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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第118話】

――バス内――


「海っ!見えたぁっ!」


トンネルを抜けた直後、そんな声がバス内に響く――。

臨海学校初日、天候は雲ひとつ無い蒼空で、燦々と外を夏の日差しが降り注いでいる。

夏の陽光を反射する海面は穏やかであり、潮風にゆっくりと揺らいでいた。

少し遠方には、ジェットスキーやヨット、サーフィン等を楽しんでいる大人たちが見える――仕事が休みなのだろう。


「おー。やっぱり海を見るとテンション上がるなぁ。なあヒルト?」


そう同意を求めてくるのは隣の座席――窓側に座っている一夏だ。

二人しか居ない男子生徒に配慮してか、同じ座席にしてくれたという非常にありがた迷惑な配置をしてくれた山田先生を若干恨みつつも――。


「ふっ……海見てテンション上がらねぇよ…。やっぱり、女子一同の水着姿を見ないとな」


そう言うと、一夏は――。


「相変わらずだなぁ、女の子の水着見てテンション上がるなんて、弾みたいだな」


――と、俺の知らない男と比べられても非常に困るのだが…。

てか、思春期の男子高校生としては普通のような気がするのだが俺がおかしいのか?女の子の水着を見てテンションが上がるのは。

――まあ、言っても無駄なので黙って右隣の補助席に座るシャルを見る。

先日、プレゼントにブレスレットを上げてから常に左手首に視線をやっては思いだすかのようにはにかんで、笑顔になる。

――何故シャルが補助席なのかというと、編入されてクラスの人数が増えた結果、一人だけ補助席にという事になったのだがその時に率先してシャルが補助席に行きますと言ったお陰で揉める事なく事が収まった。

そして選んだのが俺の隣の補助席――他にもあったのだが、俺の隣を選んだ。


「シャル、凄く気に入ってくれたようだな、そのブレスレット」

「えっ?あ、うん。まあ、ね。…えへへ」


返事をすると、シャルはまた視線をブレスレットに移して笑みを漏らす。


「ふぅん……シャルのそれ、ヒルトがプレゼントしたんだ?」

「ん、そうだぞ?――まあ俺の目に止まったのを選んだんだがな、これが」


そう説明すると――「ふーん、そっか」――と、対して興味がなかったのかそんな返事をした。

……一夏って、聞いておきながらこんな返事すること多いよな、正直イラッとするが。

――まあこいつを見てるよりかはシャルを見てる方が癒されるのでまた再度視線を戻すと。


「うふふっ♪ヒルトっ、ありがとう♪」


もう何度目かわからないぐらい、シャルからまたお礼を言われる――と、通路を挟んだ向こう側から不機嫌な声が聞こえてきた。


「まったく、シャルロットさんたら朝からずっとご機嫌ですわね」


言ったのはセシリアだ、補助席に座っているシャルの隣からむすっと不機嫌な顔をしながら、シャルと俺を見てくる。


「うん。そうだね。ごめんね。えへへ…」


セシリアの不機嫌な声も聞き流し、笑顔で返すシャル――すると、矛先は俺へと向き――。


「昨日の帰り、いないと思って探しましたらまさかプレゼントを渡すために二人で居なくなっていたとは思いませんでしたわ…。……不公平ですわ、シャルロットさんばかり…」



そう若干瞳を潤ませて俺を見てくるセシリア。

言ってることはごもっともなので――。


「う……わ、わかったから。だからもう拗ねるなよ、次の機会に…な?」


そう言うと、少し拗ねていたセシリアの表情がぱぁっと明るくなり――。



「ぜ、絶対ですわよ?…約束、破らないでくださいな」

「あぁ、約束は守るさ。――てか料理を教える約束もしてたな、そっちはどうする?」

「え?えと……そちらの日取りはいつでも大丈夫ですわよ?」

「そか、なら空いた時に教えるよ。――流石にあの味のままだと何処にも嫁に出せないからな」


そう言うと、若干また膨れて――。


「い、意地悪言わないでくださいな。――ヒルトさんだけですわ……あまり美味しくないって言ったのは」


――前に弁当のサンドイッチを作って来てもらった後日に、別の弁当をご馳走になったのだがそこで正直美味しくないとセシリアに打ち明けた。

もちろん、ショックを受けていたのだが事実は受け止めないといけない――その事実を言わずに食べられるなり悪くないなりと言うのは、後で真実を知った時にセシリアが傷つくのだから。

それに、今から料理を教えていけば間に合う可能性もあるわけで。


「意地悪言ってる訳じゃないさ。――まあ大船に乗った気持ちでドンと俺に任せな、最低限卵焼きぐらいは作れる様にはするさ」

「わ、わかりましたわ。ご指導、よろしくお願いしますわね」


そう頭を下げるセシリアに、軽く返事をすると次は今朝から黙ったままのラウラを見る。
何故か挙動不審気味に辺りをキョロキョロと見ている――。


「ようラウラ、今朝からずいぶん大人しいがどうした?親父が来るから緊張してるのか?」


そう言った俺は少し視線を逸らし、バス後方から追従するかのように着いてくる大型トラックを見ると、運転席には親父が、助手席には母さんが乗っていて、俺が見ているのに気づいた母さんが手を振ってきた。

