IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第325話】
――第四アリーナ正面入口――
駆ける足音が通路一帯に響き渡る。
来客は皆指定された避難所に移動したのか、人っこ一人も見えない。
そんな中を、駆け抜けて正面入口へと到着する。
「……これか、展示用の打鉄は」
静かに鎮座した打鉄――触れるとヒヤリとした冷たさが手に伝わると同時に、俺を認識したのか装甲が開くと共に語りかけてくる声が聞こえてきた。
『……久しいな、有坂ヒルト――否、今このときは私のマスターだな』
そう語りかけて来た声は、何処と無く優しい様な声に聞こえた。
『……久しい?』
そう語り返すと――。
『む? ――マスターは覚えていないのか? 私は君を二度程使ってもらった事があるのだが――とはいえ、一度目は君が初めてISに触れたあの日だが』
そう言われ、脳裏にフラッシュバックするように当時の事が過った。
『――って事は、あの二月の時に触れて纏ったのが君って事か?』
『うむ。 ……その後は君が訓練を初めて初日に乗って以来だが。 ――とはいえ、いつも私は君の近くで見ていたがね』
――近くで見ていたって事は、もしかすると授業でも使っていたのだろうか?
『……成る程。 ――近くってどれぐらい近くなのかは知らないが。 ……緊急事態なんだ、力を貸してくれるか?』
『無論だ。 私は君に好意に近いものを持っている。 断る理由もない』
その言葉と共に俺の身体は光に包まれ、打鉄を身に纏う。
『……うむ。 やはりこうしてマスターを得るというのは良いものだ。 遣えるべき主君が居てこそ、私が輝くというものだ』
……何だか、侍みたいな子だな、この子。
『うむ。 侍みたいな物だな。 ……故に、私は殺人剣ではなく、活人剣に憧れるというものだ』
『ぉぉぅ……お前も心が読めるのかよ……』
『うむ。 ……主君、あまり色の話など私には振らぬ様に――ど、どう対応すればいいのか困る……』
何故か照れたような反応を見せる打鉄――てか、色の話って何だ?
『まあいいさ。 ……そういえば、君の名前は?』
『む? ……打鉄No.78。 ……ご覧の通り、量産型故にろくな名前が無くてな……』
『成る程? ……なら雅だ。 勝手にそう呼ぶ、いいな?』
『む? ……主君は強引だな。 ――だが雅か……悪くはない』
そんな声が聞こえてくる――満足したようだ。
チャネル通信を開くと、そこから俺は織斑先生へと繋げた。
『有坂か? ……村雲はどうした? この通信は打鉄からの様だが?』
『事情は後々説明します。 ……侵入者はどちらの方面に逃げましたか?』
『現在寮近くの公園付近の様だな。 ボーデヴィッヒとオルコットの両名が光学迷彩を使用して上空から追跡している』
――という事は、あの二人の反応の所に行けば問題ないのか。
そう思っていると、ハイパーセンサーに二人の現在位置が表示された。
他にも、美冬&未来ペアが学園南を警戒し、シャル&鈴音が中央付近、篠ノ之が単独で北側、二年生三年生ペアが正門駅前近くで、教師陣が散らばって他に協力者が居ないかを探してるって感じか。
『わかりました。 では自分はこのままセシリア、ラウラの二人と合流致しますので――』
『了解した。 ……有坂、織斑はどうした?』
『一夏ならまだふらふら状態かと。 至近距離で閃光手榴弾を受けましたので』
『……了解した。 ……有坂、いざとなれば私と真弥も出る。 いいな?』
『了解しました。 では通信切ります』
そう言ってチャネル通信を切る。
『主君、公園までのルート表示だ。 空から行くのもいいが、ここは敢えて地上からではどうか?』
『ん? ……だな、下手に空を飛ぶよりは地上からのが良いかもしれない。 進行ルートのガイドライン、頼むよ』
『了解した』
『……ところで、マスターやら主君やら一定してないからどちらかにしてくれるか?』
『了解した。 ではこれから主君と呼ばせていただく。 主君、改めてよろしくお願い申し上げます』
『……ちょっと硬い言葉だが、まあいいか。 よろしくな、雅』
そう言うや、直ぐ様ハイパーセンサーに最適ルートが表示された。
