IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
【第662話】
前書き
原作一話どすえ
十二月四日の夜、ヒルトと成樹の二人は談笑しながら通路を歩いていると人だかりを見つけた。
「みんな、何で通路で集まってるんだろうね? ヒルト、何かイベントでもあるのかい?」
「いや、そんな話は聞いてないが……?」
二人は人だかりに近付くと、その中心に居たのは一夏だった。
首からプラカードを下げ、正座している。
「何やってるんだ? 何かの新しいパフォーマンスでも始めたのか、一夏?」
「違いますわよ、ヒルトさん」
こめかみをひくつかせ、笑顔だが怒っているセシリアが腕組みしていた。
プラカードを見ると――『私は女風呂を覗いた敗戦主義者です』――と書かれていて、一夏の顔もにゃん次郎に引っ掛かれたとおもしき爪痕、頬には往復ビンタの後、脛にはいぬきちに噛まれた後が見受けられる。
事の発端は少し前、女子専用大浴場で、生徒が皆湯船に浸かり、日々の疲れをとっていた。
セシリアもその一人で、普段は水着着用の彼女も今日ばかりは珍しく生まれたままの姿で、水面の向こうに白人特有の白い肢体が――。
「うふふ、広々とした湯船も悪くありませんが、こうして皆様と入るのも良いですわね……」
「はい! 皆でお風呂が一番ですよ!」
にこにこ笑顔でソフィーが答える、頬が蒸気し、肩まで浸かっていると突如脱衣場から声が聞こえてきた。
「おい、シャイニィ! いぬきちも待てよこらっ!」
「わわわんっ!?(何で追われてるわんっ!? 何もしてないわんっ!)」
「にゃああああっ!!(知らないわよ! ご飯だって食べたし追われる理由何か無いのに!!)」
何故一夏がいぬきちやにゃん次郎を追って女子が居る脱衣場に入ったのかはわからない。
だが、その一夏の声に浴場に入っていた生徒からは――。
「お、おお織斑くん!?」
「な、何で脱衣場から声が!?」
「ちょ、ちょちょ!?」
明らかに動揺する生徒を他所に、脱衣場では暴れまわる音といぬきちとにゃん次郎の鳴き声が聞こえてくる。
まさか浴場まで入ることは――誰もがそう思っていると。
「捕まえたぜ、シャイニィ!」
「ニャアアアアッ!?(尻尾掴まないでよバカァッ!?)」
「わわわんっ!?(にゃん次郎がピンチだわんっ!? 助けるわんっ!)」
脱衣場でにゃん次郎が一夏に捕まり、いぬきちはがぶっと一夏の脛にかじりついた。
「~~~~ッ!? 痛って~~~~!?」
「ニャッ!!(尻尾掴むからよ!)」
シャッと右目に爪で切りかかるにゃん次郎、いぬきちもガブガブ噛み、にゃん次郎が離されたのを見ると――。
「ガルルルッ!! わわわんっ!!(にゃん次郎は僕の友達わんっ! 苛める奴は噛むわんっ)」
「にゃあ……(いぬきち……)」
「っ……! 千冬姉にも引っ掻かれた事もなければ噛まれた事もないのに! こいつら!!」
咄嗟に逃げたいぬきちとにゃん次郎は浴場へと続くスライドドアの隙間から浴場へと逃げていく。
だが――これが一夏の運命を決める一因になった。
頭に血が上った一夏は女子が入っている浴場を開けたのだ――。
立ち込める湯船の先にいる一糸纏わぬ女子生徒――一夏はぱちくりと瞬きすると。
「あ、いやっ!? こ、これはその――」
「「「きゃあああああああああっっっっ!?!?」」」
浴場に響き渡る叫び声、一夏に向けられて投げられる無数の風呂桶が一夏に何回も直撃、そして――バスタオルを巻いたソフィーが真っ赤に赤面しながら――。
「織斑さんの…………バカァァァアアアッ!!!!」
渇いた音が何度も響き渡る――ソフィーの往復ビンタが炸裂したのだった。
そして今に至る、一夏を取り囲む女子生徒に唸り声をあげるいぬきちににゃん次郎も冷たく一夏を見下ろしていた。
事を聞いたヒルトや成樹、噂を聞きつけやってきた鈴音や箒が――。
「アンタさぁ、バッカじゃないの!? 女子の大浴場に入って、堂々と皆の裸を覗く何て、極めつけのバカよバカ! 反省じゃなく猛省よ! バカバカバァカッ!!」
激怒している鈴音に続き、箒も腕組みしつつ見下ろす。
「貴様という馬鹿者は!! 恥を知れ! せめてもの情けだ、私が介錯してやる! 腹を切れ!!」
短刀を置き、介錯の為に刀をすらりと抜く箒。
