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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第326話】

 声のする方を振り向くと、左手をジーンズのポケットに突っ込み、右手は腰に手を当てた男が雑木林から現れた。

 おおよその年齢は十八~二十三辺りといった所だろう。

 現状、このオータムの仲間の可能性が高い――。


「……てめぇ! 見てたなら助けろよカーマ――」


 オータムが言い終わる前に、乾いた音が辺り一帯に鳴り響く。

 ――いつの間にか抜き取り構えた大型拳銃――ガバメントの引き金を引いた男。

 その弾丸はオータムの頬を掠めると、小さく頬から鮮血が流れ出た。


「あぎゃ、お前馬鹿か? ……敵であるコイツらの前で俺様のコードネームを言おうだなんて。 あぎゃぎゃ♪」


 そう言い放つ男――笑顔は絶やさないが、妙なプレッシャーを放っていた。

 そんな男がゆっくりと歩を進め、オータムへと近づこうとする。


「動くな! 貴様もそいつの仲間か!?」


 ラウラの制止する声と共に素性を問うも、そんなラウラを無視してその横を通りすぎようとする。


「……拘束する!」


 空いた右手を、男に翳す。

 ――AICで動きを止めようとするラウラだが……男はそれに反してオータムへと近付いていった。


「なっ!? 馬鹿な!? AICは機能しているのに何故停止結界が効かない……!?」

「あぎゃぎゃ♪」


 人を食った様な表情で応える男――そして、指笛を鳴らした。


『主君! 上空から一機、襲来してくる!』


 その言葉に反応し、上空を見上げる俺――セシリアも反応に気が付いたのか、オープン・チャネル通信を開く。


『ヒルトさん! ラウラさん! その場から退避を! 一機来ますわ!!』

「何……?」


 ラウラの驚きの言葉が聞こえた次の瞬間、ラウラの右肩が青い粒子ビームに撃ち抜かれた。


「ぐうっ!? 長距離射撃だと……!?」

「あぎゃぎゃ、良いタイミングだな」


 慌てるラウラを男は楽しそうに見、その間に拘束していたAICを解除した。


「……こいつ、何者だ!? ラウラのAICを解除して……!」


 そんな一人ごちる俺に対して、男は振り向く。


「あぎゃぎゃ、悪いがそれに応えるつもりはねぇな。 有坂ヒルト……」

「ッ!」


 余裕すら感じる佇まいに、何故か額から汗が流れ落ちる。

 そして俺は、男を捕らえようと動こうとするも、上空から放たれる粒子ビームの雨が行く手を遮る。

 地面に当たる度に土が抉られ、小さなクレーターが出来上がる。


「セシリア! 上空の奴に対して牽制射撃を!!」


 俺の叫びが木霊する――だがセシリアは、敵機をスコープ越しに見ると小さく声をあげた。


『そんな……まさか……あれは!?』


 相手の機体を見て絶句したセシリア――。

 ハイパーセンサーのズーム機能で拡大して見ると、そこにはブルー・ティアーズに似た機体が空中で静止したまま構えたライフルによる射撃を行っていた。

 周囲には、盾みたいな物が浮遊しているが――。


「セシリア! 何をしている!? 撃て!」


 ラウラの怒号に、我にかえったセシリアはスコープを覗き込み、静止していた機体へと狙撃を試みる。

 放たれた粒子ビームは尾を引き、真っ直ぐと突き進むのだが――。


「防ぐ!? あれも自立兵器って奴かよ!?」


 盾状の物体が、機体前面へと展開されるや、セシリアの撃った粒子ビームは防がれ、粒子を四散させた。


「ならば……これならどうです!?」


 そう言い、ブルー・ティアーズ四基を射出するも機体周囲に展開した瞬間、四基のビットにビームが直撃――爆発を起こし、金属片となって地面に落下した。

 ――相手は既に機体を左右に早い速度で移動しつつ、セシリアを上回る連射で確実にダメージを与えていった。


「ひゅうっ♪ やるじゃねーか、あぎゃぎゃぎゃっ!」


 余裕を見せつけてるのか、セシリアと相手の戦いを眺めている男――。


「クッ……! 今度こそ拘束させてもらうぞ!」


 ラウラはそう言うや、ワイヤーブレードを展開、拘束しようと強襲する。


「あぎゃ、どうした?」

「ば、馬鹿な……! これはまさか……ッ!?」


 男とオータムに向かって射出したワイヤーブレードが空中で静止する。

 これは――。


「【AIC】……!?」


