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生ける大地の上で 

作者:昼猫
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第2話 たとえ、蛮勇だとしても

 
前書き
 モンハンは基本的に、他の漫画やゲーム・アニメやラノベの様なくせの強いキャラクターがいないから弄りやすい。 

 
 これは士郎がこの世界にやって来てから九ヶ月後の話。

 此処は島国――――列島の小国で医療などの科学が発展した国。
 科学技術だけは他の追随を許さぬほどの発展ぶりは他国と比較できぬほどに民衆に便利さと豊かさを与えている。
 が、一応軍備を備えてはいるが、大国である西シュレイドと東シュレイドには遠く及んでいない。と言うか許されていない。
 一世紀以上昔である過去に、世の覇権を握ろうとして世界中に戦争を引き起こした結果惨敗して、様々な条件や制約の下に二大大国に絶対忠誠を誓わされている国だ。
 そんな国の地方の村で、ストロベリーブロンドの長髪を思いのままになびかせて元気よく歩いている少女がいた。

 ――――私の名前は一之瀬帆波。去年までで15になり、年が明けた今年の誕生日が来れば16になる。
 私はお母さんと妹の甘凪(かんな)との3人暮らし。
 生まれた時からこの村で生きて来たわけじゃ無く、私と甘凪が小さかった頃に引っ越して来たんだ。昔に死んでしまったお父さんの仕事の都合で。
 お母さんは凄く悲しんでたんだけど、私と甘凪を守るために立ち上がって今の暮らしがある。
 お父さんが亡くなった時の遺産を少しづつ使いながら切り詰めた生活は、決して裕福では無いけど私には特に不満には感じていない。お母さんと甘凪と一緒に暮らしていければそれで良い。
 けれどお父さんの残した遺産もどれだけ持つか分からない。だから私は家事の合間を縫って勉強を凄く頑張っている。首都でなくても都市部の良い学校には良い学力を持った子供に学費免除の制度が在りこれに選ばれればと猛勉強して来た。
 良い学校を出れば、それだけいい仕事にも就けるし、多くのお金を稼いで家族を助ける事にもつながる。その一心で私は邁進続ける。
 そして今日も隣村の学校から帰宅するために何時もの参道へ出る。

 「おう、帆波ちゃん。今日もエニノゼカ村までの帰宅大変だね?」

 この村の詰め所に勤務している衛兵のおじさんの1人が何時もの様に話しかけて来た。

 「はい。ありがとうございます!」
 「参道は今日も、凶暴なモンスターもいないで平和だから安心して帰るといい」
 「わかりました」

 私は自分の目で見た事が無いけど、この世界には凶暴なモンスターが実在するらしい。
 この村と私の暮らしている村を結ぶこの参道も、昔は凶暴――――と言っても格としては低めらしいけど、モンスターが棲みついていたらしい。
 だけど昔のハンターさん達が協力して、此処に棲みついていたモンスターたちを二度と近寄って来ない様に追っ払ってくれたらしい。自分の村に学校が無いので、勉強の基礎を学ぶのにこの参道を使わなければならない私としては、到底感謝してもしきれない。
 ただ、念のために定期的に都市部にあるハンターギルドからハンターさんが派遣されて見回りに来るらしい。
 ちなみにハンターギルドはこの村――――ン・ゼンア村とエニノゼカ村の二つとも小さいながらも在るんだ。建物の中に入った事は数回しかないけど。
 話は少しずれたけど、私のこの学校への行き来は全部ハンターさん達のおかげだ。

 「と、ところで帆波ちゃん。い、妹の甘凪ちゃんは如何したんだい?ま、まさか行方不明だとか?」
 「はい?いえ、単に軽めの風邪です。明日には何時もの様に登校出来ると思いますよ?」

 嘘をついた。風邪なんかじゃ無くて甘凪はほぼ絶対に仮病だと思う。だって甘凪は勉強嫌いだから。

 「そ、そうか。それなら良いんだ・・・」
 「・・・・・・」

 この衛兵のおじさんだけじゃなく、この村の人達は私を含めたエニノゼカ村から登校しに来ている子供全員に時折今みたいに妙な質問をする。

 『行方不明になってないか?』

 そんな事普通起きる事ないと思うんだけど、如何してそんなこと聞いて来るんだろう?
 けど、どちらにしても変な事は起きてないんだから。

 「そ、それじゃあ、何かの儀式のぃ――――御子なんかに誰か選ばれてないかい?」
 「あ、それなら私です。今年の春先に儀式が有って、私が選ばれました」
 「ッッ!!?」

