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生ける大地の上で 

作者:昼猫
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第3話 嵐龍、現る

 
前書き
 この世界の士郎は投影魔術は使えますが、この世界に嘗てあった魔術基盤は今は脆弱と言う設定で、エクスカリバーなどは投影できませんし、宝具による真名解放も1日3回までしか使えません。
 概念武装など内包されていない剣や槍などは、魔力が持つ限り幾らでも投影できます。
 もしかしたらこの設定途中で変えるかも。少なくとも最初の頃は真名解放なんて滅多にやりません。 

 
 俺は今、エニノゼカ村に行くために雪山を便って向かっていた。
 理由はエニノゼカ村とン・ゼンア村を結ぶ参道のモンスターが棲みついていないかのチェックだ。
 だがそれは建前。正式な仕事ではあるモノの、俺に回すような仕事では無いらしい。
 本命は――――。

 そこで雪山をしばらく歩いていると、少し離れた箇所からブルファンゴが数頭にドスファンゴが一頭此方に突進してくることに気がついた。
 面倒なので殺意を飛ばしてブルファンゴたちの原生的本能に刺激を与える――――つまり恐怖感を煽って逃走させた。
 だがドスファンゴには通じずにない。

 「仕方ない」

 背中に背負っている武器の二つの内、大剣を抜く。
 その大剣でドスファンゴの突進を躱したすれ違いざまに、両方の角を叩き割った。

 ブモォオオオオッッ!!?

 割った角に神経が張り廻らされたかは知らないが、幾分かのダメージを受けた様だ。それに畳掛けるように改めて殺気を贈る。

 ッ!?

 今度こそ怯み動けなくなったドスファンゴを確認してその場から去る様に前進を再開する。
 そこからまた少し進むと、覚えのある――――と言うかティガレックスの咆哮が聞こえて来た。
 アレが得物無しに咆哮する筈が無い。
 聞こえる方を辿って行くと、振り続ける雪で確認しにくいが何かを襲っている様だ。
 さらによく見ると、あれは!

 「人だと!?」

 此処に人がいてもおかしい事は無い。現に俺が此処に居るわけだし依頼や調査が有れば他のハンターだって来るだろうし。
 しかしながら問題は服装だ。あんな軽装でこの猛雪吹き荒れる雪山に来るとは何事かと問い詰めたい所だが今はその時では無い。
 見れば足をやってしまった様で動けずにいるであろう人と、それに跳びかかって行く轟龍。対応としては決まっている。

 「喧しい」

 跳びかかった宙に浮いている所を狙って思い切り轟龍の脇腹を蹴り上げて、崖から突き落とした。

 「さてと」

 事情を聞こうとまだ男女の性別確認すらできてない人に近づこうとするも、背後から突進してくる何かに気付いた。

 「おっと」

 それを最低限の動きで躱してから見ると、矢張りと言うべきか先程の角を砕いてやったドスファンゴだ。一度目は見逃したが、かかってくるのなら二度目は無い。
 また突進してきた所を容易く躱してから一瞬真横について、思い切り蹴り落とす。
 勿論、ティガレックスを落とした同じ崖下に。

 ブオォオオオオオオッッ!!?

 唸り声をあげながら落ちていくドスファンゴ。
 ティガレックスもそうだが、運が悪くなければ十分生き残れる可能性はあるだろう。
 兎に角、邪魔者がいなくなったので急いで先程いた人を追いかけようとするが、最早何所に行ったかもわからない。振り続ける雪によって足跡も見えなくなっている。

 「手あたり次第探すしかないか」

 気配を辿りながら捜索を開始した。


 -Interlude-


 「軽い大掃除でなってしまったな」

 漸く先程見かけた人の痕跡を見つけてこの洞窟まで足を運んだが、それまでに遭遇した肉食系の小型大型関係なく、数にしておよそ三十ほどのモンスターを狩り尽したのだ。
 とは言え大物級なぞ一頭たりとも出くわさなかったので、全て一撃で絶命させたから捜索開始からそこまで時間も経過してはいない。

 「こんな洞窟に一体何の用があって・・・」

 そう考えた直後、先程とはまた別の聞き覚えのある咆哮が洞窟内から響き渡って来た。

 「不味い」

 瞬時にこの咆哮の主――――ギギネブラと探し人が遭遇したと考えついたので、奥へと足を急ぎ進めた。
 幸い現時点では洞窟は一本道なので迷うことなく奥へ奥へと進むことが出来た。
 さっきの反響具合からざっと計算した結果、そろそろ辿り着いてもおかしくは無いと考えた直後に目に入って来たのは、少し距離のある場所でギギネブラが誰かを捕食しようと口を大きく開いた瞬間だった。

