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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第317話】

――第四アリーナ更衣室――


 演劇をするという事で、俺や他の面子は第四アリーナへと移動し、現在着替えの真っ最中。

 とはいえ、女子とは勿論違う場所で着替えてるため、今この更衣室にいるのは俺と一夏の二人。

 ……そして、着替え終えたのだが何ともまあシュールな服装な気がしてならない――と。


「ヒルト君、織斑君、ちゃんと着たー?」


 更衣室のドア越しから楯無さんのそんな声が聞こえてくる。


「あ、はい。 俺も一夏も着替えは終えましたよ?」

「なんだ、もう着替え終えてたのねー。 おねーさんがっかり」


 スライドドアが開くと、残念そうな声と共に入ってくる楯無さん。

 手には二つの王冠を持ち、俺と一夏に近づくや――。


「はい、二人とも王冠つけてね?」

「はぁ……」


 やはり着てる格好もあるのか、一夏の声は何処か沈んでいた――。

 てか、シンデレラって王子二人もいたかなって思うのだが。


「何よ、織斑君は嬉しそうじゃないわね。 シンデレラ役の方が良かった?」

「イヤですよ!」


 全力否定する一夏――まあ俺も、流石にシンデレラは遠慮したいな。

 服装は二人とも王子様が着る様な服で、俺と一夏は色違いだ。

 一夏は白と青のまさしく正統派王子様スタイル。

 一方の俺は黒と赤という闇落ちでもしたかのような暗黒王子スタイル――何だか、中二って思われそうな気がする。


「はい、ヒルト君。 君もこの王冠を被るのよ」

「……まあ良いですけど、王子様役二人も居て大丈夫ですか?」

「ふふっ、そこはあまり気にしないの。 ……さて、そろそろ始まるから二人は舞台袖に移動してね♪」


 俺と一夏の背中を押し、移動を促す楯無さん。


「……楯無さん、俺も一夏も脚本やら台本といった類いの物を見てないのですが大丈夫なんでしょうか?」

「大丈夫、基本的に此方からアナウンスするから、二人はその通りにお話を進めてくれればいいわ。 あ、勿論台詞はアドリブでお願いね、二人とも♪」


 笑顔を絶やさずに言うものの、正直不安しかなかった。


「あ、織斑君は此方の袖口から、ヒルト君は向こう側からでよろしくね?」

「……わかりました」


 一夏はそう言うと、一番近い袖口へと移動した――と。


「さて、ヒルト君には王冠が取られないように頑張ってもらわないとね?」

「……?」

「因みに、誰にも王冠が取られなかったら君には学食フリーパス一年分を進呈するから」


 ……魅力的な話ではあるが、何で王冠と関係があるのだろうか?

 反対側の舞台袖に到着すると、その足で楯無さんはアリーナ放送室へと移動した。


「さあ、舞台の幕開けよ!」


 そんな声が聞こえるや、ブザーが鳴り響き、照らされていた照明が落ち、第四アリーナは漆黒の闇に包まれる。

 まだ闇に慣れないまま、セット全体にかけられた幕が上がるのを感じると、再度アリーナのライトが点灯し、その眩しさに手を翳して灯りを少し遮った。


「昔々あるところに、シンデレラという少女がいました」


 当たり障りの無い普通の出だしに、多少疑問を感じつつも暫く様子を伺う。

 ――と、一夏がセットの舞踏会エリアへと移動した為、俺もゆっくりとした足取りで向かう。

 その間、シンデレラ役は誰だろうかという疑問が頭に過る――そういえば昔、未来はロミオとジュリエットでジュリエット役をやったかな?

 ロミオ役は成樹で、俺は確か……配役は木だったかな?

