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王道を走れば:幻想にて

作者:Duegion
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幕間+慧卓:童貞 その1 ※エロ注意

 
前書き
 以前現代編として上げていた話を、慧卓の過去編として一部校正した話です。大枠とエロは変わっていません。

 プレイ一覧:手淫、クンニ、素股 

 
「へぇ・・・んな事がねぇ」
「流行ってんのかな。その張方ってのは」
「分からないな。今度娼婦の姉ちゃんにでも聞いてみるよ。『震えるタイプの張方って流行ってんのかって』」
「顔をおもっくそ叩かれそうな質問だけど、大丈夫なのか?」
「平気平気。俺そういうのには慣れてるから」

 慧卓とミシェルはそのような砕けた会話をする。夜の静けさや暗さとは無縁な、明るい蝋燭の火が燭台から放たれていた。
 今の慧卓は、熊美との買い物の帰り道を歩いていた所を偶然ミシェルに見付けられてそのままずるずると引っ張られて、彼が泊まる王国軍の宿舎に連れ込まれた格好であった。王都に無事着いた事だし、腹を割って話そうという事らしい。会話中、慧卓はタメ口で話す事を強制されていた。年上に敬語もなしに話すというのは中々無い経験であるため、最初は戸惑っていたが、ミシェルが女性遍歴における失敗談を語りそれを笑うという事を繰り返すうち、そのような遠慮は取り払われていた。ちなみに熊美は購入したものを一切合財抱えて、宮廷に戻っている。王女を説得しておくという言葉がとても頼もしかったのが真新しい。
 兵舎の中は宮廷よりかは若干汚いが、しかしそれでも十分に清潔でどこか男臭ささが同居していた。慧卓は此処の一室、ミシェルとパックの部屋に、一晩寝泊りをしようという心算であったのだ。

「ケイタクも連れてってやろうか?俺等が通う娼館に。もう自由に外出してもいいんだろ?」
「まぁ確かに王宮の外に出てもいいんだけどさぁ・・・で、でも、娼館ってのは・・・」
「・・・もしかしてさぁ、ケイタクって童貞か?」「なっ!ち、違うって!一応これでも俺の世界には恋人いたし!」
「へぇ、そうだったんだ。聞いたか、パック?」「・・・うるさい。今集中しているんだ」

 硬いベッドに横たわりながらパックは無言でバッジを研磨している。また新しくコーデリア王女を描いたバッジを製作しているらしい。鋭利な槍のように鋭く、しかし少年のように無垢な瞳は、職人のそれと何ら変わりようが無い。
 甘党なだけでなく手先も器用な同居人を誇らしく見た後、ミシェルは肝心な事を聞いてきた。

「んで、その恋人とも一線を越えたりしたのか?」
「ああ。一応何度かしてる」
「・・・ちょっと馴れ初めとか聞かせろよ。面白そうだしな」
「ええっ?さ、流石にそれは恥ずかしいんだけど・・・」
「いいじゃねぇか。恥なんて減るもんじゃねぇし。それにな、男と仲良くするには先ず下ネタから入るってのが、真の仲良しのための道だ。だからよ、そんな純情めいた心なんて捨てろとまではいかないけどよ、大っぴらに出すのはやめとけ。悪い大人に付け込まれるかもしれないからな」
「例えばお前なんか」「横槍入れんな、パック!・・・んで、どうなんだよ。どんな事をシたんだよ?」

 にやけたミシェルの顔を見ると、どうにも今夜は根掘り葉掘り聞かされそうだと否応なしに確信させられるようで、慧卓は早々に諦観を覚える。

「本当、ありふれた話だからな?」

 そう前置きして慧卓は語っていく。自分の故郷における恋愛の馴れ初めと、卒業についての話を。


ーーー慧卓の回想、召喚より一年前の初夏ーーー



 慧卓は空冷の利いたバスを乗り継ぎ、勤木市の境を乗り越る。機械技術発展の弊害より逃れた清き小川が市の境となっており、バスの窓越しに川で水遊びに興じる人々が見え、その一部が目の保養となった。だが底が浅い川とはいえ、事故に遭遇しないように気をつけて欲しいものだ。バスを降りる頃には空は茜色から紺青へと変じており、日の光が空から離れていく様子が見て取れる。風は緩やか、微温湯のような億劫な空気を運んでくれる。
 勤木市にとって日常風景であったリーマンの波も、絢爛としたネオンの光もこの市、寄木市にはあまり懐かぬ光景のようだ。何処か閑散として、寂寥にも似た雰囲気を漂わせる街並み。目に映るのは小所帯の家の数々、背の低いマンション、家族の変遷を見詰めてきたであろう古いアパート。そして住居の合間合間にひっそりと、美容院やクリーニング店・靴屋、酒屋・惣菜店、そして墓地等が並んでいた。市の中心に出れば風景も多少現代らしい顔付きとなるが、それでも勤木市の喧騒に比べれば寧ろ慎ましい姿といえよう。その街の一角に、実晴の住居があるのだ。
 学生服のまま、背にバッグを背負ったまま慧卓は歩く。インターネットの航空地図などで場所を確認しているため、間違える事は無い。アパートとアパートに挟まれた道路を歩き、四つ目の交差点を右に曲る。酒屋を過ぎたT字路を左に曲り、そのまま真っ直ぐ進めば、真正面に実晴の家が現れる。
 遥か昔、昭和の時代劇に出て来そうな、木造一階建ての見事な和風の家宅だ。といってもブロック塀に囲まれた唯の小さな一軒家なのだが。垣根と玄関までに拵えられた割かし大き目の庭。景観を穢さぬ白い壁と引き戸。それに加え瓦屋根ですら慧卓の目にとっては珍しい光景であった。『千川(せんがわ)』という字の羅列が大理石に刻まれ、家の標識となって掛けられていた。
 ピンポーンとチャイムボタンを鳴らし、慧卓は声を掛ける。

