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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第130話】

――IS試験用ビーチ――


合宿二日目。

今日は午前中から夜まで丸一日、ISの各種装備試験運用とデータ取りに終われるハードスケジュール。

特に、一夏以外の専用機持ちは大量の装備の運用試験が待っている。

もちろん、俺用の装備もあるのだが――。


「あれ、すげぇな…ロボットだぜ、ロボット」

「『IS用強化外骨格【クサナギ】』。試合には使えないが、緊急時には使用可能なIS用パワードスーツって奴だな、これが」


視線の先にある四メートル程のロボットを、このビーチに来た生徒順に驚きの声をあげ、事情を知らなかった教師陣も驚きの声をあげていた。

――しかもこれ、元々作業用らしいのだが――どう見ても先鋭的なフォルムで、俗に言う【リアルロボット】系統に近い感じだ。

――そして、その作業用の写真を見たが、明らかに原型を止めていなく、どの辺りに原型があるんだと思ったら、骨格だけという事だ。

――ちなみにこれ、母さんがやったらしい。

一人ではなく、財団のスタッフ総出で仕上げたとか言ってた。

そんな母さんは現在、ニコニコしながら俺を見ていた――もちろん、親父も隣に。

本来なら、親父は入れないのだが、母さんの護衛という事で特例として認めてもらった。

――昨日言ってた事を思い出す。

まさか、そんなテロ組織に母さんが狙われていたなんて夢にも思わず――というか、狙われる要素何か無いんじゃ――と思ったのだが、こういうIS用強化外骨格を魔改造出来るという事なら狙われても仕方ない――とは思えない。

現に、これの存在を既に知ってるってのが有り得ない、そのテロ組織。

――でも母さん、研究や開発の副産物で色々な特許を持ってたりするからそういうのを狙ってるのかなとも思ったりする。


――と、そんな思考を遮る声がビーチに響く。


「漸く全員集まったか。――おい、遅刻者」

「は、はいっ」


織斑先生に呼ばれて身をすくませたのは、何とラウラだった。

何があったのかは知らないが、珍しく寝坊したようで、集合時間に遅れてやって来た。

――シャルや美冬、未来が起こさなかったのだろうか?


「そうだな、ISのコア・ネットワークについて説明してみろ」

「は、はい。ISのコアはそれぞれが相互情報交換の為のデータ通信ネットワークを持っています。これは元々広大な宇宙空間における相互位置情報交換の為に設けられたもので、現在はオープン・チャネルとプライベート・チャネルによる操縦者会話など、通信に使われています。それ以外にも『非限定情報共有(シェアリング)』をコア同士が各自に行う事で、様々な情報を自己進化の糧として吸収しているということが近年の研究でわかりました。これらは制作者の篠ノ之博士が自己発達の一環として無制限展開を許可したため、現在も進化の途中であり、全容は掴めていないとの事です」


――こうやって知識として覚えるのって大変だな…俺もだが。


「流石に優秀だな。遅刻の件はこれで許してやろう」



そう織斑先生に言われて、ホッと胸を撫で下ろす様に息を吐くラウラ。

――織斑先生は一年程、ラウラの部隊の教官だったため、その恐ろしさを味わったのだろう。

――親父とのサバイバル訓練も厳しかったって言ってた。

まあそれ以上に『生きる』ということがどういう事かってのが重要だったようだが。

――最近になってラウラも当時の親父が言ってた事、少しずつわかってきたって言ってたな。


「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え」


一学年女子一同が返事をする。

一年生が全員並んでいるので人数は凄い。

だが、割り当てられたIS一班に一機――数が少ないから、乗る順番決めとかも大変なようだ。

美冬も未来も、この場に専用機が既にあるのだが、先日も言っていた通り、まだ受領する気はないらしい。

その事は、さっきラウラが来る前に織斑先生からの連絡で一年生全員が知った。

――もちろん、受領を反対する子は居ない。

居ない理由は、美冬も未来も、代表候補生になっているし、何よりちゃんと成績に残っているので――後は、交友関係の広さだな。

浅く遊ぶ子も、深く遊ぶ子も、別段美冬、未来の悪口を言う女子は居ない――あくまでも表向きは、だが。

裏ではわからないから、確証は持てないが――。


まあ、そんな話はその辺りに捨て置くとして、今回の合宿の目的はこの場所に搬入されたISと新型装備のテスト。

搬入されたISというのは打鉄及びラファール・リヴァイヴ。

後はさっきも言った美冬、未来用の専用機【村雲・改】及び【天照】だ。

村雲・改は俺の弐式の前の【村雲】の改良型だ。

――資金不足で完全には完成していなかった村雲の改良型で、前のと比べると所々違う。

一応ハーフ・スキンらしく、胸部や腹部には装甲があるので仮に絶対防御を突破されて生身にダメージを負う事があっても、命に関わりそうな箇所には装甲が施されているので一応安心だ。