 「間に合え・・・!」

 そこで一瞬で跳躍して既に抜き終えていた大剣を、ギギネブラの長い首目掛けて全力で投擲。

 勿論結果は着弾したギギネブラは、久々に見かけたご馳走を目前にしてギロチンに掛けられた死刑囚の様に断頭となった。

 そんな死骸となったギギネブラの胴体の背中部分に遅れて着地・到着すると、食べられそうになっていた探し人の正体は軽装のストロベリーブロンドの少女だった。
 怯えている様子だったので優しく声を掛けてやるも無言。恐らくは未だに現実に追いついていないのだろう。更に優しく声を掛けるもあやふやに返って来る言葉ばかり。

 「ふむ」

 此処はまず落ち着かせるのが先だろう。ならばそれ以上に寒さを凌がせる方が先決だと考えて、赤い液体が入っているビン――――ホットドリンクをポーチから取り出した。

 「これを飲むといい。即効性故に短時間しか持たないが、直に温まるぞ」
 「ぁ、はぃ・・・!」

 気休めと思ったのか騙されて飲んでみたのだろう、見る見るうちに自分の中で熱が蘇った事に驚きとともに少し顔色も良くなってきた。
 とは言え、少女にも告げたように短時間しか持たないが事情を聴く前に無理矢理山を下りるのもどうか・・・・・・・・・と思考の海に僅かの間浸かっているとある事を思い出した。
 そう言えばアレが在ったか。
 一応念のためと、この仕事に入る前に受けた依頼で討伐した超大型モンスターの剥ぎ取った素材の一部で作った防寒対策のコートの一つ。しかも折りたたみやすいように考えて作った割には、元々の素材の性質故に防寒対策の服装物としては最高クラスのモノに仕上げられたと言う自負がある。

 「上下ともあるから今着ている服の上からでいい。これを着れば、先程飲ませたドリンクの効果が切れる頃くらいまでには君の衣服の中を温めてくれるだろう」
 「ぁ・・・・・・ありがとう・・・ございます」

 今にも凍えそうな少女――――と言うのが対処によって変わって落ち着き始めた。
 これならば漸く事情を聞けるだろうと尋ねる事にした。

 「――――以上・・・です」
 「・・・・・・・・・」

 これは何とも。
 事情を聞けば背水の陣だったとはいえ無謀にも程がある。これは説教した方が良いかと思いきや、少女が懺悔するように泣き崩れ始める。

 「お母さんや妹は勿論、神父様が止めた気持ちが今なら分かります。私、なんて馬鹿な事したんだろう・・・・・・」

 言葉を言い終えると本格的に泣き始めた。それでも忍ぶようにだ。
 この少女()は頭が良い。
 もう既に自分がしでかしたことの大変さを自覚しての後悔を始めたんだ。
 家族の事を心から思い、そして頭もよくなければこの状況でそんなこと泣きながら考えに至れるわけがない。
 これは説教の必要は無い。何よりその気持ちだけは間違いじゃ無かったんだな。
 だから優しく慰めるだけで良い。

 「成り行きの巡り会わせとは言え、間に合って良かった。よく頑張ったな」

 そう、優しく抱きしめたやると、胸に顔をうずめて来てさらに泣き出した。今度は忍ぶようでは無く思い切りに。
 ただ黙ったまま抱きしめ続ける。時折あやす様に背中を優しく叩く。それだけで少しづつ泣き止んでいくのだった。

 「――――すみません。見ず知らずにハンターさんに色々お世話してもらった上にみっともない所見せてしまいまして」

 泣き止んでからの謝罪。だが、

 「そんな事は如何でもいい。それよりも早く下りた方が良い。目的のモノ以上のモノも手に入れたし、ご家族や神父様も心配してるぞ。早く顔を見せて安心させた方が良い」
 「は、はい」

 一応、ギィギ自体から剥ぎ取れる素材も回収したが、ギギネブラからも素材を剥ぎ取って回収したのだ。これで彼女の母親を助けるための解毒薬も作れるだろう。
 さてとと、一息つけてから下山しようと決めた所で轟音が鳴り響く。

 ガァアアアアアアッッ!!!

