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神様が親切すぎて夜に眠れない

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三話『一月前のお話』

自分が死んだ?と思われる一月前。

気づけば玄人は、真四角の見知らぬ部屋に、一人立っていた。

「ん?なんだこれ?制作中のゲームの部屋か?」

よく分からないが、見知らぬ部屋に放り出された玄人の感想は、最初、それだけだった。

…………最初は。

まず、偶然からでも作成中の部屋(?)に紛れた玄人は、とりあえず部屋内を歩いて、その部屋のメカニズムを調べようとしてみた。

コツコツと壁をたどり、オブジェクトの表面に触れていく。

『ふーん、西洋型の城みたいな部屋だな…………』

『宝箱型のオブジェクトが3つと、石板形のモノが一つか。ちと少ないが、宝物庫と言えなくもない』

大して広くもない部屋だ。

玄人は数分掛からず、歩き切った。

ここまでは、玄人は別に焦らなかった。

問題はここからである。

「さてと、オブジェクトも一通り触ったし、出るか」

会社のゲーム製作に関しては殆ど全てに関与している玄人だが、流石に身内とてマナーは守る。

迷いこんだとはいえ、制作中のゲームオブジェクトの中身に、勝手に手をつける気にはなれなかった。

だが、事態は玄人が考えていたよりも大ごとだったらしい。

ログアウト出来ない。

『ログアウト!…………おい!ログアウト申請通らないのか!?』

音声認識…………通らず。

緊急メニュー…………開かず。

社内共通パスコードによる緊急ログアウト…………不可。

『どうなってるんだ…………』

ゲーム上のエラーで、開発中のゲームのメニューが開かないのは(それも大問題だが)まあ、わかる。

だが、上位システムからの緊急コードまで弾くとは、尋常じゃない。

ここで初めて、玄人は自分がゲーム以外の場所に居る可能性を考えた。

「ただなあ…………」

まあ、可能性があるのは理解できる。

ではここは何処なのか。

残念ながら、玄人自身はこんな西洋石畳の部屋なんて知らないし、そんなモノを持っている知り合いもいない。

では誘拐等の犯罪に巻き込まれたと考えるのも、疑問符が浮かぶ。

何処の世界に、要求を明らかにしないまま、縄も打たずに(縛らずに)放置していく犯人がいるのか。

それになあ…………。

『つい先程』と同じように、全力で右胸を拳で叩く。

何か触った感触が残るだけで『欠片も』痛くない。

自分が最初に、ゲーム世界だと思い込んだのも、これが理由である。

つまり、肉体が何をしても『痛まない』のだ。十全に動くのに。

「…………あー、何かモヤモヤする!」

忙しく、一分一秒を争う現場から急に解放されたからか、玄人はこの空き時間に全く解放感を感じなかった。

早くこの状況を打破したい。ついでに仕事に戻りたい。

仕事中毒と言われようが、正直、玄人の本音はそれだった。

だから、じっとするのを止めた。

『ログアウト出来ないオブジェクトの部屋なら、多少無理しても大丈夫。作り直し確定だし』という理論のもと、彼は壁や床を足や手で叩きまくってみた。

反応なし。

石板に叩くなどのアクションをしてみた。

反応なし。

…………宝箱かあ。

正直、この謎(?)ハウスで、怪しげな箱を開きたくはない。

たとえゲームの世界であっても、見知らぬ箱とか開けたくないのに、それが未確定の場所で開くなんて、尚更いやだった。

だが、このままじゃ埒(らち)があかない。

彼はゆっくりと、一つ目の箱に手をかけた。

…………カチリ。

幸か不幸か。

宝箱には、鍵が入ってなかった。

一つ目の箱を、恐る恐る開ける。

たっぷり30秒かけて、開いた宝箱に入っていたのは…………

「…………袋?」

そう、袋。

白い、ご丁寧に腰に縛るヒモが着いた、袋である。

何が入ってるんだ?