 思わず出た単語――AICは、ドイツの第三世代――シュヴァルツェア・レーゲンに搭載されてる奴だが……。


「どうした? 鳩が豆鉄砲でも食らった様な顔しやがって」


 ニィッと白い歯を見せて笑う男――一方、セシリアは……。


「これならどうですっ!!」


 腰部アーマーからミサイルを真下へ射出――直ぐ様命令を送り、多角的機動を取りながら左右の相手側の死角から狙う――だが。


「そ、そんな……っ!?」


 必中を確信していたセシリアの目の前で起きた現実は、自身が放ったミサイルが撃ち落とされ、爆発する光景だった。

 福音戦の時に見た時と同じ様に、ビームが弧を描いて曲がり、ミサイルを撃ち落とした姿だったのだから――。

 その場で棒立ちになるセシリアを他所に、空中から飛来した相手はオータムと男の側まで移動していた。

 俺とラウラの二人に対して、小型のビーム・ガトリングで弾幕を張って牽制しつつ――。


「あぎゃ、中々の速さだったぜ?」

「……あぁ。 私はオータムを拾っていく。 ……貴様はどうする?」

「あぎゃ、俺様は暫く後詰めとしてコイツらと遊んでから帰るぜ」


 二人の会話を拾うも、苛烈な弾幕を左右に避けるのが精一杯だった。

 展示用の為、近接戦闘用のブレードしか装備していないため射撃を行えない。

 ラウラに至っては、襲撃者のガトリングを避けつつ、自立兵器から放たれる包囲攻撃を避けているため、攻撃に転じずにいた。


「……っ! てめぇに呼び捨てされる筋合いはねぇ!」


 襲撃者に向かって言い放つも、襲撃者は表情を崩さなかった。

 ……とはいえ、バイザー型のハイパーセンサーに覆われていて、口元しか見えないのだが。


「あぎゃ。 話は後だ。 ……お前の処罰も、俺様が帰ってからだな。 白式は奪えず、どうやらアラクネも奪われた様だしな。 亡国機業の幹部が聞いて呆れるぜ、あぎゃぎゃ」

「……ッ!?」


 男の言葉に反応し、睨み付けるも失敗した事実は変わらない為、何も言い返せずにいた。


「くっ……ここで逃すわけには……! セシリア、援護を! ヒルトは左側面から頼む!」

「了解! セシリアは正面から足止めを!」

「わ、わかりました!!」


 棒立ち状態のセシリアは我にかえるや、直ぐ様ライフルを構えて引き金を引き続ける。

 射撃自体は盾型自立兵器――シールド・ビットに阻まれ、足止め効果は薄いが左右に俺とラウラが回り込むのに成功――それと同時に瞬時加速で一気に間合いを詰める。


「……あぎゃ、そろそろ俺様の真の力でも見せてやるぜ……! ユーバーファレン・フリューゲル、展開するぜ!!」


 男の身体が光に包まれた次の瞬間、光は晴れ――。


「……!? まさか、こいつも……!?」

「ご明察。 【世界で三人目の男のIS操縦者】って訳だ、あぎゃぎゃ!」


 背部の翼が特長の全身装甲タイプのISを纏った男が、不敵な笑みを浮かべると共に――。


「フリューゲル・アインス! ツヴァイ!」


 その言葉に応えるように、翼から何かが射出――それが俺とラウラの正面を妨害するや、次の瞬間には二人とも瞬間加速の勢いは失い、その場で固定されてしまった。


「っ……! ドイツの技術まで奪われていたという事か……!」


 悔しそうに口を一文字に結ぶラウラ――。


「あぎゃ、ドイツも一枚岩じゃないって訳だ。 ……金に困った研究者が小銭欲しさにやった愚行ってやつさ、これが」


 ニィッと不敵に笑みを溢すと、今度は――。


「ふっ。 この程度か、ドイツの遺伝子強化素体(アドヴァンスド)」


 口元を歪ませる襲撃者――まるでラウラを嘲笑するかの様に笑っていた。


「貴様……何故それを知っている!」

「言う必要も無ければ答える必要もない。 ……では私は先にこいつを連れて戻らせてもらう」


 そう言ってオータムを乱暴に掴むと、一気に急上昇――それと共に急加速でその場を離脱していった。


「あぎゃ、オーバーブースト使いやがったな。 ……まあいい、さて……俺様は暫くお前らの相手をしてやる――」


 そんな男の言葉を遮る様に、荷電粒子砲による一撃が俺の横を通り抜けて男の機体へと迫る。

 直撃――かと思えば、男は盾を呼び出し、その盾が展開すると放たれた荷電粒子砲のエネルギーをそのまま吸収した。


「あぎゃ、そこそこ威力の高い荷電粒子砲か……」


 そう言って空を見上げる男の視線の先には、白式を纏った一夏がそこに居た――。 
 

 
後書き
次回、カーマイン対一夏 
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