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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第312話】

 人波を潜り抜け、廊下を駆け抜け戻るとラウラから開口一番――。


「お、遅いぞヒルト!」


 腕組みし、仁王立ちで立っていたラウラからのいきなりのお叱りの言葉。

 これでも結構早く戻ったんだが……とはいえ、言い訳しても遅れた事実に変わりはないので――。


「ご、ごめん……」

「う……。 ま、まぁその……そ、そう謝られると……。 と、とにかく、罰として手を繋ぐのだ。 ……そ、それで許す」


 最後の方は声が小さくなるも、手を繋げば遅れた事を許してくれるらしい。


「ん。 ……これでいいか?」

「う、うむ」


 手を取り、しっかりと繋ぐとラウラは表情を見られないように顔を背けた。


「それはそうと、確かメールで書いてたが茶道部に行きたいんだよな?」

「あ……。 そ、そうだ」

「それじゃあ行こうか? 作法ってやつはよくわからないが、茶道部自体は興味があるしな、これが」


 そう言って繋いだ手を引きながら茶道部へと向かう――その道中。


「お? ヒルトー」

「ん? ちょうど良かった、ヒルトに一組教室の場所が聞け――」


 茶道部に向かう道中、焼きそばを食べていたたっくん&信二が俺を見つけるのだがまた言葉が途中で止まる信二――。


「おぉいッ!? ヒルト! 何でお前ばっかり可愛い子と知り合いなんだよぉッ!!」

「そうだそうだ! シャルロットちゃんだけじゃなく、そんな眼帯美少女メイドさんともお知り合いなんて――羨ましいぞチクショーッ!」

「……お前ら煩い。 因みに彼女はラウラ・ボーデヴィッヒだ。 ラウラ、此方の二人は俺の友達の成河拓斗と佐々木信二、叉を愛すべきおバカさん達だ」


 何気に紹介内容が酷いかもと思ったが、まあいいかと思ったり。


「む、そうか。 ……ドイツの代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒだ。 そしてヒルトの夫でもある」

「「は?」」


 ラウラの俺の夫発言に、目を白黒させる二人――。


「き、気にするな。 ……てかお前ら、騒ぎは起こしてないよな?」

「おぅ、学園祭を満喫中だぜ!」

「……しかし、やっぱりレベルたけぇよなぁ……。 行き交う子皆可愛いんだぜ、天国だよ……」


 嬉しそうに言う二人は、更に言葉を続け――。


「俺、大きくなったらIS操縦者になるんだ……」

「すげぇ……。 マジか、たっくん?」

「おうよ! 信二、お前も一緒に操縦者になろうぜ」


 ……何気に死亡フラグっぽいこと言ってないか、この二人?

 ……てか、早く茶道部に行かないとラウラが不機嫌になりそうだ。


「悪いたっくん、信二。 俺達急ぐから漫才見てる時間がないんだよ」

「ん? 悪い悪い……所でさ、一組教室ってどこだ? 案内板見たけど各部活の催し物の告知ばかりでわかんなくてさ。 渡された地図もよくわかんないし……」


 ……確かに、ちょい分かりにくい地図だったかもしれないな。


「とりあえず、俺らが来た廊下を真っ直ぐ行けばわかるよ。 このメイド服が目印だ」


 そう言ってラウラのメイド服を指差すと、流石のラウラもぎょっとした表情になり、見られるのが慣れてないのか少し照れてる様に見えた。


「成る程! わかった、呼び止めて悪かったな」

「んじゃ、二人でデートごゆっくり~。 俺達はシャルロットちゃんのご奉仕を……むふふ」


 ……シャル、多分まだ料理部に滞在してるはずだし、何より今はご奉仕喫茶体勢を整えてる状態だが――まあ行けばわかるだろう。


「んじゃ、あまり迷惑かけるなよ」


 それだけを言い残し、ラウラの手を繋いだまま俺達は茶道部へ向かった。

 一方、残された二人はというと――。


「……何気にヒルトって、外国人にモテてね?」

「……だな。 くぅーっ! 羨ましいぞー! ……とはいえ、中学時代モテなかったのが今思えば不思議だよな」

「あれはさ、成樹が女子に囲まれて困ってた所をヒルトが一喝してそこから徒党組んでの苛めに近い形に発展したんだぜ?」

「……そういやそうだったな。 ……色々な意味で、あいつって女難だなぁ」

「……でも正直、羨ましい……。 あんな可愛い子とデートだぜ、信二?」

「言うなたっくん。 ……俺達も、ここで女の子とお近づきになって高校生活をエンジョイだぜ!」

「おうよ!」


 そんな二人の会話を、行き交う女子生徒はクスクスと笑いながら見て、そのまま通り過ぎていくのだった――。


――茶道部――


「はーい。 いらっしゃーい。 ……あら? 今度は有坂くんだ!」


 茶道部に入るや、不思議な声の掛け方をされた――今度は有坂くんって事は、その前に一夏でも来たのだろうか?


