君色に染まりて
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03・映す夢
9
「・・・・・・・・・誰かいるのか」
その声に、俯けていたおもてを上げる。
そこには痛ましそうに笑んだ・・・・・・・、ナポレオンが佇んでいて。
エメラルドの双眸が・・・・・・・、気遣うように彼女へと向けられる。
唇をかんで、優しい眼差しを拒絶した。
・・・・・・・・・・・早く行ってくれないだろうか。
でないと、目の前の彼にすがってしまいそうで。
逃げることも、おもてを隠すこともできずにただ塗りつぶされた感情のままに涙する。
・・・・・・・・・・・・と。目の前の彼が彼女の細い手首を捕えて、己へと引いて。
バランスを崩したアズリは、思惑通りに彼の腕の中へ。
「離して・・・・・・・っ!」
胸を押し返す手を、そっと掴んだ。
「今だけは、こうさせろ。
お前が泣き止むまで・・・・・・・、こうしていてやるから」
頬を撫でる掌は、温かくも優しくて。
彼女は再度、涙して。
ナポレオンは彼女の涙が止まるまで・・・・・・・、髪を撫でていた。
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