君色に染まりて
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
01・All of The Beginning(すべての発端)
2
カフェを出ると、そこは既に漆黒が染め上げていて。
ぽつ、ぽつり、と冷たい雨が降り出していた。
(はやく帰らなきゃ・・・・・・・・。)
遮るものなく思考に載せ、靴の音を速めた時。
「・・・・・・・・・・迎えに来た」
傘もささずに、掌を差し出す青年。
その黄金の髪から雫が滴るのにも構わず、琥珀色の双眸は彼女だけを捉え。
「あなた、は・・・・・・・・?」
聞きたいことは山ほどあった。
先刻―――カフェにいた頃から感じていた視線は、目の前にいる彼のものなのか。
どこかが軋んだような『歪み』は、どうしてなのか。
だけれどそれよりも、口をついたのは単純な問い。
「俺は、サン・ジェルマン伯爵というよ。
・・・・・・・・・君を、迎えに来たんだ」
(この人・・・・・・・・なんだか、)
・・・・・・・・『怖い』。その感情が、胸の中を塗りつぶしていく。
駆け出そうとした彼女の手首を、そっと。
だけど振りほどけない強さで捕われる。
「離して・・・・・・・くださ、!」
「 “眠っていなさい” 」
その言葉を聞いた途端、不思議に安心して。
段々と視界が、薄灰に染まっていく。
(嫌ッ。眠ったら、だ・・・め・・・・・・・・・・・・。)
薄れゆく意識の中、額に温かく柔らかな感触が落ちて。
意識を飛ばした彼女を攫って、彼はその場を去った。
ページ上へ戻る