IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第120話】
――旅館花月荘内――
旅館の中に入るや、突如背後から声をかけられる――。
「ね、ね、ねー。ひーくん~」
「ん?――のほほんさんか、どうした?」
振り向くや、異様に遅い移動速度で此方に向かって来る。
そしてそのまま俺の腕に抱き付くと、眠たそうな顔をしながら口を開いた。
「ひーくんって部屋どこ~?一覧に書いてなかったー、おりむーの部屋もだけどー。ひーくんの部屋、遊びに行くから教えて~」
――まさかののほほんさんからの【部屋へ遊びに行く】発言。
これは――少し期待してしまうが、多分そんな内容では無いだろう……当たり前だが。
――のほほんさん自身、気づいているのかいないのかはわからないが、その大きな胸の間に腕が埋まっていて、さっきのネガティブな考えが吹き飛ぶ程の柔らかさが腕に伝わってきた。
――と、のほほんさんがおりむーと言っていたのを聞いていたおりむー事一夏が代わりに答える――。
「いや、俺もヒルトも知らない。二人で廊下にでも寝るんじゃねえの?」
「……おりむー。いまひーくんにきいてるから少し黙ってて~。それに廊下は従業員のじゃまになるとおもいまーす~」
――まさかののほほんさんからの常識的な言葉を訊いて、軽く驚いている一夏。
――うーん、のほほんさんには織斑千冬ブランドが効かないのか……はたまた別の理由か……。
とりあえず、訊かれているのは俺だから答える事にする。
「……まあ廊下はまず無いだろうな。のほほんさんの言う通り、従業員や仲居さん達の邪魔になるし。てか普通に考えたら一夏と同じ部屋、大穴で外にテントとかかな?何てな」
「わー、それはいいね~。私もそうしようかなー。あー、星がきれいーって~。波のおとが心地いいーって」
そんな風に楽しそうに言うのほほんさんが、俺には微笑ましく見える。
――部屋割りは聞いていないが、女子と寝泊まりさせるわけには行かない(当たり前だが)とかで、俺も一夏も別の部屋とか聞いたのだが、あくまで山田先生がそう言っていただけであり、まだ明確には聞いていない。
「織斑、お前の部屋はこっちだ。ついてこい」
そう織斑先生が一夏を呼ぶ――ついでだからここで俺も聞いておくか。
「織斑先生、自分の部屋は何処になるのでしょうか?」
「有坂の部屋は――いや、少しロビーで待っていればわかる」
それだけを言うと、一夏を連れて通路の向こう側へと消えていった。
「……座って待ってるか。のほほんさんはどうする?」
「ん~、せっかくだからひーくんと待とうかな~」
――と、言ってるとのほほんさんと同室のセシリアがやって来て――。
「布仏さん、先に荷物を置きに行きませんか?」
「あー、せっし~――う~ん、じゃあ先に荷物おこうかな~。ひーくん、またね~」
ブンブンとだぼだぼの制服の袖を振り、先ほどと同じ様に異様に遅い速度で通路を進んでいった――と、未だに残っているセシリアが。
「ひ、ヒルトさん?お部屋の方に行かないのですか?」
「ん?俺の部屋の場所が不明なんだよな…。とりあえず織斑先生がロビーで待ってろって言ってたから待機中」
そう言って座り直すと、セシリアが軽く咳払いをし――。
「こほん。で、ではわたくしも少しここで待ちますわ」
言うや、持ってきた荷物を置き、俺の隣へと座るセシリア。
「……荷物、置きに行くんじゃなかったのか、セシリア?」
「え?えぇ、ですがこのままヒルトさんをお一人にしておくのも……」
そう自身の両指を併せ、少し頬を赤く染めながら言うセシリア。
「そっか……ありがとうな、セシリア?」
「い、いぇ……」
小さく頷き、返事をするセシリア。
……さらさらの金髪だな…何だかナイアガラの滝みたいだ――。
そう思い、髪を触りたくなったのだが自重する。
さすがにいきなり触るのは失礼だろうし。
「そういやセシリア、訊いてもいいか?」
