IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
【第128話】
――旅館花月荘内大宴会場――
時は流れ、時間は午後の七時半――昼間は皆で水遊びして遊んだ。
俺と親父、二人で美冬に未来、セシリア、シャル、ラウラに母さんと水をかけていたら、逆襲されて皆から集中砲火を受けてしまう。
――いや、楽しかったから良いんだけどな。
そして現在、大広間三部屋を繋げた大宴会場で、俺達一学年生徒は皆夕食を取っていた。
「うん、うまい!昼も夜も刺身が出るなんて豪勢だなぁ。なあヒルト?」
「……流石に二食続けてはげんなりするぞ。まあ食べるけど」
「でも――IS学園って羽振りがいいよね、ヒルト?」
「……それも手放しで喜べる状況じゃないが」
学園の羽振りがいい=日本人の血税で賄われて、いるだからなぁ。
まあ、これは学生が知ってる内容じゃないから気にしない子が多いが。
――俺は、昔からニュースも見れば他にも調べてる内に知ったわけで……。
まあ今こんなことを考えても、事態が変わる訳じゃないのでやめておく。
――シャルは俺の右隣に座っていて、一夏は一つ離れた左に座っている。
その一夏と俺の間に居るのが、セシリアだ――。
それはそうと、今は全員浴衣姿。
何でも、この旅館の決まりらしく『お食事中は浴衣着用』とのこと。
……まあ決まりなら仕方ないが、普通は汚れるから禁止だと思ったりするが――。
辺り一帯を見渡すと、ずらりと並んだ一学年女子生徒が右から左まで並んで正座している。
正座の理由は、座敷だからだ。
――俺は胡座にしようかと思ったが、シャルとセシリアに咎められた。
まあ正座が出来ない訳じゃ無いから問題は無いんだけどな。
そして、生徒一人一人の前に膳が置かれている。
メニューは割愛するが、どれも高級なものを使っているのがわかる。
刺身もカワハギだし。
……まあ食べられるなら秋刀魚でも俺は構わないんだがな、これが。
「あー、うまい。しかもこのわさび、本わさじゃないか。すげえな、おい。高校生のメシじゃねえぞ。なあヒルト?」
「……悪いが一夏、蘊蓄なら一人で食べてる時にしてくれないか?横から聞こえてくるとうんざりするんだよ」
――一夏はいつもこんな感じだ。
急いでいないとき等は特に。
もう、お前は料理のレポーターでもすれば良いんじゃないかと思うぐらい料理の事をくどくど言い続ける。
おかげで夕食があまり美味しいとは思えないのだ。
普通に和気藹々と話して食べるなら何も言わないが――。
――ふと、シャルを見るとわさびの山に箸を進めようとしていたので。
「シャル、それはわさびの山だ。食べたら鼻を押さえて涙目になるぞ」
「そ、そうなの?――危なかった……教えてくれてありがとう、ヒルト」
「いや、解らないことがあれば何時でも聞けばいいさ。前にも言っただろ?力になるって――な?」
「あ―――う、うん……」
そう俺が言うと、シャルは徐々に頬を赤く染めていき、恥ずかしくなったのか視線を外して黙々と目の前の膳にある料理を食べ始めた。
――と、左隣のセシリアの呻き声が聞こえてくる。
「っ……ぅ………」
さっきからこんな感じで、一向に食事が進んでいない為、心配になり声をかける。
「セシリア、大丈夫か?無理するなよ、な?」
「だ……ぃ………ょう、ぶ……ですわ……」
――こんな感じで、全く大丈夫じゃなさそうなセシリアが心配になる。
外国人だから、正座というものに慣れてないのだと思うのだが――徐々にプルプルと震えだすセシリア。
プライドなのかは解らないが、皆に悟られないように出来るだけ平静を装い、箸を手にした。
「い、ぃただき……ます……」
そう震えながらも、味噌汁をゆっくりと飲むセシリアだが、明らかに飲むのだけでも難儀しているのが明らかだった。
――もちろんセシリアだけではなく、他の多国籍の正座に慣れていない生徒もプルプル震えている。
――翌々見ると、俺やラウラ以外にも銀髪が居るんだと改めて確認――てか日本人で銀髪って俺だけだよな、明らかに。
――しかし、あの三組の褐色の子、何かスゴく綺麗に見える。
浴衣の色と相対的だからだろうか?