「実晴っ、俺だけど!」
『はいはいはーい!今鍵を開けるよー!』

 とたとた、フローリングを駆ける音の後、戸の鍵が開く。引き戸が開かれたその先に、目をきらきらとさせた美少女が存在していた。

「よくきたなー!さ、早く入れ入れー!」
「お、おう。お邪魔します」

 今日の実晴は溌剌男勝りキャラで行く気らしい。性に近いだけあってやりやすそうだ。慧卓は中に入って戸を閉めると、まじまじと実晴の格好を見詰めた。

「どうしたの?」
「い、いや。オフなのになんか気合入った格好してるなって」
「・・・どう?似合ってるいかな?」

 気恥ずかしげに指を絡ませて実晴は慧卓を伺う。
 其の質問、問われるまでも無い。清廉無垢な白を基調としたミニスカート。屈めば女性の神秘の領域が見えてしまいそうなほど、丈が短い。上着は牡丹の花を思わせるピンクとホワイトが交互に走る2ウェイデザインのカットソーだ。肩口から上の部分がばっさりと無くなっており、鎖骨を中心として女性の可憐さと色気が出ている。チェーン型のループタイもまたポイントだ。女性の可愛さを一点に出すように選ばれた服装は、見事に実晴の素質、飾り気を帯びない真っ直ぐな美貌を引き立てていた。
 衣服と容姿の調和もさる事ながら、それ以上に慧卓の目を惹いたのは髪型、そして彼女の表情だ。自然のままに伸ばされた癖一つない綺麗な長髪が、頸の近くで一つに束ねられている。そして常はくるくると移り変わるその表情は、今日この時に限って、仄かに傾げながら期待でやきもきとしたかのように、秀麗な微笑を湛えていた。
 それらを評する言葉、唯一つにおいて他はない。

「可愛い」
「ほんとうに?」
「う、嘘なんかいうもんかよ!凄い可愛い!本当に、今までの中で一番、似合ってる...」
「・・・ありがと」
「お、おう・・・どういたしまして」

 無邪気に赤みを帯びた笑みを向けられ、此方側まで恥ずかしくなったか慧卓は視線を思わず逸らしてしまう。両者の頬はそれぞれ喜びと、羞恥に色を帯びてた。
 喜色の思考から、実晴が復活した。

「さっ、さぁ慧卓、早く中に入って!やってもらいたい事があるんだからね!」
「あっ、ああ」

 恥ずかしげに室内へ上がる慧卓。玄関の靴箱にはラクロスのラケットが立て掛けてあり、使い古しているのか、多少傷の粗さが目立っていた。
 実晴は右側一つ目の襖を開ける。其処は実晴が何時も一人で食事を取る、六畳一間の部屋。畳にウッドカーペットを敷いてテーブルと椅子を置いている。床柱や小さなシャンデリラが何処となくレトロな雰囲気を漂わせており、宛ら昭和の世界である。
 隣の部屋との襖が取り払われており、四畳半の部屋が見えている。其処に慧卓は連れて行かれ、ござの座布団の上にどかっと座らされる。目の前には、しかめっ面をした厳しい顔つきの鎧男を映したスクリーン。もとい、年代物の液晶薄型テレビと、時代にそぐわぬゲーム機器が置かれている。そしてスクリーンの中、燃え盛る炎を帯びて、『Age of Kingdom Ⅱ』の文字が黒々と輝いていた。

「はい、じゃぁ此処に座ってね」
「・・・なぁ、実晴。俺を呼んだ用事ってーーー」
「それじゃ、このゲームの、えっと、此処の面クリアしといてね。私は夕飯の準備をするから。あっ、あんまり強くし過ぎちゃ駄目だからね?先をやる楽しみが無くなっちゃうから!」
「えっ!?あ、あの、実晴・・・」

 実晴は軽やかな足取りで部屋から消えて行く。そして数秒の後、廊下を挟んだ向かい側の部屋から炊事の音が響き始めた。どうやら本当に台所で夕飯の準備を始めたらしい。
 慧卓は残念な思いで一杯となる。バイトで彼女と知り合って恋人関係となるに至り、今日は初めて彼女の家に招かれたのだ。それがどうだ。遥々市の境を越えてやる事といえば、自分が推奨したゲームを彼女の代わりに進める事なのだ。

