狂った私をお食べなさい
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欠損主義者
目の前で
彼女が喋っている
目がパチパチ動いて
口がパクパク開いて
笑うと少し鼻の穴が広がる
目と鼻と口なんて、
どうしてそんな気持ち悪いものが
人間には存在するんだろう。
マスカラたっぷりの
バサバサの睫毛
何かに似てる
何かに似てる
…あ~あー!
そうだそうだ、思い出した。
あれだよ……
あの
なんちゃらかんちゃらって鳥だよ。
名前は忘れたけどさ。
ぼくは笑う
こんな自分を隠して
彼女のわけのわからない話に付き合う。
彼女の唇や指が動く。
グニャリ、ぐにゃ~り、グニャリ、グニャリ…
もう嫌だ
こんな世界
ぼくは
欠けているものが好きだ。
欠損…いや、欠落主義者だ。
ネットで
片目がない女の子を見て
オナニーしたりした。
彼女と
セックスなんてしたことない。
なぜならば
目も鼻も口もある彼女に
興味はないのだ。
ある日、
彼女がぼくにキスをしてきたんだ。
あのグニャリグニャリって動く人間の唇が
ボクの
クチビルニ
ヌチャッテ
あたったんだ
ぼくは
視界がグニャリ
ああ…
もう殺してくれ。
もしくは殺してしまおうか、この女。
ぼくは
その場でゲロを吐いた。
彼女は
どうしたのと
心配そうにぼくの顔を
覗きこんでくる
どうしたのじゃねんだよ
目と鼻と口があって
五体満足の君のことが愛せないんだよ。
空気読めや
ゲロブス女
…だから別れを告げたんだ。
そもそも
この女の何が良かったんだか。
何かが良かったんだろうけど
今ではサッパリ思い出せない
思い出したくもない
死んでしまえ
彼女は
泣きながら別れたくないと言った。
でも君は普通過ぎて嫌だと言ったら
なんと彼女が突然、
自分で自分の爪を剥がし始めた。
ち。
真っ赤な
まっかな
きみのいろ。
壊れた君の色。
もう
既に愛してなんかいない
ゴミみたいな
きみのいろ。
気持ち悪い君の色。
ぼくのために必死な
惨めな
キミノイロ。
ああ、血まみれの指。
…ぼくは
ちょっとだけ
彼女のことが好きになった。
なぜならば
他の女と違って
彼女には爪がないから。
彼女自体は好きじゃない。
爪がない彼女のことが、好きなだけ。
そして、
そのとき、
ぼくはやっと彼女に
性的興奮を覚えたんだ。
そして、
ぼくはそのとき
彼女と初めてベッドインした。
お互いの爪を剥がしあって
愛を確かめあった。
…それにしても、
ぼくも…
目も鼻も口もあるし
五体満足だし、
自分のことを
鏡で見るたびに
イライラしてくる。
ぼくは
鏡の前で
セクシーポーズをきめてみた。
「しっかし…
美しくないなあ。」
ぼくは
そう呟きながら
頬杖をついて
ずっと
鏡を見つめていた。
ああ、美しくない。
世の中みんな同じ顔。
マ◯ンコがあって
チ◯ンコがあって
ホントニ
キモチワルイヨ
オマエラ
次の日
ぼくは彼女に
性器を潰すようにお願いした。
お互いの性器を潰そうと。
彼女は嫌と言う
けど別れたくないと言う
どんだけ
ワガママな女なんだ。
ぼくは、なんだか…
すっかり彼女のことが
嫌になってしまった。
そして、
別れ話を保留にしてたある日、
ぼくは恋をしたんだ。
その女は前歯がなくて
入れ墨だらけだった。
…くぅ~っ!!可愛すぎる!!
人と何かが違う、
それだけでキレイに見えるんだ。
なんて美しいんだろう。
なんて個性的なんだろう。
なんて浮世離れしてるんだろう。
友達には
趣味がおかしいと言われた
いやいや
お前がおかしいだろ
死ねや
まぁまぁ、
人の言うことなんか気にしない
ぼくの目に狂いは無いんだ。
どこまでも自分の目を
信じて生きてきただけだ。
どこまでも
自分の目や感性を信じて
生きていきたいんだ。
…そして
ぼくは、入れ墨の女に恋をしてから
彼女のことは
なおさら突き放したんだ。
そして
俺はすっかり入れ墨の女の虜になった。
その女は
乳首にピアスをしていた。
はだけた服をめくりあげて
誘うように胸を見せてきた。
その美しさに
ぼくはたまらず
手を伸ばしたが、
鼻で笑われたあげく
「あんたなんか嫌よ」
と、
冷たく手を振り払われる始末。
ぼくは
からかわれている。
弄ばれている。
それでも
いますぐ
君がほしい。
入れ墨女は
誘うような仕草を見せながらも
なかなかヤらせてくれないまま
月日が流れた。
ある日
ぼくは相変わらず
入れ墨の女に会いに行こうとして
外に出たんだ。
すると、
彼女が家の前で待ち伏せしていたんだ。
げーっ!!!
