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君色に染まりて

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03・映す夢
  6

「では・・・・・・・・、私はこれで失礼します」

慇懃に一礼をして、セバスチャンが去っていく。


「はぁ・・・・・・・・。」

冷たく虚しい吐息。アズリは思考に載せぬまま、胸に手を当てた。

未来の不透明さへの恐れから、すこし速い生者の証が伝わってくる。


「私、これからどうなるんだろう・・・・・・・・。」

声に載せれば、恐れが膨らんだ・・・・・・気がした。

慌てて首を振る。

「考えるのはなし! すこしだけ、本を読んでいようかな・・・・・・・・。」


『部屋のものは自由に使ってくれ』


伯爵からそう言われていたことを思い出し、本棚から一冊の本を手に取った。


ぺら。頁をめくると、古い本の匂いがして。

シナモンを思わせるような香りに包まれながら、ゆっくりと視線で文字を追う。


「え・・・・・・・?」

ある頁を開くと、まるで一面洋墨で塗りつぶしたように黒く染まっていた。

「どうして・・・・・・・このページだけ?」

ぺらぺらと頁を溯っても、黒染めの箇所はなくて。

「違う・・・・・・、このページ「だけ」じゃない。

このページ「から」なんだ・・・・・・・・。」

その先の頁もまた、すべて黒染で。


(あれ・・・・・・。なんだか・・・頭が重、い・・・・・・・・・・・。)

その頁を見つめていると、段々と思考が霞がかっていき。

重くなった瞼を、知らず閉じた。



 
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