 「っ」

 これに少女が反応した。無理もないだろう。先ほどはこれに追いかけられたのだから。

 「突き落としてやった(・・・・・・・・・)のに、もう這い上がって来たのか。相変わらずアレは執念深い」
 「え・・・」

 今の俺の言葉に少女が意外そうな反応を示す。

 「俺が君を見かけたのは、遠目からだがこの咆哮の主に追いかけられている所なんだ」
 「え・・・。じゃ、じゃあ、あのモンスターが変な落ち方したのって・・・」
 「推察通り。俺が奴の脇腹に重い蹴りを入れて突き落とした結果だな。その後に君を直に保護しようとしたんだが、直後に別のモンスターに襲われて対処に遅れてしまったんだ」

 最後にすまないと付け足すと、いえそんな!と畏まれる。
 矢張り聡明な子だな。

 「取りあえず説明はこれで終わりと。――――少しここで待っていて欲しい」
 「えっと・・・」
 「アレの咆哮の主の御所望は俺だ。崖下に落ちて行く際に俺を睨み付けてたからな。放っておいても君の村にも迷惑かけてしまうかもしれないし、直に狩って来る」

 そう言い残して洞窟を出て行ってしまうハンターさん。
 この山に来た時は1人だったのに、ハンターさんが助けてくれたからこそ安心できたからこそ今はまた1人になって不安に感じてしまう。

 ギャオォオオオオオオッッ!!

 「っ」

 また咆哮が聞こえて来る。軽い調子で出て行ってしまったが、もしかしてピンチなんじゃないだろうか。
 如何すればどうしようかと逡巡していると、洞窟から出ていく時とには所持していなかった“何か”を持って帰って来た。

 「えっと・・・おかえりなさい」
 「ああ、ただいま。それじゃあ行こう」
 「え・・・?」
 「奴のことなら、もう狩り終えたから安心してくれ。ささ、下山しようか」

 そう言うと、持ってきたものをポーチに入れて跪く様に腰を下げてから私に向けて両手を広げて来るハンターさん。

 「えっと・・・」
 「ん?あー。君は足を挫いてるから急いで下山は出来ないだろう。だがおんぶしてやりたいが弓と矢包みと大剣が邪魔でそれも出来ない。だから後は抱っこしかないんだが・・・・・・やっぱり見ず知らずの男から抱き上げられるのは嫌か?」
 「そ、そんなことないです!」

 確かに未だに防寒対策のマスクとゴーグルで素顔は見えないが、先程から何となく安心させてくれるような気づかいが申し訳ないくらいに嬉しい。
 そんな人からの抱っこで運んでくれる提案に、拒絶する理由が私には無かった。

 「なら、遠慮なく行かせてもらうぞ」
 「は、はい。ふ、不束者ですが宜しくお願いします」
 「それは意味が違うだろう、に!」
 「わわ!」

 宣言通り帆波は抱っこされる。ただしお姫様抱っこだ。

 「どうだ?窮屈か?」
 「だ、大丈夫です」

 思ってたよりもこの態勢恥ずかしいな・・・。

 「それじゃあ行くぞ」
 「はい。っ!?」

 いざ洞窟から出ようとした時に、外から色々なモンスター達の鳴き声が聞こえてきた。

 「早くも始めた様だな抗争を。だがまずは俺にと言う事か」
 「えっと・・・?」
 「君のせいにする気は無いが、此処に辿り着くために小型大型の差別なくモンスターたちを狩りつくしたから、この雪山でのモンスターたちのカースト争いが始まってるんだろう。だがまずはその元凶の俺にと、洞窟の外に集ってると思われるのさ」

 これに対して謝罪しても問題ないと言ってくれるハンターさん。

 「で、ですけど、私で両手塞がってるじゃないですか?やっぱり・・・」
 「降りる必要は無い。一時的にも手を組んで集団で襲えば何とか俺を食い殺せると、その程度の雑魚なら武器など使わなくてもどうと言う事は無い。ーーーー行くぞ」
 「きゃっ!」

 少女を抱えたまま洞窟を出ると、待ち構えていたのかギアノスが俺達を食い殺そうと口を大きく開いて突進して来た。
 俺はそれを上段蹴りで迎撃する。

 アグブッ!