もちろんそれは、俺のISにも言える事だが。

――てか他のISが有り得ないだけか、絶対防御に頼る設計だし。


――と、織斑先生が篠ノ之を呼び止める。


「ああ、篠ノ之。お前はちょっとこっちに来い」

「はい」


俺は強化外骨格【クサナギ】へ向かう途中だったのでちょうど聞こえてきた。

いったい篠ノ之に何の用だろうと、軽く聞き耳をたてる。

普段はしないが、わざわざ篠ノ之【だけ】を呼ぶのには何かしら理由があるはずだろうし。


「お前には今日から専用――」


そう言っていた途中、何者かが誰かのあだ名を呼ぶ声が聞こえてきた。


「ちーちゃ~~~~~~~~~~ん!!!」


向こう側から砂煙を上げながら人影が走ってくる。

何者かがわからないため、親父も母さんを下がらせて警戒していた。

――しかし、この速さ、尋常ではない。

何かしら機械的な物でも着けないと出せないスピードだ。

まずこの速さで人間が走れば神経などを痛める危険もある――ぐらいに速く感じるのだ。

――と、織斑先生はあの人影が誰だかわかったようで名前を呟いた。


「……束」


……束?

その束という人物は、立ち入り禁止の場所も関係無く、この場に乱入してきた。


「やあやあ!会いたかったよ、ちーちゃん!さあ、ハグハグしよう!愛を確かめ――ぶへっ」


そんな織斑先生に飛び掛かってきた束という人をアイアンクローよろしく、片手で顔面を掴んだ。

それも、指がその人の顔に食い込むぐらいの威力。


「うるさいぞ、束」

「ぐぬぬぬ……相変わらず容赦のないアイアンクローだねっ」


するりとその拘束から抜け出すその人、少なくとも簡単には抜け出せないアイアンクローに見えたが――器用に着地したその人は、篠ノ之の方へと向いた。



「やあ!」

「……どうも」


多少ぎこちない挨拶――というか、やっとわかった。

今、篠ノ之の前に居る人が【篠ノ之束】その人という事に――。

――てか、姉妹揃ってでかいな……胸が。

……まあ、篠ノ之は好みじゃ無いから例え目の前で全裸で現れても欲情すらしない自信がある。

現に昨日の白のビキニを見たときも全く何にも思わなかった。

――まあ、誰とも遊んで無いのが気になっただけだからな。

と、そんな篠ノ之に久々に会えた篠ノ之博士は、嬉しいのか笑顔で――。


「えへへ、久しぶりだね。こうして会うのは何年ぶりかなぁ。おっきくなったね、箒ちゃん。特におっぱいが」


そんな発言をするや、篠ノ之は何と自身の姉の頭部に日本刀の鞘による一撃を入れた――。

しかも、中身がある状態で。


「殴りますよ」


そして、殴ってからの殴りますよ発言。

まるで銃で撃ってから撃ちますというのと同じ――得物が違うだけで危険度は同じぐらい高い。

もちろん、そんな妹の理不尽な暴力に訴える篠ノ之博士。


「な、殴ってから言ったぁ……。し、しかも日本刀の鞘で叩いた!ひどい!箒ちゃんひどい!」


頭を押さえ、涙目になって訴える篠ノ之博士を、見ていた女子一同はぽかんとして眺めていた。

一方の俺は、篠ノ之の暴力にドン引きしつつも、クサナギの元へ。


――と、山田先生が篠ノ之博士に対して。


「え、えっと、この合宿では関係者以外――」

「んん?珍妙奇天烈な事を言うね。ISの関係者というなら、一番はこの私をおいて他にいないよ」

「えっ、あっ、はいっ。そ、そうですね……」


そんな感じで何も言えず、山田先生は轟沈した。

ちゃんと学園からの許可を得てから来てくださいと言えば良いのだが――やはり、山田先生は痴漢されても何も言えず、されっぱなしで泣き寝入りする人にしか見えなくなってきた。

