮だろう。
そりゃまぁ、トラックに挽き肉にされるのと、俺の黄金の右脚(笑)で蹴っ飛ばされるのとでは、比べようがない。
もしもトラックにぶつかっていたりしたらどうなることか、それは現状の俺自身が物語っている。
――あ、いつの間にか痛みが無くなってる。引き換えといってはなんだけれど、全身の感覚も一緒に無くなっているわけだが。
ちゃぷんと、水の跳ねる音が耳のそばで鳴った。
ぷかぷかと、血だまりの上に浮いている丸いアレはいったい何なのか。紐みたいななにかがそこから伸びていて、それを視線だけでたどってみると――。
俺の右目じゃん。
と、声に出したつもりだったのだけれど、実際には、『かひゅー』と風船から空気が萎んでいくような音しか喉からは出てこない。
……死ぬんだろうなぁ。これは。
人は、死んだらどこへ行くのだろうか。輪廻転生、天国地獄。もしも叶うのであれば、死後の行き先が自分の意思で決められるというのであれば、やっぱり"楽園"を目指したいと思うのが人の心というものだろう。
どうせなら行きたいなぁ、二次元の世界。
……お。これが噂に聞きし走馬灯か。そういえば、先ほどまでは確かにあったはずの聴覚や視界までもが、既に現実世界を観測することを放棄しているかのごとく、何も見えない聞こえない。
変わりに映し出されるのは、俺の二十三年間の記憶。
小学生の時にアニメや漫画、ゲームの素晴らしさを知った。
中学生の時、ニコ○コに出会った。
高校生にの時に、エロゲと触れ合った。
積みあがるエロゲの塔。ひたすらにパソコンの画面と対話を繰り広げた大学時代。そして、今。
……なんというサブカルチャー人生。もし死んだ先に閻魔さまが現れたとしたら、こんな俺は間違いなく地獄行きだろう。堪忍しておくれ。あと五十年は生きるつもりだったんだ。それで挽回するつもりだったんだ。
つーか、もうちょっと俺の人生いろいろと波乱万丈あったわけで。たった四行で語られたりしたら元も子もないわけですよ。
えっとほら、妹に馬鹿にされたりとか、幼馴染にフラれて失恋したりとか!
……負け犬ェ……。
もう死のう。さっさと死のう。
◇
赤神祐司、事故死より二時間前。
◇
「あー……。鬱ぅー……。死にてぇー……」
自室でベッドにうつ伏せで寝転がりながら、俺はぶつぶつと、「鬱」だの、「死にたい」だのと呟いていた。
初っ端からウザいヤツだと思うかもしれないが、仕方ないじゃないか。
両思いだと確信していた幼馴染の藍川優紀子に、今日、いまさっき、振られたばかりなのだから。
物心ついた時からの付き合いで、小学校から大学まで同じ所に通って。
周りからは何度も、『お前ら付き合ってるんだろ』って言われるほどに、二人で一緒に居たのに。
いやまじで。妄想じゃないんだぜ? 優紀子は優紀子で、所謂BLモノに傾倒する腐女子だったりするわけで、趣味もかぶっているのだ。
まあ振られたんだけどね!
「うぅ~、う?」
そろそろうつ伏せが苦しくなってきたので、身体を転がして仰向けになると、
「……」
何故か部屋の扉が全開になっていて、その向こうの廊下に、妹の鈴菜が仁王立ちしていた。
俺を不機嫌そうな顔でじ~っと見つめてる。
やべっ、さっきの愚痴を聞かれてたか? いつからそこにいたんだ、アイツ……。
「……あんた、振られたの?」
「……」
「……はっ、ざまみろ。身の程を知れよ馬鹿兄貴」
「!!」
信じられない暴言を残して、鈴菜は冷やかに笑いながら廊下から立ち去る。
アイツ、ほんとになんなんだあの腐れ妹……。傷心に塩コショウを塗りたくるような真似しやがって……。
一瞬頭に血が昇ったが、何かを言い返す気力すら失っていた俺は、去っていく腐れ妹の後姿を見送ることしかできなかった。
くそ。今日はなんて最低な日だ。
この鬱憤を如何にして晴らすべきか。こういう時は、お馬鹿で明るいエロゲをやって、心を癒すべきか?
