IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第363話】
前書き
模擬戦
次の日の火曜日、時間は午後四時を少し回った辺り。
今日の授業は午前中の一時間目がISに関する機能や能力等の復習(時折一学期に習った事のお復習を兼ねるらしい)、二時間目は珍しく格闘術の訓練(IS操縦者には生身の戦闘術も必要だとか)or射撃訓練(実銃を使って)の選択制で射撃訓練を選択して訓練を行ったが……これ、高校の授業なのだろうか?
……まあ、今更な気もしなくはないが。
三時間目と四時間目、午後を跨いで五時間目と六時間目迄ISによる実習訓練で午前は近接戦闘訓練(主に接近戦用の武装を用いた模擬形式)を行い、午後はそれを入れた本格的な戦闘訓練と、スポーツとはとても思えない授業内容を行った。
因みに明日は朝から体育――男子以外皆がブルマになるという女尊男卑は一体何処へやらと言いたくなってしまうが……。
――まあ今更言っても仕方ないが……プール授業も、スク水なこの学園何だし。
それはさておき、現在第三アリーナ第二ピットにて入念に身体を柔軟している俺、昨日ラウラと模擬戦の約束をしていたのでその為に今ここに居る。
因みにだが、篠ノ之と美春も第二アリーナにて現在模擬戦の真っ最中だとか、美冬からのチャネル通信でさっき連絡が来た。
……あんなキスをしたのに、他の人がいる前だといつもの美冬に戻る辺り、凄まじく女優の才能がある気がするのは気のせいだろうか?
後、案の定だが理央と鈴音の二人は俺を見ただけで顔を真っ赤にして若干言葉が詰まったりしていた――。
それでも、やっぱり昼までには二人とも俺に対する応対がいつものようになっていったからあまり気にしなくて良くなったが。
「ん……柔軟終わりっと。 そろそろIS展開して模擬戦開始するかな。 ラウラもアリーナの真ん中で待ってるし」
独り言がピット内に反響する中、光の粒子が身体全体を包み込み、一瞬目映い閃光を放つとその身にはISを纏い、僅かに身体が浮き上がり、妙な浮遊感に気持ちが少し落ち着かなかったため直ぐに着地した。
『主君、機体の不具合等は無いようだ。 今日の模擬戦の戦果、期待します』
『戦果って……つまりラウラに勝てって事か?』
『うむ。 常勝無敗――とまではいかなくても、やはり何か得るものがあれば主君にとって利はあると私は思うのだが……。 負けて得るものもあれば、勝って得るものもあるのだ。 主君、頑張るのだ!』
常勝無敗って――結構負けてる俺なのに……とはいえ、前に一度勝って以来勝ててないからそろそろ一勝勝ち取りたい所だが……。
『……そうだな、何とかやってみるさ、これがな』
そう返事をすると、脚部をカタパルトに接続――と共に、ハイパーセンサーにシグナルが点り、右前方にあるシグナルが点灯した。
ハイパーセンサーにも表示されるが、こうやって他の人にもシグナルの確認が出来る辺りは配慮があると考えるべきかはたまた税金の無駄遣いと考えるべきか……。
余計な事を考えられる辺り、少しは余裕を持ってきた証拠なのかもしれない。
緑のシグナルが点灯――勢いよくカタパルトから射出され、放物線を描くように落ちていく。
重い音と共に地表へと着地、その衝撃で軽く砂塵が舞う中腕組みしながら待っていたラウラが――。
「……少し遅かったが、どうしたのだ? 機体の調整でもしていたのか?」
「ん? ちょい身体の柔軟を念入りにやっててな。 待たせたなら悪いな、ラウラ」
「こ、このぐらいなら大丈夫だ。 ……というか、普段のお前がいつも私より早く来てる事の方が多いのだからな」
「そういやそうだな。 まあ待たせるより待つ方が嫌いじゃないからな。 ……さて、早速模擬戦開始といくかな、これが」
言ってから武器を粒子形成さて、両腕に巨大な拳を纏うとラウラはそれを見てぎょっとした表情を浮かべた。
「……まさか本当にあの使いにくい武装を選んでいたとは。 ……だが、それもヒルトらしいと言えばヒルトらしいな」
僅かに微笑を溢し、プラズマ粒子を収束――両腕からプラズマの刃が形成された。
武装に関しては以前に皆に言ったら、何れも威力は高いが扱いにくさトップ3に入る武装ばかりだとか――一位がこの巨大な拳、名称は【ギガント・マグナム】と呼ばれるロケットパンチであり、二位が対艦刀【カリバーン】、三位がチェーン付きハンマー【ミョルニル】だとか。
ロケットパンチ以外は有名な名前をつけてるが――ミョルニルって聞くとやっぱり滅殺だの撃滅だのを言わないといけないのだろうか?
