狂った私をお食べなさい
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黒い卵とぼく
ある日
ぼくの部屋に
黒い卵がふたつ落ちていた。
最初は
小さな小さな卵だったんだ。
だけど、
そのふたつの卵は
どんどん大きくなっていった。
ある日
ふたつの卵にヒビが入ったんだ。
ぼくは
その小さな穴から
中を覗いてみたんだ。
そしたら
それはそれは
美しい女性が膝を抱えて
座っているんだ
その女性は、
ある時は寝そべっていたり
ある時は自慰をしていた。
ぼくは
そんな女性を見て
とても興奮して
毎日毎日、
馬鹿みたいに
自慰にふけったんだ。
早く生まれてこないかな。
早く抱きたいな。
ぼくは我慢出来なくなって
卵を割ってしまったんだ。
「ハァハァ」
自分が自分でなくなってしまうような欲望が
もう爆発する一歩手前で
ぼくは
どん底に落とされた…
女性が出てこないんだ。
女性は何処に行ってしまったんだろう。
割れた卵の中からは
小さな卵がたくさん
溢れて出てきたんだ。
…イライラした。
そして大量の卵は
また大きくなって
ヒビが入ったんだ。
ぼくは毎日、
その穴から女性を見るのが
日課になったんだ。
そして、
中を覗くと
…やっぱりあの女性がいる。
ぼくは我慢出来なくなって
また卵を割ってしまったんだ。
会いたい会いたい会いたいァアァアァア
やらせろヤラセロ早くヤラセロヨ。
……そんなぼくの欲望は
また裏切られた。
やっぱり出てくるのは
女性ではなくて
大量の小さな卵だった
ぼくは
あの美しい女性に
会いたくて会いたくて
頭がおかしくなりそうだった。
こんな気持ちは初めてだ。
しかも、
小さな卵たちが鳴き声を上げながら
飛び回るんだ。
ああ…もうイライラする。
卵の鳴き声が煩くて
ぼくは不眠になってしまい、
ぼくはバッグに
卵を詰め込んで
部屋の片隅に
しばらく置いておいたんだ。
ある日、母さんが
そのバッグを触ったんだ。
ぼくは腹がたって
触るな!と怒鳴りながら
バッグを奪い取った。
母さんは心配そうに
「何が入ってるの?それ…」
と聞いてきた。
ぼくが何も言えずに黙っていると
母さんがバッグを取り上げて
バッグを開けたんだ。
ぼくは
かなり頭に来て
母さんを思いっきり
突き飛ばしたんだ。
そしたら
バッグの中の大量の卵が散らばって
狂ったように飛び回る卵たち…
それを見て
ぼくは
どうしていいかわからず
声も出せず
パニックになってしまった。
そして
どす黒い感情が込み上げてきた。
…このクソババア…
なめた真似しやがって
きっと母さんも
この卵を狙ってるに違いない。
そんなの許さない
誰にも渡さない
そうやって
どいつもこいつもあぁあぁァアァアァアァア
覚えてろよ
ぼくの邪魔したら
母さんでさえも許さない。
ぼくは
無我夢中で卵を貪った
歯応えがあって、
コリコリした食感だった。
飛び回る小さな卵に
囲まれている母さんは
なぜか青ざめながら
座り込んでいた。
どうしたんだ、このクソババア。
卵が手に入らなくて
落ち込んでいるのか?
ぼくは
勝ち誇った顔で
母さんに近寄り
「母さん元気出してね」
と言いながら
母さんの肩に手を置くと
母さんは
ぼくの手を振り払い
ぼくの顔を無言で見つめたあと
とつぜん、
気がふれたように泣き出した。
「あんた…なんでこんなこと…」
そう言いながら
泣いていた。
なんだよ、このクソババア。
と思いながら
飛び回る小さな卵たちを
ぼくは
ボーッと見つめていた
母さんは
飛び回る小さな卵の中で
ずっとずっと泣いていた。
…その夜
ぼくは夢を見たんだ。
ヒステリックな彼女…
そういえば
最近、会ってないなあ。
夢の中のぼくは
彼女とケンカをしていたんだ。
ヒステリックな彼女…
ぼくはイライラしてしまって
彼女を突き飛ばしたら
彼女が死んだんだ。
彼女は目を見開いたまま
動かなくなった。
ぼくはね、
パニックになりながらも
異様に興奮したんだ。
マンネリで飽きてきた彼女に
久しぶりにこんなに興奮したんだよ
こんな気持ちは久しぶりで
だからね、
彼女を抱いたんだよ。
そして、しばらく繋がっていたら
どんどん締まりが良くなってきて
彼女の体温は
どんどん無くなっていく
彼女の体温が無くなっていく瞬間を
ぼくは彼女の中で
しっかり味わった
何て貴重な体験だろう。
だけど
射精したあと、
なんとも言えない
暗い暗い感情になった。
ぼくは
彼女に添い寝をしてみた
「うそだよん」
って起きてくるはずもないのに
ちょっぴり
生き返ることを期待してみた。
でも今更
うそだよんって言われて
生き返ってきたところで
ぼくは彼女を
愛せる自信なんかないんだ。
もしかしたら、
いまぼくは
ホッとしてるのかもしれない
だけど
気持ちは深く深く
どんよりと真っ暗な闇で
ここから
どこに行けばいいの
ここから
どこに正解があるの
どんな結末でも
結局ぼくは
深い深い闇を泳ぐだけでさ。
なんか
もう
どうでもいいや。
鏡を見ると
弱い目をしたぼく
だれか
ねぇ誰か
ぼくを連れ出して。
彼女の目は
ずっと見開いたままで
ぼくの弱い目とは裏腹に
鋭い目をしていた…
なんだか、
責められてるような
そんな気持ちになったんだ。
少しでも…
この深い深い
ぼくを取り囲むどす黒い闇が
ほんのすこしでも
マシになってほしいから
だからさ、
ぼくは彼女の目を
くりぬいて逃げたんだ。
彼女は一人暮らしだったから
ぼくは彼女が死んでから
しばらく
ちょくちょく覗きに来ていたんだ。
あの目が怖いから
目が合わないように
壁に穴を開けて
そっと覗いていたんだ。
そしたら
穴からたくさんハエが飛んできてさ。
そのハエが
うっとおしくて
見てらんなくてさ…
だから
しばらく見に行ってなくて
すっかり彼女のことなんか忘れていた
そして
黒い二つの卵に出会ってさ。
卵の中の女性は
目玉がなかった。
だけど、
ほんとにほんとに美しかったんだ。
「ねぇあの事件怖いよね
彼女殺して目玉持ち歩いてたやつ」
「知ってる!
ハエとか、めっちゃたかってたらしいよ」
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