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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第九十話】

――第三アリーナ――


互いの刀同士が交差し、刃が重なると俺と未来は拮抗状態に――。


「幼なじみ同士でこうやるの…嫌なもんだな、未来」

「そうよね……私も、本当はヒルトにこんなことしたくない……。――でも、試合だからっ!優勝して、ヒルトに…伝えたい事があるんだからっ!!」


言うや、未来はスラスター推力を上げ始める――此方も押されまいとプロペラント・タンクにある燃料を燃焼し、加速度を上げていく――。


「未来…!優勝しなきゃ、俺に伝えられないことなのかっ!?そんなこと…関係ないだろっ!!伝えたきゃ、そんなきっかけ無くても!俺に言いたい事、言えるだろ!?」

「……きっかけなきゃ、伝える勇気…出ないもんっ!!」


そう告げる未来の表情は真剣だった、俺に言いたい内容は何かはわからないが――幼なじみなんだ…勇気がなきゃ伝えられないことって何なんだよ…――。


徐々に押され始める未来――その表情に焦りは見えないが――一瞬力が緩まるのを感じた俺は――。


「今だ!シャルル!!」

「うん!」


力が緩まった隙を狙い、左手に構えた未来の刀を弾き飛ばす――そして、俺の背後に居たシャルルは両脇から手を伸ばし、新たに六二口径連装ショットガン《レイン・オブ・サタディ》二丁を構えた。


「あっ……」


未来の表情が青ざめる、一瞬とはいえ隙を見せた自分を後悔してるのだろう――俺も、未来のこんな表情見るのは辛い…だが、無情にもシャルルはその引き金を引き、その銃口が火を噴いた。


「え――うわっ!?」



小さく驚きの声を上げたと同時に、俺の視界から未来が消えた――。

シャルルのショットガンによる射撃も、無意味に終わり、その銃弾は虚しく空を切ってアリーナ観客席のバリアーの前に弾けて散った。


「ふん、やはりお前は邪魔だ」


その入れ替わりにラウラが急接近してきた。

見ると、ワイヤーブレード一基が未来の脚部へと伸びて巻き付き、アリーナ脇まで遠心力で投げ飛ばした。


「未来!?――ラウラッ!!この大会だけとはいえ未来はペアだろうがっ!?仲間だろうが!?お前、一体二人の教官から何を学んできたっ!?」

「黙れ有坂!貴様に私の何がわかると言うのだ!?」

「わかるわけないだろっ!?俺は俺でお前はお前だ!!言わなきゃ何も伝わる訳ないんだっ!!」

「っ…!?――黙れ……黙れっ!!」


叫ぶラウラ、プラズマ手刀を展開し左右交差するように斬りにかかってきた。

天狼を上空高く投げ捨てると、驚いた表情をするラウラ――。


「馬鹿なっ!?敵を前にして自ら武装放棄とは…」

「俺を…舐めるなぁっっ!!」


交差するプラズマ手刀を、ラウラの手首を掴む事でその攻撃を中断させる。

攻撃を止められたことに、その表情から驚きを隠せないラウラに対して右膝による二ーキックをラウラの装甲部分に一撃を与える。

その一撃が響いたのか若干体勢を崩したラウラ――。


「くっ……その程度――」

「まだまだぁっ!ハアァァァッ!!」


勢いそのまま、今度は左足でハイキックを繰り出し、その勢いでラウラは横へと切りもみしながら地面へと突っ伏した。

俺自身、ISを使っていても女子との模擬戦、試合においては生身部分――頭部、胸部、腹部、四肢に対しては攻撃をしていない、していたとしても装甲部分を狙う様にしている。

たとえ安全が保証されていたとしても、俺には出来ないから……俺自身の身勝手な見解であり、エゴの部分だろう。

散々刀で斬り合いした俺が言うのは説得力0に等しいがな。


「……っ…貴様…っ!」

「立て、ラウラ・ボーデヴィッヒ!!今のは対して効いてないはずだ!」


地面に突っ伏したラウラは、その怒りに満ちた瞳を俺へと向ける――。

そんなラウラに対して、俺は以前から思っていた事を口に出した。


「ラウラ、お前は俺の事を…今この場に居るシャルルも、お前のペアの未来も敵だと思っているのか?」

「ふん…当たり前だ。貴様も、デュノアも…飯山も敵以外何者でもない!」

「……そうやってお前は、クラスメイト全員敵だと思い、孤立していくのか?」

「黙れ!私には教官が――織斑教官がいればそれで――」

「良いわけないだろっ!?」

「っ…!?」


アリーナに響き渡る俺の怒声、それと同時に観客席からざわめきが起こり始めた――。


「……俺はお前のことを敵だと思った事なんて一度もない。今は試合して戦ってるが本当はこんなことしたくはないんだ……」

「ふん、綺麗事を……今は試合の最中だ、悪いが攻撃させてもらう」


言うや、ワイヤーブレード全基展開し、此方に襲ってきた――。


「ヒルト、援護するよ!」


そんなシャルルの声が聞こえ、振り向くやアサルトライフルによる射撃でワイヤーブレードを攻撃するが、多角的軌道を描くワイヤーブレードに弾丸が当たることは無く、此方に肉薄してきた。