 ――と、ここで俺の耳を疑うようなナレーションが続いた。


「否、それはもはや名前ではない。 ……幾多の舞踏会わ抜け、群がる敵兵を薙ぎ倒し、灰塵わ纏うことさえいとわぬ地上最強の兵士たち。 彼女らを呼ぶに相応しい称号……それが『灰被り姫(シンデレラ)』!」


 目を白黒させ、俺は放送室を見上げる――俺が知ってるシンデレラとは違う気がするのだが――てか、何気に不安要素しかないんだが。

 そんな俺の考えも他所に、ナレーションは続いていく。


「今宵もまた、血に飢えたシンデレラ達の夜が始まる……。 二人の王子様の冠に隠された隣国の軍事機密を狙い、舞踏会という名の死地に少女達が可憐に舞い踊る!」

「は、はぁっ!?」


 思わず一夏も声をあげたのだろう――確かに、少なくとも俺の知るシンデレラではないと思った――と。


「もらったぁぁぁ!」


 そんな叫びと共に、舞踏会エリアへと下り立つ少女――その身に纏うは白地に銀のあしらいがなされたシンデレラ・ドレスを身に纏った鈴音の姿だった。


「ふふんっ。 ヒルト、大人しくその王冠を渡しなさいよ。 ……わ、渡せば、少しは良いことあるわよ!」


 まさかの俺狙いの鈴音――。


「お、おい……一応言うが、一夏も居るんだぞ?」

「ば、バカ! 俺に擦り付けるなよヒルト!」


 指差すや、一夏は狙いが自分にいかないようにする――だが。


「残念だけど、一夏の王冠じゃ意味無いのよね! だからヒルト……大人しく渡せば、怪我しないわよ?」


 そう言ってスカートを捲ると其処から中国の手裏剣っぽい物を構え始めた。

 因みに、スパッツを穿いてたのがちらりと見えたのは内緒。


「な、なあ……それって本物?」

「ふふん、本物っぽく見えるだけよ。 ……そりゃあぁぁぁ!」

「……!!」


 叫びと共に放たれた手裏剣――というか確か飛刀と呼ばれるものを放つ鈴音。

 自然と横にステップして避けると、先ほどいた場所に突き刺さる飛刀を見て軽く背筋が凍り付く思いだった。


「……本物じゃないのか、これ?」

「……そう思うなら、早く渡した方が懸命よ? 今なら怪我しなくて済むしね!」


 再度スカートを捲ろうと行動する鈴音――。


「チィッ! 悪いがそんな物騒な物は没収だ!」

「え? ――きゃんっ……!」


 間合いを詰めると同時に、鈴音を赤絨毯の上で押し倒す。


「ば、バカっ! 何押し倒して――」

「悪いが、そんな危ないものを使わせてお前に怪我される方が堪らないからな。 ……ちょっと失礼」

「え? ――わっ!? ば、バカ……スカートの中に手を――んんっ!!」


 恥ずかしいのを我慢しつつ、鈴音の内股をまさぐると共に飛刀を全て没収――因みに、各種テーブルのおかげでほぼ死角となっていて、行為は見えない筈だ。

 まさぐられる度に、鈴音の喘ぐ声が漏れるも、本人も必死で我慢してるのか涙目で睨み付けてきた。


「……はい、これは没収な?」


 そう言って直ぐ様離れ、奪い取った飛刀を舞踏会エリアの窓から投げ捨てる。


「~~~~!! せ、責任取りなさいよ、バカァッ!!」

「おっと!」


 涙目のまま、連続で蹴り技を繰り出す鈴音に対して、俺はバックステップで避けつつ、何も飾られていないテーブルに宙返りして上る。


「悪いな、王冠渡せば学食フリーパスが無くなっちゃうから、諦めてくれよなッ!」

「こ、こらー! 待ちなさいよバカーッ!!」


 テーブルを足場にし、二階へと登る――下では鈴音の叫ぶ声が聞こえるが、無視して俺はそのまま二階のテラスへと躍り出た。


「うふふ。 御待ちしてましたわ、ヒルトさん」

「……セシリア?」


 テラスへ出た俺の前に立ち塞がったのは、セシリア・オルコットだった。

 その手には長大な狙撃銃を持ち、腰にはレイピアらしき物を携えていた。


「……セシリア、聞いてもいいか?」

「ええ。 何かしら?」

「……その物騒な物はなんだ?」

「うふふ。 狙撃銃とレイピアですわよ? ……ですが、ヒルトさんに狙撃銃は使いません。 ……貴方に怪我をさせたくありませんもの」


 ……とは言うが、明らかにレイピアも怪我しそうな気がするのだが。

 セットの壁に狙撃銃を立て掛け、腰に携えたレイピアを抜くと――。


「ヒルトさん、大人しく王冠をわたくしに渡してくださらないかしら? そうすれば、わたくしも貴方も、二人にとって幸せな結末になりますわよ♪」


 まさしく恋する少女の様な眼差しで見つめるセシリア――だが構えたレイピアが、明らかに攻撃的意思を感じるのは気のせいだろうか?