「・・・女の子の家に来れて嬉しいのに、なんで小難しい戦略ゲームなのよ?」
『お早う御座います、閣下!人民は閣下の事を疎ましく思っております』
「黙れ髭伍長」

 慧卓は突っ込みをしつつもコントローラを握り締め、実晴から指示されたステージの攻略を始めていった。
 ちなみに歴史のタブーがタブーでなくなったこの時代、髭の伍長は歴戦プレイヤーにとって最早愛される馬鹿キャラである。捏造脚色何でもありの二次元ではそれが更に顕著だ。髭が付け髭だったり、演説に熱が篭る余り自分の足を踏んづけたり、画家として大成してしまったり等。だがそれ以上に、ジュガシヴィリ的な書記長がロリキャラ化し、嵐的な粛★清が異星人制圧のための義行となったと捏造された日、慧卓は己の価値観が一つ崩壊したのが真新しい。
 そうこうする内に早くも三十分も経過してしまい、慧卓はてきぱきとステージクリアを果たす。敵勢力を一つ滅亡させるだけの簡単な作業だ。実晴にとっては難問かもしれないが、此の手のゲームに慣れ親しんでいる慧卓にとってみればお茶の子さいさいといった感じである。

「クリアしといたぞー。ボーナス選択は保留しといたからなー」
「おっ、流石経験者ね、見事な早業!じゃぁついでに料理も手伝ってー」
「なんか便利屋になってないか、俺」

 ゲームとテレビを消して、慧卓は台所へと向かう。エプロンをつけて油物を揚げている実晴が見えた。直向な後姿に思わずそそるものがあったが、おくびにも出さず慧卓は問う。

「どうすればいいんだ?」
「そうね、今丁度油物を揚げ終わったから・・・じゃぁご飯をつけて、お味噌汁をよそってね、御願い」
「なぁ、実晴」
「ん~、何?」
「俺、何のために呼ばれたんだかまだ分からんのだが。もしかして、ゲーム進めてお前の料理を手伝うためか?」
「・・・はぁ、この鈍感」

 小言を零し、実晴は今し方揚陸した油物を見せた。こんがりと狐色に染まったそれは、見間違いがなければ、ヒレカツの外見とそっくりであった。

「ヒレカツ的な何か?」
「そのまんまヒレカツですよ、ヒレカツ。ざっくりジューシーな料理です」
「そりゃ分かるよ・・・何度も見た事あるし」
「ふーん?どうせ慧卓の事だから、家に帰っても『面倒くさい』とか『美味しくない』とか、そんな理由で御肉料理作ってないと思ってたんだけど、案外そうでもないんだ?」
「えっ?い、いや、まぁ結構作ってるぞー?」
「目が泳いでるわよ!やっぱり作ってないんだ・・・。本当にあなたって自分の事に無頓着なんだから。そんなんだから、バイトの時も御客さんに心配されたりするんでしょ!『あの子痩せ過ぎない?』ってね」

 うっと言葉に詰まる慧卓。其の通りだ。つい最近のバイトで、色気ムンムンの人妻風の女性から華奢な体躯を心配された事があったのだ。バイト仲間である実晴にとっては、それは慧卓以上の重い言葉となって届いたのであろう。
 何も言い返せないでいると、妙に性急となった口振りで実晴が言う。

「だから!今日は御肉料理をいっぱい食べてもらいます!見るに見かねて作ってあげるんだから、感謝の一つくらいしなさいよっ」
「・・・あぁ、そういう事か。いつもありがとな、実晴」
「・・・お、おう」

 彼女の気持ちが胸にじんわりと沁み込み、慧卓は心の底より感謝を込めて礼を述べた。その顔付きは知らぬうちに、自らの立ち位置を十二分に理解して己を見詰め直した、男の表情を浮かべていた。実晴は僅かに呆然とした表情でそれを見詰め、慌てて料理の支度を終え始める。 

(・・・今の、反則でしょ・・・馬鹿)

 不意にも、胸中の淡い心を射止められた実晴は、潤いを帯びた瞳でちらちらと慧卓の横顔を窺っていた。 
 そして夕餉。食卓に並ぶのは見目豪快なヒレカツ、わかめとじゃが芋の味噌汁、そして箸休めの酢蛸に白米だ。

『いただきます』

 慧卓はヒレカツに箸を伸ばした。始めの一切れは何もつけずにそのまま食す。さくりと、歯切れの良い音が咥内に共鳴し、歯の隙間から舌の上までを肉汁と、厚みのある食感が伝っていく。高温の油に浸かった肉の旨みがさっくりとした衣の中に閉じ込められ、咀嚼する度にそれが溢れかえっているのだ。

「・・・どう、美味しいかな?」
「・・・あぁ、掛値無しに絶品だ。凄いよ、実晴」
「本当っ!?」

 実晴は喜んで己も食す。途端に、華やかな笑みが顔に広がった。

「んー!今日も成功したなー!特価商品を買い過ぎちゃったけど、やっぱり正解だったなー!」
「・・・待ておい。買い過ぎたって如何いう事だ?」
「あっ」

 聞き逃せぬ単語を聞いて問いかけた瞬間、顔に汗を掻いて固まる実晴。しどろもどろになりながら彼女は答えを返す。

「え、えっとねぇ。実は近くのスーパーで御肉の特価セールがやってたから、ここぞとばかりに買い過ぎちゃって・・・一人だけじゃ消費しきれないなーって思いまして」
「・・・で、御肉の賞味期限が迫っている事に気付いて焦り、俺と?」
「もっ、勿論御肉料理を食べさせたかったのが一番の理由だよ!?あと、他の人を呼ぶ気になれなかったし・・・」
「は?」
「っっ、なんでもないっ!」