 何でも昔からある儀式で一年に一度子供の誰かが選ばれるみたい。
 何でも由緒正しき誇り高い儀式で、選ばれた子供には必ず幸運が訪れるみたい。
 事実、私が知っている中で、儀式に選ばれた子供の人達は皆都市部にお呼ばれされて、いい学校や就職先に入れたらしい。今は会えなくて寂しいけど、何時の日か立派になっての再会を楽しみにしてるって、今まで選ばれてきた人たちの家族の人達が言ってるのを憶えている。私もお母さんと甘凪の生活を楽にしたいって言う夢があるから、ゲン担ぎみたいで選ばれた時は嬉しかったなぁ。
 だけどおかしい。オジサンの顔が見る見るうちに蒼白になって行く。如何したのかな?

 「ほ、帆波ちゃん。悪い事は言わない。もう二度と」
 『迎えに来たよ帆波ちゃん・・・!』

 そこへ、エニノゼカ村の人で村長さんの部下の人がやって来た。
 毎回では無いけど、私が今年の御子に選ばれてから迎えに来るようになったんだ。大事な御子様だからとも疑問に思ったら教えてくれたの時はこそばゆかったなぁ。

 「っ!?」
 「お兄さん。今日もお迎えありがとうございます」
 「なんのなんの。じゃあ帰ろうか」
 「はい!――――おじさん、今日も見送りありがとうございます」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、ああ・・・。気を付けてね」
 「はい!」

 そう言って、お兄さんと共に村へと帰宅した。


 -Interlude-


 参道から村へ戻った私は、迎えに来てくれたお兄さんに何時もの様にお礼を言って別れた。
 そこからは勿論自宅に直行。家事を手伝う事で少しでもお母さんの負担を減らせればと何時もの様に頑張る気だ。
 そうして扉をノックして帰って来たよーと言う声と共に入ると、涙目の甘凪が私に飛びついて来る。

 「お姉ちゃん!」
 「どうしたの甘凪?もう13にもなってお留守番が寂」
 「お母さんが倒れたのっ!」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ」

 甘凪からの言葉が信じられなかった。いや、直には受け入れられなかった。

 「礼拝堂で神父さんが診てくれてるから一緒に来てっ!」

 帆波は、まだこれが夢なんじゃないか?と言う心地で、甘凪に引っ張られる様に教会へ向かった。


 -Interlude-


 「お母さん!お姉ちゃん連れて来たよっ!」

 礼拝堂は村から少し距離がある場所にある。
 到着した私は甘凪に連れられて、中の一室にまで引っ張られて来た。
 そこには今までとは比較にならないほど病弱なお母さんの姿が在った。

 「甘・・・凪。帆・・・波・・・?」
 「お・・・お母さん!」

 あまりの姿に飛びつくように近寄る帆波と甘凪。

 「2人共、ごめんね?心配かけて・・・」
 「そんな事はいいの!それより容態は?すぐ直るの?」
 「それは・・・」

 そこへ帆波たちに声に気が付いたのか、神父が入室して来た。

 「矢張りもう来ていましたか」
 「っ、すみません神父様。うるさかったですか?」
 「いえ、まあ、声を荒げる気持ちも解りますから。次からは気を付けてください」
 「は、はい。それで神父様、お母さんの容態は如何なんですか?」

 当然気になる疑問だ。帆波は恐る恐る聞く。

 「そうですね。一之瀬さんの体はある毒に体を蝕まれています」
 「毒?」
 「どうして!い、いえ、それよりもお母さんは直るんですか?」
 「解毒剤さえあれば直りますが、一之瀬さんの体を蝕んでいる毒は特殊でして。この村には有りませんが、お隣の村になら販売されているかもしれません。ただし高級品です」
 「ッ」

 経済状況が悪い家には本来であれば手が出せないモノだ。だけどお母さんの命には代えられない。

 「だったらお父さんの遺産の残りをいくら使ってでも買いに」
 「無理なのよ・・・」
 「え・・・?無理ってどういう・・・?」
 「御2人には心配掛けさせたくなくて黙っていた様ですが、今はもう亡き一之瀬さんの旦那様が残していた蓄えはもう底をついているそうですよ?」