――と、視線をセシリアに戻すと。
「お、おいしぃ……ですわ、ね……」
そう此方に向いてにこりと微笑むが、若干ひきつっているので――。
「無理するなってセシリア。正座は日本人でもキツいのに……。ほら、テーブル席もあるんだ、そっちに移るのは?美冬も未来も、ラウラもあっちで食べてるんだし……な?」
そう向こう側を見ると、視線に気づいた美冬が手を振ってくる。
――正座が苦手な二人は、早々にテーブル席に移った。
ラウラは元々テーブル席に座る予定だったらしく、美冬や未来と談笑しながら食べていた。
「へ、平気ですわ……。この席を獲得するのにかかった労力に比べれば、このくらい……」
……そういや、本来なら一夏が左隣だったんだよな。
そこをセシリアがちょっと待ってくださいな――と、慌てて来たものだから何事かと思えば俺と一夏の間に入った。
まあ並ぶ前だったから誰も何も言わなかったから良かったが、並んでる時なら皆が文句を言っていたかもしれない。
「そうだよね。……僕も、ヒルトの隣に座れるかわからなかったもん……」
「ん?俺の隣に?」
「わわわっ!?な、何でもないよっ!………はぅ…またやっちゃった……」
等と、何かまた失言したのか、失敗したのかは知らないが顔を背けるシャル。
……俺の隣の席って特別なのか?
そう思い、辺り一帯を見渡すが――女子、女子、女子と、特別変わった事はなかった。
――と、向かいの列の奥から声が……。
「あ、織斑君。やっほ~」
――等と聞こえるので、そっちを見ると篠ノ之の隣の子が一夏に向かって手を振っていた。
――わりとどうでも良かったので、大人しく隣のセシリアを気遣うことにする。
「う、ぐ……、くぅ……」
そんな感じで常に呻くセシリアを俺は――。
「なあセシリア、無理せず――」
「移動は、しませんわ」
言ってる途中で、きっぱりと移動しないと言い切るセシリア――と、一夏があろうことか。
「セシリア、何なら俺が食べさせてやろうか?」
「……お断り、致しますわ。そもそも織斑さんに、こんな事で食べさせてもらうわけにはいきません――。頭がおかしいのではありませんか?」
これに関してはごもっともだ。
普通に考えてもおかしい、足が痺れたから食べさせてやるよって言うのは脳みそがカップヌードルとしか認識出来ん。
「そうだぞ一夏、あり得ないだろ普通?……でもこのままじゃなぁ…」
テーブル席に移らない、でもここの席に居たい――だからなぁ…。
どうしたものか……。
そう悩んでいると、隣のシャルが――。
「セシリア、このままじゃ食事が進まないよ?テーブル席に移るか、それかヒルトに食べさせてもらうってどう?前に僕も――」
「ぅおいっ!?シャル!!」
まさかのシャルの発言。
以前、シャルの女の子バレした日に俺が恥ずかしいのを我慢してシャルに――俗に言うバカップルがやる『はい、あーん』をしてあげたのだが、俺としてはあれが一生で一度で最後だと思ってやったのに。
流石にシャルも、ハッとした表情になると共に――。
「――。ご、ごめん…」
そう眉を下げるシャル、だがもう言った後なので……まあいいか。
「ひ、ヒルトさん、今のは本当ですの!?」
――と、セシリアが食い付いてきた。
まあ誤魔化しても意味が無いので――。
「……確かに一度だけシャルに食べさせた事があったがあれはまだ箸に慣れてなかった時だ。だから――」
そう言葉を続けるが、途中でセシリアが――。
「シャルロットさんだけズルいですわ!わ、わたくしにも食べさせてくださいなっ!!」
――やっぱりこうなるよな…。
でも、このままやらなきゃ結局セシリアはあまり食事が出来ないし……俺が我慢すればいいか。
「……わかった、だが今回だけだぞ?」
「え、えぇ!ありがとうございます、ヒルトさん」
セシリアから箸を受けとる――すると、一夏が。
「――ヒルトが良いなら別に俺が食べさせても良かったんじゃないか、セシリア?」
「……織斑さんとヒルトさんでは、信頼の差が天と地程の差があります。――織斑さんが食べさせてやるってわたくしに言われましても頭がおかしいとしか思えませんもの。その点、ヒルトさんでしたら普段からお世話になっていますし。わたくしも色々とお教え致していますから」
……それだと、今からそれをやむを得ずやる俺も頭がおかしい気がするが――いや、元から俺の頭もおかしいか。
あまり納得いかないのか、色々とぶつぶつ言ってる一夏。
しかし、こうして信用されて任されるのは嫌な気持ちはしない。
