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神様が親切すぎて夜に眠れない

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四話『情け容赦のないチュートリアル』

 
前書き
仕事の合間を縫って更新のため、誤字脱字等はちょこちょこ後から修正入れます。 

 
玄人は恐る恐る、二つ目の宝箱を開く。

一つ目と同様、カギは掛かって無いのか、いとも容易く、宝箱の蓋は開いた。

心に浮かぶ好奇心を、警戒心で押し殺して、玄人はその箱の蓋を前回同様、ゆっくりと開いていく。

ほどなく、その宝箱は開いた。

とりあえず、開いてすぐに襲ってくる類ではない事に安心する玄人。

だが、だからといって、警戒心を解くことは、玄人にはできなかった。

この、《不可思議な空間》

そして、先程の武具を装備した時に発生した《不思議な高揚感》

冷静で現実的な俺の心の一部は未だに、『それは勘違い』と言っているが………

俺の肉体が感じた、《ナニカ》が、そう判断し切る事を拒んでいたからだ。

………これが《神の御業》と判断することは早計なのはわかっている。

だが、『気のせい』というには、些(いささ)か奇妙なことが、多すぎた。

だから、『残り二つ』の宝箱についても、玄人は非常に警戒していた。

(俺の装備も、返してもらったしな)

『前の宝箱の中身』から、返された玄人の装備。

それに当初は喜びを感じていた玄人は、ふと我に返って、思った。

『なんで返してくれたのか?』

その疑問に答える一つの解答を、玄人は知っている。



だが、警戒しすぎてもしょうがない。

心配する心はそのままに、中身を確認していく。

そこには、ぺらりと一枚の紙のようなものが入っていた。

端をつまみ、白紙の裏面を返して、表面を見ると………

「………紋章?しかもうちのギルドの?」

そう、自身のギルド『頭がファンタジー()』のギルドの紋様が写っていた。

双頭の龍と、中心にある剣の裏に描かれたクリスタル。

その精緻な紋様に見とれていると………

不意に、その紋章が『解けた』

「………え?」

そこからの変化は、一瞬だった。

「おいっ!?ちょっ!ちょっと!?」

慌てて盾を構えるも、《一瞬で紙の上から光の粒子になって解けた》ギルドの紋章は、玄人の胸あたりに吸い込まれる。

瞬間、視界が明滅した。

………次いで、脳が揺さぶられる。

「ぐっ!?」

思わず呻いて、倒れ込んだ玄人の脳裏には……

天空に浮かぶ、白亜の城。

ギルドの本拠地の情景が映っていた。

(ああ………俺たちの居場所。つらい現実を忘れるように積み上げた、俺たちの……幻想の城)