 拗ねるような口調で彼女はがつがつと夕飯を食べていく。慧卓は彼女の気持ちを汲み取り、改めて感謝の言葉を述べた。

「でも、本当に美味しい、嬉しいよ。俺のために此処まで美味しい料理を作ってくれてさ。お返しも今は碌に出来なくて悪いけど、ありがとう、実晴」
「・・・うん、どういたしまして・・・お返し、待っているからね」
「期待しといてくれ」

 二人は一つ笑みを浮かべ合うと、夕餉に舌鼓を打ち始めた。かちかちと時を刻む計りも無く、技術の髄を極めた投影スクリーンも無い、昔ながらの温かな一室での食卓。そこから発するは、心の芯から端々まで穏やかなものとさせる、和みの空気であった。。



ーーー回想、一時終了ーーー


「無茶苦茶いい子じゃないか!いいなぁ、みはるちゃん。俺もその子と知り合いになりたいなぁ・・・ってかケイタク。お前、酒場の店員みたいな事をしてたのか?」
「そ。しかもその時は食わず嫌いだったから、結構痩せてた」
「へぇ?つまりその子はお前の食改善まで気を遣ってくれたと。ますますいい子だなぁ。何でお前、その子を置いてこっちの世界に来たんだよ?」
「そんなの俺も知りませんよ・・・どうして俺、こっちに飛ばされたんでしょうね・・・?」
「んな湿っぽくなりそうな事聞いてもしょうがねぇから、だからさっさと続きを話せ。それでお前、やる事はやったんだろうな?」
「・・・まぁ、ちょっと時間はかかりましたけど」


ーーー慧卓の回想、実晴の家に泊まった、その日の夜ーーー



(なんだ、此の状況)

 夜の寄木市、古めかしい邸宅、就寝。此処までは良い。だが隣に市内随一といってもいいほどの可憐さを誇る美少女が、無防備な背中を晒して寝姿を見せている。それも同じ部屋、且つ、同じ布団の中で。息を漏らして身動ぎする声に慧卓が緊張を覚え、胸の高鳴りをより意識してしまう。
 風呂上りに実晴が妙に治艶な雰囲気を醸しながらこう言ってのけたのだ。『一緒に寝よう?』と。それからあれよあれよという間に時が過ぎ、今では同じ寝具の中に包まっている始末。背中越しに穏やかな息遣いが聞こえて、今では寝るどころでは無くなっている。

「起きてるか?実晴」
「・・・うん」

 ならば夜話で眠気が来るのを待とう。慧卓はついついと言葉を滑らせて、会話を続けようとする。

「今日はどうしたんだ?何時も以上に積極的でさ。結構俺、さっきも今も、胸弾みっぱなしなんだ。これじゃ落ち着いて寝れやしない」
「・・・私のせい、だよね」
「・・・そうとも限らない」
「え?」
「よ、ようは意識の問題だからなっ。相手の事を強く意識しちゃえば、自然と緊張するわけで、さ。だから寝れないっていうのも、強ち悪い状況じゃ・・・」

 だが努力が斜め上の方角へと突き刺さり、深読み次第では告白にも似た言葉がつい滑ってしまい、余計に沈黙が走ってしまう。慧卓は妙な気まずさを覚えて閉口し、実晴は僅かに瞠目して硬直する。

(い、今のって・・・そうだよね?気持ちの端っこだけど、それでもそう想ってくれているんだよね、慧卓?)

 心に湧いた期待が脈動を早めさせ、頬の紅潮の手助けとなる。そっとパジャマの胸の辺りを握り締めて、実晴は心の決意をもっと固いものとする。

「あっ、あのさ、慧卓!」
「っ、うん?」
「私もちょっと疲れたのかな、眠気が無いからさ、独り言でも言おうと思うんだっ。だから聞き逃してね」
「普通、疲れてたら眠くなるだろ?」
「良いから聞いてなさいっ!」

 実晴は語気強めに言い放ち、一つ喉の調子を整える。そしてまるで御伽噺を聞かせるかのような口振りで、しかし詩を朗読するかのような静けさを保って言葉を紡いでいく。

「ある所にね、女の子が一人、世間の波から外れるような古い建物で暮らしてたの。女の子の周りでは日々何かが新しく変わるのに、女の子の家は何時も変わらず。徐々に女の子は不満を覚えていった」
「(あぁ・・・分かるなその気持ち。成長すればするほど、そういうのに敏感になるし)」
「ある時女の子は、高校に上がったのを切欠に、自分にチャレンジする気持ち一心で街の境を越えて、とてもきらきらとした街中で働く事にしたの。働く場所は街では異質な存在だったけど、女の子にとってはとても新鮮な香りがした」

 実晴の言葉に、慧卓は何処か心当たりを見出す。だがそれを口にする事無く、実晴の言葉を聴いていく。

「でも街の煌めきがどこか怖ろしいものを隠しているような気がして、女の子は怖くなり、道の暗がりに逃げ込んだ。そんな時に出会った優しい女性が言ったの。『自分の店で働かないかって』。そこで女の子は自分のやる気を取り戻して、まだ見ぬ自分にチャレンジする事にした。そこで女の子は・・・恋をしたの。そこで誠実に働いていた一人の男子に。ほとんど、一目惚れに近かったな」