 蹴り上げられた事により無理矢理口を閉ざされたギアノスは、痛みと衝撃で怯む。

 その隙を逃すほど俺は慈悲深くない。
 上段蹴りで僅かに浮いたギアノスをボールに見立てて、モンスター達で固まっているか場所へ蹴り抜く。
 利用されたギアノスはくの字のまま、モンスターたちに見事着弾。その役割を果たしてその場で息絶える。

 「大丈夫だったか?」
 「は、はい。なんとか・・・」
 「こっからも動き激しくするから、両腕を俺の首に掛けるようにしっかり掴まっていてくれ」
 「は、はい!」

 その後は言う通りだった。
 時に片足の太腿と脹脛でモンスターを挟み込んで、もう片足で回転しながら挟み込んだモンスターの手足の爪を武器として寄って来る他のモンスターを撃退したり、時に如何いう理屈か分からないけどハンターさんが片足を思い切り地面を踏み込むと周囲が揺れて多くのモンスターたちが悉く転ぶ現象を起こすなど大暴れ。
 暫く暴れに暴れてからその場から離れて行く。

 「す、凄いですね。本当に武器も使わずに蹴散らせるなんて」
 「お褒めに与り光栄だが、あまり喋らない方が良い。舌を噛んでしまうぞ」

 ハンターさんの忠告で私は口を閉じた。
 それにしても・・・・・・。
 こうして強く抱っこされていると、朧気な思い出が呼び起こされる。
 顔も覚えていないお父さんが、昔の小さかった頃の私を強く優しく抱き上げてくれた頃の事。
 そう思うと、この見ず知らずのハンターさんに昔からの憧れの想いを重ねてしまう。

 ――――まるでお父さんみたいだなとって、うひゃぁああああああ!?」

 落ちてる落ちてる落ちてるぅうううううううう!!?

 帆波の悲鳴通り、現在落下中だ。答えとしては単純明快。崖から飛び降りたからである。

 「あのあのあのぉおおおお!?これ死んじゃう死んじゃう死んじゃうぅうううぅううう!!?」
 「大げさだな。この程度の高さから飛び降りた程度で人間死にはしないし、俺はしょっちゅうしてる。何よりこの方が最短で村に行けるだろう?」
 「にゃぁあああああああぁあああああ!?」

 驚愕と困惑と絶望を一緒くたにしたように叫び続ける帆波。
 それは当然と言える。
 上ること自体は素人の帆波でもそれなりに行けた山ではあるが、腐ってもそれなりでも標高が地味に高い山だ。その中腹から麓に続く崖を躊躇なく跳び降りた上での現在落下中なのだから。

 「あっ」
 「ど、どどどどどっどうしたんですか!?」

 自分を抱えるハンターが落ち着いているので最低限の冷静さを取り戻した帆波だが、それでもこのような状況なのである程度困惑しながら聞いた。

 「鍛えてるから俺は大丈夫だが、着地時の君にかかる重力加速度に加えた圧力などを計算していなかった」
 「耐えられるんですよね、耐えられるんですよねっ、耐えられるんですよねぇええええっっ!!?」
 「・・・・・・・・・」
 「酷いぃぃいいいいいいいいいいぃいいぃいいいいいいい!!?」

 これはあんまりだった。助けてくれたのかもしれないけど、こんな結末は嫌だ!

 「大丈夫だ。なんとかする」
 「具体案があるんですかぁあああ!?」
 「まず、首にひっかけている両腕をもっと深くかけて、体も寄せてくれ」
 「っ」

 帆波はすぐにハンターの言うとおりにする。
 今の態勢は互いに息のかかるぐらいにまで顔が近い。
 これが愛し合う者同士なら、このような極限的な状況下であろうとお互いに色の籠った視線を交わし、瞳を閉じるとともに唇を重ね合わして熱い口づけに浸り続けるだろう。落下死の直前まで。
 ただし現実はついさっき会った者同士で互いの名前を知りもしない上、帆波はいっぱいいっぱいでハンターは冷静のようだが今もなお帽子にゴーグル、そしてマスクと表情が全く見えないと、ムードの欠片もない状態である。

 「あとはフードも被せてと」
 「ひゃ」

 そうして準備完了。
 足に備え付けられた帯と袋にしまわれていたダガーを取り出した。
 それを徐々に近づいてきた山肌の壁目掛けて思い切り突き刺す。

 ガガガガガガガガガガッッ!!