普段なら誰かしら止めるのだがヒルトすら止めようとはしない辺り、事が大きすぎるのだ。
「ちょ、箒!? シャレにならねぇって!? ヒルトも成樹も止めてくれよ!?」
「いや、明らかに一夏が悪いだろ? クラス代表としてみても男としてみても擁護は出来ないし」
「……そうだね。 それに女尊男卑関係無く君は人としてやってはいけないことをしたんだし……」
「いや、シャイニィやいぬきちが浴場に逃げなきゃ俺だって――」
「言い訳しないの、織斑君! いぬきち達のせいにしたら美冬が許さないからね!?」
唸るいぬきちを宥める美冬が一喝、というか状況的に言い訳できる一夏の神経がスゴいなとヒルトは思う。
介錯云々は箒自身刀を血で汚したくないという理由で事なきを得たが――更に噂を聞きつけ現れたのはエレンとラウラ、シャルの三人だった。
「君には失望したよ。 勿論若い男の子が女子に劣情を抱く気持ちはわからなくもない。 だからといって浴場に大胆に侵入など――君自身が姉の名前を汚しているとは思わないかい?」
エレンの正論に、ぐうの音も出ない一夏に次に掛けられた言葉は直球だった。
「死ね、教官の弟じゃなければ私が死刑にしてやるのだがな。 だから貴様自身死ね、自ら死ね」
「ぐ……!」
「…………」
シャルに至っては其処に一夏が存在してないように無視していた。
続々と集まる生徒達。
女子同士のコミュニティによる噂は瞬く間に拡がりを見せ、口々に色々言っている。
「織斑、いくらなんでも浴場に突撃はやべぇだろ。 てか気付けよ」
「おー? せっかくだから張り付けるかー?」
「流石にそれはダメ。 乙女の肌は神聖なもの、添い遂げる相手以外に見せたいとは私も思わない」
「エミリアもドン引きだよー。 唐変木でいくら気持ちに疎くてもこればっかりはダメだって普通ならわかるよー? ねー、ヒルトくーん」
理央、玲、セラにエミリアと言葉が続き、更に噂を嗅ぎ付けた更識姉妹も現れた。
「流石にそれはダメよ、一夏く――じゃなく、織斑くん?」
「一夏……変態趣味……。 ヒーローなら……こんなことしない……」
現れた楯無は扇子を開くと其処には『懲罰覚悟』の文字が。
一方で簪は当初一夏をヒーローとして見ていただけに今回ので止めを刺されただろう。
そして、美春に未来がやって来て――。
「織斑一夏! 正座で反省なんて誰でも出来るんだからね!?」
「そうよね。 事も大事だし……てか内容が内容だけに教師陣に報告しても会議が増えるだけだから。 取り敢えず織斑くんには暫く浴場の使用禁止とクラスの女子全員に食堂のデザート好きなのを奢ってもらうってのはどうかな?」
所々から賛成ーという声が聞こえてくる、女の子は甘いものに弱い。
それはさておき、風呂好きの一夏が浴場使用禁止に黙ってるわけはなく――。
「ちょ、ちょっと待てよ未来!? 俺だって反省してるし、浴場禁止までは勘弁してくれよ!?」
「……あのね、織斑くん? 事の重大さがわかってないようだけど、今回の一件学園側に報告したら緊急会議物だよ? 織斑先生だって監督不行き届きで懲罰か減給は必至だし。 君が織斑先生を守りたいならこれで譲歩しなきゃ、君だけが反省室に入るだけじゃなくなるし、日本代表候補生(仮)って肩書きも危うくなるよ? 私達の譲歩もこのラインが限界かな、それだけ女の子は裸を見られたのに敏感になるし、織斑くんだからこの程度で済んだって思ってほしいな」
未来の説明に、ガックリ項垂れる一夏――こんな目にあってるのにヒルトも成樹も擁護はしてくれない。
そういった小さな積み重ねが、一夏の心に小さな黒い染みが出来ていく。
一旦その案で終結し、女子も解散、一夏は成樹が部屋に送るということで残ったのはヒルトといぬきち、にゃん次郎だった。
「いぬきち、機嫌は直ったか?」
「わふっ(お肉食べたいわんっ)」
「そうか。 まあ機嫌良くなって良かったよ」
頭を撫でると舌を出してヒルトの手をペロペロ舐めるいぬきち、にゃん次郎はヒルトの肩に乗ると小さく鳴く。
「みゃぅ……(貴方の部屋に引っ越そうかしら……)」
「にゃん次郎ももう大丈夫っぽいかな?」
「にゃあ……(結局何で追われたのかわからないわ……)」
気分屋らしく、肩から降りると通路で身体を丸くさせた。
いぬきちも尻尾を振り、にゃん次郎の周りをくるくる回っていると――。
