| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

狂った私をお食べなさい

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

しじみちゃん

私は彼氏との営みを終えて
彼氏の腕の中で寝ていた。

すると、
私の携帯が鳴る…またか…。

私には成人した息子がいる。

この着信は息子の彼女からだ。

何故か
私にとってもなついてくる彼女は

息子とケンカをしたりするたびに
私に相談の電話をしてくる。

今日はいったい
何事なのか…。

…「もしもーし」

内心は面倒くさいけど、
声をワントーンあげて電話に出た。


どうやら
息子に他の女の気配があるらしい。

それを聞いて
私はついつい吹き出してしまった。

「大丈夫よ。
あの子そんなにモテないからさー。」

私が
ケタケタ笑いながら
そう言うと

彼女はホッとしたようで

「ですよね!」

と明るく笑う。

受話器越しで
彼女の笑顔が想像できたので

私もなんだか癒されて笑った。


そして会話は終わり電話を切った。


私はあくびをしながら
隣で寝ている恋人にキスをした。

彼氏のカラダに
何度も何度も優しくキスをしながら
二回戦に誘う

…すると、また携帯が鳴る。

も~!
いいとこなのに…。

どうせアイツだ。
アイツしかいない。

KY全開な彼女が嫌いでたまらない。

「…はいはい。もしもし~」

「おばさん!!
わたし、もう我慢出来ない!!
彼氏の浮気相手の場所突き止めたんです…
今からぶっ殺すー!!」

かなり興奮状態の彼女を
取り敢えず宥めたのだけど

彼女は一方的に電話を切ってしまった。

「はぁ~。めんどくさい子…」

それにしても
うちの根暗な息子に他の女?
ほんとかしら。

そんなことを考えながら
私は横で眠る恋人に抱きついた。


その瞬間
家のドアをドンドン叩く音が聞こえる。

私はゾクッとして
隣で寝ている恋人の顔を見た。


…そう、隣で寝ている
私が産んだ息子の顔をね。


「ねぇ、とおるちゃん。
どうしましょう。
どうして私だって
バレちゃったのかしら

…あんたの彼女ストーカーみたいで
少しおかしいんじゃないの?」


そう言ったあとに、

私は
自分で自分の言葉に笑ってしまった。

いやいや
私たちこそ親子で
こんなイヤラシイことして
充分おかしいわよね。


心の中でヒトリツッコミをしたら、

なんだか
こんな修羅場なのに
ちょっと面白くて
私は呑気にクスクスと笑ってしまったのだ。


笑ってしまったんだけど
それでも
暗く暗く出口がないような

そんな感覚や痛みが
ちゃんと私の中には存在していて
それが私を責め立てる
それが私を悪魔にする

痛い痒い痛い
ダレカタスケテ
ワタシヲユルシテ
カイホウサレタイ

溢れてきそうなそんな感情を麻痺させながら
横にいる息子を見てみると

やっぱり
息子も笑っていた。
さすが私たち親子。

なんておかしい親子なのかしら。

同じ闇の中で
狂気を半分こする親子。
歪んだ絆。

ふと笑ってる息子と目が合った。

私が
ニコッて微笑みかけると

息子は
私に覆い被さり
私の中に入ってきた。

深く深く息子のものが
私の中に沈んでゆく…

子宮めがけて
深く鋭く刃物のように
突き刺さる

もっと私を壊して
もっと私を殺して
もっと私を悪魔にして。

ずくんずくん
快感が響く

貴方は
此処から生まれたのよ。

だから、
こうすることは
ごく自然なことで
なーんにも悪いことではないわ。

私が産んだ子供よ。
自分の子供をどうしたって
私の勝手でしょ。

あんな小便臭いクソガキより
私の方がとおるちゃんのこと
よく知っているわ。

息子は
私の中に入ったままで立ち上がった。
つまり駅弁の状態だ。

私と繋がったまま
私を廊下に運んでいく。
しっかり抱き抱えられているけど
やっぱり不安定な体制なので
私は恐怖を感じた

「とおるちゃん。やめてちょうだい。おろして」

そう言ってもおろしてもらえず
私の子宮は深く深く
彼を受け入れたままで離してくれない。

…この子ってば

いったい何をしたいのかしら。
まさか…彼女の前で見せつけるつもり?