「……これを渡したら、学食フリーパス貰えなくなるからダメだ!」

「……成る程。 ……楯無さんはヒルトさんにそう言ったのですか……。 ……言わなければ、ヒルトさんも渡してくれましたのに……そうすれば……同室――」


 何やら呟いているのだが、客席からの歓声でよく聞こえなかった。

 因みに一夏の悲鳴が聞こえるので、もしかしたら鈴音が八つ当たりしてるのかもと思うのだがどうやら篠ノ之っぽい叫び声が聞こえるので違うようだ。


「と、ともかく。 セシリアもそんな物騒な物はダメだ。 嫌いになるぞ?」

「うぅ……。 で、ですが! わたくしにも退けぬ事情があるのです!」


 そう言って迷う表情を見せながらレイピアを振るうセシリア――切っ先は丸くなっていて、どうやらフェンシング用に見えたが――当たるのは嫌なので避ける。


「くっ……! あ、当たりませんわ……!」

「……悪いが、それも没収だ! これがなぁッ!!」


 そう言って紙一重でレイピアの突きを避け、手首を掴むや壁へと追いやる。


「あ……。 ひ、ヒルト……さん……」

「悪いが、没収な?」


 レイピアを奪い取ると、テラスから投げ捨てるがセシリアは怒るどころか潤んだ瞳で見つめてきた。


「……ヒルトさん、その……執事姿もお似合いでしたが、今のそのお姿も、わたくしにはとても魅力的に映ります」

「そ、それはどうも」

「で、ですから……キス……してくださいな」


 ……まさかの舞台でのキスの要求。

 確かに俺やセシリアのいるテラスは、観客からは全く見えない死角になっている上にどうやら一夏にスポットライトが当たってるため、観客の興味もそちらに移っていた。


「こ、こんなところで何でキス何か要求するんだよ……っ」

「だ、ダメ……でしょうか?」

「ダメに決まってるだろっ。 ……わかったら、諦めな、王冠もキスも」

「……意地悪です、ヒルトさん」


 軽く頬を膨らませて上目遣いで睨むセシリアは、相変わらず可愛いなと思う。

 だが、ここでキスは流石に無理だし、王冠も渡せば学食フリーパスが貰えなくなる。


「……って訳で俺はもう行くからな」

「うぅ……。 お、王冠をくださいなっ!」


 俺の頭に手を伸ばすセシリア――だが、ギリギリ回避――と。


「え――ひゃんっ! ……んんっ!?」

「んむっ……!?」


 スカートの裾を踏んだのか、俺を巻き込んでテラスの中で倒れ込む俺とセシリアだが――互いに柔らかな唇の感触で目が見開く。

 事故とはいえ、舞台上でキスをしたことによって、若干テンパるのだが、他の観客からの死角になってるのだけが唯一の救いだろう。

 少しの間、セシリアの唇を堪能するとそのままセシリアを少し引き離し――。


「……じ、事故だったが、これで良いだろ?」

「……ええ。 うふふ……やっぱり、貴方と交わす口づけは良いですわね……♪ ……ヒルトさん、ここからはわたくしが援護致しますから誰にもその王冠を渡さないでくださいね?」


 そう言ってセシリアは立ち上がるとスカートのシワを直し、立て掛けた狙撃銃を構えるとセットの屋上へと登る梯子に足をかけた。


「……覗かないでくださいね?」

「ば、バカ! 覗かないでって!」

「……覗いてもいいですのに……」

「ど、どっちなんだよ!」

「お、乙女心は複雑なのですわ! ……では、他の人に取られないように援護致しますので」


 柔らかな笑みを浮かべ、梯子を登るセシリア――俺はテラスから飛び降りると、また舞台へと戻っていった――。 
 

 
後書き
ヒルトは舞台で何をしてるのやら( ´艸`)

若干暴走ですな(* >ω<)=зハックション

そして――徐々に近づくオータム祭

どうするかな 
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