まだ諦めてなかったのか…
シツコイな…。ブスのくせに…。
ぼくは
彼女を振り払い
逃げまくって
入れ墨女のところに向かった。
後ろから
彼女の狂ったような泣き声が
聞こえてきたが
今のぼくには
うざいだけで
微塵も可哀想なんて思わないんだ。
うーあーいーやー
いかないでうんぬあうがきなーいでー
もはや
なに言ってんのかわかんない。
「うーあーいーやー
いかないでうんぬあうがきなーいでー」
と
ぼくは彼女の真似をしながら
叫んでみた。
叫びながら
そのまま走った。
彼女は怒って
げきおこぷんぷんまるに変身していた。
あーはははは
ぼくは
おかしくて
笑いが止まらなかった
世界は美しい
入れ墨の女のおかげで
ぼくの毎日は楽しくなった
あんな宇宙人みたいな奇声をあげて
ぼくにすがりついてくる怪物には
興味ない
死んでしまえ。
そして
ぼくは
そのあと…
念願の入れ墨の女に会った
けど
なんと
入れ墨の女のツレのホモに
ケツの穴を犯された。
やっ。ややや。いやん。
なんだ、この意味不明な展開。
ボコボコにされ
金も巻き上げられ
ケツの穴を
灰皿変わりに使われて
脅されて
写真を撮られて
それはもう
よくわからないまま
とりあえず解放され
ぼくはフラフラと
家路に向かった
そしたら、
やっぱり家の前では
彼女が待ち伏せしていたんだ。
ほんと諦めが悪い女だな…でも…
心が弱っていたぼくは
彼女を受け入れる気持ちになれたんだ。
今まで
どんなぼくでも愛してくれて
受け入れてくれた彼女を。
そして
ぼくは彼女にキスをした。
今までで
いちばん優しいキスをした。
そしたら彼女は嬉しそうに
笑いながら泣いた。
…ぼくも
そんな彼女を見て泣いた。
よくわかんなくて
震えちゃったよ。
いや、怖くてさ。
だって…目が離せなくてさ。
何がって?
だって、
だって、
笑顔の彼女の右手に、握られてるんだもん。
……ナイフがさ。
「それ、どうす…」
って
聞きかけた時にさ、
彼女は
飛びっきりの笑顔で
わかりやすく例えるなら
マックの店員ばりの
テンションと笑顔で
「うっそだぴょ~ん」
って言いながら
道をテクテク歩いてる鳩に
ナイフをグサっと刺した。
鳩は
ギュシィ~って
変な声を出して死んだ。
「なんだよ~。脅かすなよ~。ぼくが刺されるかと思ったよ」
と、
ぼくはホッとして
死んだ鳩を見ながら
爆笑した。
そしたらさ、
彼女が
「えっ?
脅しじゃないし。
フライングだよ」
って言いながら
バッグから瓶を取り出して
ぼくの顔に液体をかけたんだ。
ま~ぢ、びっくり。
ぼく
いきなり顔面が
鞭で打たれたみたいに激痛でさ
顔がズッパ~ンって
毛穴が肉片が細胞が
弾けて燃えてひとつになって
再び弾け飛ぶ痛さ
それは熱いなんてもんじゃない
グニャリなんてレベルじゃない
たぶん、もう、なにもない。
ぼくは無意識に発狂しながら
地面に転がったんだ。
転がった拍子に
おそらくコンクリートに
ザリザリザザザって
皮膚がこすれたと思うんだけど
そんな痛さなんて気にならないくらい
あついアアアアあついー。
あついーあついーあついーねーあついー
ママー
だれか
タスケテーボクをタスケテーあついよ
ぼくは
ものすごい声が出てたと思う
意味のわからない言葉も言っていた気がする
ぼくって
こんな声が出るんだなって
自分で自分にびっくり。
一瞬、
だれかが叫んでるんじゃないかと
錯覚してしまったけれど
それは間違いなく
ぼくの悲鳴で
これは間違いなく
ぼくの現実で
これがぼくが生きてきた
人生の結末で…
言葉も出せない。
顔の皮膚が
全部混ざった感じ?
ぼくは
今どんな顔してるんだろうね。
きみは
今どんな顔しているの?
いま、きっと一番美しい。
泣いてる彼女の声が聞こえたんだ。
「これで、他の女も寄ってこない。
もう、あたしだけのもの」
ってね。
でもぼくは
痛くて喋れなくてさ
立ち上がれなくて
おそらく顔が彼女の方に
ズリッて自然に動いたんだ。
そしたら多分、彼女は
ぼくの顔を見たんだと思う
彼女が
しばらく無言になって
「あっ…いや…ごめん別れよう」
って言い出した。
ぼくは顔が焼けて
声も出せなくて
目も見えなくて
わけわかんなくて
手探りで彼女の足を見つけて
すがりついたら
「やっ…そんな顔になったアンタもういらない。
やめて…離して…
…キモイヨ…」
…あぁ、そっか。
ぼくは
いつだか彼女のことは好きじゃなくて、
爪がない彼女のことが好きだと思った。
彼女も
或る意味、ぼくと同じ思考さ。
顔が無いぼくのことは
キモチワルイんだってさ。
彼女は
しがみつくぼくを
全力で嫌がった。
キモチワルイヨ
マヂキモイ
コワイヨ
アッチイケヨ
ハナシテヨ
ヤメテヨ
シネヨ
彼女は狂ったように
残りの塩酸を
ぼくにかけて
全力でぼくを拒絶しながら
全力でぼくを破壊した
焼けたぼくの目と鼓膜には
彼女の言葉も
誰かの叫び声も
彼女の叫び声も
救急車の音も
ぜんぶ、おなじに聞こえた
ぼくは
人と違うものを
求めていたのに
その求めていたものは
たいしたことなかったんだ。
誰もが持ってる感情で
ぼくは特別な何かにはなれないまま
消えていく。
結局みんな同じなんだ。
結局、結末は見えていたことなんだ。
これで
やっと終わる。
だって何されても
満足出来ない
何かが欠落している
ぼくときみだったからさ。
人間として
生まれてしまったから、
こんな感情に苦しめられて
欲求不満で
卑しいぼくときみだったからさ。
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