IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第318話】
――舞踏会エリア中央――
とりあえず舞踏会エリアへと戻り、周囲を見渡す――既に鈴音はその場に居なく、多分別のエリアを探してるのだろう。
「ヒルトーッ! 頑張れよー!!」
「お前モテモテじゃねぇかッ! 羨ましいぞコノヤローッ!!」
……たっくんと信二のそんな声が聞こえ、思わず苦笑――と。
「うわああぁぁぁあああっ!?」
「大人しく王冠を渡せ、一夏!! 渡さねば斬る!」
「な、なんだよそれっ!?」
刃が空気を裂く音が舞台で鳴り、一夏と篠ノ之の二人が俺の目の前を駆け抜けていく――だが、観客からは笑い声が聞こえ、多分演出か何かだと思ったのだろう――。
……目が本気だったが、あいつも学食フリーパスが欲しいのか?
――てか、よくよく考えたらセシリアまで躍起になって王冠を奪おうとするのが気になるが……。
「や、やっと見つけたわよ、ヒルト!」
「うげ……鈴音」
息を切らせてるのか、呼吸の荒い鈴音――。
どうやら窓から捨てた飛刀をわざわざ回収した上で俺を探し回っていたようだ。
「さあ観念しなさいよ! でりゃあああっ!」
そう言っていきなり飛刀を投げる鈴音。
「ヒルト、危ない!!」
「……!?」
二階から誰かが俺の正面に飛び降り、手に持った中世の盾を構えて飛刀を防ぐ。
高い金属音を鳴らし、飛刀は盾に弾かれて周囲に落ちた。
「ヒルト、大丈夫!?」
「……シャル?」
鈴音の飛刀攻撃から俺を庇ったのはシャルだった。
他の子と同じ様に、シンデレラ・ドレスを身に纏った姿は可愛く、一瞬見とれるが――。
「しゃ、シャルロット! 邪魔しないでよ! 王冠取れないじゃん!」
「だ、だって! 王冠他の子に取られたら僕困るもん!」
投げる飛刀を盾で防ぎつつ、言い合う二人――セシリアの援護が無いのは、ここがセシリアにとっての死角だからだろう。
――さて、どうするか……シャルに任せて退くか、または違う方法をとるか……だがその前に。
「悪いなシャル、助けてくれてありがとう」
「う、ううん。 僕なら大丈夫だから、ヒルトは退いて?」
「……良いのか?」
「うん! ……セットの裏で落ち合おうね……」
小声でそんな言葉を聞き、その場にシャルを残すのは色々思うところはあったが、俺は窓からセットを抜け出した。
「……しかし、セット裏とはいえかなり作り込んでるよな……」
そう言って周囲を見渡し、セット裏を散策していると――。
「……ヒルト、何処?」
「ん? 正面にいるぞ?」
結構早めの合流に少し驚くも、シャルは俺を見つけるや笑顔で駆け寄ってきた。
因みにここはさっきのテラスとは違い、ある程度は観客から見える位置なのだが相変わらず一夏と篠ノ之のやり取りを見てる辺りはもしかすると生徒会演劇のビラにはメインとして一夏と篠ノ之を据えた様な内容で配ったのかもしれない。
……って事は、最初から俺達を出す気満々という事だったのだろう。
恐ろしい。
「ヒルト、大変だね……王冠狙われて」
「……まあな。 皆も余程学食フリーパスが欲しいと見えるな」
「え? ……あ、そぅか……楯無さん、ヒルトにはそう言ってるんだ……どうしよう……」
「……?」
何やら小声で呟くシャル、表情は真剣そのものなのだが意を決したのか――。
「ヒルト、無理は承知でお願い! 僕にその王冠ください!」
「へ……? し、シャルも学食フリーパスを狙って――」
「ち、違うよ!? ぼ、僕はフリーパスじゃなく別のだから……」
……別の?
もしかして個人個人で違うのだろうか?