 神父の言葉に激震走る帆波。

 「ほ、本当なのお母さん・・・?」
 「ごめんな・・・さいね。2人共。今は私のお給料でもやっ・・・ぱり足らなくて、周りの御宅に少しづつ借金しな・・・がらの生活だ・・・ったのよ」
 「だったら私も働くよ!今年の春で私も働ける歳だから進学なんてしない!」
 「それは・・・。でも遅いのよ」
 「遅い?どういう意味?ううん、それ以前にお母さんがどうして毒に蝕まれているか聞いてなかった・・・」

 先程後回しにした疑問が気になった帆波。何故か胸騒ぎに襲われたらしい。

 「一之瀬さんは状況改善の為に正直無謀極まりない方法。雪山に入って高価で取引されている鉱山物を誰にも知られずに取りに行っていたのです。ですがあの雪山は地元の私達でもまず近づかないほどの猛雪ぶり。それでも諦めずに探しに行った昨夜にギィギの群れに襲われて毒液を吹きかけられてしまったのです」
 「そんな・・・!」

 如何してそんな無茶を!なんて責められない。私も同じ立場ならお母さんと同じように行動を起こしただろうことは容易に想像できるからだ。
 ギィギと言うのも学校で習った。凶暴なモンスターの一種の幼体だという位は。

 「・・・・・・取りあえず納得は出来ないけど理解はしたよ。それで遅いって言うのはどういう意味?」
 「代わりにまた私が答えましょう。一之瀬さんの解毒は急を要します。言いたくはありませんが、峠はあと四日ほどでしょうか」
 「っ」
 「そんな・・・」

 私と甘凪はその意味を正しく理解してしまい絶望する。
 お金は無く、これ以上借金など出来ない。さらにはお母さんの余命はいくばくか。

 「2人・・・共、大、丈・・・夫よ」
 「な、なにが・・・?」

 お母さんは何とかにっこり笑いながら話しだした。
 この国には公僕の両親を持つ子供限定だけにある制度があると言う。
 公僕の両親または里親を持つ子供が、もし16になる前に保護者を亡くせば国からの無償の支援を受けられると言うシステムだ。
 だから今自分が死ねばその制度が適用されて、帆波と甘凪が成人になるまでの経済状況は保証されると言うモノだ。

 「そ、そんなのダメだよ!」

 2人の母親――――一之瀬渚の案は確かに合理的だろう。だがそんな事を実の娘2人が受け入れられる筈もなかった。

 「今まで以上に苦しい生活でもいい!私も甘凪も今まで以上に我慢するから・・・!」
 「だから措いて行かないでよ・・・お母さん!!」
 「2人共・・・。ごめん・・・・・・ごめん。けど・・・他の方法が・・・無いの」

 それでも嫌だよと泣きじゃくる甘凪に対して、私もすごく悲しいのに何所か冷静になって来た。

 「・・・・・・神父様。解毒剤って作れるものですか?」
 「・・・?ええ、恐らくは。ただどうしても、この毒を与えたギィギの本体か、親の毒怪竜の異名を持つギギネブラと言われるモンスターの体液などが必要でしょうが・・・・・・まさか」

 此処で神父が気付いた。
 それに遅れて一之瀬渚も気づけた。

 「私――――今度は私がこれから行ってくる。絶対お母さんを毒から救って見せる」
 「だ、めよ。帆波・・・!」
 「お母さんが私と甘凪の気持ちを置き去りにして死のうとするなら、私も勝手にさせてもらう。私も勝手にお母さんを救うために行動する」

 余程決意が固いのか、それとも目を合わせたら決意が鈍るからか、3人から背を向けて入り口にまで走る帆波。

 「神父様、どうか帆波を止めて・・・くだ、さい」
 「いけません帆波さん!」
 「ヤダよお姉ちゃん!」

 聞かない。今度は私が皆の気持ちを置いて行く。
 お母さんの。
 甘凪の。
 神父様の。
 3人の気持ちを蔑ろにしてでも、今度は私が救うんだ。絶対助けるんだ・・・!

