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ベルベルの受難

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第玖話

「家に帰っておく。」
手を軽くはたきながら謎の男がつぶやき、ベルベルを置いて宿へと引き返した。
「おっと忘れるところだった。」
謎の男は淡々と、バックからアクセサリーを取り出した。
それは長さ10センチ程度の細長い鉄製の簪タイプの髪飾りで、それをベルベルのヘソに突き刺したのだった。
「すまないな。これ、おまえのおヘソに付けるの忘れていた」
「へ……?あうぅっ!?」
ベルベルは何をされたのか理解ができず、後になってヘソから鋭い痛みを感じ取った。
「いっ…痛いっ!痛い!な…、何したんや?うちのおヘソに何したん?」
「おまじない。じゃ、がんばれよ」
謎の男はそういって再び姿を消した。
「え……?なにアレ?うちのおヘソに…刺し…て…、って、待って…、待ってや!コレ取って!」
非情にも謎の男はベルベルを一人取り残して宿へと戻っていった。
「う…そぉ……」
ベルベルは涙目ながら、痛みの源へ視線を移した。
見るとベルベルのヘソには細長い髪飾りが垂直に立ち、ベルベルの呼吸に合わせて髪飾りは上へ、下へ、左へ、右へと細かい動きを見せていた。
「こんなモノ!ふんっ!」
必死に身体を揺すり髪飾りを振り落とそうとしたが、よほど深々と刺されたのかビクともしない。
暴れれば暴れるだけ、ベルベルの手足を縛める縄がさらにきつく絡みつく。
「いや…いやぁ…イヤや…。なぁ…、誰かぁ……」
誰に話しかけるでもない、寂しさと恐怖を紛らわせるためにベルベルは努めて言葉を発し続けた。しかし、
「……………」
薄暗い雲の中を掻き分けるように稲光が煌めき、小さく雷鳴が轟く。
次の落雷に至るまでの静寂が長く感じられた。
『晴れた』とさえ思わせるほどだった。
その瞬間、眩いばかりの閃光が辺りを包み、間髪いれずに一際大きな雷鳴が轟き、稲光がベルベルの目の前に迫った。
ピシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!
続いてベルベルのヘソに突き立てられた髪飾りを経て身体全体に衝撃が伝わった。
「!!!!!!!!!!」
ベルベルはカッと目を見開き、身体を仰け反らした。
さらに1テンポ遅れて腹の辺りが異様な熱を持っていることに気が付く。そして、
「ひぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ベルベルの絶叫がこだました。
ヘソに突き刺さった髪飾りに施されていた装飾品は、この一撃ですべて崩れ落ちた。
ただの針金となった髪飾りに絡みつくように、ベルベルのヘソからは湯気が立ちのぼっていた。
ベルベルは息を荒げて小刻みに首を左右に振り、
「い……、イヤや…イヤやぁ……、痛い…、熱い…、おヘソが痛い…ウソだ…、ウソ…」
かすれた声で現実を否定した。
「…とにかくこれ以上こんなトコロになんかいられんもんね……」
ベルベルは気丈にもどうにかしてこの場を逃れようと身体を起こそうとした。ところが、
「え……?な…何…?…なんで……?」
声は出すことができでも、身体を動かすことができない。
落雷の衝撃はベルベルの身体をマヒさせ、自由を奪っていたのだった。
「う…そや……やだぁ…」
ベルベルの目に涙が溢れ始めた。
パアッ!
目の前で薄暗い夜空が閃いた。
「うぞっ!?」
ピシャアァァァァァァァァァァァァァァン!
「はぁうぅぅぅぅぅぅぅぅっ!ぐぎひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
2発目の雷がベルベルのヘソを直撃した。
縛められた身体を大きく仰け反らせて絶叫を上げるベルベル。
避雷針の働きをする髪飾りは落雷のエネルギーで相当の熱を持ち、ベルベルのヘソをジリジリと焦がす。
ヘソに突き立てられた髪飾りを中心にしてヘソの周囲が赤く腫れ上がる。
相当の熱がベルベルのヘソに襲い掛かるが、落雷の衝撃で神経がマヒしているせいで、あらゆる感覚がワンテンポ遅れてベルベルを支配する。
「くふぅぅぅぅ……、はあぁぁぁぁぁぁ…、く…、うぅぅ…あ…熱いぃ…おヘソが熱いよぉ…」
弱々しい声でヘソに伝わる痛み、熱さを紛らわせようとしたが、息を整えるのがやっとだった。
わずかな時間で息を整えた途端に雷が三度ベルベルのヘソを狙う。
ピシャアァァァァァァァァァァァァァァン!
「ふんっ…ぐうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
巨大なエネルギーを何度もヘソに受けてしまっては、さすがのベルベルも満足に呼吸ができない。
「ううぅぅぅぅぅっ……!ぷはあぁぁぁ!」
ハァ…ハァ…ハァ…ハァ……
ベルベルは腹を大きく上下させて呼吸を整えた。
ヘソに突き立てられた髪飾りが呼吸に合わせてピクピクと脈打ち、その動きが滑稽さを醸していた。
もっとも、ベルベルにそれを感じ取る余裕など無い。
「う…ウソ…ウソや……ウソに決まってる……ぜった……」
ピシャアァァァァァァァァァァァァァァン!
「いっ……ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
雷は情け容赦なくベルベルのヘソに落ちた。
「くぅぅぅ…あ…熱い…おヘソが痛い…もうヤダぁ!」
つぶやいても、もがいても、髪飾りがヘソから外れる気配はない。
頭を起こして自分のヘソの様子を確認しようとしたが、満足に頭を持ち上げることができない。
見えるのは、細長い針が胸の谷間から垂直に突き出ている様子でしかない。
異常なまでのヘソの感覚から判断すれば、かなりのダメージであることがベルベルにも想像できた。
事実、髪飾りは原型こそ留めていたものの、最初の落雷の衝撃によって装飾品が跡形もなく崩れ落ち、さらに真っ赤に焼け、そのエネルギーをベルベルのヘソに伝えていた。
ベルベルのヘソはその熱をダイレクトに受け止めて赤く焼け爛れ、無残に形を変えていた。
タテに長いヘソの面影はない。
ヘソの周囲は赤く、そしてドス黒く焼け焦げて変色し、入り口はだらしなく拡がっていた。
痛み、熱を満足に感じ取ることができなかったが、今、自分のヘソから伝わる異常な感覚は理解でき、自分のヘソの惨状を想像しては涙した。
しかし、そんなベルベルの落胆を知ることなく、雷がベルベルのヘソに落ちる。
ピシャアァァァァァァァァァァァァァァン!
「はあぁぁぁぁぁっ……!ふうぅぅぅぅ……んっ!!ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ベルベルは身体を浮き上がらせるようにして衝撃に耐えた。
しかし、もはやベルベルには身体を動かすだけの力はなく、すべての抵抗は雷の衝撃に頼ったものだった。
「も…もう…やだ…、なんでおヘソなん…?」
つぶやく声も弱々しくなっていった。
ピシャアァァァァァァァァァァァァァァン!
「はふんんんんんん………!」
落雷の間隔は回を追うごとに短くなっていった。
何発も何発も強烈な電撃を小さなヘソで受け止めた。
ヘソで受けたダメージは計り知れない。
もはやベルベルには何もすることができず、何もかもが雷の為すがままだった。
「やだ……やだ……やだ……」
つぶやきながらも意識が遠くなっていった。しかし、
ピシャアァァァァァァァァァァァァァァン!
「やだあぁぁぁぁぁぁぁぁ!あがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!ふんぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
どんなに意識が遠のいても、落雷の衝撃ですぐに現実に戻され、白目をむいて絶叫するハメになった。
気を失うことも許されず、満足に身体を動かすこともできず、雷の落ちるがままにヘソを差し出すことしかベルベルにはできなかった。
無間地獄ともいえるヘソの痛みに堪えるベルベルだった。