 声が僅かに震える。慧卓がちらと後ろを振り返ってみると、実晴は耳元を赤く染めていた。

「その人の一生懸命な働きぶりや、時折混ぜる冗句なんかが好きになって、それで次はその人との会話が好きになって・・・。それでそして、想いが募って告白したら、相手も自分の事が好きだったらしくてて吃驚。そして女の子は自分の家に、男の子を招くのでした。以上、終わり」
「・・・随分と長い独り言だったな」
「悪い?」
「いや別に。寧ろ感謝したい」
「へ?なんでよ」
「・・・何処にでもいる女の子にも、そういう気持ちを持ってる確証が漸く取れたから、さ」

 慧卓は寝転がり、実晴の身体を後ろから抱きしめた。抱擁の中に柔らかな感触と、熱を帯びて火照った少女の慈しみを感じる。実晴は素っ気の無い言葉で返す。

「・・・クーラーつけてないんだから、寝苦しいよ?」
「じゃぁつけるぞ」

 モニターを投影してクーラーを起動する。ピピッと声を漏らして換気装置が動き、クーラーの口が開いた。慧卓は実晴の手を優しく握り締める。

「こっちを見てくれ、実晴」
「っ」

 緊迫したように実晴が固まり、息を詰まらせる。慧卓は彼女の返事を待たず、もう一方の手で彼女の身体を自分の方へと向かせる。慧卓から視線を逸らす実晴の横顔は、胸を炙るような羞恥に、そして淡い期待に紅潮を帯びていた。首筋と耳元の赤みが暗闇の中でも目立ち、その上を流れる艶やかな珠玉が彼女の凄艶さを彩った。ちらりと慧卓を窺う瞳の走りでさえ、可憐に思える。  

「・・・やっぱり、可愛いな」
「っ、ま、真顔で言わないでよっ。顔近いし」
「実晴」

 慧卓は呼び掛け、彼女に身体を近付ける。そして、贖罪の言葉を囁いた。

「遅くなってごめん。期待していたんだよな」
「・・・馬鹿」

 実晴が振り向く。うるうると潤んだ瞳から涙が落ち、目端を、鼻筋を通って寝具に落ちた。責めるような瞳には、想い人の言葉を心の底より嬉しく思う本心が明瞭に現れている。

「いいかな?」
「・・・うん」

 首肯と共に、自然と両者の距離が縮まる。十センチ、視界から相手の口元が消える。五センチ、相手の瞳の中に己の姿を捉えた。三センチ、目が瞑られて、優美な暗闇が覆われる。一センチ、相手の息遣いを咥内に感じる。
 そして、両者の距離がゼロとなった。

「ちゅっ・・・ちゅっ、あむ・・・」

 瑞々しい口元から溢れる、唇と唇が合わさる音。粘液で態と音を立てるように二人は唇を重ね、優しく吸い合う。

「・・・んんっ、待ってたんだから、んむっ。ずっと・・・」
「あぁ。だから其の分、いっぱいする」
「そうして」

 互いの背中に手を回して、二人はより熱を帯びた身体を合わせる。長年の想いが適った反動なのか、実晴は早々に小鳥のような可愛らしい接吻を、妖艶さと淫らさが相混じった深い口付けへと進ませている。慧卓の唇の間を可憐な舌が割って入り、大胆にも相手の舌を絡め取って弄ぶ。水音が心を刺激して、彼女の愁眉が蕩けていく。  
 欲情をそそられた慧卓もまた咥内を弄る相手の舌を愛撫しながら、その情欲の両手を伸ばす。右手は下腹部をなぞりながらふっくらとした臀部へと回される。パジャマ越しに張りをなぞる。時折、指を秘所の方へと引っ掛けながら円を描くように撫で回すと、それだけで実晴が性を刺激されたか、悦びに震えてくれる。慧卓はパジャマの中へと手を突きいれ、下着越しに、そして生肌の臀部を揉みしだき、愛を与えていく。臀部の奥の奥、淫靡な肉の中に潜む膣口に刺激を与えるように。
 魅惑の肌はひんやりとして汗に湿っているが、それでもなまめかしい柔らかさを保って慧卓の感触を愉しませた。その柔らかさと潤いはまるで桃のよう。ほんのりと淫らな気に赤くなっているであろう臀部を慧卓は撫で回し、神秘の割れ目に食い込ませるように下着を引っ張る。実晴は口付けを交わしながら可憐な呻き声を漏らし、もっとしてといわんばかりに舌の絡みを激しくさせた。
 そして左手はそろそろと実晴のパジャマのボタンを外し、その内の二つの乳房を顕にする。汗を浮かせた肌がしなやかな丸みを描きながら、その頂点を桜色の輪の中に尖らせていた。そろそろと手を伸ばして左の房を掌に収める。実晴がびくっとするが、構わずにその感触を確かめた。温かみのある、とても母性的な重みだ。掌の真ん中にぷつっとした尖りを感じる。それをころころ転がすように、心躍る慧卓は乳房を愛撫していく。

「やだ・・・手付き、やらしいよ・・・っっ」

 毀れ出るささやかな抗議、愛おしき声に慧卓は心を高鳴らせてその口を塞ぎ、情熱の篭った舌先を吸っていく。その間にも右手は絶え間無く臀部の膨らみを揉んでは捏ねて、左手は乳房の扇情的な柔らかさを愉しむように円を描いている。