 ハンターの突き刺したダガーの耐久性は特別に体の堅いモンスターからはぎ取って作った最高クラスの性能だ。
 なので山肌の岩石に負けることなく耐え続けられる。
 山肌に切り口をつけながら落下し続ける。

 「これで落下速度を低くすることができる。着地するぐらいにまでは君への体にかかる圧力と負担もほとんどなくなるだろう」
 「そ、それはい、いいいい良いんですけど、痛くないんですかぁあああ!?」

 山肌に切り口をつければ当然岩や石などの欠片がいくらかはハンターたちを襲う。
 実際ハンターは帆波を守る様な大勢だ。

 「鍛えてるんで然程な。それより君も腕痛くないか?」
 「は、はははいぃいいい!腕にも結構当たってるんですけどぉおお、全然痛くないですゥウウ!」

 当然と言えば当然である。何故ならそれの材料の元となっているのは崩竜で有名なウカムルバスなのだから。

 しかし事態は急変する。
 落下速度を落とす為に切り裂いていた山肌の一部が歪に脆くなっていた場所に罅が繋がって行き、その一部は破損して大岩となって落ちて行く。
 ハンターたち目掛けて。彼らよりも遥かに大きい岩石が。

 「ひっ!!」
 「む、運から見放されているな」

 だがそうだとしても。

 「無理矢理切り開いて行けばいいだけの事!」

 切り裂き続けるために刃を縦にしていたダガーを一時横にして、止めた上でダガーを掴んでいた腕の力だけでそこから寧ろ自分から大岩目掛けて跳ぶ。

 「フッ!」

 片足を振りかぶって大岩を蹴り砕く。
 そして砕かれた大岩の破片が先に落ちて行くのを見計らってから、再びダガーに飛び移る様に掴み直して崖を下るのを再開する。

 「良しこれでもう大丈・・・・・・」
 「・・・・・・・・・」

 よく見れば寝て――――否、気絶している。

 「・・・・・・・・・恩を着せるつもりなんて傍から無いが、これは気がついた時に感謝では無く恨み言の一つも言われそうだな」

 ある種の自虐とも取れる言葉を呟きながらハンターは順調に下って行った。


 -Interlude-


 「・・・ぅ・・・ぅぅうん・・・」

 周囲のほのかな温かさに誘われて覚醒の兆候を見せる帆波。

 少しづつ瞼を開くと、そこには椅子に座ってうたた寝している甘凪の姿が在った。

 「甘・・・凪・・・?」
 「ぅん・・・?――――お姉ちゃん!?って、そうだ!お母さーん!お姉ちゃん起きたよーーーっ!」

 あっという間に自分の前から去ってお母さんを呼びに行く甘凪の姿の慌ただしさに、直に現実だと理解させられた。

 「此処は・・・教会?」

 状況を把握しようとベットから起き上がろうとすると、

 「ッ!?」

 足先の方から鋭い痛みが響いたのが分かった。
 見ると右足首に包帯がまかれており処置されている事に気付いた。
 何所から何所までが夢とも疑ったが、これで恐らくは全てが現実だったと言う事が推察できた。
 いや、その前に甘凪はなんて言った?お母さんを呼びに行った?じゃ、じゃあ、お母さんは・・・・・・。

 「お姉ちゃん!」

 そこへ甘凪が戻って来た。自力で歩けてるお母さんを連れて。

 「お母さん!もう歩けるの!?」
 「ええ、それも全部ハンターさんのおかげでね」
 「え?神父様が治してくださったんじゃ無くて・・・?」
 「それは私から説明しましょう」

 そこへ未だ素顔が見えないままのハンターさんを連れた神父様が来た。

 「実は言うと、帆波さんがいなくなった後に暫くして、一之瀬さんの体調が急変しまして予断を許さないほどだったのです。それこそハンターさんと帆波さん手に入れてくれた素材を元に解毒薬を作っていては間に合わないほどに」
 「えっ!」
 「ですがそこは不幸中の幸い。此処に居るハンター殿は、ここ最近で都市伝説的に実しやかとして騒がれていた“病魔殺し”だったんですよ。どれほど重症であろうがいとも容易く治せてしまう方なのです」

 神父様の説明に頭が状況を何とか理解させていく。

 「ハンターさん・・・。お母さんのことといい私の事といい、ありがとうございます・・・!」
 「特に大したことはしてない。出来る事をしたまでだからな。それより、今は君のお母さんと話し合った方がいいんじゃないか?」

 ハンターさんの言葉にハッとしてお母さんへと顔を向ける。
 見ればとても悲しそうな顔を向けてきているのが判った。
 叱られる。だけど仕方ない。私はみんなの制止を振り切って、あんな愚行に走ったんだから。しかもハンターさんがいなかったら確実に死んでいのだから。
 だけど私の予想に反してお母さんは優しく抱きしめてきた。