そう考えると
私は興奮してしまって

より一層大きな声を出してしまったの。

とおるも
とても興奮して
私の中で果てたのが
伝わってきた。

ドクンドクン。
ふたつでひとつの鼓動。
生まれる前から一緒。
私達はずっと一緒。
貴方はずっと私だけのもの。
私も貴方のもの…

きっとずっと
貴方からは逃れられない。
私たちは離れられない。

…「ねぇ、もういいでしょ。そろそろ降ろしてよ」

乱れた呼吸を整えながら
そう言うと

突然カラダが傾いた。

下は階段…



「いやっ、怖い…」



とっさに
とおるの首に回した腕も
重力に負けて
虚しくスルリとほどける。



自分が命をかけて産んだ子供から

命を奪われる瞬間だった。


やっ、やっ、やああああああっ…


誰かの悲鳴が聞こえた

それは間違いなく私の声で
それは間違いなく現実で

私はその時の
とおるの顔をしっかり見てしまった。
とおるは笑っていた。
光がない真っ暗な目で
笑いながら泣いていた。

自分がお腹を痛めて産んだ子供に
こんな恐ろしいことをされてしまうほど

私は
暗くて重たい禁忌を犯してしまったのだ。

走馬灯を見た。

階段に何度も頭を打ち付けながら
落ちていった。


目が覚めると其処は
とてもカラフルな世界だった。
たくさんたくさん
カラフルなお花が咲いている。

カラフルなお洋服を着た人達が
虹色の橋を渡っていた。

…なーるほど。
これが三途の川かぁ…
イメージしてたのと全然違うわ…

すると
真っ赤な髪の毛をした
オカッパ頭の女の子が
赤い水玉のワンピースに
赤い靴で
ニッコリ笑いながら
こっちに向かって
てくてく歩いてくる

…おそらく小学1、2年生くらいだろう。
その子の顔のパーツは小さくて
例えるなら紫式部…清少納言…
なんとゆーか、
つまりとても和風な顔立ちだ。

ちょこんとした目が笑うことに寄って
開いてるのかわからないくらい細くなって
ぷっくりしたペコちゃんのような
下膨れのほっぺたが更に膨らみ
ちょこんとした鼻の穴も膨らむ。

そして
首にぶら下げたお菓子のオマケのような
プラスチックのネックレスを自慢気に見せてきて
どや顔をしてきた。

「可愛いでしょ!」

とっても元気いっぱいの笑顔で
そう言う女の子に
私もつられて笑顔になってしまう。

「可愛いね。似合うね!」

私がそう言うと
その子はすごく嬉しそうにニコニコして

やっぱりシジミみたいに目がなくなる。

それがまた彼女の愛嬌を引き立てるのだ。

だから
私は心の中で
その子に「しじみちゃん」と名付けた。

しじみちゃんは
ほんとにキラキラキラキラした目をしていた。

「これあげる。
オバチャンのこと守ってくれるよ」

そう言いながら
しじみちゃんは私の首に
プラスチックのネックレスをかけてくれた。

「いいの~?」

私が戸惑っていると、
しじみちゃんはニッコリ笑って

「いいよ~。
だから、その赤い口紅ちょうだいよ」


私の唇を指差した。

別にいいけど…おませさんなのね~。

私はポケットから
口紅を取り出して

しじみちゃんに

「はい!ブツブツ交換だね。」


言いながら渡すと

しじみちゃんは

「わ~い!ママ~!見てみて!
ブスブス交換したよ!」

と言いながら走っていく。

ブスブス交換…
私は久しぶりに爆笑してしまった。

しじみちゃんは
とても細くてキレイな女の人のところへ
走っていく。

ふたりが
くしゃくしゃに笑った顔は
とてもそっくりで
やっぱり母娘だな、と思った。

しじみちゃんは
橋の前にあるピアノで
猫踏んじゃったを
楽しそうに演奏し始めた。

だけど
気分屋らしく

途中で飽きてしまったご様子。

今度は
チェーンソーを振り回しながら
キャピキャピ走り回っていた。

チェーンソーが
色んな人にあたり、
しじみちゃんは
色んな人の返り血を浴びて

さらに
ワンピースに赤い水玉を増やしていく。

しじみちゃんは
とても楽しそうな顔をしていた。

狂気の欠片もないように見えて
本当はきっと誰よりも
頭がぶっ飛んでいる

そんなしじみちゃんを見ても
私は不思議とちっとも
怖いとは思わなかったんだ。

…突然、紫のスーツを着こなす強面の男が現れ

しじみちゃんが
ど突かれていた。

おそらくお父さんだ。

しじみちゃんはというと、
一瞬ショボンとしながらも

おてんばなお調子者なので
一分後にはフザケているし
また騒ぎ出す。

お父さんも
途中からは呆れて
笑っていた。


そして
しじみちゃんは
お父さんの手を握りしめ
その手を楽しそうに
ブンブン振り回しながら

ふたりは
カラフルな闇へと
消えて行った。

楽しそうな顔で
目がチカチカするような
カラフルな闇へと
ふたりは真っ直ぐ進んで行き、

そのふたりの後を
しじみちゃん一家が
ゾロゾロとついていく。

気付いたら
私は泣いていた。
なんだか
あのふたりには
強い強い絆を感じる。

そんな父と娘の姿。

それでも…
いくらカラフルとはいえ

ふたりは
「闇」に消えて行ったのだから

きっと
ふたりで色んな闇を乗り越えて
あんなに強い絆を
感じさせてくれたのかもしれない。


美しい闇だ。


私ととおるだなんて
比べ物にならない。

私ととおるの闇は
汚れた闇だ。

あんな風に
カラフルな闇を乗り越えていく親子とは

比べ物にならない、
深刻な闇だ。

何故なら
私は禁忌を犯したのだから。
もう親子には戻れないのだから。

私が泣き崩れていると
背中をつつかれた。

振り向くと
そこにはしじみちゃんがいて

やはりニッコリ笑いながら
話しかけてくる。

「忘れてた!
いま地上に戻してあげるね。
そのネックレスはお守りだから
絶対に外さないでね」

と言うのだ。

えっ?地上に戻す?
えっ?これ夢なの?