振り返そうとも思ったのだが、下手すると後ろの女子たちに手を振ってる様にも見えるのでやめておく――。

返事がないので視線を戻すが、若干俯き気味なラウラを見て――。


「ラウラ、どうした?聞こえてないのか?――シャル、セシリア、ちょい前失敬――おーい」

「ひゃっ…!――ひ、ヒルトさん……っ」


席を立ち、未だにブレスレットを眺めているシャルの前まで移動して思いきってラウラの顔を覗き込んでみる――その行動に、セシリアが少し驚きの声をあげ、ラウラは俺の顔が近くにあると気づくと面白いように顔が真っ赤に染まり――。


「!?なっ、なんっ……なんだ!?ち、近い!馬鹿者!」

「おっと!――へっへー、そう簡単には押し返されないさ、俺はな!」

「うぅ……」


押し退けようとした手を避けるや、若干悪戯っぽく俺が笑みを浮かべる――すると、ラウラは唸り声をあげながらまた俯いた。

耳まで真っ赤に染まっていて、このままだとゆでダコになりそうな気がしたので顔を離すついでに、セシリアが手に持っていたポッキーを一本貰っていく。


「あ――ひ、ヒルトさんっ!?」

「いいじゃん、一本だけなんだしさ♪」


「そ、それはそうなのですが――」


何だか歯切れが悪いセシリア――余程ポッキー好きなのか、はたまた別の理由があるのか……。


「ん~、ダメなら返すが……」

「い、いぇ……今更唇をなぞっていたなんて言えませんわ……」

「………!?」


頭を横に振り、小声で言ったセシリアだったが、俺には聞こえてきたためかぁっーと顔に熱を帯び始めた。


「……も、貰うからな?こ、小腹空いたし」

「あ――わ、わかりました……ど、どうぞ」


――聞こえたのだが、出来るだけ平静を装ったつもりで返事をし、ポッキーを食べていく。


ポッキー一本だから直ぐに食べ終えるのだが、何だか味を気にする余裕はなく、思い出したのがセシリアとした――。


「ヒルト、顔が赤いぞ?熱でもあるのか?」


そう言って俺のおでこに手を当てようと手を伸ばしてくる一夏。


「どわぁっ!?ね、熱なんかねぇよっ!バカ!」

「何だよ、せっかく熱があるか触ってやろうと思ったのに、ヒルトってつれないよな」


――一々触ってやろうとか上からなのは何でだ?

友達だというなら対等に見てくれないと意味がない気がするが――今更か、一夏に言っても――と、急に席を立ち、後ろへと振り向く一夏。


「向こうに着いたら泳ごうぜ。箒、泳ぐの得意だったよな」

「そ、そう、だな。昔はよく遠泳をしたものだな」


そう返事をした篠ノ之――隣の席の子は、後ろの女子一団とトランプで遊んでいるため篠ノ之は一人窓から外を眺めているだけだった。

――何て言うか、篠ノ之は心を開いていない気がする――一夏以外のクラスメイト全員と。

俺も美冬も未来も話しかけるが、まず俺に対しては――「貴様に心配される筋合いはない!」――という反抗期まっしぐら、何だか前のタッグトーナメントで俺とシャル相手に負けてから更に壁が出来た気がする。

美冬にも未来にも、辛辣に対応し始めてる為徐々に声をかけづらくなってきたって言ってたよな……。

――てかあいつら二人とも静かだが、一体何をしてるんだ?


そう思い、席を立って前の席を覗き込む――美冬と未来は俺の前の席だから様子を見ようと思えばすぐに見られる位置だった。


「チェック」


そう言い、コンコンとバスの座席の硬い部分を人差し指で叩き、美冬が言った――ポーカーをしているようだった、それも未来と一対一で。


「……うーん、レイズ」


そう未来は言い、チップ代わりなポテトチップスをポーカーチップにして出していた。

……ここで一夏なら、わけのわからない下らない洒落を言うのだろう――あれにはうんざりする。

何せドヤ顔で言うのだからウザい――そして面白くなければつまらないし、説明されなきゃわからないのばかり。

……とりあえず邪魔しては悪いと思い、着席すると同時に――。


「そろそろ目的地に着く。全員ちゃんと席に座れ」


そんな織斑先生の言葉がバス内に響くや、ささっと皆がそれに従い、席に戻った。

指導力というよりも、出席簿で叩かれない為であろう――たまにだが、本当に織斑先生って指導力あるのかなと疑問に思うことがある。

――まあ、ちゃんとした時には采配してくれるのだと思うのだが。


そんな風に考えていると、バスは目的地である旅館に到着――親父や母さんが乗った大型トラックも、専用の駐車場に停めて、バスの旅が終わり、俺達はバスを降りた――。 
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