……いや。ここは敢えて凌辱モノだろうか。どうせなら、生意気な妹や幼馴染を服従させるようなヤツがいい。
正直俺はストーリー性を重視するエロゲばかりやっていたので、そっち方面は未開拓だったりするのだが、この機会に手を出して見るのもいいかもしれない。
優紀子に振られたんなら、俺は生涯一人身確定の人生だ。アイツに気を使って、そういうエグイゲームには手をつけていなかったのだが、もういいだろう。
そう思った俺は、ベッドから降りて外出の準備をする。
準備と言っても、つい先程、隣の家に住む幼馴染に告白(笑)しにいった格好のまま着替えてなかったので、財布と家の鍵を装備するだけなんだけど。
手早く身支度を済ませて、俺は家から出た。
◇
赤神祐司、事故死より三十分前。
◇
「こ、これは……」
何件かゲーム屋をはしごして、最後にやってきた知る人ぞ知る二次元ショップにて、俺は求めていた品物を見つけた。
〝マレフィクス・オムニス ~哀れなる少女たちの陵辱劇~"
つい最近発売されたゲームで、総勢30人の女キャラを、ありとあらゆるシチュエーションで犯しまくるという内容だ。舞台は中世ファンタジーだろうか。パッケージは悲壮な表情の女の子たちの後ろで、不敵なニヤケ面を醸し出しているイケメンだ。
裏面を見て見ると、絵柄は存外にライトな感じ。凌辱系初心者の俺でも抵抗なくプレイすることの出来そうな絵柄で一安心。
端っこの方に小さな文字で、『このゲームには、グロテスクな表現が含まれます。心臓の弱い方はプレイをしないでください』なんて書かれているけど、どうせ誇張だろう。きっと、凌辱系のゲームにはみんなこういうことが書かれているに違いない。
しかし、30人ってすげえなおい。絵師も5人、シナリオライター6人の超大作。昨今の陵辱ゲーは気合の入り方が違うんですねぇ……。
これだけ人数が入れば、幼馴染シチュや妹シチュだってあるに違いない。シナリオライター全員、信頼できる人だし。
良し決めた。せっかくだから、俺はこのゲームを選ぶぜ!
俺はすぐさま会計をすまして、帰宅することにした。
◇
――赤神祐司、事故死より三十秒前
◇
「~♪」
目当てのゲームを手に入れて、口笛なんかを吹きながら上機嫌に車道沿いの道路を歩く。
ちなみに、ゲームの入った袋は、左腕に巻きついてぶら下がっている状態だ。
買い物をしたときの癖なのだ。深い意味はない。
やがて、信号に差し掛かった時、俺は気になるものを見つけた。
「……猫」
真っ白な猫が、我が物顔で車道を横切っていたのだ。
危ないなあと思いつつも、まあ信号は赤で、車はみんな止まってるし、問題ないだろうと目を逸らした時、
――右手の車道から、赤信号を無視して、暴走するトラックを見つけてしまった。
「……やばいっ!!」
咄嗟にガードレールを飛び越えて、猫の方へと走る。
猫はトラックにも俺にも気づいていないのか、ゆったりとした動きで車道を渡っている。このままでは、冗談ではなく挽肉になってしまう。
轢き逃げなだけに! とか冗談を考えてる余裕はない。
やがて、俺の存在に気づいたのか、トラックは盛大にクラクションを鳴らす。
その音に気づいた猫は、その場で立ち止まって、音のした方向を向く。逃げ出そうとする様子はない。
「くそっ!」
一か八か、俺は猫を手で突き飛ばすのを諦めて、足で掬いあげるようにして歩道へと蹴り飛ばす。
この時、出来るだけ力を入れずに、猫が痛くないくらいの力加減で、左足は添えるだけ……、などと考えていたせいで、俺は一秒ほどその場に留まることになってしまった。
――その一秒が、命取りだった。
全身に響く衝撃と、浮遊感。
暴力的な鉄の塊は、体重六十キロの俺を軽々と宙へと飛ばした。
◇
赤神祐司、事故死より3秒前
◇
周りに人だかりが出来て、叫び声が聞こえる。なんだよ見せもんじゃねーぞ、こんちくしょー。
あっ。そういえば左手にエロゲ持ってるんだった。うわぁ~、酷い死に様だ。みんな俺を指差して笑ってるに違いない。
ホント、最後の最後まで下らない人生だった。楽しかった思い出なんて、ゲームや漫画にアニメだけだった。
……、まあ、優紀子や鈴菜のことはちょっと心配かもしれない。優紀子は一人じゃなにをやっても駄目な奴で、リアル天然ボケだったし、鈴菜に至っては、俺が死んだら天涯孤独人生に突入だ。幼い頃に、両親は二人揃って病死してしまったのだ。
まあ、なんとかなるだろう。優紀子は多分、彼氏がいるんだろうし、鈴菜は俺のことを目の敵にしていたのだ、むしろ死んでくれて感謝してるかもしれない。
あー考えるのもめんどくさくなってきた。
こういうときはアレだ、かのヤブ医者の名言を残して、現世とお別れしようじゃないか。
「――まったく、いい人生だった……っ」
あ、でも新作のエロゲがプレイできなかったのは超心残りだ。
それにパソコン。あのHDDの中身は、俺が死んだあとどうなってしまうのだろう。考えただけでも全身から血を噴き出してしまいそうになる(ブラックジョーク)。
――最後の最後まで、締まることのなかった俺の人生が、ここで終わった。
――赤神祐司、死亡。
享年二十三歳。
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