「ひっ!ああっ、あんっ・・・ちゅっ、あむ・・・」

 可愛げに嗚咽を零す実晴。見目麗しき少女が悶え喘ぐ様を独占しているだけで慧卓の心が締め付けられた。彼女の魅力の中に溺れていくかのよう。
 臀部を弄っていた手を止めて彼は明かりを点けようとする。彼女が淫らに喘ぐ様を、よりはっきりと見るために。しかし愛撫の最中であっても女性の勘が働いたのか、実晴が其の手を掴み取って深く淫らな接吻を止める。

「あっ、明かりはつけちゃ駄目!」
「なんでさ?」
「・・・言わせる気なの?」

 瞳を静かに開ける。実晴は困ったように眉をハの字として艶やかに火照った息を零し、どうしようもなく淫蕩な色を隠せないでいる瞳をして、真っ直ぐに慧卓を見詰めている。慧卓はその背徳的な姿にごくりと喉を鳴らす。 

「分かったよ。我慢する」
「あ、ありがと」
「でもこっちはしないから」
「えっ・・・あっ、ちょっとっーーー」

 言うや否や、彼は実晴の上着をばっと脱がす。胸を愛撫していた時に気付いていたが案の定、彼女は上着の下には一切の下着を着けていなかった。きっと、世間の男を懊悩させ、倒錯世界へと誘惑するような瑞々しい美とはこの事なのであろう。丸みを帯びて流れる肩の流線が、ふっくらと浮き出た鎖骨も艶やか。だが何よりも、気恥ずかしげに胸元の双丘を隠す実晴のいじらしさに、慧卓は心奪われる。、

「・・・綺麗な肌だな」
「っっっ、耳元で言わないで!恥ずかしいからさぁ!」
「ずっと触れたかった」

 そう言って彼は、臀部へと回していた手を滑らせて、ショーツの中へと手を進ませる。手首に独特の柔らかさを感じながら掌で菊座辺りの温かみと湿り気を愉しみ、そして指先で女体の中心に潤いを満たす、秘所の絶壁をなぞっていく。途端に、実晴が感極まったかのように震えて、嬌声の音量を二つほど高める。

「っっっっっっ!!!あっ、っそこやだぁ・・・あひぃ!!」

 耳元でそのように喘がれては堪らない。慧卓は熱に浮かされたように息を荒げて彼女の首筋を擽りながら、両手の執拗な愛撫の指運びを止めない。左手からは心拍の鼓動が伝わり、乳首ごと押し潰すかのように掌を押し付け、珠玉のように整った丸みを変えて弄ぶ。右手には桃の谷間に湿る汗を感じつつ、指先にはねっとりとした熱さを覚える。今更間違うはずも無い、愛液の湿りだ。ひくひくと肉ヒダを蠢かせて己の愛撫を誘うそれが、まるで彼女の隠しきれぬ淫蕩な性を顕しているかのように思えて、愛しき思いが募っていく。慧卓は膣口の縁をなぞるように指を滑らせ、その爪先で陰唇を引っ掛けては圧していく。拙き性の知識が慧卓の予想を上回り、蕾のままの彼女の心を急速に蕩けさせていった。  

「駄目っ、駄目駄目駄目っ、そんなにぃ、いじっちゃっ・・・あああっ!」

 歯と歯の間に唾液の橋を架け、顎の白い輪郭をふるふると震わせて喘ぐ。黒い瞳はえもいわれぬ悦びに咽び、品の良い乳房の頂点には、美貌の中に隠れた性的な興奮によって尖っている乳首。引き締まった腹部がふるふると震え、膣口に指先を入れていた慧卓を、陰唇の層がぎゅっと締め付けていく。
 慧卓は一種の感動を覚えて彼女を見遣っていた。自らの手で、自分を想う一人の美少女を、悦びの高みへと誘ったのだ。愛撫の手が止まっている間に呼吸を整えようと肩を荒げる彼女の様は、慧卓の肢体の間に脈打つ陰茎の昂ぶりを更に高めていく。だが慧卓は躊躇してしまう。目の前で息を荒げる彼女が、本当に辛そうに胸を弾ませるように見えてしまうのだ。

「はぁ・・・はぁ、はぁ」
「・・・実晴」
「な、何よ」
「大丈夫か?その、無理なら此処でやめてもーーー」
「だっ、大丈夫よ!?まだまだイケるわよ!」
「そ、そうか・・・そうなのか?じゃぁ実晴、服脱いで」

 勢いに押されながらも、慧卓は慈悲無き命を下す。実晴は一瞬目を開くも、羞恥に身を悶えさせながら下半身に纏わりつく余計な衣服を脱ぎ去っていく。そして其処に現れた、健康美の体現ともいうべき非の打ち所の無い、絞まるところが絞まり出る所は御淑やかに出る、メリハリも色香も良い身体に目を奪われる。心の中に蜘蛛の巣のように張り巡らされた理性の糸が、数本を除いて一気に断ち切られるのを感じた。

「・・・あんまり見ないでよ。恥ずかしいから」
「・・・こんなに綺麗なのにか?」
「あ、ちょっとっ、ああっ、ああん!!」

 慧卓は脇目も振らず、顕となった彼女の秘所へと顔を埋めた。実晴は胸元から消えた温かみに驚き、そして直ぐに己の股間に走る、電流のような性の波に震えた。慧卓が無我夢中で膣の突起を舌で弄ぶように転がし、舌先を愛液垂らす蜜壷へと突き入れたのである。