「……っ!」


ランドホイールによる左右スラローム回避を行い、何とか避けてシャルルの元へ――。



「ヒルト、今は試合中だからしっかりしないとダメだよ!」

「……悪い。俺としてはこのまま戦わずに話し合ってからだと思ってな。――甘いよな、俺」

「……うん、ヒルトは甘過ぎるよ。――でも、僕はそういう所……き、嫌いじゃ…ないよ?」


いつもながら頬を赤く染め上げ、そう告げるシャルルに対して、俺はお礼の言葉を言った。


「ん…ありがとう、シャルル――試合やるか。悪いがシャルル、未来を抑えてくれるか?」

「じゃあ…先に未来さんを?」

「倒せたらいいが多分厳しいだろう…危なかったら退くんだぞ?」

「……うん、でも僕、ヒルトの期待に応えたいから…頑張るよ!」


そう告げると、シャルルはラウラの射程圏内から離脱、それと共に一気に未来へと間合いを詰めていった――。


「先に片方を潰す戦法か。無意味だな」

「…かもしれないな。だが――俺は無意味だとは思わない。シャルルが俺の期待に応えたいと言った――なら俺はそれを信じるだけさ、これがな」


アリーナ地表に突き刺さった天狼を抜き、それを構え直す。

ラウラの近接戦闘能力は高いのだろう――前の美冬やセシリア、鈴音の戦いでもプラズマ手刀にワイヤーブレードを巧みに使った波状攻撃及び牽制を行っていたのだ。

――だが此方も、八式・天乃御柱を近接迎撃モードにセットし直している。

手数の差なら負けていない筈だ。



「戦うのは好きじゃないが……だからといって戦わずに負けるつもりもない。ラウラ…悪いがやらせてもらう!」

「ふん。――来い、有坂」


その言葉を合図に再度ラウラとの近接戦闘に入った。


プラズマ手刀による交差攻撃をランドホイールによる左右回避運動を利用して避けつつも、迫るワイヤーブレードは近接迎撃モードの八式・天乃御柱が自動捕捉による迎撃で弾いていた。

一旦ラウラとの距離を離すと、ラウラは直ぐ様肩の大型レールカノンの砲撃を開始、俺は迎撃モードの切り替えが少し遅れてその砲撃による一撃が俺に直撃しかけた――。


距離を離すのは得策では無いと、俺は判断すると素早くラウラとの間合いを詰め、再度近接戦闘を行った。

俺の天狼にラウラのプラズマ手刀の刃で何度も斬り結び、もう片方のプラズマ手刀による連撃を何とか腕部装甲で受け止めるのだが、その部分から装甲に熱が貯まっていき――。


「ふん。そろそろオーバーヒートを起こす頃だな」

「さあどうかな…?上手く排熱してるかもしれないぞ?」


――正直な所、今のはただの強がりだ。

ハイパーセンサーに表示されている装甲の表面温度は常に上昇し、内部温度も徐々に上がりはじめてきた――。


力押しでラウラとのつばぜり合いに勝つや、直ぐ様足払いで体勢を崩そうとするもそれは読まれていた様で、ラウラはその場で小さく跳躍――その後その場で旋回し、俺の頭部に勢いをつけたバックスピンキックによる一撃を加えると、俺はその衝撃に脳を揺らされ、更に先ほどのラウラと同じくきりもみしながら地面へと倒れた――。


「があっ…!?ちぃっ…平衡感覚が…っ!」


両腕に力を込め、何とか立ち上がりはするものの正直立つのがやっとの状態だった。


「ふっ…フラフラのようだな有坂、今の一撃が効いたようだな」

「…別に効いてやしないさ、これが」

「強がりを…今のお前にこれを避けられるか?」


刹那、六基全てを射出したワイヤーブレードが此方を捕捉するや、その軌跡を読ませないように複雑かつ多角的軌道で俺へと進んできた。


「……っ!」


最初の二基のワイヤーブレードを、何とかその場で身を捻って避けるが後続の四基によるワイヤーブレードの攻撃に対しては間に合わずその連撃にシールドエネルギーの三分の一を奪われた。

装甲にもワイヤーブレードを受けるのだが改良型の分子結合殻で覆われている為、傷一つつくことはなかった。



「ふっ…あれだけ攻撃しても俺はまだ立ってるぞ、ラウラ…?」

「そうか、ならばこれでどうだ?」


言うや、先ほど連撃を加えたワイヤーブレード二基が天狼を持つ右腕に巻き付き拘束し――。


「このまま叩きつけてやろう」

「……そうは問屋がおろさねぇってな、これがなぁぁっ!!??」


「なんだと…!?」


勢いつけて叩きつけようとワイヤーブレードを動かそうとするラウラと、そうはさせまいと村雲の力だけで抑え込む俺との力比べが始まった。



「くっ……!パワー負けしてるのか……っ!?」

「当たり前だろ!?母さんが設計して作られたISなんだ、そうそう簡単にパワー負けなんてしないさ!」


徐々に引きずられる様にラウラが近づいて――。


「ふん…、シスコンかと思ったがマザコンだったとはな…!」

「なんだよ、羨ましいのか?家族が居る俺が?」

「……っ!!」


その一瞬だった、ラウラの瞳に僅かながら寂しさを秘めたような瞳に変わった――だがそれも束の間、直ぐに目尻をつり上げると此方を睨み返してきた。

――彼女の過去の事情全てを俺は知ってる訳ではない、わかってることと言えば幼少から軍人をしているというジュネーブ条約に反する事をしているとしかわからない――と言ってもこの場合責められるのは国や軍であり、ラウラ自身に俺は罪はないと思うが。

……結局書類で見た経歴以外では俺は彼女の事は何もわからないという事だ。


そんな考えをしつつも、村雲の力で一気にワイヤーブレードを引きちぎるやそれを投げ捨てた――。

――だが、次にラウラが俺に告げた言葉は……。


「……どうやら力比べしている間にデュノアと飯山の決着はついたようだな」

「何?――っ!?」


ハイパーセンサーで確認する前に、俺はシャルルて未来の方向へと視線を移すと――。


「……シャルル!?」

「ごめん、ヒルト……」


俺の視界が捉えたのは――片膝をつき、ぼろぼろになったラファール・リヴァイヴの姿だった。 
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