朝になってから、謎の男が戻ってきた。
自らがベルベルのヘソに突き立てた髪飾りに目を移した。
髪飾りは度重なる雷の衝撃を受け止めたが、依然としてベルベルのヘソに突き立てられたままだった。
髪飾りが相当の熱を帯びていることを知っているので、謎の男は伸ばした裾で手を覆い、髪飾りを引き抜こうとした。
しかしそう簡単に髪飾りが抜くことができなかった。
謎の男は力を込めてベルベルのヘソから自分の髪飾りを抜いた、その時、ふたりは予想だにしなかった事態を目の当たりにする。
「え!?」
「はうぅぅっ!!」
ベルベルのヘソの肉は髪飾りに絡みつくようにして、まるでアメが伸びるように10センチほど髪飾りと一緒に引き出されたのである。
「ぶっ…ぐっ…ぎぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
どこにそんな力が残っていたのか不思議に思わせるほどの絶叫をあげた。
謎の男はベルベルのヘソの異常に驚くこともなく、平然として髪飾りとベルベルのヘソを手で引き千切った。
当然ベルベルにも自分のヘソの異常が伝わったが、ベルベルにはもう声を出すことができなかった。
もう何もできなかった。
もう何も考えられなかった。
ベルベルの腹には、無残に焼け爛れて、伸びたヘソがトグロを巻いていた。 
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