 「お、お母さん?」
 「ホントはここで頬の一発でも引っぱたいて説教しなければいけない所だけど、元々の原因は甘凪含めた2人の気持ちを蔑ろにして死のうとした私が悪いのだものね。ゴメンね」
 「っ!そ、そんなことない!私が、私も悪いことしたんだから・・・!」
 「お母さん・・・お姉ちゃん・・・っ!」

 遂には横で聞いているだけだった甘凪も2人に抱き付いて泣き出した。
 それを温かく見守っている外野のハンターと神父(2人)
 そこへ、入り口の扉を少し開けて静かにハンターだけを手招きしている1人の老人がいる事に気付く。
 その対応に色々と察したハンターは、神父に断りを入れてから部屋を後にした。


 -Interlude-


 「――――で?」

 これは協会の建物の入り口前に出てから老人――――エニノゼカ村のハンターギルド支部の受付兼雑務を1人熟し続けて来た、伊ケ崎七参郎に対してのハンターの最初に口にした言葉だ。

 「今までの連絡通り少しづつ進めて来たからのぉ。準備(・・)は出来ておるぞ。寧ろそっちの方は如何なんじゃ?お前さん1人しか見当たらんようじゃが?」
 「念のため、怪しまれない様にとまずは俺1人だけ来ている。他はン・ゼンア村着の飛行船から団体様ご案内。予定通りなら既に到着して、これまた怪しまれない様に待機組を数名残して他は散り散りばらばらで別れてこちらに向かっている筈だ」
 「・・・例の異常化した古龍の討伐は?」
 「本部が“天元の花”に依頼した。まず間違いないだろう」
 「確かにそれならば安心じゃ。予定通りお前さんが陽動役と言う訳じゃな?」
 「ああ。それにいざという時の保険も兼ねて“トラップマスター”にも依頼した様だ。多分だがもう来て準備に取り掛かっているか、完了しているかもしれない」

 聞いて満足そうにうなずく伊ケ崎老人。

 「文字通り用意周到じゃな、なるほどのぉ」
 「古い因習を建前に跋扈して来た外道たちの捕縛と言う名の大捕物だからな当然・・・」

 そこへ、滅多にこの教会に近づかない筈のエニノゼカ村の村長を筆頭に、ガタイの良さそうな村人が何人も押し寄せて来た。

 「これはこれは珍しい客人じゃの。何の用かの?地獄谷」
 「――――お前にもハンター(よそ者)にも用は無い。用があるのは建物内に居る一之瀬渚じゃ」
 「彼女に何ようかの?今は家族団らん中の筈じゃ。そんな剣呑な雰囲気携えたまま入る奴なぞ野暮もいい所じゃ」

 それに対してフンと鼻を鳴らす村長の地獄谷。

 「痴れた事。一之瀬帆波は今年の大事な巫女じゃ。それをしかと監督できない者に懲罰を与えに行くだけの事じゃ・・・!」

 だからそこをどけと、言外に睨み付ける地獄谷の視界を遮る様に割って入るハンター。

 「よそ者が何用か?」
 「村には村のやり方があるんだろうが、現代のこの国の法律はそれを認めていない。やるにしても公僕の仕事だ。それを公僕でもない人間がやるのは基本的に暴行罪に当たるが?」
 「っ!よそ者風情が生意気な!この国が認めまいが、この村の掟はなにを置いても絶対じゃ!にも拘らず邪魔をすると言うのなら――――」

 自身の持つ杖を振り上げようとした所で、村人が1人大慌てで大声を張り上げながらやって来た。

 『た、大変だーーー!次期(・・)でもないのに天神さまがお越しになられたーーーー!!』
 「な、なんじゃと!?」

 これには村長だけではなく他の村人も勿論、ハンターに伊ケ崎老人も驚いていた。


 -Interlude-


 ――――冬の雪山にて散々たる猛雪。人の知恵は無論の事、何者も犯せぬ白票の聖域なり。
 ――――されど揺蕩う影あらば、其は蒼天と同義なりし宙かける厄災なりき。

 体に無数の白銀の羽衣を纏い、まるで海を泳ぐ海竜の如く優雅に宙をかける古龍。
 “天神”や“天空を操りし者”と古くから謳われていた伝説の存在、アマツマガツチ。
 彼の存在が体中に無数の傷跡をつけた上で、竜眼は通常どころか怒りの頂点の状態でも有りえないほどに血走り何か禍々しい黒い息を吐きながら雪山の山頂から見下ろす様にエニノゼカ村に降臨しようとしていた。 
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