ベルベルの受難
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第伍話 ベルベル視点
「ぷはあっ」
私はさっき気絶をしていたらしい。
それなのに、今いるのは足もつかない深い池……いや、沼。
お風呂場の景色は消え失せ、あたりは湿地帯に生えるような木や草に囲まれていた。
「ここは……」
どこなのかも分からない、見覚えも無い場所だった。
とりあえず沼にいるのは危険だと思い、陸へ上がろうと思う。
―――― バシャ、バシャ ――――
岸までなんとか辿り着き、地面に手をかける。
「はあ、はあ。」
着ているのが水を吸いやすい軍服である為たっぷりと水を含み、かなり体が重い。
陸に上がるのがやけに大変に感じられた。
私は近くの木にもたれかかり、少し呼吸を整えようと思った。
「 ――― フウ… 」
空は雲ひとつ無い。太陽は沈みかけているのか光源ははっきりしないが、空は一面紫色に染まっていた。
正直、かなり不気味だ。
でも少し安心している自分が居た。さっきまでは拘束されていておへそをひたすら責められていた。
今は少なくともこうして自由に動き回れる。
とりあえず、この森を抜ける事に全力を注ごうと決意した。
「そろそろ ――― あれ?」
体を起こし歩き出そうとしたが、動かなかった。
「えっ……?」
私は自分の体を見て驚いた。沼の中にいたのだろうか。
紫色で半透明な液体……紫色のスライムがまとわりついていたからだ。
スライムは私の手足の素肌に吸いつくように付着し、寄り掛かっていた木に私を磔にする形でへばりついていた。
「な、何やこれ!?」
力を入れて抜け出そうとすると、紫色のスライムはまるで意志を持っているかのように反発して拘束の手が強まる。
スライムに手足を封じられ、完全に動く事ができなくなってしまった。
――――……. .・ ・ ゥ ゥ……――――
それを見計らったように遠くから音が聞こえてきた。
――――… ゥ ゥ゛ゥ゛ゥ゛ウ゛ウ゛…――――
虫の羽音のような音。どんどん大きくなっていき、私の方に近づいてきている。
―――― ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛――――
風を巻き起こしながら、それは私の目の前に降りてきた。
「ひいっ…!」
ゆっくりと私の目の前に降りてきたのは、胴体が1mを超えていそうな巨大なスズメバチだった。
凶悪な黒いふたつの目。見ているだけで痛覚を刺激されるような強靱な刺々しい顎。先端に毒針を携えた大きな腹部。
突然現れたその悪魔は、耳を聾する羽音と共に風を巻き起こしながら、今や私との距離を縮めつつある。
悪夢のような光景だった。
「 嘘………嘘や、なんで、こんな……」
こんな状況だという事だけでも、涙が溢れ出していた。
さっき感じた希望の光は簡単に絶望の闇色に塗り替えられてしまっていた。
紫色の空もスライムもこんなに巨大な蜂も、何もかも理解の範疇に無い。
どうすればなんて考える気すら起らない。
―――― ガヂ ――――
「あがあっ!」
そんな私の胸中も現実はお構いなし。
巨大なスズメバチの2本の足が、動けない私の脇腹を両サイドから掴んだ。
そして先端に毒針がついている腹部が弓を引く。
「ああああああやだああああああ」
―――― どすッ!! ――――
「ぐべえ………………っ」
お腹の中心から全身へと電気が走った。
毒針は見事に私のおヘソを貫いていた。
おヘソと針の間からは血がぴゅうっと吹き出し、スカートとその中の下着を赤く染め上げる。
「うあああ、やだ、いやだあああ」
私は激痛に泣きじゃくりながら針の刺さったおヘソを凝視する事しか出来なかった。
暴れても暴れても。紫色のスライムは私を縛り続けて離さなかった。
そしてここまでされて尚、私のお腹の中で新たな異変が起こり始めていた。
―――― ……ちゅ……ぶぢゅる…… ――――
「 へ 、へぁ…… 」
お腹の中にひやりと冷たい感覚が広がっていく。
針の先から、何かを流し込まれている!
「ああ、あああ!! なんで、なんでえええええ!!」
冷たさが広がると共に、その感覚の後から後へ気持ちの悪い痛みがお腹を占領していった。
―――― ギリリ、ギリギリ ――――
それに対して満足げにスズメバチは顎を鳴らす。
「えええ、おげぅ、うええ!!」
私は広がる気持ち悪さと痛みに急激な吐き気を催した。
が………
「げるっ………!」
――――ばしゃああぁ……――――
それは口からではなく、太腿と太腿の間から流れ出た。
溶かされて液体となったお腹の中身が ―――
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