そのルートに従い、第四アリーナを出て俺は地上から低空で移動した――。
――公園付近――
「動くな。 既に狙撃手がお前の眉間に狙いを定めている」
ハイパーセンサーで音声を拾い上げる――この声は、ラウラだ。
ハイパーセンサーのズーム機能で、ラウラ、オータムの二人を捉え、少し離れた空中にセシリアがスターライトmkⅢを構えて狙いをつけてるのが見えた。
「くっ……!」
「洗いざらい吐いてもらおうか。 貴様らの組織の概要、構成員諸々についてな」
六月以来の冷たい威圧感を放つラウラ――何処までも冷めた眼差しは、絶対零度を感じさせる。
「ラウラ! セシリア!」
「……ヒルトか。 よく来てくれたな――だが、何故打鉄を纏っている?」
「そ、そうですわ。 ……村雲はどうなさったのですか?」
「ちょい事情があってな、今預けて代替え機って訳で打鉄を使ってる」
「……成る程、了解した」
静かにラウラとセシリアは頷くと、二人はオータムへと視線を向け直す。
この間、オータムが逃げられなかったのはオータムの足がAICによって固定されてるからだろう。
「話を戻そう。 ……お前のIS、アラクネはアメリカの第二世代型だな。 何処で手にいれた。 言え」
威圧感のある言葉――だが、オータムは不敵な笑みを浮かべつつ。
「ヘヘッ! 言うわけねーだろうが!」
既にラウラやセシリアにも捕らえられてるというのに、妙に強気な態度が気になる。
「……ラウラ。 あいつの機体なら破損はしてるが更衣室に残ってる。 製造番号が分かれば何処で盗ったかわかるさ、これがな」
「ふむ。 ……ヒルトがやったのか?」
「……俺だけじゃないさ、楯無さんや……一応一夏のおかげみたいなものさ、これがな。 こいつのコアも奪取出来たのも楯無さんのおかげだし」
「ヒルトさん、お手柄ですわね♪ これで少しは貴方の評価が上がるのでしたらわたくしは嬉しく思いますわ♪」
心の底からそう思っている様な笑顔を向けるセシリア。
ラウラも――。
「ふむ。 よくやったな、ヒルト」
柔らかな笑みを浮かべ、俺を見つめてきた――と。
「ケッ! こんな所でイチャイチャしやがって――ヘヘッ、教えてやるぜ! さっきそいつは私に踏まれても反撃しなかったんだぜ? ギャハハハハッ! とんだドM野郎だぜ!」
人を馬鹿にし、下品な笑い声が辺りに響き渡る――と、それを聞いたセシリア、ラウラの両名は――。
「……うふふ」
「……ヒルトを踏みつけた――と?」
セシリアは小さく笑い声をあげるも、目が笑っていなく、ラウラに至っては先ほどよりも威圧感を放っている――その刹那、セシリアのスターライトmkⅢの砲口が光り、粒子ビームがオータム隣の地面を抉りとると共に、土が一部ガラス化していた。
「……!? て、てめぇ!? あぶねぇだろうが!?」
「あら? ごめん遊ばせ。 わたくしの銃は引き金が軽いのです。 次はうっかり、右腕を撃ち抜くかもしれませんわ」
冗談ではなく本気だろう――付き合いはまだ五ヶ月程だが、そんな俺でもわかるぐらい怒りを見せていた。
「ヒルトを踏んだ――と言ったな? ……いいだろう、その愚かな行為――生きてるのが嫌になるぐらいの尋問方法で貴様をいたぶるとしようではないか」
「なっ!? て、てめぇら正気か!? 人権ってもんを――」
「あら? テロリストが人権を主張するだなんてお笑いですわね。 ――ここはIS学園。 法律上、何処の国家にも属さず、この学園内では何をしても許されるのです。 ――もちろん、人としての礼節は持たなければなりませんが少なくとも貴女にこの学園で人権はありませんことよ」
にこりと微笑むセシリア――だが、笑顔で言い切るその様子にオータムは小さく悲鳴を上げた。
「ひっ……!? ……く、くそ……まだかよ……」
一人小さくごちるオータム――。
「あぎゃぎゃ♪ もう少し見ていたかったが、そろそろ出てきてやるぜ」
「……!?」
後ろの雑木林から声が聞こえ、振り向くとそこには紅い髪の長身の男がそこに立っていた。
後書き
カーマイン現る( ´艸`)
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