「茶道部は抹茶の体験教室をやってるのよ。 二人とも、此方の茶室へどうぞ」


 促され、襖を開ける茶道部の人――茶室内部はというと……。


「畳か……。 茶道だから当たり前とはいえ、この辺りもやっぱり税金なのかな……」


 入るなり茶室を軽く見渡す――この部屋も、設備がしっかりしていて、たっぷりお金をかけたように見える。

 ……それだけに、日本人の血税が俺達みたいなのに使われてると思うと正直いたたまれなくなる。


「じゃあ、此方に正座でどうぞ」


 既に茶室へと上がっていた俺はそのまま正座する――もちろん、靴は脱いである。

 ラウラも俺の隣へとやって来てちょこんっと正座で座る。


「……何気にさ、俺達の格好で抹茶っていうのも凄いよな……。 ある意味カオスだ」

「む……? ふっ、格好を気にするとは……ヒルトもまだまだ精進が足りないな」

「……ほうほう。 なら一寸前に織斑先生にラウラのメイド服姿見られて爆笑された時、何だかラウラも変な顔してたぞ? 俺と同じく、精進が足りないな」

「ば、馬鹿者……。 き、教官が見に来るとは訊いていなかったから仕方がないではないか……!」

「ふふっ、どちらにせよ俺もラウラも精進不足って事でいいじゃん」

「む……? ……そ、そうだな……ヒルトと一緒なら、悪くはない……」


 若干頬を朱色に染めたラウラを、俺は優しく見る――と。


「うちはあんまり作法に煩くないから、気軽に飲んでね」

「了解です。 ……作法が堅いのは苦手ですしね」

「うふふ。 まあ男の子なら当然よね」


 そんなやり取りを続けていると、先に俺とラウラに茶菓子を寄越した部長さん。

 受け取り、茶菓子を一口食べると白あんの甘さが口一杯に広がり、溶けていく。

 ……あんこって、苦手だがこれはそんなに苦手な感じがしなかったな。


「うん。 見事に甘い茶菓子だな……」


 そう呟く様に言う――と。


「うう……」


 何やら唸り声を上げ、茶菓子に口をつけないラウラ。

 難しい表情のままウサギの形をした茶菓子を見つめていた。


「……食べないのか?」

「ち、違う……。 ど、どうやって食べればいいのだ……」


 どうやら食べ方に困ってるようだ。

 ……俺なんかは特に気にしないのだが、人によってはこういった動物で型どられたお菓子や食べ物など、躊躇するらしく、ラウラはどうもそのタイプの様だ。


「……ラウラ」

「わ、わかってる。 ……だが」

「気持ちはわかるが、食べないと抹茶飲めないから……な?」

「う、ぅぅっ……世界は残酷だ……!」


 まあなかなか思い通りにならないのが世界だからな。

 とはいえ、見ていてもままならず、ラウラは小さな口を目一杯広げ、一口でウサギの形をした茶菓子を頬張る。


「……んぐ。 うむ、やはり和菓子は美味い」

「『ぼ、僕、ラウラちゃんに一口で食べられちゃったよ!』 という声が聞こえた」

「うぅ……ヒルトの意地悪……」


 味に満足していたラウラだが、俺の一言で若干涙目で睨んできた。


「嘘だ嘘、だから睨むな睨むな」

「……ば、馬鹿者……。 たまに意地悪だ……私の嫁は……」


 ムスッとしたが、直ぐにはにかむような笑顔を見せた辺り、本気では怒ってないのだろう。

 ……六月のラウラが見たら、ぶっ飛びそうなぐらいの変化だな。


「二人とも、どうぞ」


 そう言い、俺達二人の前に抹茶が出された。

 ……確か、こういう時はお点前いただきますだったか……?


「お、お点前いただきます……」

「ふふっ、あまり硬くならずに気軽に飲んでね?」


 そうは言うものの、ちゃんと一礼してから俺は茶碗を取る――ここからがわからないのだが――。


「ヒルト、茶碗は二度回して飲むのだ」

「な、成る程。 ……教えてくれてありがとう」

「ふふっ、私の嫁は世話がかかる……。 そういう所、私は好きだがな……」

「ふふっ。 熱々ね? ごちそうさま」


 軽く茶化す部長さんに、顔が赤くなるのを感じるが気にせずラウラの言った通りに二度回し、茶碗に口をつけて飲む。

 ……苦い、抹茶独特の苦味が口一杯に広がり、一気に飲む。

 ……喉越しは悪くないが、抹茶も苦手な分類かもしれないと認識した。


「「結構なお点前で」」


 俺もラウラも、息ぴったりに声を揃えてお決まりの台詞を言うと、共に再度一礼した。


「いえいえ。 良かったらまた来てねー」

「了解です。 ありがとうございました」


 靴を履き、再度お礼を言うと軽くひらひらと手を振る部長さん。

 俺とラウラは茶室を後にすると――。


「……抹茶の苦味が苦手だ、べぇ……」


 軽く舌を出すと、クスッと微笑むラウラが――。


「ふふっ、ヒルトには抹茶の苦味の良さがわからなかった様だな」

「……まあな。 とはいえ、あれも日本古来の文化だ。 ……苦く無ければもっといいがな、これが」

「ふふっ」


 隣で微笑するラウラ――と、ふと部長さんの着物姿を思い出したのでラウラに訊いてみる。


「そういやさ、ラウラは着物や和服とかに興味は無いのか?」

「う? む、無論興味はあるぞ? ……だが、なかなか着る機会がないのだ……」

「……成る程。 それなら、一度着てみなよ?」


 そうラウラに言うと、一瞬驚く表情を見せ、次の瞬間にはもじもじし、顔を赤くしながら俺を見つめ――。


「わ、私の和服姿……見てみたいのか……?」

「あぁ。 ……まあチャイナドレスも見たいがな」

「ふっ……そちらは既に購入してある。 こ、今度部屋に行くときに見せよう」

「お? ……へへっ、悪いな……じっくり見せてもらうとするかな」

「ば、バカ……」


 照れたのか、背中を向けるラウラ。

 ……だが、雰囲気は嫌そうではないので、ホッとする俺――時間もたったので、一旦ここでラウラと別れ、セシリアが待つ場所へと駆け足で向かった。 
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