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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第129話】

――旅館花月荘――


食後に温泉――不満を上げたら一夏が俺の肩を抱きながら何か馬鹿みたいに自慢のギャグ集を延々と聞かされた事だろう。

その一部が――。

『まずは体を洗ってからだ。なんつって。ワハハハハッ』

『……………』

――これ、正直何を言ってるかわからないし、肩抱かないで欲しくて逃げたがしつこく追い回される始末。

――ちなみに今のは【体】と【~~からだ】というのを合わせたらしい――そんな説明、お笑い芸人が自身の滑ったネタを客に説明するぐらい寒かった、夏なのに。

――まだ男子が入れる時間なのだが、あのまま訳のわからんギャグを聞かされるぐらいなら部屋でゆっくりする方が有意義という事で早々に上がった。

一夏は温泉を堪能するらしく、ギリギリ近くまで入るらしい。


――本当にあいつは風呂が好きだな。

俺も好きだが、一夏と一緒じゃなければもう少しゆっくり浸かってまったりしたかったがな、これが。

部屋へと戻ると、既に三人分の布団の用意が出来ていて、後は敷くだけだった。

――多分、母さんが「自分達でやるから他の方を優先してくださいな」的な事でも従業員に言ったのだろう。

しかし、部屋を見ても親父も母さんも居ない――。

家族風呂とかかな?

あるかは知らんが、まあ二人で変な事はしていないだろう――声が聞こえたら非常に不味いだろうし、うん。

変な考えを払拭するように頭を横に振り、海を一望出来る窓を開ける。

――波の音が聞こえ、月明かりに照らされた海面はきらきらと光っていて俺の目には幻想的に見えた。

空気も清んでいて、学園と同じく夜空には満天の星空が広がっている――。

これがレゾナンス付近の街だと、全く見えないのだからここの場所が汚染されていないのがよくわかる。


――と、部屋のドアが開く音が聞こえた。


「ふぅ、さっぱりしたぜ」

「うふふ、久しぶりに二人で入りましたからねぇ――あら?ヒルト、もうお風呂から上がったの?」

「あぁ。――やっぱり二人で入ってたんだな」

「おぅ!――最近、母さんを狙う組織の噂をF.L.A.G.の諜報員から聞かされてるからな、例え風呂でも母さんを守らないといけないんだよ」


そんな深刻そうな表情をしながら告げる親父に、俺はびっくりする。


「な、何で母さんが狙われるんだよ?――てか組織って…何の組織だよ?」

「うーん。秘密結社って名乗ってるけど、実態は確かテロ組織よ?確か……【亡国企業(ファントム・タスク)】って名前だったかしら?うふふ、中二病を拗らせたような名前ねぇ~」


あまり危機感を感じられないような、のほほんとした母さん――。

正直、いきなりそんな事を言われて頭が混乱してるのに何で母さんはそんなに呑気なのかがわからない。


「……だ、大丈夫なのかよ、親父?そんな組織に狙われてるだなんて初耳だぞ?」

「まあ、ずっと言わなかったからな。お前にも、美冬にも――だが心配するな!何てったって俺は母さんのボディーガードだからな!ワッハッハッ!」

「うふふ。頼りにしてるわね、あなた♪」

「あ、頭が痛くなってきた……」


……もしかしたら、子供の頃から――というかIS発表された辺りからアメリカの方に居たのはそれが原因なのか?

考えてもわからないな――時間がある時にちゃんと聞かないといけないな。


「まあ安心しろ、ヒルト。俺が母さんを守る。だからお前は美冬や未来ちゃん。セシリアちゃんにシャルちゃん、ラウラの事を守ってやるんだ」

「守るって……。俺、皆よりも弱いんだぞ?そんな俺が…偉そうに皆を守るだなんて、言えないよ……」


……そう、俺は弱い。

そんな俺がお前たちを守るだなんて言葉……簡単には言えない。


「……ならヒルト、今からでも遅くないじゃないか。強くなればいい――お前にこの言葉を贈る…よく聞けよ」


そう言い、親父は目を閉じ、一旦深呼吸してから目を開けると口を開く。


「――『一人の男が、世界を変える』――お前も、そんな男になれ、いいな?」


親父の言葉に、俺は返事が出来なかった。

だが――親父の口から出た言葉は、強い『意思』を感じる言葉だった。

女尊男卑な世界の中、外でこんな事を言えば多分世の女性は皆が笑うだろう。

……だが、それ以上に、俺には何故か心に響く――そんな強い信念がこもったような言葉に感じた。


「まあ、当分大丈夫だとは思うから今は気にするなよ、ヒルト?」

「……気になるってば。……親父、母さんも、気を付けてくれよ……」

「うふふ。大丈夫よぉ?だから安心――」


そう母さんが言ってる最中、コンコンとドアを叩く音が部屋に響いた。


会話を中断し、母さんが――。


「はーい、どうぞぉ~」
「し、失礼します」


声の主はセシリアだ。

ドアを開けて入ってくると何やら香水の香りが鼻孔をくすぐる。


「あらぁ?うふふ、セシリアちゃんったら……。確か、この香りはレリエルのNo.6かしらぁ?」

「そ、そうですわ。お母様、ご存知でしたか…」

「もちろんよ?うふふ」


そんな風に楽しそうな会話をする母さんとセシリアだったが、正直俺はさっきの事がずっと気になっている――と。


「あの、ヒルトさん?どうかなさいましたか?先程からずっと難しい顔で……」

「……何でもない、セシリア」

「そぅ、ですか……。ですが、わたくしで良ければいつでも言ってくださいまし」


そう柔らかな笑みで言うセシリア――ありがたいが、これはまだ相談出来る内容かどうかも難しい。


――と、またドアを叩く音が響くと同時に、美冬、未来、シャルにラウラと部屋へ入ってきた。


「お母さん、お父さん。皆で来たよー」

「こ、こんばんは。お父さん、お母さん」

「な、何だか僕、緊張しちゃうよ……」

「教官。ラウラ・ボーデヴィッヒ、ただいま到着いたしました」

「ラウラ…もう教官だったのは随分前の話じゃねぇか。もっと気楽にニカッて笑えよ、な?」


そんな風に親父がラウラに言うと、ラウラの方も柔らかな笑みを浮かべて応えた。


「うふふ、皆来たわね?――ヒルト、少し席を外してくれるかしら?」

「……わかったよ、母さん」



促され、俺は立ち上がると――。


「……お兄ちゃん、何かあった?何だか……凄く思い詰めたような顔、してるよ?」

「わたくしも、先程同じ事を言ったのですが…」

「何か、悩んでる事があるならいつでも言ってね?僕も、皆も、ヒルトの力になりたいから」

「うむ。お前は一人じゃない。少なくとも夫である私が居るのだ。もっと頼れ」

「そうよ?幼なじみだって居るんだから――だ、だからって、いつも力になれる訳じゃ無いんだからね?」


そんな感じに皆が俺を気遣ってか声をかけてくれた。


「……あぁ。その時は皆、よろしく頼むさ、これがな」


それだけを告げ、俺は部屋を出る。

その足で旅館の外へと出、少し砂浜を歩くと満天の星空の下――俺は見上げるように星々に視線を移した――。

波の音が、一定のリズムで聞こえてくるのが何故か心地よかった――。 
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