「あっ・・・あああっ、駄目ぇ!こっ、こんなのぉ、駄目だよぉぉ!」

 舌先を躍らせる。濡れそぼった膣口から毀れる愛液の味を此処でしっかりと覚えていく。生々しく粘着質な感じがして、それでいてその食感からは想像つき難い程の、仄かなしょっぱさを感じる。追い縋るように舌に迫る肉ヒダの感触も相まって、どうしようもなく淫蕩な味だ。実晴の想いが詰まった味だ。慧卓は盛った犬のように舌を運び、クレパスを襲う。実晴は肢体の間から駆け巡る快感に咽び、それでも尚静止の声を上げた。

「あひっ、いいいっ、やだ、やだぁぁ!!」
「んん・・・なんでやだなんだよ」
「だって・・・っひぃ・・・」

 涙を浮かべた瞳が慧卓を見据え、明瞭な淫蕩の紅を引いた唇がその思いを、二つの丘を跨いで赤裸々に紡ぐ。  

「黒くなったら、汚いでしょ?だからずっと綺麗なままで・・・」
「ままで?」
「・・・っ、ぅぅぅっ、慧卓にずっと好かれたいの!!」

 初心の生娘の深遠を覗かせて、実晴は羞恥に顔を赤らめた。柘榴のような真っ赤に染まった顔に、快感と悦びに潤んだ瞳。欲情的なその情景に慧卓は感動すら覚え、その可憐な唇に飛びついて口付けを交わす。そして先とは反対に、右手には乳房を、左手には膣を弄っていく。

「んんっ、んむぅっ、ああああっ、ああっ、いいよぉ、気持ちいっ!!」
「もっと喘いで!全部晒してくれ!」

 慧卓はそういって耳朶に口付けを落とし、吸っていく。聴覚を直接刺激する甘やかな音が彼女の心を震わせる。土砂のように身体に蓄積した快感、想い人の手によって自由に喘がされる感動が胸を締め付け、再び絶頂の波が彼女の意識を攫い始めた。 

「いくっ、いっちゃう!!駄目ぇ、私だけいっちゃう!!イクッ、イクっ!!!っっっっぃぃぃっ!!!」

 実晴は目を閉じ、睫毛を震わせて快感の波を全身に走らせた。びくびくと震えて、声にならぬ絶頂の声を漏らす。彼女の意識の中では、脳髄が焼け焦げ、膣口が弾けるかのような錯覚を覚えていた。
 愛撫の手は止まっているが、可憐な口元から毀れた舌は、慧卓によってなすがままに吸い尽くされる。それすら快感の燃焼材となって彼女の心を煽っていく。膣から溢れ出した愛液が慧卓の指先を伝い、掌を伝い、汗に塗れて存分に湿っている寝具の上へと落ちていく。
 慧卓は自分に身を任せるかのように快楽に耽る実晴の姿を見て、我慢の糸を断裂させた。一度彼女から離れて、パジャマを乱暴に脱ぎ捨てる。そして完全に隆起していた陰茎を露出させるように、ボクサーパンツを脱ぎ捨て、実晴のパジャマの下へと落す。二つの下着が湿りを交えるのを横目に、慧卓は己の男根を彼女の滑らかな肢体の間、膣に無遠慮に擦り合わせるように突き入れた。ぬめりとした感触を覚えて陰茎がクリトリスを擦って愛液を舐め取りながら、腿と腿の間に入り、素股の格好を生じさせた。彼女の濡れそぼった性器に挿入しないのは、僅かに切れないままでいた理性の糸の最後の抵抗であった。 

「み、実晴っ!!」
「あっっ、そ、そんないきなりぃぃっ!!!」

 だがそれでもまるで本物の行為をするかのような、筆舌にし難い倒錯感が己を駆け巡り、慧卓は陰茎の出し入れを始める。蚯蚓(みみず)のような得体の知れない青筋を陰唇が掠め取り、愛液を付着させていく。そしてそれが竿を伝って、肉槍の鈴口へと導かれていった。
 慧卓は陰茎に走る、人生最大の快楽に愉悦を禁じ得ず、心の中で喝采を挙げた。そしてそれを誤魔化すように、形だけの謝罪の言葉を彼女に述べる。 

「は、入ってないからっ!擦るだけだからぁ!!」
「でもぉ、ものにはさぁ、順序ってものがっっっ、あああああっ、なにこれぇぇ、熱いぃぃ!!!」

 鈴口が膣に引っ掛かり、危うく挿入される所であった。だがそれこそ彼女が望んでいた事なのだろう、ほんの一瞬だけ膣に感じた灼熱のような熱に心が浮かされ、瞳を見開いて歓喜した。其の間にも陰茎は膣を擦り上げ、腿の肉感に挟まれながら上下の行き来をする。淫乱の性が刺激されて、道徳を犯すかの如き淫靡な言葉が自然と口から出ていく。

「か、固いよっ!これ凄いっ!一人でするよりも、凄く気持ちいぃぃ!おまんこが凄く気持ちいぃぃ!!!」
「一人で?誰を想ってやっていたんだ!?」
「け、慧卓以外に、好きな人なんか居ないしっ、んあっ、作ったこともないよぉっ!!あああっ、あああんっ、んちゅぅ!じゅるっ、んんむっ!!」

