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KANON 終わらない悪夢

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138倉田家分家

(やあ栞ちゃん、あの呪われた家では栞ちゃんの力は邪魔されて通じないんだ、だから僕が力を貸して上げるよ。誰かがお母さんやお父さん香里さんを守ってあげないとね?)

 選択肢
1,貸してください
2,怖いので借りない
3,少しだけ貸してください
4,佐祐理お姉さまと愛の逃避行
 選択「1」

 ほぼ化物状態の栞だが、魔物の力を持つ舞や佐祐理お姉さま達、術の使い手プレデター美汐さんには無力な栞。
 さらに薬物などにも耐性がなく、食事や飲み物に薬品や毒を混ぜられると一瞬で陥落する。

 やがて日曜になり、倉田の分家に出頭を命じられていたた朝になった。
 高価な衣装を新調するのは間に合わなかったが、姉妹に似合った暗色系の服装をさせ、親達も礼服に身を包んだ。
「いったい今日は何なの? 病院から外出できたのに相沢くんにも会えないで、実家の実家って何? お葬式? ジジババの相手なんかしないわよ」
 悲壮な決意を秘めて決戦の場に赴く母や栞と違い、葬式か物見遊山に出かける程度の覚悟しか無い香里。
 その上、例え葬式であっても埋葬者を気遣う気持ちや、年長者を敬う気持ちなど欠片ほども持ち合わせていなかった。
「倉田の分家に乗り込むんだよ、私やあんた達を役立たず扱いして、いつ死ぬのかわざわざ聞いてきたり、私をコソ泥扱いして追い出した連中の所にねっ」
「何なのそれ? そんな所に行く必要なんか無いわ」

 妹への仕打ちを聞いていて、母親の愚痴も聞かされていた香里は、途端にへそを曲げた。
「私は栞と違って、近くから自分の持ち物を引き出す程度しかできなかった。だから私は子供の頃は親族から「スリの泥棒娘」って馬鹿にされてた。でもね、今日はそんな奴らを見返してやるんだ、堂々と表門から乗り込んで、裏の世界のお姫様になるあんた達は「当主候補」に指名されて、一番上座の上席に座るんだっ」

 涙ぐむ母を見て、栞にもその屈辱は痛いほど分かった。病気の自分はいつでも病原菌扱いで、学校でも馬鹿にされ、汚い物のように扱われて、近付けば人が逃げて行く。
 そんな病原菌娘を祐一は大切にして、恋人に、そして婚約者として認めてくれた。
 普通に友人がいて楽しい週末を過ごして来た姉とは違い、友人など居ない栞には、唯一無二の存在を守るためにも戦いの場に赴かなければならない。

 美坂家の前に高級なハイヤーが迎えに来た。粗末な手土産は持ったが、何よりの手土産は自慢の娘達である。
 内々の話なので秋子の参加は見送られたが、電話一本すれば駆け付けて貰えると約束して、不倶戴天の敵の真っ只中に乗り込んだ。
 やがてハイヤーは倉田家の分家である、姉妹の母方の祖父の兄という、血のつながりも遠く面倒な人物の屋敷に辿り着いた。
「「「「「「「お早うございますっ」」」」」」」
 屋敷の門を抜け、車寄せまで迎え入れられる間に、一族郎党が立って挨拶をしていた。
 その中には自分を馬鹿にし続けた憎々しい幼馴染までが並び、苦虫を噛み潰したような顔をして美坂姉妹に頭を下げていた。
「オホホホホッ!」
 予想もしなかった光景に、歪みきった笑顔のまま笑う母。車から降りると、気味の悪い笑顔をした男が揉み手をして駆け寄ってきた。
「お嬢様方、ようこそいらっしゃいました、本日はご機嫌も麗しく……」
「どきなさい、今更媚を売っても遅い」
 自分達をゴミ扱いし、こそ泥として笑い、早々に切り捨てて放り出した宗家の男共。今日はそこに、当主候補の娘を連れて凱旋した。
「本日はようこそ、さあ、お上がりなさい」
 玄関から、一家を案内しながら先導する女主人。それは栞に「役立たず」「いつ死ぬのか?」と言い続けた憎き仇だった。
 それが徒になって当主自ら命じたのか、娘達を値踏みするために来たのか、小間使いのように案内役をさせられている女を見て、胸がすくような思いがする母だった。
「お嬢様方だけ、ご当主様が面会なさいます。ご家族はこちらでお待ち下さい」
 女中の一人に声を掛けられ別室に通される、残念ながら娘達とは一時お別れらしい。
 だが宴席では、余興代わりに栞の力が披露され、祐一の婚約者である二人が次期当主候補として指名される手はずになっていた。
 母と父は用意された小部屋で、当主と娘達の面通しが終わるのを待った。