……まあ、あまり深く考えずに使うが。
模擬戦開始前のシグナルが点灯――意識をラウラへと集中させる。
俺の表情が変わったのに気づき、ラウラも表情が変わる――軍人らしく、二人で一緒にいる時とは違う表情だ。
前に一度俺に敗北して以来、模擬戦であれ常にこの表情で挑む辺りは流石の軍人といえる――まあ、ジュネーブ協定違反だが今更言っても仕方ないし、実際怒るならラウラではなくドイツのトップに対して怒らなければならないが。
そんな余計な考えを他所に、シグナルが緑へと点灯――それと共に右手プラズマ手刀による突きの一撃が迫る。
直ぐ様その一撃を後ろへ一歩下がると、シールドバリアーにギリギリ触れるか触れないかの距離で何とか避けたものの、直ぐ様追撃のワイヤーブレードによる連続攻撃。
鞭の様にしなるその一撃一撃を、増設した打鉄の盾で受け止め、シールドエネルギーを削られないように距離を離す――と、鈍い音と共に肩の大口径レールカノンがその照準を俺へと向けた。
「っ! 連続攻撃か……!」
空へと急上昇し、その照準から逃れるのだがそれを見越してか更に上下からワイヤーブレードが強襲してきた。
身を捩り、上下から強襲したワイヤーブレードを回避するも、体勢を無理矢理崩しての回避ゆえに直ぐ様姿勢制御は行えず――。
「もらったぞ、そこだ!」
そんなラウラの言葉と共に放たれたレールカノンの砲弾が轟音を轟かせ、迫る。
「クッ……! カリバーンッ!!」
武装名を呼び、前方の空間に粒子形成された対艦刀【カリバーン】が呼び出され、レールカノンの砲撃を防ぐ盾になった。
「むっ! 成る程……武器として使わず、大型の盾としての運用か……。 だが!」
更にワイヤーブレードを射出――計四基による包囲攻撃――だが、左右上下の四方向のみの攻撃故に、逃げ道は前方及び後方の二ヶ所に穴がある。
斜めに抜ける手もあるが、それだと下手すると腕部及び脚部を捉える可能性がある。
迷わずに前方へと抜け出ると共に、盾内部に増設したスラスターを含め、全てを起動させて間合いを詰めると共に装甲の表面温度の上昇にも常に気を配る。
間合いを詰めるとわかったラウラは、迎撃ではなく正面から突っ込み様に瞬時加速で迫る。
縦に振るうプラズマ手刀とギガント・マグナムが交差し、激しい火花を散らせての近接戦闘――バチバチとプラズマ粒子が四散し、ギガント・マグナムも表面温度が徐々に上昇していく。
両手のプラズマ手刀による十字攻撃をバックステップで避けた一瞬をつき――。
「ウォオオオッ! ギガントッ! マグナムゥッ!!」
左拳を突き出した次の瞬間、ギガント・マグナムに備わったスラスターから激しい白煙が立ち込めると共に射出――轟音がアリーナ周囲に響き渡り、ラウラへと迫る――だが。
「遅いっ!」
前方へと宙返りするように避けると、その下を巨大な拳が通過していく――巨大さ故か、風の影響を諸に受けて思った以上に加速しないのが他の生徒に使われない原因だ。
実際使ってみてわかるが、これを選ぶなら正直アサルトライフルを選ぶ方が賢い選択と言えるだろう。
とはいえ、一度選んだのだから今更変更するつもりはないが。
アリーナのバリアーに当たると、地表に落下するギガント・マグナム――ズゥンッ!と鈍い音が聞こえる中、宙返りしたラウラは地表へと着地と共にクイック・ブーストで肉薄――プラズマ手刀による斬撃がシールドエネルギーを削っていった。
「っ! オラァッ!!」
左手に新たに粒子形成させた北落師門による横一回転による一撃がラウラのシュヴァルツェア・レーゲンの装甲に触れると、小さく火花を散らせた。
その一撃を受けたラウラは、少し距離を取ると共に射出していたワイヤーブレード二基を起動させ、また鞭の様に振るう。
「クッ……! もういっちょうッ! ギガントッ! マグナムッ!!」
振るうワイヤーブレードの一撃一撃に耐えつつ、右拳を突き出すと、勢いよく射出される巨大な拳――。
辺り一帯に白煙が立ち込め、拳がラウラへと迫るのだが、結果はさっきと同様易々と回避されてしまい、有効打にはならなかった。
「チッ! ならばこれで……!」
新たに粒子形成させ、ミョルニルを握ると周囲一帯に振り回し、ワイヤーブレードを弾いていく。
「簡単には突破出来ないか……なら、接近戦だ!」
射出したワイヤーブレードを収納するや、直ぐ様接近戦を試みるラウラ。
「そらぁッ!」