 その無謀、或いは蛮勇ともいえる決意を胸に帆波は礼拝堂を出て、猛雪すぎる雪山に向かうのだった。


 -Interlude-


 決して見縊っていた訳じゃない。舐めていた訳じゃない。でも・・・。

 「あっ、はっ、はっ、やっだっ」

 キャアッキャアッ!
 ギャアッギャアッ!

 例え肉食系モンスターがいたとしても、隠れるなりすればやり過ごせると思っていた。
 けど現実は違った。私はいとも容易く見つかって、今は数匹の青く細いモンスターに追われていた。

 「あっ、はっ、あっ、はっ」

 私はただひたすら逃げていた。
 もとより何所の洞窟を目指せば目的のギィギを見つけられるか分からないのだから。

 「あっ、はっ、あっ、はっ、あっ、はっ、あっ、はっ」

 それにしてもと思う。
 私の方は雪の浅い所を探してなんとか逃げているから明らかに遅い。
 対して青く細い肉食モンスター達は雪の上を簡単に跳ねているだけなのに私に追い付けないでいる。有り得ない。いや、もしかして。
 そんなとき視線を前に戻した瞬間、幾つもの牙と大きく長い舌が視界を奪うと同時に迫ってきた。

 「ッッ!!」

 意識したわけではない。それでも体が勝手に反応して横に避けた。

 ギュルルルっ、ゴアッゴアッ!

 私が躱したのは私を追ってきていた数匹にとても似ているが大きさが段違いの肉食系モンスターだった。

 「っ!」

 この瞬間私は嵌められたことに。
 狩りのやり方の一つとして、自分たちが複数で標的が一体だった場合、何人かで追いかけて疲れるまで追い詰めたところに待ち伏せていた者たちでトドメを刺すという戦術。
 私はそれを逆に使われたんだと。

 「クッ!」

 いつの間にかにあっという間に囲まれてしまっていた私に逃げ場がない。


 キャアッキャアッ!
 ギャアッギャアッ!
 キャアッキャアッ!
 ギャアッギャアッ!
 ゴアッゴアッ!!

 「や、やだ・・・!」

 怖い恐い死にたくない。だって誓ったんだ。今度は私がお母さんを守るって。
 なのにこんなところで――――。

 「こ、殺されてたまるかっ」

 目的のギィギを殺すために持ってきた果物ナイフを懐から取り出した。
 こんなナイフで何所までできるか分からないけど、無抵抗のまま嬲られる気は無いと覚悟を決めた所でリーダーとおぼしき大きいのが私に跳びかかってきた瞬間に。

 「きゃっ」

 目の前で豪風に似て非なる何かが発生して、大型を吹き飛ばした。
 ――――否。

 グゥルルルルッ・・・!

 現れたのはさらなる絶望。先ほどの大型や帆波を追いかけまわして来たの等比べものにもならない凶暴。
 色は薄茶色で顔とあごは凶暴極まり、四肢についている足はいとも容易く得物を絶命させてしまうだろう凶悪さを物語っている。特に前脚は後ろ脚以上に発達しており這うには十分の速度を期待できるモノだろう。
 その前脚に容赦なく押し当てられている大型モンスターは、弱弱しくも反撃をしようとするも。

 ガブリッ!

 その顔ごと無慈悲に齧り付いて噛みちぎる。

 「ひっ!」

 帆波は反射的に目を逸らした。まだ殺し殺される覚悟も定まってない少女には酷な光景だったことだろう。

 キャアッキャアッ!
 ギャアッギャアッ!

 そこに小型の数匹達が果敢にも跳びかかった。狩りを邪魔された怒りからか、自分達の仲間を殺された怒りからかは分からないが。
 だがしかし。

 ブンッ。

 すぐさま背後から跳びかかって来る雑魚に気付いたからか、振り返って強靭な前足で悉くを空中で切り裂いた。跳びかかって行ったのは当然すべて絶命。
 必然的に今この場に残ったのは帆波と、この轟竜だけとなった。
 勿論目が合ってしまう。

 グルルルルッ・・・!

 「ひっ!」

 反射的に帆波は駆けだして逃げ出した。幸い、彼女の駆けだした先は雪が積もっておらずに足を取られる事なく逃げることが出来る。

 ゴアアアアアアアッッ!!!