 美坂姉妹は床の間がある部屋に案内された。上座に敷かれた座布団は空席、下座の座布団に香里と栞が座らされた。
 そこで栞は行儀よく正座して背筋を伸ばして座り、香里は面倒だったので足を崩してだらけて座っていた。
「ご当主様、御成ですっ」
 時代劇のような呼び込みに香里は吹き出しそうになったが、栞は頭を下げ、当主の入場を待った。
 やがて無遠慮な足音がズカズカと響き、障子にも触れること無く開閉を誰かに任せ、上座の座布団に勢い良く腰掛けた。
「よいしょっ!」
 野太い、野卑な声が響き、一声で誰にも遠慮する事無く育った人物だと分かった。
「おいっ、千里眼と遠寄せを使ったのは、どっちだっ!」
 何の挨拶も無く、無遠慮な恫喝が聞こえ、栞は頭を上げ、右手を少し上げて答えた。
「私です」
「使ってみせろっ」
 何かが書かれた半紙を投げると、黒子のように佇んでいた女主人が拾って栞に渡した。その半紙には読みにくい字で「子供の頃の思い出の品」と書かれていた。
「はい」
 秋子に言われたように目を瞑って集中し、半紙や当主から何かを読み取ろうとした。
 残念ながら本人に触れる事はできなかったので、紙切れと筆跡から懸命に思い出を読もうとしてみた。
「出ました」
 その物は床下から感じられ、手袋をした手を入れると、土の中から木彫の何かの感触がして、引き出すと半分に割れた独楽が出て来た。
「どうぞ、お改め下さい」
 また女性が近寄り、土にまみれた物体を布に包み、当主に差し出した。
「うおっ! やりおったぁ!」
 木彫の独楽のような物を置くと、パンパンと柏手(かしわで)を打ち、拍手をしたとも、手に付いた土を払ったとも思える動作をして、座ったままドスンドスンと暴れながら喜んだ。
「がっはっはっ! 目出度いっ! 栞だったな、近こう寄れっ、褒美をやる」
 自分の席を立ち、当主に近寄る栞。女主人に制止され、その場に正座すると、当主は懐から出した分厚い祝儀袋を出し、投げて寄越した。
「ありがとうございます、私なら誰が壊して埋めたか分かります、後ほど宴席でお伝えしましょうか?」
「いらんっ、目出度い日に角が立つ、今日は無礼講だっ!」
 一礼して床の物を拾うと、当主に後ろ姿を見せず、後ずさって自分の座布団まで戻って正座した。

「ならもう一人っ、本家のクソガキにも落とせなんだ大将首を取ったのはお前かっ?」
「はあ?」
 香里には意味がわからなかったが、自分が無作法なクソジジイに扇子で指されて怒鳴られているのだけは分かった。
「ご当主様は、相沢様と睦み合い、婚約者筆頭の立場を得たのはお前かとお聞きになっておられます」
 クソジジイの言い方も、気取ったババアの言い分も気に食わなかったが、両親の立場も考えて一応答えてやった。
「そうですけど?」
 秋子や妹から言われた通り、自分が祐一と婚約したと告げた。
 正座すらせず、対等の物言いをする香里を見て、鬼のような表情をして睨む女主人。
「お前の力は何だっ? お前らの母親は、スリかコソ泥のような真似しかできなんだから、さっさと捨ててやったが、お前の芸を見せてみろっ」
 母親をスリ扱いされ、カチンと来た香里は、こんなジジイに答えてやる必要は無いと思い、ヘソを曲げた。
「調べたんでしょ? 知ってるはずよ」
 女主人が立ち上がって香里に制裁を加えようとしたが、当主が制止して止めさせた。
「良いっ、喋らせろ」