それに伸ばした筈の手は………

《まだ早い》

何処からか聞こえる謎の声と共に………

何も掴めず、空を切った。

気付けば、そこは元の場所。

何処かわからぬ、石造りの部屋。

そこに蹲った自分を自覚した時………

玄人は、その心にが感じた苛立ちを、全力で拳で床に叩き込んだ。

瞬間、石畳が『(たわ)んだ』。

まるでゴムのように、大きな石で組み上げた床が大きく凹むと……

そして、重低音を響かせながら拳を中心として衝撃波が迸る。

そしてその後に、『何事も無かったかのように』元に戻った。

『明らかに人知を超えた』その現象。

それも見たことで、沸騰しかけた頭が、急激に冷えた。

「………まあいい。まだ一つあるしな」

正直、目の前に『救い』を差し出しておいて触れさせないという『ゲームマスター(仮称)』には言いたい事が山ほどあったが、仕方がない。

ウンザリした心を引きずり、前二つと同様、警戒しながら宝箱を開いた。

そこには、奇妙な物体があった。

三つの宝玉の嵌った、白い燭台。

自身のギルドのものでも無ければ、ある程度『ユグドラシル』の上位アイテム知識に習熟した自身の記憶にも無い、そのアイテム。

そのアイテムを前に少々悩むも、思いなおし一つ目の宝箱と同様に上蓋の内側を見た。

そこにも、短く一文が。

『これは、試練のカギ。《3つの敵》を砕いた先に、道は開かれる。左から順にクリアせよ』

彼は無言で、盾を装着した左手で、その燭台を掴む。

そして、中身を持ち上げて空になった箱を、宙に蹴り上げた。

「………神様気取りかよ!」

金属にぶつかる鈍い音と共に、持ち上がる一メートル四方の箱に背を向け、漏れる怒りの声と共に、彼は燭台をそっと、逆の石畳に置いた。

同時に、先程手に入れた袋をまさぐる。

怒りはまだある。

だがそれに気を取られ、準備を怠るのは彼の信条に反した。

指輪、ネックレス等のアクセサリもすべて付ける。

そして、いわゆる《ベスト装備》を身に着けた玄人は、その《命令》通りにその左端の宝玉に、触れた。

視界が、暗転した。

次に玄人が意識を取り戻した時、彼は真っ白な空間に一人立っていた。

それに気づくと同時に、彼は武装を確認した。

彼が好んで使う鎧である《決闘者の鎧》

白を基調とし、鎧の縁には赤いライン、胸には赤い宝玉。後ろにはギルドマークが入っている《ギルド武器》。

能力は《回復+即死系魔法の禁止》

この鎧を纏っている限り、破魔、呪殺の区別なく相手は即死呪文が使えず、同時に自身も使用が出来なくなる。

《自身も使用不可》という縛りによって成立した、防御系のガチアイテム。

かつてアパートの兄貴分達にもらったゲームの一つである〇ガテン系で即死系アイテムに散々な目に遭わされた玄人が切望した武具。

次いで武具である《覇王聖魔剣777号》

ぶっちゃけ名前を見ると《ネタ武器》に見えるが、れっきとしたガチ武器である。

かつて特殊クラス《ワールドチャンピオン》を決める大会で準優勝をしたときに貰ったワールドアイテムで、元の名は《無銘》

名前が遊んでいるのは課金して名称変更しただけで、能力としては《ワールドチャンピオンを除くキャラには、最低保証で相手の総ライフの1%ダメージを与える》というアイテムである。

たかが1%と侮るなかれ。

どんな固い敵にも、強制1%ダメージ保障ならば、100回斬れば、相手は死ぬのだから。

そして逆の手で掴んでいる盾は《癒しの盾》

能力はシンプルで、ギルド御用達の鍛冶屋に頼んで作ってもらった《癒し系上位の宝玉が詰まっている盾》

継戦能力に主眼を置いた盾で、握っているだけで一定時間ヒールが発動。しかもえげつない課金により時間をずらして回復が連続発動するため、趣味ビルドしているキャラでは、ほぼ突破不能。

最後に作ったのは《忍耐の兜》

これはユグドラシル内でも非常にレアな《最上位強化魔法》が込められた宝玉が複数はまっている兜で、被っている本人に、常に全種類の最上位ブースト魔法がかかるようになっている兜である。

………え、戦術がド汚いって?

だが待ってほしい。

オープンワールドで公式に許されているガチビルドをするのは合法では無いだろうか(言い訳)

………まあ正直、当然のごとく一人でこんな高価かつバランスブレイクな代物を作れる筈もなく、引退する友人から、リアルマネートレードまでして材料などは手に入れているのだが。

閑話休題。

(さて、ここからが問題だ)

武装を確認した玄人に応えるように、白一色の世界に赤い魔方陣が出現した。

その出現と同時に、戦闘態勢を取る玄人。

剣を抜き、盾を掲げて、彼はその魔方陣に警戒をしながら、先程思った事を反芻していた。

(自分の装備を返された事に、警戒心を抱かずにはいられなかった。)

白い袋から返された装備の意味を考えた時に、思い至ってしまった可能性。

もし俺を連れてきた存在が無意味なイベントを作らない奴ならば。

(俺の武装が『返された』ということは、『使う可能性がある』と考えた方がいい)

つまりは………

魔方陣が割れ、中から《一つ》の物体が飛び出す。

それは、奇妙な《モノ》だった。

中世ヨーロッパにあった服です、と言えば信じそうな布でできた旅人の服。

木でできたような茶色い靴。

毛皮の手袋。

三角帽子に、腰に差した二振りのレイピア。

それがまるで、『着ているように』浮いている。

まるで《透明人間が》着ているように浮いている『ソレ』を見て、彼は。

非常に奇怪な、その《モノ》を、親の仇のように睨みつけ、言った。

「正直さ、武具を返されてから《試練》って言われたからさ、ある程度覚悟はしてたんだよ、俺と『同レベル』の相手を出されるくらいのことはさ………」

そして、怒りに震える声を、重ねて彼は叫んだ。

「そうだよなあ!俺の武具ここまで知ってんなら、俺の『別アカウントのキャラ』も当然知ってるよなあ!」

瞬間、フルプレートの筈の玄人の体は、『一歩』でその奇怪なモノの目の前まで運ばれ。

同時に、振りかぶった剣は吸い込まれるように三角帽子の頂点に吸い込まれ………なかった。

ガキンッ!

『いつの間にか』腰から抜いて、交差していた双剣に阻まれたからである。

その見覚えのある剣に、さらに怒りを感じながら、彼は『その名』を叫ぶ。

「やろうか『ワンダーハット』!俺の片割れよ!」

虚空に浮かぶ衣服、いやさワンダーハットは何も答えない。

ただ、双剣を滑らせ剣をいなした後、後方に飛んだ彼は………

その『叫び』に応えるように、静かに構えた。

《試練1⇒己の片割れと対峙せよ》

 
 

 
後書き
※神視点でのネタばらし

玄人が開いた3つの宝箱はそれぞれ連動しており、開けた箱がどれからだろうが、『開けた順番により』中身が決定する。

⇒簡潔に言うと、どれから開けようが、取れる順番は『袋』⇒『ギルドの紋章』⇒『試練のカギ』になる。 
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