 咥内に侵入する火照って唾液をふんだんに付けた舌を、実晴は万感の思いで歓迎する。まるで快楽の虜だ。淫魔に取り憑かれて生気を失ったかのように、慧卓は実晴の口を奪い、陵辱する。丁度彼の手に収まる大きさであったがためか、二つの丘には赤い指痕がくっきりと残り、乳輪を欲情に染め上げている。揉みしだかれる度に、乳首を捏ね繰り回され指先で弾かれ摘まれる度に、心臓がばくばくと音を鳴らしてその快楽を甘受する。二人の汗が身体と共に絡み合い、寝具の用を無碍の彼方に飛ばしていく。 

「はぁっ、ああっ、ひいぃ!けっ、慧卓もっ、気持ちいいのっ?私の、お、おまんこぉ、いっぱい擦ってぇぇ、気持ちいいのっ?」

 心も身体も充足して尚、彼女には不安が走る。自分だけが快楽に更けてはいないか?自分の身体で彼の身体を満足出来ているのだろうか?
 それこそ愚問だ。激しい挿入の末に、慧卓は尿道の奥から湧き上がる奔騰の波を感じた。くつくつと、まるで煮え切った熱湯を髣髴とさせるような熱さが陰茎の中を駆け巡り、鈴口の手前で勢いを止める。彼もまた、絶頂の寸前へと導かれたのだ。実晴の純真な身体と、その媚態に酔いしれたがために、彼の心もまた融かされていったのだ。

「で、出るっ!出るぞ、実晴っ!!」
「いいよっ、そのままぁっ、身体にかけてぇぇっっっ!!」

 絶叫紛いの声に導かれるがままに、慧卓は声にならぬ呻き声を漏らし、名残惜しげに腿の間から陰茎を抜き去った。愛液と先走りの汁で鈴口から精嚢まで光るそれは、一瞬引っ込むような動きをして、そして脈動と共に白濁の粘液を放出した。びくびくと震えるその先から、薄らと黄味がかった精液が放出され、直ぐに実晴の下腹部へと落着する。幾度もの放出が起こされ、其の度に生命の脈動のように実晴の肢体を淫らに穢す。
 一方で実晴も、抜き去った時にカリを一際強く弄られたのか絶頂を覚えて震えており、なすがままに精子の放出を受け入れる。互いの身体の間から漂う、強烈で、卑俗で、そして淫奔な臭いが二人の鼻を突く。

「はぁ・・・はぁ・・・ああっ、凄い臭い・・・えっちぃよぉ」

 実晴は事切れるかのように身体の力を抜き去り、頭を寝具に付ける。はぁはぁと口元を開き、虚脱感が満ちた瞳で虚空を見詰める。
 鮮明な快楽の波から帰来した慧卓はその様を見て、乱れ切った思考の中、何の余裕も抜きに心配を念を覚えた。汗に塗れた相手の頬を撫で付けながら、慧卓は声を掛けた。

「・・・実晴?」
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「今日は疲れたろ?もう休んでもいいんだぞ?」
「・・・やだぁ。慧卓と一つになる・・・」

 今にも気を落しそうな弱々しい声で、実晴は駄々を捏ねる。その姿を本能のままに蹂躙して、己の下に屈服させるのも背徳的でそそられるものがある。だが慧卓はそのような思い一つで、彼女の純潔を無残に散らせる気は起きなかった。折角、二人っきりになれたのだから、彼女と自分の思いが重なる時にそれを散らしたい。
 それに、落涙をして懇願する少女を痛めつけるような真似は、今の慧卓には出来なかった。  

「実晴。俺はさ、結構我慢が出来るタイプだから、このくらい平気だよ・・・だから明日にしよ?」
「・・・学校は?」
「明日は休みだよ。創立記念日」
「・・・そっか・・・ひくっ・・・ひっ、ごめんね、ごめんね...」
「泣くような事じゃないからさ」
「だってぇ・・・」

 堪え切れぬように実晴が涙を落とし、嗚咽を零す。初めての夜を伴に過ごし、そして互いの思いを分かち合い、身体を慰めあっているというのに、最後の最後でそれを中断させられるのだ。悔しさと情けなさが一杯になり、昂ぶった感情の堰が直ぐに切れてしまう。
 先の媚態とてんで変わってぼろぼろと涙を零す実晴を、慧卓は腕の中に包み込む。硬さを保った陰茎が無毛の丘陵を撫で付けて、びくりと悦を訴える。だが慧卓はそれを押さえつけて、優しく抱擁を続けた。 

「今日は、一緒に寝よう?実晴だって、そうしたほうが心が落ち着くだろ?」
「うん・・・ぐすっ。ごめんね・・・」
「大丈夫、大丈夫だ。また明日、な?」
「うん・・・うん・・・」

 何度も胸の中で首肯しながら、実晴は震える声を落ち着けていく。初心なる心身に度重なる激しい行為は負担だったのか、幾分も経たぬ内に瞼がうつろうつろと開閉を始める。そして慧卓の胸に頭を預ける形で、ことりと眠りの中へ落ちる。
 慧卓もまた思いの外大きかった精神の磨耗からか、次第に瞼が下りてくる。行為の激しさを感じさせぬ健やかな寝息が寝室に響き、二人の若き少年少女の思いは溶け合っていった。

 
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