 姉は機嫌を損ねてしまったようなので、栞が代わって答えた。
「秋子様のお言葉をお借りすると「少し先の未来を読み、周りの人を操り、どうすれば自分の思い通り動くか計算し、自分の望む未来を作る能力」と仰っておられました」
 妹が「秋子様」などと言い出したので驚いて顔を見ると、いつか余命告知した時のような、能面が張り付いたような顔をしていたので、怖くなって目を逸らした。
「何とっ、未来を読むと言うたか?」
「はい、力に目覚めたのは最近ですが、学校での騒動はご存知かと思います。最初に祐一様のお種を頂戴したのは私でしたが、姉も倒れて祐一様のお情けを頂いてから、一週間と経たず弁舌一つで学校中を味方にし、放送局まで呼び込んで三文芝居をうって、世論を操って私から想い人を奪った憎い姉です」

(「祐一様?」「お種を頂戴?」何言ってるの、この子? それにあたしって一体何キャラ?)
 秋子にも、存分に暴れ回って家を潰し、全てを奪い取って祐一も含めて自分の物にするよう言われていたが、「憎い姉」呼ばわりされて自分がどれだけ酷い女設定なのか考えてみた。
「はっ! やりおったなっ、ははははっ! 気に入ったぞ、例え妹からでも男を奪うか?」
「秋子様からも、「政治家の先生や企業からは喜ばれる力」とお伺いしております」
「良いっ、良いぞっ! 政治家? なってみるか? 本家の小倅を真似るようで気に食わんが、好きなようにやれっ、力を貸してやろう、がはははっ」
「それと、祐一様からお情けを頂き続けると、「未来予知」の力はさらに増すともおっしゃいました」
 特に聞いてもいないのに、嘘を混ぜて姉の価値を上げておく栞だが、天使の人形から授かった力を加え、魔物に改造された自分の力の上昇を思えば、姉の強化も間違いの無い話であった。

「そうかっ、では何か未来を読んでみろっ、さあっ」
「その前に、秋子さんがあたし達に聞かせた未来予知があるわ、聞きたい?」 
「何ですかっ、ご当主様に向って、その物言いはっ!」
 女主人から怒鳴られるが、そんな物は気にもせず、不遜な態度を続ける香里。
「あんた達からすると、秋子さんの言葉って「予言」とか「天啓」って言うんですってね? 聞きたいでしょ?」
 秋子の元に伺い、正式に予言してもらうには高額な謝礼が必要なのは、この家の者なら知っている。当主も香里が何か望んでいるのには気付いた。
「何が欲しい? 金か? 地位か?」
「話が早いわね、じゃあまず一つ目、あたしの両親は「今までの養育費」を渡されて、今頃外に放り出されてる所でしょ? やめさせて」
「おいっ、誰か行って止めて来いっ」
 廊下側で誰かの足音がして、別室に向ったのが分かったので、これで両親は大丈夫なのだろうと思えた。
 秋子はその時間までは言わなかったが、何故か今、この瞬間に起こっていることだと感じた。
「じゃあ二つ目、あたし達は逃げられないよう、座敷牢に繋がれるそうね? それもやめさせて」
「良かろう、閉じ込めはせん」
 次第に香里の気迫に飲まれ、良いように扱われ始める当主。
「秋子さんの話だと、力を使い始めたあたし達は、祐一に「週に一回」してもらわないと死んじゃうんだって。まさか「金の卵を産む鶏」を絞め殺す馬鹿はいないでしょうねえ?」
 微妙にお注射の回数を水増しして、祐一に会える機会を増やしておく。
「好きにせい、邪魔はせん」
「三つ目、これが大変よ。あたし達が気に食わない女達とその親が、男達をけしかけて襲わせるそうよ。脅迫用にビデオまで撮られて、逆らえないように薬漬けにされて、栞が稼いだお金は全部巻き上げられる」
「何だとっ! 誰がそんな事を命じたっ! お前かっ?」
 怒って立ち上がり、女主人に向って扇子を投げる当主。女主人は怯えて平伏した。
「いえっ、そのような事は決して」
「まだよっ、聞きなさい。これから産まれるはずの「祐一様」との子供は流産、跡継ぎに自分の子供を送り込むために、あたし達はそいつの子供を妊娠させられる。そうなればこの子は生きていられない、何人か巻き添えにして、復讐してから自殺する」
「おのれええっ! 誰だっ? 知っているなら言えっ、わしの手で血祭りにあげてやるっ!」

