IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第310話】
一夏が休憩から戻る頃には、大体の客を捌ききった。
――というのも、やはり成樹のおかげであり、一気に一番人気になったのもあるだろう。
次点で一夏だが、成樹との接客差で圧倒的に成樹が上回った結果、一夏もオーダー運び兼成樹がテーブルに向かえない時に頼む予備員的な立場に――。
他だと、メイド人気は皆が好評――勿論、篠ノ之も……。
まあ接客は壊滅的だが、前述の篠ノ之束の妹だからというのもあるからだろう。
……見た目は大和撫子と言われてもおかしくはないが、中身は壊滅的だからなぁ……。
――と、燕尾服の裾をくいっと引っ張られる。
誰かと思ったら、鷹月さんだった。
「お疲れ様、ヒルト君」
「あぁ、鷹月さんもお疲れ様。 ……まあ、俺は疲れるほど動いてないけどな、ハハッ」
「そんなこと無いよ? 雑務班のゴミ出しもそうだし、笹川君のフォローや篠ノ之さんのフォローと頑張ってたじゃない」
「おぉぅ……そんなに見られてたか」
照れ隠しで鼻の頭をかくと、鷹月さんはクスクスと微笑を溢す。
「ふふっ。 それはそうと休憩してきてもいいよ? 一旦お店も体勢を整えないといけないし」
「……そうだな、繁盛し過ぎて材料とかもまた運ばないとだし――てか、それだと休めないな」
「ふふっ、そこは大丈夫よ? 私がフォローするし……。 ほ、本当ならせっかくの休憩、一緒に学園祭見て回りたいけど……ね」
「え?」
一瞬耳を疑う言葉――ハッとした表情になる鷹月さんは慌てて。
「あ……、い、今のは嘘だからね……ッ。 つ、つい口が滑ったって言うか……あはは……」
何とか笑って誤魔化そうとする鷹月さん。
「と、とにかくさっきの言葉は忘れてね? い、一時間ぐらいなら平気だし、休憩に出てもいいから」
頬を赤く染め、微笑む鷹月さん――追求するのも嫌だし、とりあえず忘れる事にする。
「鷹月さーん、ちょっと相談がー」
「あ、はーい。 ……じ、じゃあ後の事は私に任せてね?」
そう言ってスカートを翻し、パタパタと慌てて雑務班の子の元に向かっていった。
「ヒルト、お疲れ様」
「ん? 成樹こそお疲れ。 ……悪かったな、せっかく学園祭を楽しんでもらおうって思ったのに」
「ううん。 僕は大丈夫だよ。 ……そういえば、拓斗君達来なかったね?」
「……そういやそうだな、どうしたんだろうか?」
二人でそう言って気にはなるが、多分IS学園を満喫してるのだろうと勝手に結論つけた。
……一組以外でも出し物は沢山あるからな……確か、何処かの部活ではエアガンを使った的当てゲームとかあった筈だし。
「一応休憩らしいが成樹はどうする?」
「ん? せっかくだし、僕はここで手伝うよ。 ……それに、ヒルトは少し休憩しないとね? 皆の為にも」
「ん?」
そういや体勢を整えるって事は現状の接客班も休憩時間って事だよな。
……そう思ってると、篠ノ之が――。
「さあ行くぞ一夏! 休憩時間はあまり無いのだからな!」
「え? お、俺は弾と一緒に――」
「わ、私と一緒だと嫌だとでも言うのかッ!? えぇぃッ! いいから着いてこい馬鹿者!」
……そんな馬鹿らしいやり取りをしながら無理やり一夏を連れ去る篠ノ之。
――そういや、成樹の仕事ぶりにケチはつけなかったが、一夏よりも人気があって仕事が出来る辺りはあまりよく思わなかったのか睨んでたな……。
……いや、いつもあんな目付きなだけかもしれないが。
――本当、外見スペックは高いのに中身が残念だと韓国の次世代戦車、K2を思い出させるな……。
「……篠ノ之さんって、テレビでいってた報道とは違うんだね?」
「ん? ……そっちではどんな報道されてるんだ? 此方も入るには入るが、基本皆が音楽番組やバラエティーばかりでニュース見れないんだよな……。 投影ディスプレイも高いし」
「そうなんだ? ……んと、テレビの報道だと『品行方正で大和撫子』って感じで言ってたかな?」
