IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第322話】
前書き
ちょい遅れました
黒髪のポニーテールがゆらゆらと揺らめく。
目をぱちくりさせ、周囲を見渡す女の子――いや、俺はこの子を知っている――。
見間違うはずがない……彼女の名は。
「……ムラクモ」
小さくその子の名前を呟く――そう、彼女は【ムラクモ】だ。
……コア・クリスタルになるのではなく実体化した事が未だに信じられないが――現に、今俺の目の前に彼女は居て、その彼女は自分の手のひらを眺めているのが目の前で起こっている事実。
「……ちぃっ! 何がどうなってやがる! てめぇのコアは何処だ!?」
銃口は一夏に向けたまま、激昂するかのように怒りを露にしたオータム。
口調は相変わらずだが、事態が飲み込めない様子だった。
一方の一夏は――。
「おんな……のこ?」
突如現れたムラクモに対してそう呟く――誰しもがこの状況を直ぐ様理解できないのだろう。
――どういう事態でこうなったかはわからないが、下手にこれ以上事態を悪くするわけにはいかない。
「下がってろ」
「え? ……ヒルト――わ、わかった」
俺を見て、少し驚きの表情を見せたムラクモだが、俺の言葉に素直に返事をすると俺の後ろへ下がる。
「てめぇ! 答えろ!! コアを何処に隠しやがった! 言わねぇなら織斑一夏を殺すぞ!!」
再度銃口を一夏のこめかみへと押し当てたオータム――手に持つ白式のコア・クリスタルが青々と淡い光を放っていて、薄暗い更衣室が照らされている。
「……さあな、その辺りに転がってるんじゃないか?」
「……てめぇ、隠すつもりか? ヘッ! 殺すなんざぁ直ぐに出来るからなぁ……。 さっきのお返しも込めて可愛がってやるぜ!」
マシンガンは一夏に向けたまま、ゆっくりと俺に近づくオータム。
後退りするも、それを見たオータムが――。
「動けば織斑一夏を殺す。 ついでにその女も殺してやるぜ! ギャハハハハッ!」
「……ッ!」
「……ヒルト」
後ろからムラクモの声が聞こえる。
その声は、俺を心配するような声だった。
「……大丈夫だ。 お前は何かあれば直ぐに逃げろ。 いいな?」
「…………」
返事は無かったが、何と無く首を横に振った様な気がした。
「ハッ! こんな時にイチャイチャしてんじゃねぇ……ぞ!」
「グ……ッ!?」
腹部にめり込む爪先蹴り――衝撃が内部器官にもろにダメージとして伝わってくる。
痛みが伝わると、思わず苦痛の声を漏らしそうになるが、何とか我慢をすると。
「ほぉ? ……んじゃ、これはどうだぁ!?」
「が……!?」
構えたマシンガンを一夏から離すと、その手を振り下ろし、重い一撃が頭頂部に――その衝撃に、がくっと膝から沈むように落ちる。
「ヒルト!? ……ッ!!」
「ヘヘッ! 愛しの彼氏がやられる様を見て心配か?」
「……貴女、絶対許さないから……ッ!」
「ヘッ! 許さなくて結構だぜ? どうせお前ら全員殺すからなぁ……ギャハハハハッ」
バカにしたような高笑いと共に、その足で俺の頭を踏みつけるオータム。
意識は確りしてはいるが、ダメージが大きく立ち上がるのが困難な状況だ。
「てめえ! ヒルトの頭を踏むんじゃねぇよ!!」
一夏の怒声が響き渡る――視線を一夏に移すと、その表情は怒りに満ちていた。
「ハハッ! 元はと言えばお前が私の挑発に乗るからこんな事態になったんだろ? お陰様で任務は完璧だし、こうやって有坂を踏みつけられるんだからなぁッ!?」
「クッ……! だけど……、逃げるわけにはいかねぇだろ!!」
「ハハッ! だからお前はガキなんだよ! さっきの時点で冷静に判断して逃げれば私も任務も失敗してたのにさぁ!!」
嘲笑するかの様に嘲笑うオータムに、一夏は悔しそうに口を一文字に結んだまま睨み付けていた。
「ヘッ! 睨み付けるしか出来ねぇ状況なら怖くも何ともねぇんだよ! それよりも――オラッ! このオータム様の美脚に踏まれてるんだ、もっと喜べよ!」
形勢逆転からくる余裕――何度も何度も俺の頭を踏みつけ、その度にオータムの笑い声が聞こえた。
「そうだ、冥土の土産に教えてやるぜ。 ……お前の母親をアメリカで襲撃したのはこの私だ! あの時は愉快だったぜぇ? 有坂真理亜を守るボディーガードの断末魔がよぉ! 『ママ、助けてよママ……! ま、……ま……』――ってなぁ! 思い出しただけでも笑いが込み上げてくるぜ、ギャハハハハッ!!」
そんなオータムの言葉に、奥歯を噛み締め、拳が真っ赤に成る程握り締める俺――。
「……貴女、最低よ! 死んだ人を侮辱するなんて……! 許せない!!」
「許さなくて結構だって言っただろ! ヘヘッ、お前らの断末魔を聞くのが楽しみだぜ」
下品な笑い声と共に、言い放つオータム――。
「ッ……! こんな時に俺は無力なのかよ……! ――だけど……だけど! そんなものは許せねぇ! 俺は、織斑一夏だ!!」
そんな叫びと共に、一夏は立ち上がると同時にオータムへと向かって突撃をかける。
「ハッ! ガキが何をいきがってやがる!! 邪魔なんだよぉッ!!」
踏みつけていた足で、突撃をかけた一夏の腹部を蹴りあげる。
「ぐあっ!? ……ガハッ……!」
天井に叩きつけられ、床に落ちる一夏。
状況が変わった――これなら!!