ただ、【はい、あーん】だけは勘弁してほしかった。
受け取った箸で刺身を一切れ摘まみ、左手で受け皿しながら口元へ。
「ほ、ほら。早く口を開けろって…此方はめちゃくちゃ恥ずかしいんだからなっ」
「わ、わかりました」
事実、今俺が行おうとしている行為を、周りがジィーッと見てくる。
シャルに関しても、墓穴を掘ったとはいえまさか俺が了承するとは思っていなかったらしく、今少し頬を膨らませていた。
そして、テーブル席から刺すような殺気に近い視線を複数感じるのも、冷や汗をかく気持ちだ。
返事をしたセシリアは、そっと小さく口を開く。
それを見た俺は、そのままセシリアの口元まで箸を進めると――そのままそっと刺身を一切れ口に含み、咀嚼するセシリア。
「あ……む……。――美味しい、ですわね……」
そう告げるセシリアの頬は紅潮し、嬉しかったのか少し緩んだ表情になっていた。
――と、この行為を見ていた女子一同が。
「セシリア良いなぁ……。あんな風に食べさせてもらえて…」
「織斑君!有坂君がセシリアに食べさせてあげたんだから、織斑君も私達に食べさせてくれるよねっ!?」
「それナイスアイディア!?ミカに座布団一枚!!」
――何故か一夏に飛び火するという罠。
いや、まあ俺がやるよりかは一夏のが良いんだろう――一夏にとってはとんだとばっちりだが。
――いや、爆発しろでいいのかもしれないな。
そんな感じに、一夏に食べさせてもらおうと一夏の元へと女子が押し寄せてきた。
そんな女子の勢いに圧される一夏は苦笑しつつも。
「いや、お前らは普通に食事――」
そう言いかけたが、それよりも先に女子一同が。
「早く早く!」
「「「あーん!」」」
餌を待つ雛鳥よろしく、一様に口を開く女子一同――だが、それも大宴会場に響く声で。
「お前たちは静かに食事する事が出来んのか」
その一声に、普通に談笑していた子達も喋るのを止め、座っている皆が背筋を正して正座し直した。
「お、織斑先生……」
「どうにも、体力が有り余っているようだな。よかろう。それでは今からすなはをランニングしてこい。距離は……そうだな。50キロもあれば十分だろう」
「いえいえいえ!とんでもないです!大人しく食事をします!」
そう女子一同が言って、各々が各自の席に戻り、正座で座る。
それを確認した織斑先生は、一夏を見て――。
「織斑、あまり騒動を起こすな。鎮めるのが面倒だ」
「ち、千冬姉っ。俺じゃ――」
「【織斑先生】……だろ?」
そうキッと目尻を上げて睨むと、一夏は萎縮した。
「では諸君、これ以上教師の手を煩わせないように――いいな?」
「「「は、はいっ!!」」」
その返事を聞き、織斑先生はそのまま戻って行った。
「……ヒルトのせいでとばっちり受けたじゃねぇか」
「……まあそれに関しては悪いな一夏、すまん」
そう謝ると、俺はセシリアに箸を返す。
「……そういう訳だ。後は自分で食べられるよな?」
「え、えぇ。……一口だけでしたが、わたくしは満足致しましたわ」
そう笑顔で応えるセシリアは、本当に嬉しそうだった。
……そして、隣のシャルからは指で足をつねられていて非常に痛いのだが文句を言うにも言えないし、痛いとも言えないので我慢した。
「……そうだ。セシリアもシャルも、後で部屋に来てくれないか?」
「部屋に?――僕は構わないけど……邪魔にならない?」
「わたくしも勿論構いませんわよ?」
「悪いな。食事に来る前にさ、母さんから美冬、未来、セシリア、シャル、ラウラを呼んで来てねって言われてたから。……何か、良い機会だから学園での俺の事を聞きたいってさ」
……確か、美冬が前に言ってた気がするが…。
深く考えても仕方ないが。
「わかったよ。じゃあ僕が後で三人に言っておくね?同じ部屋だし」
………そういや部屋割り、そんな感じになってたな。
教師が決めたにしては上手いこと四人同じ部屋にしたなって思ったが。
「じゃあそういう事でよろしく。セシリア、皆待たずに来ても構わないからな?」
「わかりましたわ。では後程お伺い致しましたわね?」
そう言ってセシリアは前を向き、食事に手をつけていく。
正座に慣れたのかはわからないが、現在スムーズに食べてる所を見るともう少し早く慣れてほしかった。
まあ……いいか。
短絡的にいいやと思い、俺も食事を再開した。
――一夏の、旅館から出た料理の味の分析が聞こえるのにうんざりしながら、料理を胃の中へと納めていった。
ページ上へ戻る