「……見た目だけならそうかもな」
……こんな内容だから、マスコミは嫌われるんだよ。
……とはいえ、やはり篠ノ之束の妹だから、下手に批判するよりはスターやアイドルみたいに持ち上げるのが良いという判断だろう。
――何にしても、あいつ自身が変わらないと流石に擁護されなくなるとは思うが。
「……そうだ成樹。 俺が居ない間、多分女子が色々成樹に近付くが――」
「大丈夫だよ。 ……僕自身、今は紅茶に恋をしてるからね。 ――まあ、恋愛したくないって訳じゃないけど、彼女作るときは自分で見つけるから」
言いながらネクタイを再度締め直す成樹を見て、微笑を溢すと俺は――。
「なら安心だ。 んじゃ……一時間ほど休憩してきますかね」
「うん。 行ってらっしゃい」
絶やさぬ笑顔で見送る成樹――と。
「あら? ヒルトさん何処かに参りますの?」
「ん? あぁ、休憩がてら色々見ようかなってね」
「で、ではわたくしと一緒に回りませんか? せっかくですし、わたくしは貴方のお供をしたいのですが……」
胸に手を当て、ニコッと微笑むセシリア――と、ラウラと話をしていたシャルがそれに気づき。
「あああっ! ぼ、僕だってヒルトと一緒に回りたいのにセシリアずるいよ~。 ぼ、僕と一緒に回ろうよ、ヒルト♪」
珍しく声をあげるシャルにびっくりするが、続けざまにラウラが――。
「む? なら私もヒルトと共に回りたいぞ。 ――私の嫁である以上、断る理由はないだろ、ヒルト?」
腕組みしつつ真っ直ぐと見つめてくるラウラ。
「わ、私もお兄ちゃんと一緒に回りたいかな? ほ、ほら、美味しい食べ物巡りとか♪」
人差し指を立て、美冬がやって来る――更に。
「じ、じゃあせっかくだし、私もヒルトと回ろうかな? ……た、たまには良いでしょ? 幼なじみだもん」
そう言って視線を逸らすもチラチラと俺を見る未来。
「……うーん、じゃあ誰か一人ってなると後で大変だから一人約十分で回らないか?」
本当なら、一人を選んで回りたい所だが目に見えて落ち込むその様が目に浮かぶ為、良案とは言えないが提案すると――。
「……そうですわね。 それなら誰に対しても不公平な事にはなりませんもの」
「そうだね。 ……例え十分でも、ヒルトと二人きりだし……」
「ふむ。 ……十分か、なら何処を回るか模索せねば」
「お兄ちゃんらしいね~。 ……き、嫌いじゃないけどね」
「とりあえずじゃんけんで誰が先に回るか決める? 私は行くところ決まってないから最後で良いけど」
ワイワイざわつき始める中、真っ先に手を上げたのは――。
「じ、じゃあ僕からで良いかな? もう行く場所決まってるから♪」
真っ先に上げたのはシャルだ。
そんな様子にセシリアが――。
「お、お待ちくださいな! わたくしも既に決めてありますの、ここはじゃんけんで――」
「ならば私もじゃんけんに参加しよう。 もう行く場所を決めた」
――という事で、セシリア、シャル、ラウラの三人がじゃんけんをすることに。
……何だか、こうしてると女尊男卑かどうかがわからなくなってくるな。
「「「じゃーんけーん……ぽん!」」」
……考え事をしてる間に既にじゃんけんが始まり、一瞬で決着がついていた。
夏はあいこだったのに――因みにじゃんけんの勝者は……。
「えへへ……♪ 僕の勝ちだね♪」
シャルだ――何だかここ一番に強い気がするな。
「ま、負けましたわ……。 ですが、二番手はラウラさんに譲りませんわ!」
「フッ……。 笑止……私が二番をもらう!」
そう言って直ぐ様じゃんけんを開始する二人に、美冬と未来は苦笑しながら眺めている。
「じ、じゃあ早くいこっ? 時は金なりって言うでしょ?」
「おわわっ!?」
急に手を引っ張るシャルに、足が縺れそうになるも何とか体勢を崩さずに俺とシャルは人波を掻い潜って廊下を駆け抜けていった――。
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