 だがしかし、そんなものはこの轟竜から逃走する上ではたいして慰めになるものではない。
 飛竜種の中での走行速度はトップクラスであり、何よりもあの原始的な恐怖を沸かせる様な厳つい頭部が死の予感を際限なく煽って来るのだから。

 「あっ、はっ、あっ、はっ」

 何度か後ろを振り返る度に明らかに距離の間隔が短くなってくる。限界まで来てこのままでは轢かれると考えた帆波は渾身の力で横に跳んだ。

 「あうっ!?」

 帆波は轟龍からの突進を辛くも躱す事に成功したが、変な形で跳んだので右足首を痛めてしまった。
 しかも慈悲は無く、轟龍はさらに突進してくると思いきや、跳びかかって来たのだ。
 その瞬間、帆波は恐怖を感じることなく本能的に自分は死んだと直感的に理解してしまった。
 だがしかし。

 ゴアアアアアアアっっ!!?

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 何故か真横に吹っ飛んでいき、崖下に落ちて行った。

 「助か・・・・・・た?」

 死を理解しただけに一瞬呆ける帆波だが、自分が此処に何をしに来たのかを思い出した。

 「っ・・・い・・・行かないと・・・」

 右足首の痛みに耐えながら帆波は雪道を歩きだした。


 -Interlude-


 帆波は今、なんとか運良く洞窟に着いた。

 「いる・・・かな?」

 此処が何処かも分からずに、だが前に進む。奥に進む。
 その時、一番奥から物音が聞こえる。

 「っ」

 今迄が今までだったので、帆波は息を飲んで警戒する。先程よりも慎重に足を進めていく。
 そうして岩影から奥を覗くと、そこには何やら柔らかそうな何かがうねっていた。
 少しすると、そこから白く小さい軟体生物らしきモノが這い出てきた。

 「・・・・・・あれだ!」

 聞いていた特徴と一致する。
 それに周りには自分とあのギィギしかいない。今がチャンスだと踏み出そうとしたとき、上から物音が聞こえた。

 「な、何今の音って、ひっ!!」

 物音を辿って見上げると、此方も聞いていた特徴と一致してしまった。
 幼体と同じで体が白く、どちらが頭部でどちらが尻尾か分からない特徴を持った奇怪なモンスター。一応は竜種との事だけど今そんな事は如何でもいい。

 「目が退化してるけど熱で周囲に反応するって事はっ、ひっ!」

 天井から入り口側の方に降りて来た毒怪竜ギギネブラ。
 しかも帆波の来た道側に降りたため、必然的に奥以外に逃げられなくなった。
 それに熱源反応で容赦なく帆波に迫って来ている。

 ――――此処まで来てっ!と、冷静な精神状態なら悔しがることも出来ただろうが。

 「や、やだ・・・。死、死にたくない、死にたくないよ・・・!!」

 逃げ場のない洞窟で奇怪なモンスターが迫って来る恐怖により、帆波の思考は死への恐怖と拒絶に支配されていた。

 ぐぱっ!

 そして無慈悲にほぼ眼前にまで迫って来て、帆波を呑み込もうと大きく口を開いた。

 「っ!」

 あまりに恐ろしく、次の瞬間に自分がどうなるか理解していながらも目を瞑った。

 「・・・・・・・・・?」

 しかし幾ら待っても自分が呑み込まれて死ぬと言う残酷な現実に襲われていない事に、訝しみながら目を開けると。

 「・・・・・・・・・」

 目の前の毒怪竜は首が胴から泣き別れとなっていた。
 そしてその胴の上に乗っている人がいた。

 「大丈夫か?」
 「・・・・・・・・・」

 その人は自分と違って傍目からは一切肌が見えない様な防寒対策用の服装で、ハスキーボイスで男性だと判る位の人だった。
 左手には先程まで私を襲おうとしていた毒怪竜の首を切り裂いたであろう大剣を握っていた。
 恐らくはハンターギルドの人だと思う。この地は雪山じゃ無くても寒いから、防寒対策をしっかりと身に付けて来るハンターさんを見た事も数回あった。

 「ん?まさか何処か食い破られたか?」
 「あ、ち、違うんです。これはその・・・」

 これが私とこのハンターさんとの最初の出会いとなった。 
 

 
後書き
 ギアノス、ドスギアノス、ティガレックス、ギィギ、ギギネブラです。 
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