俺の掛け声と共に、ジャリジャリと金属音を響かせて真っ直ぐラウラに一撃を叩き込む――だが、AICによって慣性停止させられ、勢いを失ったミョルニルは鈍い音を立ててアリーナ地表に落ちる。
「くっ……まだだ!」
「何……!?」
盾代わりに呼び出したカリバーンを粒子化させて手元に呼び出し、再度粒子形成を終えるとまだラウラが俺の間合いに入る前に横へと大きく凪ぎ払う。
咄嗟にAICを発動出来なかったラウラの腕部装甲へと直撃するや、その装甲が一部欠けて生身部分を晒した。
更に質量差によってアリーナ内壁へと叩き付けられるラウラ――だがこちらも、対艦刀の重さに振り回されて直ぐに追撃が出来ずにいた。
「っ……油断した。 ――だが!」
叩き付けられたラウラの機体、シュヴァルツェア・レーゲンから再度ワイヤーブレードが射出され、二基が地面に突き刺さるとそれを巻き戻す反動を利用して内壁から脱出――それと共に、残り二基のワイヤーブレードで未だに振り回されていた俺へと二連撃。
「グゥッ……!」
「このまま決めさせてもらう!」
プラズマ手刀とワイヤーブレードによる連続波状攻撃に、大幅にシールドエネルギーを削られ、残り100を切る――。
このままでは負ける――脳裏に過る敗北の言葉に、一矢も報いず何も出来ないのはダメだと思った次の瞬間、カリバーンをかなぐり捨て、地面に落ちたギガント・マグナム二基を粒子化させ四散、新たに呼び出すと共に両拳でプラズマ手刀を受け止めるとラウラの表情が一変した――。
「なっ!?」
「この距離なら――ギガントォッ! ツインッ! マグナームゥゥッッ!!!!」
喉が張り裂けんばかりに叫び、両拳をほぼゼロ距離から射出――諸に両拳の直撃を受けたラウラはその衝撃に吹き飛ばされ、地面にバウンドする様に転げ落ちた。
その様子に、罪悪感が心を支配し、躊躇して追撃が出来ずにいると――。
「ヒルトッ! 躊躇するな!! 躊躇すればお前がヤられるのだぞ!!」
そんなラウラの言葉に、ハッと目を見開き、追撃をしようと動くも既に立ち上がり、射撃体勢を整えていたラウラの大型レールカノンの砲口が火を噴いた。
一瞬の判断が命取りになる――盾での防御が遅れ、レールカノンの直撃を浴びた俺はその衝撃に頭から地面へと落下、絶対防御で保護されたとはいえ危ない落ち方をしたのと同時に今の絶対防御発動でエネルギーが枯渇、模擬戦終了のブザーが鳴り響いた。
「ヒルト、立てるか?」
慌てて駆け寄ってきたラウラは、心配そうな表情で前屈みになり、俺に手を差し伸べた。
「……あぁ、大丈夫だ。 ……まだまだ甘いよな、俺。 お前が吹き飛ばされた姿を見て躊躇するなんてさ」
差し伸べた手を取り、勢いそのまま立ち上がるとラウラは――。
「戦士としては半人前だな。 あの場面で追撃が出来ないと重要な場面で大切な人を失う結果になりかねない」
「ぅ……ごもっともです」
「――だが」
「?」
少し言いにくそうにするラウラ――徐々に頬が赤く染まっていき、軽く咳払いすると。
「お、お前の優しさは正直……う、嬉しいぞ? そ、そんな所も、私は好きだからな」
言ってから抱き付くラウラ――ISスーツだからか、直接肌の温もりを感じた。
「そ、そっか……。 ありがとうな、ラウラ?」
髪を優しく撫でると、ニコッと笑顔を見せるラウラは――。
「……さて、さっきの模擬戦での反省点を洗い流すぞ。 私も一緒にな」
「了解。 遠慮なく言ってくれ、ラウラ」
「うむ。 先ずは――」
模擬戦を終え、ラウラが気付いた俺の反省点を言い始めるとそれをメモに取り始める俺。
最近は専用機持ちの皆に、こうやって何か気付いた点等の指摘もしてもらっている。
自分では気付かない点も、人から見たら気付くところもあるからこういった指摘は非常に有り難い。
ラウラの指摘を聞き逃さず、メモにとっていくと秋風がアリーナを駆け抜けていく。
真夏の日差しはそこには無く、心地好い秋風にもう完全に秋だなと思いつつ、目の前のラウラ教官の俺が直す点や課題を書いていった。
後書き
ヒルトの敗け~
主役敗けてフラストレーション溜めすぎじゃね?ってなるかもですが、敗けて得ることもあるのでご了承をば
無双する姿が見たいなら、多分他作品のがフラストレーション溜まること無く見れたり( ´艸`)
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