私がキョトンとしていると

「ちょっと痛いかもしれないけど
我慢してね」

そう言いながら
チェーンソーを握るしじみちゃんに

怯える暇もないくらい
すごい勢いで

しじみちゃんは
私の首をすっ飛ばした。

私は
自分の血しぶきでおぼれ
カラフルなトンネルをくぐり抜け
目が覚めると…


私は我が家の階段の下で
真っ裸で倒れていた。
あー、私…生きてたんだ…。

頭が
落ちた衝撃でズキンズキン痛むし
血も出ている…

…夢じゃない。

私は我が子と禁忌を犯し
我が子の精神を病ませて
我が子に階段から突き落とされた。


ドアを叩く音が聞こえる

そっか…とおるの彼女だわ…

私はドアを開けると
興奮した彼女が
包丁を持って立っている。

ああ、殺される…
せっかく生きていたのに…

……私ったら
こんな状況でまで
生きていたいの?

なんて図々しくて
厭らしい女なのかしら。

そんな自分が情けなくて
だけど死にたくなくて

誰か私を赦して
誰かとおるを赦して
誰かこんな母と息子を認めて。


私の心は深い闇に侵されて
瞬きも忘れてしまい、

彼女が握る包丁をボーッと見ながら
立ち尽くしていると

彼女の表情が
突然コロッと変わりました。
おっきな目を
さらにおっきくしながら

「それ!」

私の首に下がっているネックレスを
触りました。

「おばさん!これお菓子のオマケだよね?
まだ売ってるの?
小さい頃集めてたの!
なつかしい…」

目をキラキラキラキラさせながら笑った。

…やっぱり
さっきのは夢じゃなかったんだな。
ネックレス見ても
そう思ったし

何よりも
彼女のキラキラキラキラした目が
しじみちゃんを連想させる。

…私も顔が綻んだ。

彼女は
ハッと思い出したように
こう言った。

「あっ、私おばさんのこと殺しに来たのよ!!
とおるとの関係気付いてて…
私苦しくて…
ありえない…
おばさん最低だし気持ち悪い…とおるも…
ん~、でもなんか…どうでもよくなっちゃったな。
私さ~気分屋なのかな。
とおるのこととか、なんかもうどうでもいいや。

B型だからかな!あははっ。


ねっ、
それよりそのネックレスちょうだいよ」


…にっ、似てる。
気分屋なとこも
遠慮なく「ちょうだい」と言うとこも
しじみちゃんにそっくりで…

私はついつい
しじみちゃんとの約束を忘れて

首からネックレスを
外してしまった。


あああ!おばさんのバカ~!


と、
何処かから
しじみちゃんの声が
聞こえたような気がしたんだけど

さほど気にせず
外したネックレスを
彼女に手渡そうとした瞬間、

私は後ろから
我が子にナイフで刺されてしまった。



「母さん、まだ生きてたの?」



そう言いながら
私の背中を抉るように

貫通してしまうんじゃないかと思うくらい
グリグリと私に刃先をさしこんだ。

グボッグボッゲェーっ

私の口から
大量の血が吹き出た。


彼女は
そんな光景を見て
泣きながら

狂ったように

「いやっ…誰かっ…誰か!警察!」

と叫びながら

ネックレスをポトリと落として
外に駆け出して行った。

そのポトリと落ちたネックレスが
私の視界を遮り
地面に落ちていく

とても
ゆっくりに感じた。

しじみちゃんが
「あーあ。」
ってガッカリしてる顔が見えた気がした。


ん…
もういいや…
そうだ、生かされたところで
私はどうするつもりだったのか。
死ねて良かったじゃないか。

誰よりも愛する恋人に
誰よりも愛する我が子に
殺められたのなら
それが私らしい結末。

何を夢見ていたんだか…

元通り
幸せになんか戻れるわけないのにね。

うん。
またあのカラフルな世界へ戻りたい。
しじみちゃんに会いたいな。

だけど
私は罪が重すぎたため、
神様に
真っ暗な闇へと
振り分けられてしまった。

カラフルな世界には行けないし
しじみちゃんに会うことは
二度となかった。

とおるは
私を殺したあの後に自害した。

意識不明の重体

その数日後、死亡。

とおるも神様に
「母を殺した罪」という烙印を押されて
私と同じ真っ暗な闇に
振り分けられた。


また会えたね。
私たちは死んでもずっと一緒で
今も真っ暗な闇の中で
愛しあっています。 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