そう思い、まさぐるも感触は無し。

なんだコレは?と一瞬思うが、直ぐに首を振る。

まだ、完璧に調べていないのにその認識は、不味い。

玄人は知っていた。

序盤に手に入れたモノを要らないと思って処分すると、後半で苦労するRPGを。

「とは言っても、使い方なんて便利なものはあるんかね?っと」

とりあえず、袋を底まで眺めた後、まだ調べていない所、即ち、宝箱の『中』を調べた。

大して大きくもない『それ』を調べると、答えは直ぐに出た。

宝箱の蓋の裏に、日本語で一文、記述があるのだ。

「おっしゃあ!」

無意識に喜びの声が出る。

別に閉じ込められた事が解決したわけではないが、謎が解けるという快感は、予想外に玄人の心に安堵と余裕をもたらした。

うっきうきで、『その一文を読む』

『念じて手を入れると、玄人のユグドラシルでのギルドのアイテムが取り出せます』

「…………ん?」

意味不明である。

勿論ユグドラシルは別会社のゲームであり、此方に干渉する術はない。

なら、『模造品』では?

もっと不味い。

小さくとも当社はプロのゲーム会社だ。

たとえユグドラシルが、もうすぐサービス終了の憂き目にあうことが決定していても、仕事としてゲームを作っている以上、パロディを超えたデッドコピーのような真似をすれば、発売後、即発売停止である。

「何考えてるんだよ……」

兎に角、確かめなければ…………

とりあえず、声優関係でゲームを共に作った女優のギルド、『アインズ・ウール・ゴウン』など、有名どころのギルド武具等で、攻略ウィキに名前が載っているものを順不同で呟き、手を入れた。

『幸運』な事に、この袋を作ったモノは、ウィキを見て適当にアイテムを外装だけ作る輩ではなかったらしい。

一通り確認したのち、彼は自身のギルドの、最も有名な武具を呟く。

『決闘者の鎧』

彼が立ち上げた、緩い会社の仲間達とのギルド『頭がファンタジー()』のギルド武器を思いだし、手を入れて直ぐに引き抜いた。

直ぐに結果は出た。

明らかに袋の口からは出ない、一揃えの鎧が袋から出た。

(さて、ここからだ…………)

自分のギルド武器である鎧は有名だ。

先程話したアインズ・ウール・ゴウンの一人、たっち・みーが優勝をしたワールドチャンピオン戦と呼ばれる大会で、『準優勝』だったキャラの鎧だからだ。

ユーザーの誰かに聞けば、名前や効果なんて直ぐに分かる。

だが『武器』は別だ。

それもそのはず、『伝説の剣』というものに深い愛情を抱いていた玄人は、最短で3日で、デザインやエンチャント効果を変えていたのだから。

あまりに代える頻度が高いので、他人どころかギルド仲間からも遂に正式名称で呼ばれず、『玄人の剣』と呼ばれるようになりました、といえば、その面倒くささがわかるだろうか?

兎に角、そんな武器だ。

正式名称が分かる奴は神様くらいなこの武器が取り出されるかどうかで、この世界がデッドコピーアイテム蔓延るゲーム世界なのか、それとも人智を超えた世界なのか、分かる。

「来い!『覇王聖魔剣777号』!」

…………名前のセンスを問うてはいけない。

玄人はその叫びと共に、白い袋に手を突っこみ、そして…………

数分後。

玄人は全身鎧(フルプレート)に身を包み、片手に盾を、腰には剣と袋を装着した、西洋の騎士風の服装になっていた。

「マジかよ…………」

全部あった。

しかもチームメイトにすら見せてない、一昨日完成した兜まで。

「しかも、なんだよこれ…………」

力が溢れてくる。

拙いが、そう言うしかない感覚が、玄人の体を駆け巡る。

その感覚に溢れる力への喜びと、未知の感覚への恐怖の両方を感じながら…………

「後、2つか…………」

残りの2つの宝箱に、言いようもない『期待』を感じていた。

 
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