 秋子が栞には言えなかった、耳を塞ぎたくなるような汚い未来は、姉には説明していたようで解決の目処が見えた。
 姉から見える未来のビジョンでは、自分は当主に対等に話すこともできず、言ったとしても信用されず、女主人に口を塞がれて折檻を受けるだけだったと見えた。
「女共も広間に集めろっ! その親も全員だっ!」
 また廊下で人が走り去る音が聞こえ、未来が変わって行く、香里はほんの少し油断した。
「秋子さんからの予言はここまでよ。ああ、もう一つあった、これは「指令」ね、すぐにこの家も何もかもあたしが分捕って、思い通りにしてやるわ、覚悟しなさいっ」
 当主を指差し、早速挑戦状を叩き付ける香里。天使の人形の分体が入った今、気の強さも回復して、目上の者にでも不遜な態度をとった。
「はははっ! 言いおったわ、良し、やってみろ、家ごと分捕ってみせろっ、流石わしの一族だ、気に入ったぞっ」

 予想通り、当主は姉のような気の強い女が大好きで、栞のような顎で使える奴隷タイプは嫌いなのが分かったが、そんな芝居はできないので気の強い役は姉に任せた。
「じゃあ四つ目、まだ懐の中にご褒美あるんでしょ? それをこっちに、あたしは栞と違って金持ちじゃないのよ」
 秋子の予言が終わり、香里の態度にも耐えられなくなったのか、女主人が駆け寄って、制止も聞かず香里に平手打ちをした。
 二発目以降は体力と反射神経の高い香里に阻まれ、取っ組み合いになった。
「何すんのよっ、クソババア」
「やめんかっ、まだ話は終わっておらんっ」
 体力勝負では香里が勝り、背の低い女主人を蹴り倒して、起き上がれないよう強めに踏み付けた。
「何をするかっ! この家の女主人である私に逆らって、この家で生きていけるとでも思うかっ!」
 ここで香里は、悪魔の微笑みで女主人を見下ろした。本日最大の目的を達成した後、頬を張られて怒った時に、魔物に変身した。
「あたしからも予言してあげるわ、この女とこいつの娘は、今日、無一文でこの家から放り出される。何をしたか知らないけど、この後宴会場で大恥をかかされて、無様に泣き喚いてるこいつの姿が見えるわ」
「放せっ! 放せっ!」
「もう良いっ、お前はここから出て行けっ」
 当主が近寄ってきて、自分を助けてくれると思った女主人は、香里の足を掴んで勝ち誇った。
「それ見たことかっ、ご当主様まで怒らせて、この家からも出されるっ、行儀のなっていないお前には、あの貧乏な暮らしが似合っておるわっ!」
「この娘とはまだ話がある、出て行くのはお前だっ」
 その言葉に絶望し、目を見開く女主人。香里に上から笑われながら足を離してもらうと、一目散に部屋から出て行った。
 
 

 
後書き
某所の管理人さん、潰された仕返しに、私のハンドルネームで暁内の掲示板にコピペ爆撃をして、私が垢バンされるよう工作していたようです。 
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