これが普通に男子校の教師をしていたら、ヤらせろって強引に言ったらヤれそうな――エロ本的展開が出来そうな予感。

――いや、俺はしないけど。


「おい束。自己紹介くらいしろ。うちの生徒達が困っている」

「えー、めんどくさいなぁ。私が天才の束さんだよ、はろー。終わり」


一瞬めんどくさそうな表情をするも、挨拶するときは笑顔を振り撒いて、その場で横に回転――ふわりとスカートが舞い、挨拶が終わると興味を無くしたかのように【終わり】と言って織斑先生の方へとまた向いた。

そして、その自己紹介でやっと目の前の人物がIS開発者で科学者の篠ノ之束だと気付いたようで、女子の間がにわかに騒がしくなる。



「はぁ……。もう少しまともに出来んのか、お前は。――そら一年、手が止まっているぞ。こいつの事は無視してテストを続けろ」


そう促す織斑先生の言葉で、テスト準備をしていた生徒がまた動き始めた。

俺に関しては、このクサナギをどうすれば良いかがわからず、眺めるしかなかった。

――母さんは今、今回テストする装備の設定に忙しく、こっちには来れない。


――と、こいつ呼ばわりされたのをぶーぶー文句を言う篠ノ之博士。


「こいつは酷いなぁ、らぶりぃ束さんと呼んであいよ?」

「うるさい、黙れ」


そんな二人のやり取りに、困ったようにおずおずと割り込んだのは山田先生だった。



「え、えっと、あの、こういう場合はどうしたら……」

「ああ、こいつはさっきも言ったように無視して構わない。山田先生は各班のサポートをお願いします」

「わ、わかりました」


そう言い、他の班のサポートへ向かおうと移動し始める山田先生――と。


「むむ、ちーちゃんが優しい……。束さんは激しくじぇらしぃ。このおっぱい魔神め、たぶらかしたな~!」


言うや、跳躍し――くるりと一回転しながら山田先生の豊満な乳房を後ろから鷲掴みしようとする――だが。


「やめろよ、ジェラシーだか何だか知らないが。山田先生の胸を鷲掴みする理由にはならないだろ」


山田先生と篠ノ之博士の間に入るように俺は立ち塞がる。

そんな俺の態度と言動が気に入らなかったのか――。


「誰だよ、お前は?」


明らかに口調が変わり、表情も険しいものに――。


「一年一組、クラス代表の有坂ヒルトだ。あんたが有名人だからと言ってこの場で好き放題する理由にはならないだろ?IS関係者なら、山田先生にちょっかいなど出さずに用事を済ませればいい」


そう言い切ると、小さな声で呟く篠ノ之博士――。


「……こいつか、こいつのせいでいっくんの……」

そう瞳に憎悪の炎を燃やすように、俺を睨み付ける篠ノ之博士。

――恨まれるような事はした覚えがないが……。


「……興味なくなった」


それだけを言い、山田先生の胸を揉もうとするのを止めて織斑先生の元へと戻る篠ノ之博士。

――と。


「あ、有坂君。ありがとうございます」


折り目正しく、ぺこりと頭を下げた山田先生――。


「……山田先生も、先生何ですからはっきりと言うべき時は言った方が良いですよ?」

「はぅっ!?わ、わかってはいるんですけどねぇ……やっぱり…教師向いてないんですかねぇ…」


――そんな感じで、生徒である俺に指摘された為落ち込む山田先生。


「……そんなことは無いですよ?授業内容もわかりやすいです。後は自分に自信を持ってくれると皆も安心しますよ」


そうニッと笑顔で応えると、落ち込んでいた表情が徐々に明るくなり。


「そう、ですよねっ。――有坂君、励ましてくれてありがとうございます」


それだけを言って、他の班のサポートへと向かった山田先生。

――何でもかんでも言うのはダメかもだが、何も言わないのはもっとダメだと思ったりする。

そんな山田先生を見送ると、俺は再度クサナギを見上げた――。 
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