「え?は、はい。わたくしで良ければ何でも訊いてくださいな」
笑顔で応えるセシリア、基本セシリアは何でも応えてくれる――今回のは、まあ後でわかることなんだが。
「セシリアはどんな水着を選んだんだ?」
「え?――……~~~~~!?」
ぶしゅぅっと顔から蒸気が出そうなぐらい真っ赤になるセシリア――。
「あ、後でわかりますわ――…………えっち……」
「……それもそうだな、悪い。先に訊いてみたくなっただけだよ。――……えっちだよ、俺は」
「~~~~っ。……もう…」
そんなやり取りをしていると、旅館内に母さんが入ってきて――。
「うふふ、二人とも仲が良いわねぇ♪」
「あ――お、お母様…」
「母さんか……親父はどうしたんだ?」
母さんだけが旅館内に入ってきたので、入り口の方を覗くが一向に親父は現れず。
「お父さんは今、ちょっとIS関連の機材を運んでるわよぉ~。後、美冬ちゃんと未来ちゃん用のISもね」
「え?美冬さんと未来さんの専用機……ですか?」
「ん?……美冬達から聞いてなかったか?――てか俺、セシリアに言わなかったか…?――代表候補生になったって事で母さんが用意したんだっけ?」
視線を母さんに移すと、笑顔で口を開く母さん――。
「えぇ。――というよりも、元々用意していたのよ?美冬ちゃん用には、【村雲】の改良型を――未来ちゃんには【天照】を……ね?」
そう言い、俺たち二人にウインクをする母さん――と。
「それじゃあ、行きましょうか。ヒルト?」
「ん?唐突だな母さん――何処に行くんだ?親父の手伝いか?」
「ううん、そこはお父さん一人で大丈夫よぉ――【PPS】使って作業してますからぁ。――それよりも先に、あなたが泊まる部屋に向かうわよ~?……まあ正確には私たちの部屋に泊まるのだけどね」
笑顔で母さんが答える――てか【PPS】ってなんだ……。
「うふふ。お母さんとじゃ不服?」
「……いや、一人個室かと思ってたからな、実は――所でさ、母さんが今いった【PPS】って…?」
「うふふ。それは――な・い・しょ♪」
そう悪戯っぽく言う母さん――思わず苦笑するのだが、それよりも部屋に行きたいので――。
「んじゃ、行こうか。――セシリア、また後でな?」
「セシリアちゃん、またねぇ~」
「えぇ。ではまた後程、お母様もまた後で――……遂に美冬さんと未来さんにも専用機が……」
そんな一人言を呟くセシリアを置いて、俺と母さんは通路を進んでいく。
――暫くすると、母さんがその部屋の前に止まり、ドアを開けた。
母さんに続き、部屋へと入ると旅館には似つかわしいオーシャンビューで、海を見渡せる四人部屋だ。
――もう既に水着に着替えた一部女子達が遊んでいるのが見える。
「うふふ。荷物を置いたら皆と遊んできなさいヒルト?」
「あぁ――母さんはどうするんだ?」
「もう少し美冬ちゃんと未来ちゃんのISを調整してからかなぁ…水着に着替えるのは」
「そっか……俺は手伝わなくて良いのか、母さん?」
「ふふ、子供はそんなこと気にしないの♪今日一日、羽根を伸ばして来なさい。明日から大変なんだし」
そう柔らかな笑みを浮かべると、空中投影ディスプレイを用意して仕事を始める母さん――。
……【PPS】ってのが気になるが、母さんも遊んできなさいって言ってるし――お言葉に甘えるかな。
持ってきた荷物を部屋に置き、軽めの鞄に買った水着と身体を拭くタオル、そして替えのトランクスを用意して入れると肩に担ぎ――。
「じゃあ母さん、行ってきます」
「えぇ、お母さんも一段落ついたら行くわねぇ?――サンオイル、塗ってくれる?」
「……親父が間に合わなかったなら」
それだけを言い、俺は部屋を後にした――さっきのネガティブな考えももう無く、今は女子達の水着姿が楽しみだという思いが心を満たしていた――。
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