「あ、ヒルト。 まだ部屋に戻ってなかったんだぁ?」
「ん? ソフィー?」
現れたのはソフィーだった、両肩オフショルダーの服で白い肌が露となっていて、下は珍しくホットパンツだ。
「災難だったな、ソフィー」
「そうだよ! 思わず織斑さんをビンタしちゃったけど……。 ま、まああたしは直ぐにバスタオルを身体に巻いたから、見られてはないんだけどね、あはははは」
ソフィーはそう言って笑みを浮かべるとヒルトも釣られて笑う。
それを物陰で見ていたのはセシリアだった、手には昨日手に入れたばかりのテーマパークの一日パスポート。
ヒルトからのデートの誘いがない中で業を煮やしたセシリアが用意した取って置き――ソフィーがいる中で渡してもいいのだが、一歩が踏み出せなかった。
「あっ、そうだ♪ ヒルトは遊園地って好き?」
「え? 嫌いじゃないけど――」
「良かった♪ ……実はね、テーマパークのパスポート貰ったのは良かったんだけど、その日はあたしと行く予定だった子が用事でいけなくなっちゃって……。 良かったら一緒に行かない?」
「え?」
ソフィーが差し出したパスポートは横浜にあるテーマパークの物だった、ヒルト自身誘われるとは思っておらず、返事をしようとした時だった。
「お待ちくださいまし!」
「「えっ!?」」
いきなり現れたセシリアに面を食らうヒルトとソフィー、歩いて近付くとセシリアも――。
「ヒルトさん! わたくしもちょうどそこのパスポートを手に入れましたの! ですから、わたくしと一緒にテーマパークを!」
「ちょ、ちょっとー!? セシリアさん! いきなり――」
「い、いきなりではありませんわ!! わたくしもヒルトさんをお誘いするつもりでしたもの! ソフィーさん、わたくしに譲ってくださいまし!」
「そ、それは……! うぅ……こうなったら――ヒルト! ヒルトが決めて!!」
「え?」
「わたくしか、それかソフィーさんとテーマパークに行くのか――選んでくださいまし!」
突然の選択に、ヒルトは小さく頬を掻くと――。
「……じゃあ三人で行かないか?」
「「えっ!?」」
セシリア、ソフィーの二人は互いに顔を見合わせる中、ヒルトは続けた。
「ぶっちゃけ二人の内の一人といってももう一人に悪いし、何よりそのパスポート日付一緒だろ? 片方断って無駄にするなら三人で行った方が良いだろうし」
三人で――セシリアは勿論二人っきりの方が良いのだが、ソフィーはその案を聞いて胸の前で手を合わせて満面の笑みを浮かべた。
「それ、良いね♪ じゃあそうしましょう♪」
「ちょ、ちょっと待ってくださいまし! それですと三人で――」
「あははっ、あたしは三人で良いですよ♪ セシリアさんは、反対?」
「ぅ……」
本心では反対だが、ここで反対すれば確実にヒルトはソフィーと二人っきりでテーマパークに行ってしまう。
譲歩し、心で泣きながらセシリアは――。
「わ、わかり、ましたわ……」
「んじゃ、今週の土曜日に三人で行こうか」
「はい♪」
ヒルトの言葉に元気よく返事をしたソフィー、セシリアも二人っきりではないがよくよく考えたら念願かなってのデートなのだ。
何処かで二人っきりになるチャンスは必ずあると、そのチャンスを逃さないとセシリアは心に誓った。
それはさておき、そんなやり取りを聞いていた一行が居る。
(聞いた? てかセシリア抜け駆けもそうだけど、よりによってソフィーまで!)
(ぅ……むぅ)
(嫁の浮気は許さん)
(ソフィーもやっぱりヒルトの事……)
(私……誘われない……)
(お姉さんを誘うより先にテーマパーク行っちゃうなんて!)
(お兄ちゃんのバカ!)
(ヒルトがデートとか、私は複雑!)
(き、君が女誑しだなんて……。 だ、だが……誘いを断らないのは優しさ故だと私は信じているぞ)
(ヒルトくん、エミリアも誘ってくれたら夜はいっぱいエッチしてあげるのに!!)
(あ、あはははは……。 な、何か心配だから私もテーマパーク行かなきゃいけないかな……)
(ヒルトとテーマパーク。 私はヒルトとなら何処でも楽しい)
専用機持ちやヒルトに好意を抱くものがそれを聞いて思い思いに――週末は少し荒れそうな、そんな予感がしたヒルトだった。
「わふんっ?(皆何してるわんっ?)」
後書き
波乱しかねぇ!
てかこれ以上人数増やしたらヤバイからここまで
ページ上へ戻る