その凌辱ゲーを、ぶち壊す!
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序章:――
第二話:猫(神)の恩返し 前篇
――ここは何処ぞ?
気がつけば、俺は真っ白い不思議な空間に立っていた。
いや、立っている、というのは違うかもしれない。何せ、上も下もただただ白い背景が伸びるだけで、方向感覚はおろか平衡感覚すらもなく。
そんな場所に、俺は普段着で浮いているような状態だ。
違和感にもほどがある。
なんで俺はこんなところにいるんだろう。と考えて、俺はついさっきトラックに跳ね飛ばされた上、アスファルトに叩きつけられた直後であることを思い出した。
「つまり、ここは死後の世界ということで、FA?」
「……残念」
「え? 誰だ? 誰かいるのか?」
まさか答えが返ってくるとは、しかもはずれだとはこれっぽっちも思っていなかったので、焦る。
きょろきょろと周りを見渡して見るが、なにもない。
「ここだにゃ。ここ」
「えっ?」
再度、声が聞こえたのと同時に、俺は足元に違和感を感じて、下に目を向けた。
すると、いつの間にか靴の上に白い猫が寝転がっていたのだ。
「あっ。あの時の白猫」
耳の先からしっぽまで真っ白なのが特徴的なその猫は、俺が暴走トラック助けた、あの猫であるとすぐに気づく。しかし、
「おはよう」
「え、あ、おはよう……、って、おぉ、このヌコ……っ!」
喋ってる!
声めっちゃ可愛いっ!
「ふふん、何もそんなに驚かなくてもいいんだにゃ」
「猫っぽい語尾まで完璧だとっ! あざといっ!」
「おみゃーさんは何に驚いていたんだにゃ……」
「"喋る猫"なんて、この界隈ではよくあることですが、その声がとても可愛いことに驚いてました」
「……うれしいにゃー」
全然嬉しくなさそうに言う白猫。
まあだって、最近では猫が恩返ししに来たり、イカが地球を侵略しに来たりするくらいだしな。(←二次元脳)
もう古いか……。
「というわけで、やっぱりお前も俺に恩返しをしにきたのか?」
「ある意味そうにゃんだけど、ちょっとおみゃーさん、図々しいにゃ」
「さーせん」
「とりあえず、おみゃーさんは、あの事故で死んだのにゃ」
「おぅっ……」
やっぱ死んでたかー。そりゃそうだろう。
まさに血祭り状態だったし。目玉飛び出してたし。走馬灯もばっちり見たし。
しかしこうして面と向かって、『お前は死んだ』なんて言われちゃうと、結構クるものがあるな。やり残したこととか、悔いとか、結構あるんだぜ……。
「……あれ? でも、ここは死後の世界じゃないんだろ?」
「そう。ここはあの世と現世の間であって、死後の世界とは違うんにゃ」
「……三途の川らへんか」
「まあ、当たらずも遠からずにゃ。普通、人が死んだらあの世に直行にゃんだけど、そこをみーの力で引き止めたんだにゃ」
「なるほど、流石だ。猫は十年以上生きると、人語を解し、妖しの力を使えるようになるというからな……」
「キャットキック!!」
「ごふっ!?」
猫は突然怒りをあらわにし、俺の鳩尾にドロップキックを炸裂した!
見た目以上の脚力と、技名からは想像できないような攻撃力が、俺を襲う。
「みーを妖怪にゃんぞと一緒にするにゃ! みーは神様にゃ!」
「え、まじで?」
「にゃ!」
敬え、跪け! とばかりに、二本足で立って、えへんと胸を張る白猫、もとい神様。
神々しさは微塵も感じられないが、説得力はあった。
なぜなら、事故で死んだはずの俺の魂が、なんとか冥界付近で留まっているのは、たしかにこいつのおかげらしいのだから……。(←二次元脳)
あれ? でもちょっと待てよ?
「なあ、神様なら、なんであの時トラックに轢かれそうになってたんだ?」
「神様だからって万能じゃにゃい。視界以外のモノは見えにゃいに決まってるだろうが」
「え? 神さまって、そんなもんなの?」
「神様だからって何を期待してるんだにゃ。神は全能だなんて、人間たちの勝手な妄想だにゃ」
おっそろしいことを言い出しましたよ、この猫。いや、神か。
深く掘り下げると色々なものを敵に回してしまいそうなので、俺は当たり障りのない言葉を選んで話題をそらしておく。
「神様も視界に縛られるのか~」
「当たり前だにゃ」
ペロペロと、毛繕いをしながら衝撃的な事実を言ってのける猫(神)。
いや、神(猫)なのか?
「まあ。全能ではにゃくたって、トラックに轢かれたくらいじゃあ、みーも死にゃあしにゃいんだがにゃ」
「へえ、頑丈なんだな。流石神さま」
「えっへん」
「ん?」
「にゃ?」
あれ。あれれ? 『トラックに轢かれたくらいじゃ死なない』とな?
「え」
「あ……」
エエエエエエエェェェェェ(´Д`;)ェェェェェエエエエエエエ!?
驚愕の事実。
「じゃあ、俺って、もしかして……」
「にゃあ」
「もしかして……」
「ごろにゃー」
「……何とか言えよ」
「ごろごろ」
急に喋れなくなりました―、とでも言わんばかりに、片腕で顔を拭う仕草をする白猫。
普段ならヌコ萌え~、なんて具合に癒されるシーンなのだろうが、この状況ではそんな心の余裕はない。
「いわゆる、無駄死に?」
「無駄死に」
ヌコ語萌え~。
なんて和んでる場合でもない。
「いや、まあ、神様でも痛いことは痛いから、無駄は言いすぎたんにゃ。せいぜい、骨折り損のくたびれ儲けくらいにゃ」
「骨折るどころの騒ぎじゃなかったけどなっ!」
くたびるどころか、ひしゃげてたしな! 俺!