……それならセシリアが俺を狙った理由もわかるが――。
「……俺だって学食フリーパス欲しいし……」
「な、なら僕の分を分けてあげるからっ。 ……ダメ……かな……?」
甘えた声で言うシャルに、少し気持ちが揺らぐ――と、ここでアナウンスがアリーナに響き渡る。
「二人の王子様にとって国とは全て。 その重要機密が隠された王冠を失うと、自責の念によって電流が流れます」
そんなアナウンスに、揺らいでいた気持ちがまるで強固な装甲壁に変わったような気がした――と、突如一夏の叫び声が聞こえてきた。
「ぎゃああああっ!?」
――多分、王冠を外した結果なのだろう――そして。
「なんじゃこりゃあ!?」
まるで吠えるかのような叫びに、客席からは笑い声が絶えず聞こえてきた――そして、アナウンスする楯無さんが。
「ああ! なんということでしょう。 王子様の国を思う心はそうまでも重いのか。 ……しかし、私達には見守るしか出来ません。 なんということでしょう」
――実にノリノリにアナウンスする楯無さんに、苦笑を溢す。
「……って事は、俺もこれを外すと一夏と同じ目にあうのか」
「……そ、そうだね。 ……やっぱり、ダメ……?」
再度甘える声をあげてお願いされるが、流石に電流を流されては敵わないので。
「ダメだな」
「うぅ……。 な、ならどうすれば王冠もらえる? ……僕にあげれるものがあるなら、何でもあげるよ……?」
「……それでもダメ。 って訳で交渉決裂だな」
そう言って立ち上がる、シワになったズボンを正すとシャルは――。
「じ、じゃあせめて誰にも取られない様にしてね?」
「ん? まあ学食フリーパス欲しいし、そこは大丈夫だと思うぞ?」
「わ、わかった。 ……陰ながら力を貸すね?」
そう言って中世の盾を持つシャルは、何故か俺に着いてきた。
そのままセットを迂回し、少し大きめの広場に出る――。
赤いレーザーポインターがゆらゆらと動いてるが、多分セシリアの狙撃銃だろう。
……てか、レーザーポインターあるとバレるんじゃ――。
「お兄ちゃん! 待ってたわよ!」
「本当は私達も舞踏会エリアに行こうって思ったけど、篠ノ之さんが暴走してるしね」
「だから私達三人は同盟を結んだという訳だ。 悪く思うな、嫁よ」
広場の柱から現れたシンデレラ三人。
妹に幼なじみに夫とバリエーション豊富なラインナップだ――と。
「ヒルトの王冠は誰にも取らせないよ?」
「シャルロットか……。 ふむ、我々の味方にならないか?」
「ふぇ?」
「王冠をお兄ちゃんから取るまでの同盟だけどね?」
……何だか、危うい同盟な気もするが。
「……いや、てかそもそもお前ら同盟組むメリット少なくないか? 王冠は俺か一夏しか無いのに俺を狙うって事はさ、何かしら俺の王冠を奪った時に特典あるんだろ?」
「「「うっ……」」」
三人とも表情が変化する――と、ここで更なるアナウンスが流れた。
「さあ! ただいまからフリーエントリー組の参加です! 皆さん、張り切って王子様達の王冠目指して頑張ってください!」
アナウンスと共に開かれた扉からは、数えるのが億劫なぐらいの女子生徒が現れ、流れ込むように一夏のいる舞踏会エリアに駆け込んでいく。
呆気にとられた俺達――。
「ヒルト! 俺に王冠を渡してもらおうか!」
「おー! 私によこせー!」
一部から抜け出し、現れたのが理央と玲の二人組――って事は、このフリーエントリー組も同じ様な景品が与えられるのだろうか?