倒れた体勢から勢いよくその場からコア・クリスタルを持つ右手目掛けて蹴りあげる。
「何ッ!?」
オータムの表情が変わる――空を舞うコア・クリスタルに手を伸ばすが、それより速く両手で抱え込むように掴み、前転しながら床に転がると――。
「一夏! 起きろ! 白式取り返したぞ!! ほら! 意識無くてもいいから持ってろ!」
そう言って無理矢理一夏にコア・クリスタルを持たせた。
軽く頭を振りながら、一夏は――。
「わ、わりぃヒルト……」
それだけを言って、頭を下げた――ちゃんと悪いって言える辺りはまだ評価が出来るだろう。
「てめぇ!! 上等じゃねぇか! 殺す! 殺す殺す殺す!!」
奪われると思わなかったのか、激昂したオータムはマシンガンの銃口を俺に向け、発砲――空薬莢が排出され、床に金属音をたてながら落ちていく――。
「ヒルト!?」
ムラクモのそんな声が耳に届く――スローモーションの様に徐々に迫る弾丸に、俺は――。
「こんな所で死ぬかよ! 俺は不死身だ! 絶対死ぬかよぉッ!!」
そんな言葉に呼応するかの様に、胸の【ロザリオ】が光を放つ。
刹那、青白い障壁が俺の周囲に形成され、阻まれる様に弾丸はその障壁にぶつかり、粉々になって散っていった。
「な、なんだ!? てめぇ! 何しやがった!?」
引き金を引き続けるオータム――マシンガンの銃口からガンスモークが立ち込めると共に、無数の弾丸が俺に放たれるも、それは全て青白い障壁によって阻まれる。
「クソッ! 何がどうなってやがる!? ……刺し殺してやるよぉッ!!」
カタールを抜き、一気に迫るオータム――と、暗かった更衣室が明るくなる。
それと同時に無数の水の礫がオータムに襲いかかった。
「グッ……!? なんだ!? 何なんだよ、これは!!」
「うふふ。 特製の水による礫よ?」
楽しそうな声と共に、スライドドアが開くとそこに立っていたのは楯無さんだった。
笑顔は絶やさないのだが、言い様のないプレッシャーを放っていて、背筋がゾクッとした――。
「ごめんね、ヒルトくん、織斑くん。 ……来客の避難が完了するまで、時間がかかっちゃった」
「……大丈夫ですよ。 俺は踏みつけられたりしましたが」
「……成る程? ……うふふ」
笑みを浮かべるも、目が笑っていなかった楯無さん。
「てめぇ、どこから入った!?」
「あら? 見ていなかったのかしら? そこのスライドドアからよ? ……貴女はお馬鹿さんなのかしら? あはは♪」
「馬鹿にしやがって……! てめぇの生意気な口、一生聞けなくしてやんよ!」
そう言い放つと、残った装甲脚と装填の終えたマシンガンで楯無さんを狙い撃つオータム。
「楯無さん!!」
一夏の声に、くすりと笑みを浮かべて応えた楯無さん。
弾雨は楯無さんに届くことなく、空中で静止する――それも、一つ一つの弾丸全てが水に覆われて。
「無駄よ? ……この学園の長たる私が、この程度でやられてちゃあ話にならないからね、アハッ♪」
開いた扇子で口元を隠す――と。
「うふふ、この程度かしら?」
「……てめぇ!」
佇まいに余裕を感じさせる楯無さんに、オータムは怒りを隠せずにいた――。
後書き
オータムが吐き気を催す邪悪化( ´艸`)
一夏ちょっと活躍( ´艸`)
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