「にゃははははは」
「笑うところじゃねーだろ」
笑いどころですらねーよ。
なんてこった。馬鹿やっちまった。完全に死に損じゃねえか……。
「んで、そんなお馬鹿なおみゃーさんに、選択肢があるんにゃけど」
「なんだよ」
「このままあの世に行くか、別の世界で別人として生きるか、にゃ」
「……ん?」
流れ変わったか?
「流石に、みーの危険を案じて助けてくれた馬鹿を、笑ってあの世に見送れるほど神経図太くにゃいよ。みーは神様だから、生き返らせることは無理にゃけど、せめて別世界に転生という形で召喚させることくらいにゃら出来るにゃ」
そう言って、白猫は足元を指(?)差す。
そこに現れたのは、俺が事故に遭う直前に購入したエロゲ『マレフィクス・オムニス』だ。
外箱はズタボロになっていて、まるで丸めたティッシュのような形になっていた。それでも、袋に包まれていたおかげか、俺の血がこびりついているようなことはなかったので、なんとかタイトルを読み取ることが出来たのだ。
「おみゃーさんの左手に巻き付いてたヤツを持ってきたんにゃ」
「……こ、これはまさか」
このシチュエーション。神様。異世界。転生。
そしてエロゲのパッケージとくれば、あとは……、
「――行き先は、このゲームの世界にゃんだけど」
「行きたい(小並感)」
「にゃにゃ、即決だにゃあ、もうちょっと色々考えた方が――」
「考えるまでもないだろうがぁあああああっ!!」
「にゃにゃ!? びっくりした」
「うひょぉおおおお! み な ぎ っ て き た !!」
「すごいテンションにゃ……」
そりゃそうだろう!
ていうか、"異世界転生"ってだけでも胸熱すぎるのに、加えてエロゲの世界ってをい!
つまり二次元の世界だぜ!? 長年夢見たユートピアだぜ!? テンション上がらずにいられるかぁああああっ!
「神様! ありがとぉ!! 本当にありがとぉ……っ! くうぅ……」
「泣くほど嬉しいのか……。まあいい。行くにゃら行くで、色々としにゃきゃにゃらにゃいことがある」
「もう一回言って?」
「しにゃきゃにゃらにゃいことがある」
「ルビの無駄遣いだ……」
「黙れ」
白猫はぴしゃりと言いのけて、俺から数歩分くらい離れて、こちらを振り向く。
「ちょっと目を閉じるにゃ」
「? こうか?」
言う通りに目を閉じる。
どきどき。
「な、何が始まるって言うんです?」
「――今から、おみゃーさんとみーは、ある契約を交わすのにゃ」
「契約?」
「そう。おみゃーさんにとっての異世界で、生きていくために必要な力を、今から授けるにゃ」
「な、なるほど」
確かに、エロゲの世界。しかもファンタジー世界だ。
地方国家日本の大学生で、もやしっこでオタクな俺なんて、転生後二秒で御臨終だろう。ファンタジーの世界は厳しいのだ。某落ちこぼれの錬金術師だって、苦労していたし。
そこで、神様との契約。うむ、お約束だ。
しかし、契約の内容が読めない。目を瞑ってるだけなんてことはないよな。痛いのはやだなぁ……。
などともんもんとしていると、
「――はい、目を開けるにゃ」
「お、終わ……っ!?」
目を開くと、俺の目の前に映る風景は、ガラリと変わっていた。
まず場所。
さっきのような、果てのない白い空間ではない。まるで王族か貴族の部屋のような様相が、そこには広がっていた。
豪華絢爛な装飾の施されたベッド。
淡く室内を照らすロウソク。
その他、部屋の品格の高さを示すかのように、所々に配置されている調度品の数々。
だが、それらは俺の視界に入りつつも、認識までいかない。なぜなら、
「――ようこそ、我が閨へ」
全裸の美女が、ベッドに足を組んで腰をかけて、妖しく微笑んでいたからだ。
「……っ!? な、なっ!?」
「ほれ、こっちにくるにゃ」
美女は、腰かけているベッドの脇をポンポンと叩く。
状況が飲み込めない。突然の場面転換に全くついていけない。
それになにより、目の前にいる美女の裸体が、俺の網膜はおろか思考までを支配してしまう。
血色の好さそうな、張りのある肌。四肢は細くて長いくせに、貧相さだとか貧弱さを全く感じさせない、健康的な肉付き。
足元まで伸びる長く白い髪は、やや薄暗い室内にあって、煌めくように輝いていた。
――そして胸。
おっぱい。
大きいのではない。かといって小さいのでは、決してない。文句のつけどころのない形と、ツンと上向きに反る、おっぱい。
思考停止ってレベルじゃねーぞ。童貞舐めんな。リアル生肌なんて、小学生の時に優紀子のを見たことがあるくらいなんだよ馬鹿やろう。あと妹のもか。
「にゃにをぼーっとしてるんだにゃ?」
「……へっ!?」
気づけば、いつのまにか俺は美女の隣にちょこんと座っていた!
完全に無意識だった……っ!
「にゃ?」
俺の顔を覗きこむかのように、美女は上目遣いに俺を見上げる。
これは、やばい。
すぐ右隣に、お互いの息が感じられるほどの位置に、美女の顔。手をほんの少し動かせば触れてしまう場所に、極上の身体。
「じゃ――」
お互いの体温が伝わるかどうかという、微妙な一線を超えて、美女は俺に身体を押し付ける。はじめて実感する胸の感触に、失神しそうなほどの衝撃を受けるのも束の間、
「――にゃにゃ。これより契約を、始めるにゃ」
言って、美女は俺を押し倒した。
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