「……逃げる。 てか、逃げないと!!」
「「「あっ!?」」」
その場にいた全員が俺が逃げたのに反応して、声をあげた。
因みに逃げた先は舞踏会エリア――一応、人も多いし、何よりあいつら全員が一夏狙いなら、俺狙いの相手を撹乱できるだろうし。
一気に舞踏会にかけ上がり、到着――と、ここでもまた鈴音が――。
「やっと見つけたわ! もう! あんたはここから動かないでじっとしてなさいよ!」
「無茶言うなよ!」
流石に飛刀は使えないのか、蹴り主体で攻めてくる――だが、履いてる靴がガラスなので、当たれば色々不味い。
「っと!」
「あ! また上に――」
「へへっ、悪いな鈴音! よっと――」
「ヒルトさん! やっぱり、わたくしは王冠が欲しいです! 他の方に取られるぐらいでしたら、少し嫌われてでも無理やら奪いますわ!」
「なんですとー!?」
二階に上がった瞬間、いつの間にかセシリアは王冠を狙おうと手を伸ばす。
「そ、そこまでして欲しいのかよ、セシリア!?」
「当たり前です! 貴方の王冠をとればわたくしの夢が叶いますもの!!」
プライドすら捨て、王冠を狙うセシリアに少し感心はするが、取られたら電流流れるので何とか避けつつ、テラスへと出ると梯子でセットの屋上へと上がる。
セシリアも追って来るのが見え、どうしたものかと思っていると、更に両サイドからは美冬に未来、シャル、ラウラとやって来る。
「げ……。 正しく女難ってやつじゃねぇか……」
とりあえず、周囲を確認する――ふと、下を覗き見ると、一夏がセットの上から転げ落ちる姿が見え、慌てて反対側を見るが一夏の姿はそこには無かった。
「お兄ちゃん! 悪いけど逃がさな――」
「ストップ美冬! ……一夏の姿が見えなくなった」
「え? どういう事なの、ヒルト?」
流石にシャルや他の皆も、真剣な表情をした俺を見ると王冠を取ることをしようとは思わなかった様だ。
「さっき、そこから下を覗いたら、一夏がセットから転げ落ちたんだが反対側にはいないんだよ」
「……ちょっと待ってくださいな。 確か、あの辺りはアリーナ更衣室に繋がる道があったと思うのですが……」
「そうなのか? ……何にしても、舞台から一夏が居なくなった事にはかわりないんだよな。 ……一時休戦にして、ちょっと調べてきてもいいか? ……実は、少し気になることもあるし」
「気になること……?」
全員が疑問符を浮かべるが、説明する時間も惜しい……。
「悪い。 少し胸騒ぎもするしな……。 俺が五分たっても戻らないときは念のため、楯無さんに連絡後、教師陣にも学園第二種警戒体制を……」
「む? ……そこまでする必要があるのか、ヒルト?」
ラウラの疑問は最もだ、過剰反応し過ぎなのかもしれないが……こういう時の悪い勘はよく当たる。
それに、どうしても俺の頭を過るのは『御劔』の巻紙礼子を名乗った女性――ムラクモ自身が警戒したのだから、多分何かあるかも――もちろん、杞憂に過ぎないかもしれないが。
「……何も問題無かったら一夏を連れて戻ってくるから」
「……わかったよお兄ちゃん。 納得はまだしてないけど、織斑君が居なくなったのは事実っぽいし……ほら、篠ノ之さんやら他の子が人海戦術使っても見つけられないのもおかしいもん」
言ってから下を指差すと、一夏を探すシンデレラ軍団が舞踏会のセット周辺を隈無く探している姿が見えた。
「……わかりましたわ。 もし、何かあればわかりますし――」
「悪いな。 ……胸騒ぎが勘違いなら一番だが、な。 ……じゃあ、五分たって戻らなかったら楯無さんに連絡後、演劇は中止にしてもらって観客には避難してもらうように織斑先生に連絡よろしく」
そう言い、梯子を滑り落ちて舞踏会エリアへ――と。
「ヒルト? どうしたのよ、そんな真剣な表情で――」
「鈴音? ……悪い、一夏が居なくなったから探しに行く。 皆にも言ったが、五分たって戻らなかったら楯無さんに連絡よろしく」
「ちょ、ちょっと――」
鈴音の止める言葉を聞かず、一夏が消えた辺りのセットを調べると、確かにアリーナへと繋がる道があった。
普段、第四アリーナはあまり使わないので知らなかったが……。
「……行くか」
暗くなった――というか、赤い電灯がついてるだけの通路を俺は進んでいった――。
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